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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第460話

 三日後、部隊の再編や負傷兵と捕虜の後送などを済ませ、我が軍は陣を引き払い、進軍を再開した。ちなみに、牛頭人(ミノタウロス)巨人(ギガント)の死体は負傷兵や捕虜と共に後送した。ラーカー城に諸々の処理や手配を担当してもらう事にしたのだ。


 進軍を再開してから更に三日後、第三軍のグローブス将軍からの伝令が来た。伝令兵の装備や馬具には血痕が多数ある。


「グローブス将軍閣下の伝令であります」


「ああ、聞いている。報告せよ」


「はっ。叛乱鎮圧軍第三軍は叛乱軍との遭遇戦により、大損害を被りました。各隊、散り散りにラッカー城へ撤退しております」


「そうか。叛乱軍と言うが、具体的には?」


「前方にアレストリュプ侯爵軍を発見したため、これを迂回しようと後退したところ、魔将王軍に急襲を受けました」


「魔将王軍だと? 戦力は?」


「信じていただけるとは思えませんが…十メルタを超える巨人が百以上…」


「百…か。確かなのか?」


「はい。巨人に関しては信じていただけるのですか?」


「ああ。我が軍も七体ほど倒したが…百体か。それも急襲であれば、まず勝ち目はなかろう」


 巨人ギガント百体の急襲を受けて伝令が出せただけでも、グローブス将軍は上出来だろう。だからといって、多くの戦死者を出したであろう指揮官を表立って褒める事などできぬが。


「とりあえず承知した。後で詳細を聞く事になるだろうが、とりあえず休め。オンドラーク、頼んだ」


 俺はそう言い、オンドラークに伝令兵を休ませるよう命じた。行軍中であっても、例えば牛車の荷台など休める場所はある。

 とりあえず、斥候の数を増やし、警戒を強めることにした。

 巨人ギガントが走った姿など想像できぬが、その巨体から察するに一歩一歩が大きいためにかなりの速度で走ると予想される。戦うにしても退避するにしても、早期発見に努めねばならぬ。


 日が暮れそうになったので行軍を休止し、簡易の築陣を命じた。

 俺は参謀を集め、魔将王軍の対策を練ることにした。


「伝わっていると思うが、改めて通達だ。第三軍が巨人ギガントの急襲を受け、敗走した。百体以上だそうだ。対策を考えねばならぬ」


「閣下、よろしいですか」


「ハウスラー金士、言ってみよ」


「は。我が軍は県都を直接目指していますが、適当な城塞を叛乱軍より奪還してはいかがでしょうか」


「なるほど。ジセル金士、近くの城塞は?」


 地図を抱えた測量部長ロジェ・フォン・ジセル金級徒士に俺はそう尋ねた。ちなみに、副長のメリッサ・ストーム銀級騎士は領内の最新の地図を作るため、測量部隊を率いて調査に出ている。今作戦の測量部隊は便衣兵であるから、叛乱軍の標的になる可能性は限りなく低い。


「はい。ストーム銀士からの報告では、新設された城塞などは確認できていないとの事ですので…ここから西に十メルタル程の距離にブロカーデ城がございます。最大で五万の将兵による籠城戦に耐えられます」


「そうか。西であると、魔将王軍と遭遇する可能性が高まるが…そうしよう。ポッカー将軍とジェラルラン副将軍に通達し、呼び出せ。詳細を詰める」


「は」


 俺がそう言うと、オンドラークが二人を呼びに行った。二人には何か良い案があるかもしれぬし、そうでなくても詰めるべき事はある。


 しばらくすると、二人が駆けてきた。早かったな。


「話は聞いたな。我が軍はブロカーデ城を目指す。異論はあるか?」


「少々お待ちください、閣下。ジセル金士、地図を」


「こちらに」


 俺の問いかけにそう返し、ポッカー将軍はジセル金士から地図を受け取った。ポッカー将軍はクィーズス人であるから、俺以上にサヌストの地理に明るくない。


「やはり…閣下、ブロカーデ城は帝国軍の城塞ではありません。ロンズデール子爵が私有する城塞です」


「それがどうした? ロンズデール子爵は皇帝陛下に叛逆したのだ。その爵位は認められぬし、であるならば城塞の私有など認められぬ。そもそも、敵が有する城塞を奪って何が悪い?」


「は…それは確かに失念しておりました。ですが、ロンズデール子爵の私城という事なら、この情報は確かなのですか」


「ああ、それは確かだ。帝国軍が有する情報は、各旧王国軍が集めた情報を引き継いでいる」


「無礼を承知で口を挟みますが、ポッカー将軍閣下、仮に間違った情報だったとしても、ウェネーヌム州の私兵、奴隷などの数から予想される叛乱軍の兵数から、情報部が集めた布陣に要する兵数を計算すると、大した敵ではありません」


