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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第477話

 翌朝。アキの要望に従うため、寝ずにアキの寝顔を眺めていると、オンドラークが入室してきた。灯りが点いておらぬためか、俺が起きている事に気づいておらぬようである。


「おい、オンドルフ」


 オンドラークは声を低めつつ、オンドルフを叩き起こした。結構粗雑だな。オンドルフは寝起きが悪いようでなかなか起きぬが、オンドラークは気にせずに俺の服を用意し始めた。

 俺とアキ、リンの服を用意したオンドラークは、再びオンドルフを起こし始めた。


「オンドルフ、起きろ。皆様をお起こしする」


 オンドラークはベッドを傾け、オンドルフをベッドから落としてそう言った。オンドルフはそれで良いのであろうか。

 結局、濡れた布を顔に掛けられるまで眠そうにしていたオンドルフの準備まで手伝ったオンドラークは、ベッドを直しながら声を低めてオンドルフと何かを話していた。


「閣下、朝にございます」


 何を相談したかは分からぬが、相談を終え、灯りを点けたオンドラークにそう声を掛けられた。オンドラークは、俺の体に触れるでもなく、顔を覗き込むでもなく、ベッドの傍らに立ったままである。まあ俺は自邸以外ではあまり眠らぬから、オンドラークに起こされるような時は寝起きも良いのだ。


「ああ」


「デュポール参謀長閣下、グリーン副将軍閣下、ラガルド金級騎士殿と朝食をご一緒していただきます」


「承知した。服は?」


「旅装をご用意しました」


「承知した」


 俺はオンドラークに質問をしつつ、ベッドから出て、渡された旅装に着替えた。こういう場に備えて軍服を制定したはずではあるが、まあ全体に浸透しておらぬし良いか。それに、朝食を終えたらまた着替えるのも面倒である。

 旅装を整えた俺は、リンの準備のためにオンドラークと退室した。


 準備を整えたアキとリンが出てくると、俺はラーカー城の者の案内に従い、エヴラールを含めた三人を伴って朝食会場に向かった。オンドラークとオンドルフは出発の用意のため残るようだ。

 朝食会場に着くと、オンドラークの言った三人が待っていた。


「遅れたようですまぬ」


「いえ。さあお掛けください、閣下。フラウ金士殿らもどうぞ」


 デュポール参謀長に言われ、俺を真ん中にデュポール参謀長らの前に座った。

 ちなみに、デュポール参謀長は上級副将軍であるが男爵であり、アキは金級騎士であるが子爵であり、武官としてはデュポール参謀長が上位にあるが、貴族としてはアキが上位にあり、少々面倒な関係性である。あまり多くある事ではないが、こういう場合、軍務に就いている間は武官としての上下関係が優先され、そうでない時は貴族としての序列が優先される。


 朝食が到着すると、デュポール参謀長らがゲーラ県とラーカー城の復興や鎮圧軍の兵站状況などについて報告を始めた。


 まず、復興についてであるが、これはエムロード隊の尽力により、順調であるそうだ。

 順調とはいえ、叛乱軍によって住処を追われた住民や踏み荒らされた農地など復興に年単位を要するものは、ゲーラ県が時間を掛けるしかなかろう。俺ができるのは、せいぜい内務省や農商省など所管する省庁に連絡しておく程度であろう。

 ラーカー城は人員以外は完全に元通りといって良く、人員に関しても将兵は援軍を要請し、管理隊の軍属は叛乱軍によって職を失った民衆を雇えば良いとの事だ。

 ゲーラ県はレーヴァック州令府を通じ、しばらくの減税か免税を要請するようだ。これは要請せずともウェネーヌム州と纏めて行われるだろう。エジット陛下の性格を考えれば、寧ろ見舞金としていくらか支払われる可能性もある。


 兵站に関してであるが、これはいくつか問題があった。

 まず、将兵の出身国によって食文化に差異があり、部隊によって食料の減り具合が違ったそうだ。これに関しては、普段の食事から慣らしていくか、出身国別に部隊を再編するかであったが、前者を選ぶ事となった。


 次に、サヌスト帝国軍を構成する四つの旧王国軍では、兵站に対する考え方が違ったので、いくらか混乱が見られたそうだ。サヌスト王国軍では軍が食糧を用意し、人夫の部隊が輸送し、将兵には食事として支給していたが、ノヴァーク軍では酒保商人が従軍し、将兵には食事代を支給し、将兵がそれぞれに酒保商人から購入していた。クィーズス軍やテイルスト軍にも、それぞれの慣習があった。

 また、名称部隊に設置されている輜重部隊が、それぞれ独自に作戦を立て、独自に補給をしようとしていた。これは名称部隊の部隊長が詳細を命じなかったために生じた混乱であり、また輜重部隊の方でも、どの部隊が総指揮を執るか揉めた結果であるそうだ。

