表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

472/563

第471話

 翌日。俺はジェンサック伯爵とロンズデール子爵を合同司令部に呼び出し、話を聞く事にした。書類関係は憲兵に任せておけば良いので、俺の単なる好奇心である。まあ叛乱の動機であったり、ウェネーヌム王国の内部組織であったり、アルフレッドに関してであったり、いくらでも聞いておくべき情報はある。


 憲兵に連れられ、まずジェンサック伯爵が俺の執務室に入ってきた。ちなみに、俺の個人的な好奇心が理由であるから、アーウィン将軍らは呼ばず、アキとエヴラールのみ同席させている。


「さて、ジェンサックよ。よく休めたか」


「ふん。投獄しておいてよく言う」


「叛徒には牢で充分だ。ああ、子爵は自邸の別邸に軟禁であるのに、待遇の差を気にしているのか。その点は安心して我が問いに答えよ。なぜアレストリュプの叛乱に加わった?」


「…自分で考えたまえよ、若造」


 ジェンサック伯爵はそう言い、俺を睨んだ。後日アレストリュプ侯爵の耳に入って、ウェネーヌム州内での自分の立場が悪くなるのを恐れているのであろうか。おそらくアレストリュプ侯爵もジェンサック伯爵も、皇帝陛下より死を賜るだろうが、そうでないと信じているのであろうか。


「安心せよ。この面会は非公式のものであり、記録には残らぬ」


「そういう問題ではないのだがね…」


「ああ、後日の心配をしているのであれば安心せよ。ジェンサック伯爵家は取り潰され、おぬしは死を賜るだろう」


「いずれ分かることだ、話してやろう。アレストリュプ侯爵領は我が領の倍の広さ、倍以上の人口を有し、アレストリュプ侯爵家の財力、軍事力などを含む力は我がジェンサック伯爵家のそれを遥かに上回る」


「ああ。だが、帝国のそれはアレストリュプ侯爵家より遥かに強大なものだ」


「それがどうしたと? 既に我々を標的として動き始めたアレストリュプ侯爵家に脅威を感じるのは当然だろう? それも分らんような奴に公爵位をお与えになられるとは、我らの新王、いや、皇帝陛下の目は曇っておられるようだ」


「そうか。アレストリュプ侯爵家の叛乱があった時点で、ジェンサック伯爵家の滅亡は決定づけられていたという訳か」


「そうだ、その通りだ。アレストリュプめがディヴィソウル卿の首を刎ねた時点で、ウェネーヌムの荒廃が確定した。いや、アレストリュプも積極的にディヴィソウル卿を殺そうとしたわけじゃない…あの男だ。あの男が来てから我らは狂い始めたのだ」


 ジェンサック伯爵の何かを刺激したのか、なぜか独白を始めた。まあ有用な情報ばかりを吐いてくれるようなので、しばらく放っておこう。


 ジェンサック伯爵の独白によれば、当初アレストリュプ侯爵はウェネーヌム州令として派遣されたエリック・フォン・ディヴィソウルという内務官僚を幽閉し、自ら州令に就任しようと考えていたようである。これらに関する同意を得るため、ジェンサック伯爵とロンズデール子爵を州都ヘーパヌルに呼び出したアレストリュプ侯爵は、二人を護衛から引き離し、自らの私兵で囲んで脅した。

 脅しに屈する形ではあるが、二人がアレストリュプ侯爵のウェネーヌム州令就任を同意し、その旨を公にしようとしたところ、アルフレッドの使者を名乗る耳の長いコンツェン人、おそらくダークエルフのフンボルトという男が現れ、説得のためかアレストリュプ侯爵と二人きりになった。


 しばらくしてアレストリュプ侯爵の州令就任発表の場に現れたアレストリュプ侯爵は、前任者として呼び出していたディヴィソウルの首を突然刎ね、ウェネーヌム州のウェネーヌム王国としての独立を宣言した。

 二人が署名し、アレストリュプ侯爵に託した証文は、アレストリュプ侯爵のウェネーヌム州令就任に同意するものであったが、いつの間にかウェネーヌム王国独立に関するものに書き換えられていたそうだ。

 証文を偽物と糾弾しようにも、周囲を見た事もない化け物、つまり竜人ドラゴニュート半人馬ケンタウロスに囲まれてはそれすらできず、であるならば独立に協力し、独立後の立場を良くしようと声を低めて相談した二人は、ウェネーヌム王国への恭順を誓ったのだそうだ。


