第474話
三日後、アレストリュプ侯爵を連れた、ジャッド隊隷下の銅隊が到着した。少々アレストリュプ侯爵が衰弱していたので、尋問はしばらく待たねばならぬが、これで叛乱軍残存部隊の士気は大いに下がるだろうし、戦う理由もなくなる。
我が軍が警戒すべき相手としては、魔将王軍のみとなったが、アレストリュプ侯爵護送隊に同行していたジャッド隊の情報参謀からの報告では、アルフレッドはこれ以上の援軍を送り込むつもりはないと、魔将王軍の将校らは言っているそうだ。あくまで、これは当初の予定であろうが、それでも朗報である事には変わらぬ。
俺はアーウィン将軍とアルヴェーン将軍を呼び出し、アレストリュプ侯爵到着の件などを伝えた。まあ護送隊をヘーパヌルに招き入れたのはシュエットであるから、アルヴェーン将軍はある程度知っているだろう。
「閣下、叛乱軍の残党狩りをしましょう。皇帝陛下に帰順する者には罪を免除する布告を」
「アルヴェーン将軍の言う通りです。内務大臣閣下の到着までに、少なくとも軍事的な解決をしておくべきです」
アルヴェーン将軍の言葉にアーウィン将軍も同意した。俺も俺が帰る前には叛乱軍を完全に解体しておきたい。
「承知した。ではアルヴェーン将軍の言う通り、帰順する者は免罪する。兵は武装解除の上、帰郷させよ。ああ、奴隷歩兵は近いうちに到着するであろう国務官僚に引き渡す準備を」
「…誰が担当するので?」
「アルヴェーン将軍、シュエットを中心に調査隊を編成し、州内の叛乱勢力の調査し、帰順せぬ場合には征伐せよ」
「承知しました。ヘーパヌル防衛には誰を?」
「ポッカー将軍に引き継がせよう。ああ、必要があればグローブス将軍やオブリー副将軍の謹慎を解いて使ってやってくれ」
「分かりました。オブリー副将軍を借りていきます。グローブス将軍も適当な理由をつけて、謹慎を解除して差し上げてください」
「承知した」
アルヴェーン将軍はオブリー副将軍のみ連れていくようだが、やはり第二防衛軍に選ばれた知識を買ってのことであろうか。
俺はオブリー副将軍を処分する権限を持たぬゆえ、帰還後の進退については分からぬが、引き続き第二防衛軍ウェネーヌム州警備隊司令官を務めるのであれば、その目で州内を見て回っておくのも良いだろう。俺としても第二防衛軍司令のカートメル大将軍に、オブリー副将軍に罪はないと伝えておこう。
その後、各種の報告を済ませた俺達は解散し、俺は宿舎として利用しているアレストリュプ侯爵邸に戻った。ちなみに、アレストリュプ侯爵の一族は州令府の牢獄に、使用人はアガフォノワの指示で屋敷の維持管理をしている。
夕食のため食堂に行くとほぼ同時に、使用人が来客を告げた。応接室に通すよう命じ、俺自身もアキのみを連れて応接室への案内を受け、応接室に来た。
「カッセル銅級騎士であります、大将軍閣下」
「ああ。確か第三銀隊の旗衛官であったな」
応接室で待っていると、以前来た近衛兵団からの使者が再び来ていた。ちなみに、旗衛官とは戦時には軍旗を守って戦い、平時には本部で雑務を担当する職である。あくまで軍旗の護衛であり、旗手の護衛でも部下でもないため、旗手が戦死すれば軍旗が地に落ちる前に旗手を引き継がねばならぬ。
「覚えていただいて光栄です。早速ではございますが、大将軍閣下にご報告申し上げます。内務大臣閣下のご要望により、旅程を短縮し、ご一行は既にラーカー城に入城なさいました」
「そうか。早いな。それで、何用か」
「は。内務大臣閣下は今すぐにでも州都へ向けて発つよう望んでおられますが、ホークス銀隊長は安全面への懸念から、叛乱軍の解体を待つか、帝国騎士団から金隊規模の護衛隊の派遣を条件に、今月中の出立を拒んでおられます。そこで、我々の銀隊参謀であられるスリン殿の発案により、大将軍閣下のご指示を待とう、と」
「そうか。叛乱軍の主要人物は捕らえた。それから、アルヴェーン将軍に残党狩りを命じてある。それゆえ、ガイエ卿の言う通りにして差し上げよ」
「承知いたしました」
カッセル銅士はそう言って何かを書いた。銀隊長に報告するためのものであろうか。
そういえば、近衛兵団は編成が少々特殊で、銀隊長は金級騎士が務めていると聞いた。まあ三階級しかない騎士官のみが所属するので、階級を序列に対応させるためには仕方ないのだろう。
「ところで、近衛兵団の銀隊は騎士団のそれより規模が大きいそうだが…」
「はい。近衛兵団の独立部隊は三個金隊ですが、それぞれ五個銀隊編成です。銀隊も三個銅隊編成ですので、兵数は多くなります」
「具体的には?」
「はい。金隊の定員が九千四百二十一名、銀隊の定員が千七百六十九名です。兵数が多いのは、皇宮警備隊や親衛隊に欠員が生じた場合、あるいは新兵ではなく古参の精兵を補充するための措置です」
「なるほど。その全てが士官となると…凄まじいな」
まさか九千名を超える兵員を三階級のみで管理しているとは思わなかったが、それで上手くいくものであろうか。まあ上手くいっているのであろうな。
士官を九千名も揃えるとなると、騎士団ならば同じ予算で五万は用意できるだろう。それだけ近衛兵団の質が高いということである。
「それでは閣下、私は少しでも早く閣下のお言葉を届けるため、失礼いたします」
「食事だけでもして行ったらどうだ? すぐに出せるぞ」
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
「ああ。食堂に移ろう」
俺はそう言い、カッセル銅士を連れて食堂に戻り、使用人にカッセル銅士の夕食も用意するよう命じた。
カッセル銅士と夕食を共にした後、カッセル銅士を門まで見送った。食事中に色々と話をできたし、誘って良かった。
これからカッセル銅士は五日かけてラーカー城へ戻り、準備に数日要し、ラーカー城を発って幾日か、内務大臣一行は十二月半ばまでには到着するとのことだ。
俺は今年中に帝都に戻らねばならぬが、シュエットの機動力ならば五日もあれば帝都に着く。ガイエ卿に挨拶する暇程度はあるだろう。
翌日。俺はグローブス将軍が謹慎している兵舎に来た。正直なところ、アーウィン将軍とアルヴェーン将軍が優秀であるゆえ、俺は結構暇なのだ。
グローブス将軍の面倒を見ている従卒に案内され、グローブス将軍が籠る部屋の前に来た。
「グローブス将軍、モレンクロード大将軍だ。入るぞ」
俺はそう言い、扉を開けた。すると、樽を背負って素振りをするグローブス将軍がいた。謹慎とはこういうものなのであろうか。実態がよく分からぬのに謹慎など命じるのではなかったな。
「閣下…」
「グローブス将軍、元気そうで良かった」
「恐縮です」
「グローブス将軍、おぬしの謹慎を解くゆえ、此度の叛乱について纏めよ。軍令部への報告に使う」
「謹んでお受けいたします」
「ではそのように。ああ、イヴェール隊の指揮権も戻しておこう。では」
俺はそう言い、グローブス将軍の部屋を出た。グローブス将軍は勝手に反省しているし、せっかくならばその気持ちを利用して任務にあたってもらえば良い。アルヴェーン将軍に言われた、適当な理由というものを一晩かけて考え抜いた結果である。