 これらの問題解決のため、兵站を統括する組織を騎士団本部内に設置するよう上申された。確かに、戦がある度に参謀長を兵站に専念させていては、参謀長としての職務を全うできぬ。年が明けたら用意を始めよう。


 デュポール参謀長らの報告が終わると、俺達の方から近況の報告をし、朝食会場を後にした。

 その後、アキが親衛隊と何やら打ち合わせている間、デュポール参謀長から兵站統括の組織の草案を幾種類か渡されたので、後で読むと言ってリンに預けておいた。

 親衛隊と合流した俺達は、見送られずに出発した。まあ皆忙しいし、そんなところに事前連絡なしに来たのであるから、俺に咎める権利などない。


 ラーカー城を発ち、特に寄り道もせず街道を駆け抜け、十二月二十日深夜、帝都近くまで来た。既に城門が閉まっているので、帝都の近くで野営をする事にした。

 夕食後、俺は野営中に読み進めていた、デュポール参謀長の兵站組織の草案を取り出し、読み始めた。おそらく今晩中に読み終わるだろう。


 草案を読み終え、火を見張る不寝番の黒甲ノワール兵と、魔法による通信について話していると、すぐに朝になった。

 日が昇り、朝食の準備を始めると、エヴラールが黒甲ノワール兵五名を連れ、帝都に向けて先発した。事前に連絡しておかねば、ラーカー城と同じ過ちを繰り返す事となる。

 朝食を食べた俺達は、特に急ぐでもなく帝都へ向かって進み始めた。急ぐ必要もないので、威厳を大切に、というアキとアガフォノワの助言を受け入れ、軍服がある者は軍服を着て行く事にした。それに、そもそも軍服に採用されている長袴スラックスは乗馬用のものであるから、こういう場合に備えたものであるはずである。


 城門に近づくと、軍服を着た軍令部の情報部副長ビアード金士が、複数の武官と文官を連れて待っていた。朝であるのに出迎えがあるとは思わなかったな。


「お帰りなさいませ、大将軍閣下」


「ああ。ビアード金士、出迎え礼を言う」


「偶然ですのでお気になさらず。こちらへ」


 ビアード金士はそう言い、俺達を先導するように皇宮へ向けて進み始めた。偶然とはどういう意味であろうか。


「閣下、枢密院事務局から、今後の予定についてご報告申し上げます。本日は皇帝陛下の昼食後、帝都に滞在中の枢密院議官の方々を召集し、今後について協議をしていただきます。それまでは予定を入れておりませので、ご自由にお過ごしください」


「承知した。宗教大臣と話したい。手配を頼む」


「承知いたしました。タカム大司教猊下にお伝えしておきます。いつ頃がよろしいですか」


「早い方が良い」


「承知いたしました。本日はどちらにいらっしゃいますか」


「ビアード金士、軍令部からの予定はあるか?」


「今日はございません」


「では騎士団本部にいる」


「承知いたしました。それでは失礼いたします」


 枢密院事務局の者はそう言い、部下を連れて先に駆けていった。枢密院事務局の書記官はいつも名乗らぬが、何かそういう規定でもあるのだろうか。


「閣下、申し遅れましたが、帝国騎士団の本部庁舎を確保いたしましたので、近衛兵団皇后親衛隊本部からは移っていただきました」


「誰の手配によるものであろうか」


「騎士団の方々の尽力によるものです」


「そうか。礼を言わねばならぬな」


 ビアード金士に言われるまで知らなかったが、我が帝国騎士団も遂に帝都内に本部庁舎を得たようだ。間借りしていた近衛兵団にも礼を言っておかねばならぬな。リンに任せておこう。

 ビアード金士は俺を騎士団本部まで見送ると、軍令部の方へ帰っていった。


「これはなかなか…」


 騎士団の本部庁舎と言ってビアード金士に案内されたのは、三階建てで煉瓦造り、左右対称の建物であった。兵舎や厩舎もかなりの規模のものが用意されている。立地的にも俺の屋敷の近くで、俺としては便利である。

 至る所で騎士団旗が掲げられており、正門と思しき場所には五十人規模の兵士が詰めており、俺の到着を知らせるためか、軍楽隊によって音楽が奏でられている。


「皆様、馬をお預かりいたします」


「ああ、頼んだ」


「は。オンドラーク」


 オンドルフはそう言い、俺達から馬を預かり、オンドラークを連れ、厩舎へ向かって歩いていった。オンドルフが色々と知っているという事は、リン達が帝都を発つ前に確保できていたのではなかろうか。


「団長様。親衛隊の解散式をして来る」


「承知した。では」


 アキはそう言い、親衛隊と共に敷地内の広場に向かっていった。アガフォノワ達は今回の戦で、魔将王軍に対する戦力として、臨時に招集、編成されただけの軍属であり、戦が終われば俺の私兵に戻るのだ。

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