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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第472話

 ロンズデール子爵を帰した後、アーウィン将軍と憲兵本部長のクラム金士を呼び、エヴラールが纏めていた調書を共有した。


「フンボルトという耳の長いコンツェン人を手配いたしましょう」


「ああ。だがおそらくコンツェンとは関係ない。ダークエルフという種族であろう」


「ダークエルフ、ですか」


「ああ。我が親衛隊の黄色の装備の魔法使い、彼らがエルフだ。そのエルフを魔王ジャビラが改造し、種として確立したものが、ダークエルフだ。強化されているゆえ、エルフよりも強いそうだ」


「魔王、ですか。それはまた不吉な…」


 ノヴァーク人であるアーウィン将軍にとって、魔王ジャビラがどういう存在か分からぬが、反応を見る限り、口に出すのも憚られるという程ではないようだ。まあノヴァーク王国の建国は魔王の時代より二百年ほど後のことであるから、記録や伝説が残っておらぬのだろう。


「まあ魔王の話は良い。クラム金士、明日以降の尋問ではフンボルト、いや、魔将王軍の詳細を中心に聴取せよ。魔将王軍が採る策によっては、帝国が滅びかねぬ」


「それ程ですか」


「考えてもみよ。数万の巨人ギガントが殺到すれば、どれほど堅牢な城壁でさえ、数日と耐えられぬ。それは帝都や旧王都でさえ例外ではない。むろん、数万の巨人ギガントは例えであるが、より強力な種族がいる可能性もある。その点を考慮し、全力で調査せよ」


「は。全力を尽くします」


「ああ、傷が残らぬなら、多少の拷問は許可する。人員が必要ならば、情報部と共同でやっても良いぞ」


「いえ、憲兵隊にお任せを。それでは私は失礼いたします」


 クラム金士は俺の返事を待たぬまま退室していった。帝国の滅亡などとは、大袈裟すぎたかもしれぬな。

 クラム金士には多少大袈裟に言ったが、完全な嘘でもない。魔将王軍の規模すら分からぬ今は、想像し得る最大の敵と思っておいた方が良い。今回の叛乱も、巨人ギガントなどという未知の戦力に苦戦したし、想定外がある事も想定しておいた方が良い。


「アーウィン将軍、おぬしにだけ伝えておくが、俺は年内には帝都に戻らねばならぬ」


「それは…何か重要な任務が…?」


「ヴォクラー教の聖務だ」


「なぜ閣下が聖務を?」


「言い忘れていたようだが、俺はヴォクラー教の教皇だ。年末は、月隠りの祈りとその後のお告げの祈りをせねばならぬ。年始も忙しくなるゆえ…」


「閣下が教皇猊下であられるとは…初耳です」


 アーウィン将軍には言ってあったような気がするが、言っていなかったようだ。聞いた訳ではないから分からぬが、おそらくアーウィン将軍は俺と同じヴォクラー教徒でも、南方教会派であろうから、中央教会の教皇に対する信仰心や関心が薄いのかもしれぬ。


 年末年始がある度に帝都へ帰らねばならぬとなると、何か策を考えねばならぬな。今回は国内であったから良いが、今の数倍の速度での移動手段でも開発されぬ限り、本格的な外征ができなくなってしまう。

 年始はまだ良いが、年末にサヌストが侵攻を受けた場合、野戦軍総司令官たる俺が動けぬとあっては、本格的な反撃ができぬ。これはサヌスト帝国の明確な弱点である。サヌスト帝国軍の立場で考えれば、何より軍務が優先されるべきであるが、サヌスト帝国もヴォクラー教を国教とする宗教国家であるからには聖務が優先されねばならぬのだ。

 まあこの辺りは俺一人が悩んでも仕方のないことであるから、軍務省と宗教省に言って、枢機卿団も巻き込んで話し合うよう要請しておけば良い。リンも来るし、ちょうど良かろう。


「話を戻すが、俺が帝都に戻った時は部隊を任せるぞ」


「ありがたいお言葉ですが、アルヴェーン将軍ではなくてよろしいのですか?」


「ああ。アルヴェーン将軍は適当な理由をつけて、帝都へ連れ帰る。最高指揮官と同格の者がいては面倒事もあろう」


「それは確かにそうですな」


「それゆえ、我が親衛隊とシュエットは連れ帰る。騎士団と特殊補充隊のみの戦力となるが、まあそれまでには完勝しているはずであるゆえ、そのつもりでいよ」


「承知しました。本陣機能はそのままに?」


「ああ。親衛隊とシュエットのみ連れ帰るが、それ以外は置いていく。後は内務大臣らと相談し、良い頃合いで帰還せよ」


「承知しました。それでは私は失礼します」


 アーウィン将軍はそう言い、退室していった。

 ガイエ卿がどれほど復興に関わるのかは分からぬが、おそらく一月か二月頃には終わるだろう。そうでなければ、内務省や枢密院での本務が疎かになる。多少は副大臣などが代行するだろうが、それにも限界がある。まあ俺が心配するまでもなく、本人が承知しているだろう。