「ジェラルラン副将軍の言う通りだ。一万も籠っていれば多い方だ。全力で攻撃を仕掛け、五日以内に陥落させる」


「弱気になっておりました。申し訳ありません」


巨人ギガント百体と聞けば弱気にもなろう。気にするでない。とりあえず、夕食でも食べながら詳細を詰めよう」


 夕食ができたようであったので、俺はそう言い、食事に向かった。


 夕食後、詳細を詰めた俺達は、それぞれ麾下の将校に説明した。まあ俺の場合はシムカス金士が参加していたので完全に任せたのだが。


 翌日。今日は朝食をしっかり食べてから出発した。

 我が軍の布陣であるが、本陣とコルネイユ隊、ジャッド隊からなる本隊の東西南北それぞれに、独立騎兵金隊から一個銀隊ずつ斥候に出している。一瞬で壊滅する可能性に備え、問題がなくとも定期的に伝令を出し合う事にした。

 今回は今日中に十メルタルを進む強行軍である。おそらく到着は深夜になるだろうが、明日から攻城を開始する。将兵も疲れるだろうが、巨人ギガントに怯えたままでは休まらぬから、どちらにしてもなるべく早くブロカーデ城を占拠した方が良い。


 深夜頃、特に接敵することなくブラカーデ城近くに到着し、陣を敷いた。最低限の見張りの兵士を除いた全将兵をすぐに休ませ、俺は単騎で偵察に出た。俺だけなら松明もいらぬし、おそらく見つからぬ。


 ブラカーデ城の近くまで来たが、城壁上に灯りが見えぬ。夜間警備の兵員すら出せぬほど寡兵なのか、あるいは何らかの作戦なのか、夜間に攻めればすぐに陥落しそうである。

 ブラカーデ城の周囲を一周してみると、全ての城門が開いていた。城塞というものは無人になる事を想定しておらぬので外側から門の開閉はできぬ。つまり、ブラカーデ城は無人であるか、かなりの策士がいるのか、この二択である。


 翌日。朝日が昇り、軍楽隊による起床の音楽が鳴らされ、将兵が起き、作業を始めようとしたが、ブラカーデ城が無人である可能性に賭け、攻城兵器の組立を中止させた。

 俺はポッカー将軍とジェラルラン副将軍を呼び、偵察の結果と俺の予想を伝えた。


「足の速い銅隊を送り込んでみましょう」


「それしかあるまいな。では第一金隊から出そう。二人は敵の出撃に備えよ」


 俺はポッカー将軍の提案に乗り、二人にそう言って解散した。

 シムカス金士を呼び出して作戦を伝え、無傷かつ精鋭の銅隊を選ばせた。


「第五銅隊長ルーク・メイクス銅級騎士です。お呼びとのことですが」


「ああ。城門が開いているな?」


「はい。突撃ですか?」


「ああ。城内の敵兵の有無を調べよ」


「分かりました。敵がいた場合はどうしますか?」


「勝てぬと判断したなら撤退せよ。いなかった場合、あるいは少数であった場合は討伐し、軍旗を掲げよ」


「最先鋒ですな、戦士の誉れです。いつ頃、突撃を?」


「こちらで号令を出す。準備だけせよ」


「御意」


 メイクス銅士はそう言うと、一礼して誇らしそうに去っていった。相変わらずノヴァーク人の士気は高いな。


 その後、独立騎兵金隊第五銅隊を先頭に、独立騎兵金隊、ジャッド隊、コルネイユ隊が整列し、突撃の準備を終えた。俺は喇叭手と共に第五銅隊のすぐ後ろにいる。


「第五銅隊、突撃だ」


 俺がそう言うと、突撃の喇叭が吹き鳴らされ、第五銅隊がメイクス銅士を先頭に突撃した。準備中に聞いた話だが、第五銅隊はアーウィン将軍とシムカス金士が二人で企み、ノヴァーク王国軍でアーウィン将軍の麾下にあった精鋭五百騎で編成されている。


 第五銅隊が突撃し、城門を越えてしばらくすると、城壁上に帝国軍旗と騎士団旗が並んで掲げられた。よく見ると、軍旗の傍らで剣を掲げるメイクス銅士には、突撃前にはなかった返り血がある。少数ながら敵はいたようだ。


「メナート隊に陣を引き払うよう命じ、他は入城せよ」


 俺はそう命じ、シムカス金士らを進ませた。俺は念のためメナート隊の作業を見届け、最後に入城する。

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