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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第468話

 呼びつけた主要な将校や参謀が集まる頃、ちょうど偵察に出した上隊から伝令が戻った。


「報告します。プラーガより東九メルタルの距離に、ジェンサック伯爵軍を発見。確認済みの兵力は、歩兵四万のみです」


 ランドン金士はそう報告し、駒を動かした。

 やはり歩兵が四万であると、ジェンサック伯爵軍の騎兵隊や奴隷歩兵軍の残党の行方が気になるな。まあそれらを考慮して出陣すれば良いか。


「早速ではあるが、作戦と出陣部隊を伝える。まず、独立騎兵金隊二個を俺が率い、伯爵軍の正面から衝突する。俺の突撃後、アーウィン将軍がコルネイユ隊とクリマタン隊それぞれ二万、合わせて四万の混合部隊を率い、俺が討ち洩らした敵を討つ。シャファー将軍はクリマタン隊の三万騎で、敵の伏兵に備えよ。遊撃だ。ポッカー将軍はコルネイユ隊の三万で、プラーガ防衛を」


「閣下、閣下と私の隊を交換しましょう。我が軍の総大将であられる閣下が、たったの一万騎で敵陣に突入なされるのは危険です」


「アーウィン将軍、気遣いはありがたいが、もう決めた事だ」


 俺は部隊の交換を訴えるアーウィン将軍の言葉を退け、そう言った。

 正直なところ、今回の戦で俺だけ目ぼしい戦果がない。叛乱軍の貴族のうち、ロンズデール子爵はアーウィン将軍が捕らえ、アレストリュプ侯爵はジェラルラン副将軍に任せた。ジェンサック伯爵程度は俺が捕らえたい。

 むろん、俺の我儘だけが布陣の理由ではない。西から東に向かって進む我が軍は、陽が昇り始めると、逆光で統制が乱れかねぬ。そこで、騎士団の全軍馬に長として認められ、念話に近い技術を用いて暴れたり逸れたりせぬよう、普段から軍馬を統制しているらしいヌーヴェルに乗る俺が先頭を進むことで、少なくとも陣形は容易に崩れなくなる。


「さて、それぞれ部隊を率いて東門に集合だ。ジェンサック伯爵軍を倒したら、敵はもうおらぬ。終わらせるぞ」


 俺がそう言うと、皆が口々に返答したが、皆が別の言葉を言ったようで、俺は聞き取れなかった。

 アーウィン将軍はポッカー、シャファー両将軍と、コルネイユ隊とクリマタン隊の名称部隊指揮官を集め、アーウィン隊の抽出を始めた。すぐに終わるであろうから、俺は見守らずに退室した。


 合同司令部を出ると、召集命令を伝える喇叭や鐘が各地で鳴らされていた。民衆からすれば、こんな夜更けに迷惑だが、仕方あるまい。

 馬を待ちつつ、しばらく歩いて進むと、ロンズデール子爵邸の方から整列した親衛隊が小走りで近づいてきた。親衛隊が俺の前で止まると、同行していたオンドラークが厩舎の方に向かっていった。


「閣下、親衛隊百二十名、出陣用意整いました。ご下命を」


「ああ。フラウ金士、俺とアーウィン将軍と、ポッカー将軍、シャファー将軍の本陣に親衛隊を分配せよ」


「引き受けた。ワタシとルイーゼ達は団長様の本陣だ。アガフォノワ、黒甲ノワールの全部と黄甲ジョーヌの一部で、四十人、クリマタン隊だ。トモエ、武士二人と赤甲ルージュで、騎士団副長の隊だ。他はダレラック指揮でプラーガに残れ」


「それぞれ指揮官に言っておこう。では行くぞ」


 俺はそう言い、オンドラークから手綱を受け取ってヌーヴェルに飛び乗った。

 東門に向けて進もうとすると、ランドン金士が追ってきた。


「第二独立騎兵金隊、召集を完了し、東門に集合いたしました」


「承知した。我らも行くぞ」


 俺はそう言い、東門に向けて駆け出した。

 東門に着くと、既に開門し、城門の外に集合した部隊が並び始めていた。まあ門の内側に八万の将兵が待機する場所などないので当然であるが。

 俺はルイーゼ達以外の親衛隊と分かれ、全部隊の先頭に進み、第二騎兵金隊の旗手の隣に並んだ。


 しばらくすると、第一騎兵金隊も集まり、後続のアーウィン隊や遊撃のシャファー隊の用意も整ったようである。


「では行くぞ」


 俺は二人の金隊長にそう告げ、駆け出した。出陣の準備をする間に、偵察に出した上隊からの伝令によれば、我が軍とジェンサック伯爵軍との距離は七メルタルにまで迫っているそうだ。戦闘を開始する頃には日が昇り始めているかもしれぬが、まあヌーヴェルの統率もあるし、我が隊は大丈夫であろう。