 もしガイエ卿が本務の処理などの手配を完璧に済ませてあり、本人がウェネーヌム州の復興に半年以上をかける場合には、その護衛などは近衛兵団第三銀隊に任せて、野戦軍は引き揚げさせても良いかもしれぬな。


 ガイエ卿の心配をしてみたが、俺も帰ったらすべき事が多くあるはずである。戦後処理はアーウィン将軍に任せるとしても、枢密院の政務や国務省の奴隷解放政策、教会の聖務に、諸侯としてせねばならぬ事もいくらかあると聞いている。レリアとの時間も作りたいし、三か月は眠れぬ日々が続くであろう。

 ちなみに、諸侯としてすべき事であるが、軍令部の私兵局や内務省の地方統制局などへの出頭、州令や県令などの任命式への出席など、アガフォノワの見立てでは十日あれば終わる程度の事だそうだ。


 三日後、十一月十三日。予定通り我が軍はクリマタン隊を残し、プラーガを出立した。獲得した数万の捕虜の管理のため、憲兵本部の大半も残していくことになった。まあ各部隊に憲兵隊がいるし、それらを統括するクラム金士もいるので、これからも捕虜を獲得しても良い。

 州都ヘーパヌルまでは、十日もかからぬ予定であるが、これは抵抗がなかった場合である。予想では叛乱軍は壊滅し、反撃は想定されぬが、魔将王軍からの援軍がある可能性もある。


 十日後、十一月二十三日。やはり反撃はなく、途中にあった叛乱軍側の城砦に対して、後方の憂いを無くすため、包囲だけを命じて、合計で五個銀隊を本隊から分離し、配置した。城砦に籠る敵を攻撃するには三倍以上の兵力を用意する必要があるが、城砦に手を出さねば兵力は敵と同等か僅かに上回るだけで良いのだ。

 そういう訳で、五万四千弱の我が軍は、州都ヘーパヌルに入城すべく、守備隊に開門を命じているのだが、なかなか開かぬ。


「アーウィン将軍、明日になったら攻撃を開始しよう」


「承知しました。短期の決着を想定した築陣をいたしますが、よろしいですか」


「ああ。三日もかけぬ」


「それではそのつもりで」


 アーウィン将軍は笑みを浮かべながらそう言って一礼し、俺の前から立ち去った。アーウィン将軍も楽しそうだな。


 推定ではあるが、ヘーパヌルを守るのはせいぜい数千である。余程のことがない限り、我が軍の勝利は確実である。そもそも籠城戦などというのは、救援に駆けつけてくれる友軍がいる場合に採るべき策であり、アレストリュプ侯爵軍が壊滅している今、ヘーパヌル守備隊の籠城戦は悪足掻きに過ぎぬ。

 それゆえ、我が軍が目指すべきは、被害をなるべく抑えた早期の勝利である。


「ご報告します。我が軍の東方、北方、後方から、それぞれ一万五千の騎兵隊が迫っておりますが、いかがいたしますか」


 姿が見えぬと思っていたハウスラー金士がそう報告した。ちなみに、我が軍はヘーパヌルの北東にいるので、もし叛乱軍であれば完全に包囲されたことになる。


「どこの軍か」


「帝国軍旗を掲げておりますが、兵装は統一されておりません。傭兵か何かで臨時編成された叛乱軍が偽旗作戦でもしているのでしょうか」


「四万五千か。ヘーパヌルの兵力次第では危ういな」


「ええ。全方位からの挟撃など、耐えられるかどうか。偵察を出しましたので、少々お待ちください」


「承知した」


 ハウスラー金士は優秀であるゆえ、今更俺が焦る必要はないが、それはそれとしてまずいかもしれぬな。五万四千と四万五千とでは、どちらの軍も勝利しうる。それに、我が軍の将兵はヘーパヌルに着き、その奪還を目前として気が緩んでいる者も多い。本気で危ういかもしれぬな。

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