 ウェネーヌム王国の独立に際し、ジェンサック伯爵は宰相、ロンズデール子爵は軍務卿の職を得て、政事と軍事との双方で、ウェネーヌム国王を自称するアレストリュプ侯爵を監視することにした。

 しかし、二人もフンボルトとの面会を重ねるうち、サヌスト帝国への憎悪を抱き、アレストリュプ侯爵に心からの忠誠を誓い、さらにウェネーヌム王国へ救援軍を送ったり、旧公家貴族であったウェネーヌム王国上層部に対する軍事的な指導者を派遣したアルフレッドに心酔し、サヌスト帝国とエジット陛下への叛意を募らせた。


 帝国軍の来襲を受け、コンタギオ県を戦場にするよう助言を残して立ち去ったフンボルト達を見送った数日後、ウェネーヌム王国への忠誠やサヌスト帝国への叛意を失った二人であるが、今さら帝国への帰順はできず、自らの明日のため、帝国軍へ立ち向かい、敗れ、今に至るそうだ。


 話から察するに、フンボルトによる洗脳でも受けていたのであろうが、だからといって叛乱は許されぬし、帝国への帰順の機会もいくらでもあったはずである。減刑の理由にはなり得るだろうが、大した減刑にはならぬだろう。せめて死後の待遇が多少良くなる程度であろう。


 朝に呼び出したのに、芝居掛かったジェンサック伯爵の独白に時間を要し、ジェンサック伯爵が帰ったのは昼頃であった。

 昼食とロンズデール子爵を呼ぶと、ほぼ同時に両者が到着した。


「食事中だが気にするでない。ああ、ジェンサック伯爵との面会中に決めた事だが、おぬしも牢に入ってもらう」


「は…? 何の権限があって…」


「おぬしらの叛乱を鎮めに来た軍を率いているのは俺だ。この場で首を刎ねる事もできるぞ」


「互いに名乗っていないな。私はアッシン・フォン・ロンズデール子爵だ。いや、子爵位は没収されているかな」


「俺は帝国騎士団長ヴィルジール・デシャン・トラヴィス・プリュンダラー・エクエス・フォン・モレンク=ロード大将軍だ。モレンク血閥総帥であり、ロード公爵、プリュンダラー伯爵、エクエス一等帝国騎士を賜っている」


「大将軍…帝国軍の上位五人の一人ですか。我々はそれほどの脅威でしたか?」


「帝国軍としての初陣であるゆえ、こちらも全力を尽くした。さて、まず問おう。なにゆえ皇帝陛下を裏切り、アレストリュプの叛乱に加わった?」


「やはりそれですか…」


 ジェンサック伯爵と異なり、ロンズデール子爵は嫌そうに、だが淡々と俺の問いに答え始めた。


 ロンズデール子爵は、ジェンサック伯爵と概ね同じ事を言った。だが、ただ一点異なるのは、ジェンサック伯爵は明らかにアレストリュプ侯爵側であり、ロンズデール子爵は二人の力を恐れ、叛乱に加わったと主張している点である。ロンズデール子爵にはジェンサック伯爵の言い分を伝えておらぬので、その点以外は真実と断定しても良いかもしれぬ。

 ロンズデール子爵は、軍務卿となったのも、いざ帝国軍と衝突するとなった時、叛乱軍の統制を乱し、早期に降伏するためであったと言う。まあロンズデール子爵の有する軍権は平時体制におけるものであり、鎮圧軍たる帝国軍が来襲し戦時体制に移行すると、それは国王を自称するアレストリュプ侯爵に移され、軍務卿としての権限は失われ、当初の計画は頓挫した。


 ロンズデール子爵の主張にもフンボルトは登場し、ジェンサック伯爵の主張と概ね一致した。ただ、ジェンサック伯爵よりもフンボルトと近い位置にいたのか、ロンズデール子爵のフンボルトに関する情報はジェンサック伯爵のそれより詳しかった。

 フンボルトは日に一度、必ず一人きりで遠乗りに出掛け、半日程度帰らなかったそうだ。フンボルト本人は何用かは絶対に言わず、ロンズデール子爵がつけた尾行も絶対に撒かれ、何をしていたのかは分らぬそうだが、おそらく魔将王軍本隊との連絡をしていたのだろう。


 ロンズデール子爵との面会は陽が沈む前に終わり、憲兵にはロンズデール子爵とその一族のうち従軍した者を牢に移すよう命じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