 今回、俺は全部隊の最も先頭に立ち、ジェンサック伯爵を目指す。アキは俺と並び、その半馬身後ろに帝国軍旗を掲げるエヴラールと騎士団旗を掲げるオンドラークがいる。毎回エヴラール達に旗手を頼むのも、本来の任務に支障があろうし、帝都に帰ったら適当な士官を数名選んで旗手に任命し、旗衛隊を編成しよう。

 我が隊は、第一金隊を前衛に、第二金隊を後衛に、矢のようにジェンサック伯爵軍本陣を目指す。矢尻に当たる部分にはメイクス銅士の第一金隊第五銅隊を配置した。


 しばらく駆けると、前方に数万規模の歩兵隊を発見した。さらに近づいてよく見ると、歩兵隊の中央やや後方に軍旗が集中している部分を見つけた。通例通りであれば、あの辺りにジェンサック伯爵がいるはずである。

 俺はジェンサック伯爵の顔を知らぬが、まあ叛乱軍兵士の動きを見れば見当はつくだろう。


「前方にジェンサック伯爵軍、発見! ジェンサック伯爵軍、発見!」


 偵察に出していた兵士が戻り、大声でそう報告した。大抵の将兵は視認しているので、あくまで形式的なものである。


「我が軍にヴォクラー神のご加護があらんことを!」


「「「ヴォクラー神のご加護があらんことを!」」」


「突撃せよ、俺に続けぇ!」


 俺の号令で騎士団軍楽隊長ウェナス銀士らが突撃の喇叭を吹き鳴らし、全軍が雄叫びを上げつつ突撃した。サヌスト兵以外は文化が違うのではないかと心配したが、旧サヌスト王国兵以外も俺の言葉を唱和したので安心した。


 どうにか日が昇る前に接敵できたので、我が軍の出陣を予期しておらぬジェンサック伯爵軍の意表を突けたようである。

 混乱し、一切の対応すらせぬジェンサック伯爵軍の先頭の歩兵をヌーヴェルの蹄で踏み潰し、左側の兵士の頭を剣で叩き割って進んだ。


「犬死するな、道を開けよ!」


 俺がそう叫ぶと、俺より前に出ていた忠犬が全頭振り向いた。比喩を用いた慣用表現とはいえ、犬の前で犬を悪く言うような言葉を言うべきではなかったな。


進め(ゲーエン)! 殺せ(テーテン)!」


 俺の後ろから、普段の様子からは想像できぬ声で、ルイーゼがそう命令すると、忠犬達は何事も無かったかのように攻撃を再開した。世話だけではなく、ちゃんと躾もしてくれているようだな。


「ちゃんと戦力になるだろ?」


「ああ。敵にはしたくないな」


「ま、今回の戦いが終わったらテリハ達の身辺警護と情操教育に専念させるがな」


「そうか」


 アキの言うように、忠犬に身辺警護を任せるなら、余程の相手でない限り、危害は加えられぬ。それに、サヌスト帝国軍はサヌスト帝国臣民によって構成されるべきであって、他国たるヤマトワから来た忠犬が属するべきではないし、帝国軍としても頼るべきではない。


「殲滅の必要はない! 前進だ、前進せよ!」


 突撃の勢いが衰え始めたので、俺がそう叫ぶと、ヌーヴェルが突進し、アキやエヴラール達もそれに続き、さらにメイクス銅士の第五銅隊も続いた。


 しばらく切り込み、日が昇り始める頃、ジェンサック伯爵家の紋章が描かれた盾を構えた、密集隊形の部隊に衝突した。装備から察するにジェンサック伯爵家が抱える精鋭部隊が、前方の敵襲を聞き、伯爵の本陣を守るための壁として出てきたのだろう。

 勢いのついたヌーヴェルの突進に耐えられるはずもなく、ヌーヴェルが倒した兵士を中心に、ジェンサック伯爵を守る壁が崩れ始めた。

 重装騎兵でも出ぬ限り、今の勢いを有する我らを止められぬだろう。まあ重装騎兵が出たとしても、迂回なり何なり、如何様にもできる。

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