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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第488話

 翌々日、十二月二十五日。文化省から借りた文書を騎士団本部庁舎の臨時書庫に運び込む魔物調査局の面々を、アキとリンと昼食を食べながら見守っていると、執務室の扉が叩かれた。


「魔物調査局調査官メアリー・ハウエル金級徒士であります。入室してもよろしいですか」


「ああ」


 ハウエル金士はそう言って入室すると、一礼してから汗を拭った。どうやら急いで来たようだな。

 ちなみに、ハウエル金士は魔物調査局内に調査官室を設置し、無名の昇格辞令を用いて昇格させたルース・エラザス銀級徒士を室長に任命し、資料集めなど雑務を任せているようだ。


「ご報告いたします。モレンクロード公爵閣下よりご提供いただいた、サナス少尉殿がモレンクシュヴェスター子爵閣下よりご報告を受信いたしました。領主軍はキント県デモリ村において発生したゴブリンの群れを完全に掃討なされた、と」


 ハウエル金士の言った、サナス少尉とは黒甲軍団ノワール・ラ・モールから派遣した通信手の一人で、彼らの長である。少尉とはアガフォノワとアウストリアが決めた階級で、黒甲軍団ノワール・ラ・モール白甲軍団ブランシュ・ラ・モールで用いられている。サナス少尉は調査官室にいるが、他の通信手は局長のハイド金士の下にいる。

 ちなみに、デモリ村とは、ゴブリンの襲来によって壊滅した農村である。


「そうか。ではゴブリンの死体をいくつか帝都に送るよう伝えてくれ。残りの死体は子爵に任せる。届いた死体は軍医部なり獣医部なりと協力し、おぬしらで調査せよ」


「承知いたしました。ハート銀級騎士ら調査隊は如何いたしますか」


「シュヴェスター子爵の指示に従うよう伝えよ」


「承知いたしました」


「ではそのように」


「御意。失礼いたします」


 ハウエル金士はそう言うと、一礼して退室した。

 適当な指示を出したが、細かい事はアズラ卿に任せておけば良いのだ。俺を含めた現代のサヌスト人の判断より、魔物が脅威であった時代の為政者、つまりアンドレアス王の娘御であるアズラ卿の方が、少なくとも魔物に関しては正確な指示を出せる。


「ロード様、現代の魔物図鑑を発行しましょう。牛頭人ミノタウロス巨人ギガント半人馬ケンタウロス竜人ドラゴニュートを初討伐したのは、他でもない帝国騎士団なんですから」


「なるほど、良い案だ」


「リン、エルフに人狼、人虎、犬人、猫人、さらにワタシ達龍の子(タツノコ)を忘れるな。モレンク血閥の傘下には色んな種族がいる」


「アキさん、忠犬を忘れてますよ」


 アキとリンがモレンク血閥の配下にある魔族を挙げたが、厳密には魔物と魔族とでは定義が異なる。現代人からすれば、どちらも似たようなものであろうが、中には気にしている者もいるので、そういう者に教われば良い。


「リン、魔物調査局に通達を。モレンク血閥は全面的に協力するとも伝えよ」


「分かりました。そちらにも連絡しておきますか」


「ああ。面倒であるから、これからは帝国騎士団からの要請には俺の判断を待たずに全面的に協力するよう言っておいてくれ」


「全面的に、ですか? 例えば、金銭的に、とか、兵力的に、とか」


「ああ。資金繰りに苦労するのであれば、我がモレンク血閥が負担しよう。シュヴェスター子爵に聞くところによると、我らは今儲かっているそうだ」


「分かりました。常態化しないように気を付けましょう」


 リンはそう言うと、残り僅かな昼食をアキの方に押し、政策事務室の方へ移った。早速取り掛かってくれるようだ。


「アイツめ、ワタシを太らせるつもりか」


「そう言うが、おぬしも進んで食べているではないか」


「食べた分だけ動けばいいのだ。訓練中の部隊に強襲をかける。許可を文書でくれ」


「承知した。その格好で行くのか?」


「略装だからな。動きやすい」


「そういうものか」


 俺はそう言いながら、軍医が同行し、かつ真剣を用いぬ場合に限り、帝国騎士団長将官隊士は訓練中の部隊に対して強襲する事を許可する旨を、簡単に記した文書を作った。簡単に作ったものではあるが、効力はある。


「軍医か。ま、仕方ないな」


「ああ。実戦でもないのに兵を減らすのは愚策だ」


「分かっている」


 アキはそう言いながら、将官隊室に行った。昼食直後であるのに、早速訓練を始めるようだな。体調を崩さねば良いが、まあ軍医の同行を条件にしたし、大丈夫であろう。


「準備した。じゃ、行ってくる」


 将官隊室から出てきたアキは、木刀を数本帯び、数本背負い、さらには手にも握り、許可書を懐に入れて勢いよく出ていった。あの数を用意していたのも驚きであるが、あの数を消費するつもりであるのにはさらに驚く。


