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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第487話

 翌朝。俺はゆっくりと朝食を済ませ、騎士団本部庁舎に向けて屋敷を発った。

 本部庁舎に着くと、枢密院から書記官が来ていた。どうやら、魔物の対策や一斉討伐について、武官と関係省庁の幹部とで打ち合わせをするようだ。皇帝陛下からの呼び出しとなれば、すべての予定に優先されるので、色々な調整が省けて楽だな。


 俺はアキやリン、第四独立騎兵金隊長ディーン金士、魔物調査局長ハイド金士などを伴い、枢密院庁舎に来た。

 今日は議場ではなく、会議室に集められた。どうやら、議場は枢密院議官とその随行者のみに入場を限り、ある種の神聖さを演出しているそうだ。まあ枢密院議官は好きに随行者を選べるので、大した意味があるとは思えぬ施策である。


「さて、集まったな。ラモリエール元帥、まずは説明を」


「は。貴官らに集まってもらったのは、我らがサヌスト帝国に迫った危機についてだ。昨日、モレンク血閥領ハイリガー州キント県に、ゴブリンなる魔物が出現し、農村が壊滅したとハイリガー州から報告が上がった。幸い、領主たるモレンク血閥総帥と帝国騎士団長が同一人物だったため、討伐に向かった領主軍に、騎士団から調査隊が同行できた。詳細は彼らからの報告を待たねばならないが、我々は魔物を現実的な脅威であると認め、動くべきと判断した」


「元帥、結構だ。聞いての通り、既に予の臣民にも被害が出ている。よって、予は来年四月に『国土平定令』を発し、魔物のみならず、盗賊、故買屋、廃業していない奴隷商、予に叛意を抱く者、我が兄アルフレッドに属する者などを国内から一掃する。その後、魔物討伐は軍務省に新設する名称未定の外局が所管する」


 エジット陛下とジェローム卿が軽く説明する間に、書記官らが資料を配った。資料には、ジェローム卿が北方守護将軍であった頃に調べたと思しき魔物に関する情報、ヴェンダース軍が用いた生物兵器としての魔物、ジェラルダン副将軍が提出したエレ坊に関する報告などが細やかに記されていた。


 今回の会議に出席しているのは、騎士団の他、軍令部から私兵局長ホークス副将軍や情報部長のアシルなど、国防軍の代表として第二防衛軍司令カートメル大将軍ら、軍務省からは軍務大臣グローヴァー将軍など幹部、文官からは内務省や法務省、文化省、農商省、宮内省の官僚が参加している。

 それぞれ参加理由であるが、内務省は地方行政を統括する立場であり、法務省は捕らえられた罪人に対して刑を執行する必要があり、文化省は魔物の生態調査など学問的な立場として、農商省は通商などに関する立場として、宮内省は学術的に新しいものを取り込むため、とのことである。

 ちなみに、宮内省の新しいものを取り込む意志はなかなかに強く、今年の初め頃に魔法演習に参加したダヌマルク男爵家のアニエス嬢などが、宮内省学術局に宮廷魔術師として仕えている。今回、アニエス嬢も参加している。


 一日かけて議論した結果、色々と対応策が決まった。

 まず、内務省を通じて各州に魔物の注意を呼びかけ、救援が必要な場合は騎士団が赴く事となった。さらに、騎士団では対処不能な魔物が出現した場合は、私兵局の指揮でモレンク血閥軍が派遣される事になった。

 法務省の負担を軽減するため、魔物以外の標的のうち盗賊など武装した相手はその場で殺害する事になった。誤認して殺害してはならぬため、憲兵なり法務士官なりを増員しておかねばならぬ。

 生態調査などに役立てるため、ウェネーヌム州で討伐した牛頭人ミノタウロスなどの魔物を帝都に運び込ぶよう命じる事になった。アーウィン将軍に知らせておけば良いだろう。


 枢密院での会議が終わると、アニエス嬢に食事に誘われた。どうやら、アニエス嬢はジュスト殿の屋敷に居候しているそうで、今朝もジュスト殿に俺を食事に誘うよう言われたそうだ。