「閣下、失礼します」


「何用か」


 アキやリンが食べ終え、放置していった食器を片付けていると、オンドルフが入室してきた。こういう時のための従卒であるのに、なぜ俺は自分で食器を片付けているのであろうか。


「宗教大臣ニルス・タカム大司教猊下がお見えです」


「承知した。応接室に?」


「はい。片付けは私がしておきます。次からはお言いつけください」


「礼を言う。では」


 俺はオンドルフにそう言って執務室を出て応接室に向かった。宗教大臣の来訪など予定にないはずだが、急用であろうか。

 応接室に来ると、タカム大司教の相手を総務局長コボン金士がしていた。色々と迷惑をかけているようだな。


「何用であろうか、タカム大司教」


「はい。まずは突然の訪問、お詫び申し上げます。教皇猊下へのお話と帝国騎士団長閣下へのお話、二点がございます」


「では我が総務局長もいる事であるし、後者を先に聞こう」


 コボン金士も暇ではなかろうし、教皇としての俺への話は後で良かろう。何なら、タカム大司教には悪いかもしれぬが、日が暮れた後に屋敷に招いても良いのだ。


「承知しました。早速本題から始めさせていただきますが、帝国騎士団が如何に精強であれ、戦闘があれば、望まざる事なれど戦死者が出る、この点に相違はございませんか」


「ああ。余程の弱敵でもない限り、出る。それへの抗議か?」


「いえ、滅相もございません。その戦死者の弔いについて、我々にお手伝いをさせていただけないかと」


「というと?」


「ヴォクラー教中央教会より、必要な聖職者を出向させ、宗教的な支援をさせます。具体的には、戦死者の弔いのみならず、戦勝の祈願、占領地における布教などが宗教的な支援にあたるかと思います」


「なるほど。ヴォクラー教の大司教に言うべきでないとは思うのだが、帝国騎士団にはノヴァーク人が多く属している。彼らは南方教会の教義に基づき、第二の宗教おしえを信じている場合が多い。当然、全ての宗教に対応することは不可能であるが、数が多い宗教の聖職者の手配も頼めるか?」


「はい。それでは、全ての聖職者を一度宗教省で技官、つまり神官として任用し、そこから帝国騎士団に出向という形を取りたいのですが、よろしいですか?」


「ああ。ならば、こちらからも頼みたい。名称はそうだな…聖務部としよう。長は神官長だな」


「承知いたしました。それでは年明けには出向させます」


「頼んだ」


 アレストリュプ動乱では俺が教皇として戦死者を弔っていたが、二台目以降の帝国騎士団長が聖職者である可能性など、ほぼ皆無である。それに、騎士団長は結構忙しいので、全ての聖務を任せられるのであれば、俺も楽になる。


「総務局長、頼んで良いか」


「そうお命じください」


「では聖務部の設置準備をせよ」


「承知しました。それでは失礼いたします」


 コボン金士はそう言うと、待っていたかのように退室していった。総務局長の意見がいるかと思って同席させたが、俺の意見だけで決めてしまった。このままであると、兵站の統括組織よりも先に設置されそうだな。


「それで、教皇への話とは?」


「はい。枢機卿団で協議いたしましたところ、やはり教皇猊下には退位いただき、二代目の教皇を選出し、就任いただく事が最善かと。当然、猊下は使徒様であられますから、第三席枢機卿の席をご用意しております」


「なるほど、教皇交代か。後任は決まっているのか?」


「いえ、まだです。枢機卿団で教皇選挙を開催し、枢機卿団の全会一致によって、二代目の教皇を指名します。誠に残念ながら、教皇猊下は退位なさるまで枢機卿団に所属なされておりませんから、投票権はございません」


「いや、それで良い」


「ありがとうございます。こちらも聖務部と同様に進めて参ります。念のため、資料をご覧ください」


 タカム大司教はそう言うと、床に置いていた鞄から資料を取り出し、机の上に並べた。教皇交代に関するものだけでなく、俺が聖務部と名付けた出向の神官組織についての資料もあった。


 資料によれば、教皇退位後に俺がすべき定期的な聖務は、お告げの祈りのみであった。だが、これに関して大司教か司教が補助に附けば、場所は選ばず、例えば戦場であっても自邸であっても、どこにいても可能となった。この他、枢機卿団での会合があれば、可能な限り出席する必要があるし、三代目以降の教皇選挙には参加する必要がある。

 俺が就く第三席枢機卿であるが、これは教会側の気遣いであるようだ。首席枢機卿は枢機卿団を取り纏めねばならず、次席枢機卿は首席枢機卿が欠けた時にはその代理をせねばならぬが、第三席枢機卿が首席枢機卿の代理をする事はほぼなく、本来の職務に集中できる。

 俺の教会内での立場であるが、名誉教皇となった。これは使徒か退位した教皇に与えられる称号で、その職務はヴォクラー教徒を導き、その布教に努めるという曖昧なものである。つまり、特に何もする必要はないのだ。


 その後、聖務部についてリンを連れて聞きに戻ったコボン金士らを交え、日が暮れるまで詳細を詰めた。

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