 そういう訳で、俺はアキと一緒にジュスト殿の屋敷を訪ねる事にした。リンは騎士団本部庁舎に寄って諸々の手配をしてくれるとの事であった。


 ジュスト殿の屋敷に着くと、アニエス嬢はすぐに俺達を食堂に通した。まだジュスト殿は帰っておらぬようだ。


「あの人ったら、呼びつけておいて帰っていないなんて、申し訳ありませんね」


「いや、構わぬ。それより、宮廷魔術師殿、その後はどうか?」


「はい。宮廷魔術師見習の方々も多くおりますし、広い修練場もご用意くださいましたので、技術向上に励んでいます。ですが、近いうちに大将軍閣下に見ていただきたいものですわ」


「そうか。創設したばかりであろう宮廷魔術師に、もう見習がいるのか。まあ教官候補生として育てたから、そういうものかもしれぬな」


「宮廷魔術師見習は形式上そう呼んでいるだけで、大半は近衛兵団からの出向者ですわ。少し、大貴族の子女などがいらっしゃいますけれど、片手で数えられる程度ですわね」


「そうか、大貴族か」


 まあ魔法は剣などと違って、実際に物がなくても護身になるので、大貴族の子女が習うのは合理的かもしれぬ。

 全軍の模範となるべき近衛兵が魔法を使えるようになれば、帝国全軍の戦力の増強には良いかもしれぬな。騎士団では五千名を魔法使いにする予定であるが、魔法を使えるようになった兵は一割に満たぬと聞く。騎士団からも幾人か出向させて魔導教官にするか、逆に宮廷魔術師を招いて魔法を覚えさせるか、いずれにしても人事交流をしたいものだ。

 ちなみに、魔法使いやら魔術師やら魔導教官やら、色々と呼び名はあるが、これらに大した違いはない。魔法使いと魔術師はほぼ同義語であるし、魔導教官は魔法を教える専門家である。


「おう、ジル卿。待たせたな」


「ジュスト殿。いや、宮廷魔術師殿に楽しませてもらった」


「それなら良かった。食事はすぐに運ばせる。ちょっと待ってくれ」


 帰邸したジュスト殿はそう言い、使用人に儀礼剣などを預けながら進み、アニエス嬢の隣に座った。こう見ると二人の仲に進展があったようだが、婚約したという話は聞かぬ。このまま情婦のような関係を続けていくのであろうか。


「ジル卿、魔物とやらは実際どうだ?」


「まあ強敵ではあるが、勝てぬ相手ではない」


「それならいいんだが…そういえば国土平定令とやらいう軍令が出るそうだな。国防軍うちと野戦軍との共同作戦と聞いたぞ」


「ああ。魔物やら盗賊やら、とにかく反抗勢力を全て討ち滅ぼし、真っ新な状態で新設の軍務省外局を運営するそうだ」


「その外局が魔物討伐を所管するのか?」


「ああ。国防軍にも野戦軍にも、それぞれ任務が割り振られている以上、それに専念せねばならぬ。それに、アンドレアス王の時代では冒険者という傭兵のような者が魔物討伐を担当していたと、そういう記録が残っているゆえ、これに近しい制度を再構築せねばならぬ」


「そりゃ大変だ。傭兵を禁止したばっかりに、面倒事が増えるな。時期が最悪だ」


「ああ。元帥閣下も同じ事を言っていた。さすがであるな」


「よせよせ。とまあ、食事も届いたし、軍務の話は終わりだ」


 食事が届くと、ジュスト殿はそう言って話を切り上げた。俺としてもせっかく会議が終わったのに、その延長戦のような気がして、もうすぐ招待に応じたのを後悔するところであった。


 その後、アレクやテリハについて話したり、ジュスト殿からはアニエス嬢との仲を聞いたり、なかなかに楽しく談笑し、夜が更ける前に帰邸した。やはり友との食事は楽しいものだ。

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