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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第459話

 翌日。簡易ではあるが、敵味方双方の戦死者を弔い、将兵総出で埋葬した。むろん、巨人と牛頭人ミノタウロスの死体は調査用に残してある。

 埋葬を終える頃には日が暮れており、金士以上の部隊長とその参謀を集め、軍議を兼ねた夕食会を開いた。


「まずは各隊、被害の詳細を調査し、報告せよ。その後、名称部隊内で部隊を統廃合せよ。定数を大きく下回る部隊は銀隊ごと解散、同様の部隊と合流、銀隊を編成せよ」


「閣下、すると指揮官が余ってしまうのでは?」


「ああ。それゆえ、例えば三個上隊からなる銅隊を三個、これを銀隊としても良い。余った銀士は上級部隊本陣で指揮官の補佐だ。その辺りの配置は任せる」


 ポッカー将軍の言う通り、兵数を基準に部隊を再編したら士官が余る。その辺りは上手い具合に調整してもらわねばならぬが、どうにもならぬようなら適当な任務を言いつけて、負傷兵や捕虜と一緒に後送しよう。


「軍医部長、後送が必要な負傷兵はどの程度いる?」


「百名もいない程度です」


「少ないな」


「はい。私の勝手な推測ですが、閣下が損耗を抑えるようにお命じになり、且つ巨人から受ける攻撃が高威力すぎて即死してしまった事が主因ではないかと」


「なるほど」


 レガット金士相当官の推測が正しければ、敵軍に巨人を発見した場合には攻城兵器の完成まで逃げ回って時間を稼がねばならぬということになる。圧勝するつもりで来たが、なかなか大変な戦になるな。


「閣下、牛兵の生態に関する調査報告書です」


 プロクター金士がそう言って差し出した報告書を受け取ったオンドラークが俺のところまで持ってきた。徒士官は埋葬に参加しておらぬとはいえ、なかなかに仕事が早いな。


「ヴォヴァンと名乗る生きた牛兵は治療を施した後、クラム金士殿に引き渡しました」


 プロクター金士はそう言い、説明を始めた。ちなみに、クラム金士とは騎士団憲兵本部長ドン・リー・クラム金級騎士の事である。


 まず、ヴォヴァンの証言に基づき、牛兵は牛頭人ミノタウロスと呼称し、巨人は巨人ギガントと発音する事を、騎士団で正式に定めた。我が軍は魔物に関する知識が乏しいので、敵から仕入れた知識であっても有効活用するほかないのだ。


 牛頭人ミノタウロスの弱点であるが、これはなかなかに難しい。

 普通の弓矢では、よほど幸運でなければ表皮に突き刺さるのみで、致命傷にはならぬ。大部隊による斉射で、強引に幸運を引き当てる事も不可能ではないが、効率が悪いし、敵は牛頭人ミノタウロス一体だけではないので現実的ではない。

 弩ならば、命中箇所によっては一撃で倒せるし、数本も当たれば確実に死ぬ。だが、連射性に優れぬし、牛頭人ミノタウロスも動くので命中率も高くはなく、数が多ければ押し切られる。

 そこで、獣医部が提案したのは毒矢の使用である。足を折った馬などを苦しめぬよう殺す毒があるそうで、これを量産し、将兵の矢に塗る。まあ全将兵の矢に塗るとなれば、数十万本に及ぶであろうから、実際は各部隊に対牛頭人(ミノタウロス)用の小部隊を編成することになるだろう。

 ちなみに、昨日の戦闘では奴隷歩兵の死体を乗り越えようとしている間に、炎に巻き込まれたり、倒れた巨人ギガントに押し潰されたりで、大半の牛頭人ミノタウロスが死んだ。僅かに生き残った個体は、掃討戦で捕虜になるか殺されるかした。


「余った士官に少数精鋭の討伐隊を任せるのも良さそうですな」


「ああ。とりあえずは部隊の再編を急げ。明日中には被った損害の報告をせよ。では今日は解散だ」


 俺はハウスラー金士にそう答え、解散を命じた。

 解散後、俺は牛頭人ミノタウロスの捕虜が集められている区画に来た。牛頭人ミノタウロスは個体ごとに檻車に入れられ、それぞれに見張りがついている。ちなみに、面倒事が起こらぬよう、人間の捕虜は別の区画に集められている。


「捕虜の様子はどうか」


「は。よく眠っております。起こしますか?」


「ああ。元気のない奴を頼む」


「承知しました。おい、三号車の奴を叩き起こせ」


 見張りの兵士を束ねる下士官にそう言うと、三の数字が書かれた檻車の傍らにいた兵士が槍で突き、中にいる牛頭人ミノタウロスを起こした。


「モレンクロード大将軍だ。サヌスト語…人間の言葉は分かるな?」


「…分カル」


 俺が檻車の傍まで行って話しかけると、中にいる牛頭人ミノタウロスがそう答えた。戦意を失っているのか、衰弱しているのか、起き上がりすらせぬ。


「では聞こう。おぬしの主君は誰か」


「魔王様…ダケド、今ハ違ウ。スヴェイン様ガ代ワリ」


「そうか。アルフレッドという男は知らぬか。魔将王マージ・モナルクと名乗っているようだが」


「スヴェイン様ガ協力シテル人間。魔王様ガ帰ルマデノ代ワリ」


「なるほど。なにゆえ、おぬしらはアレストリュプ軍に味方する? 派兵理由は何だ?」


「分カラナイ…ケド、オレハ戦イタクナカッタ…」


「そうか。おぬし、アレストリュプ軍の布陣は分かるか? いや、その規模だけで構わぬ」


「分カラナイ」


「そうか。おぬしらは我が軍の後方に送るゆえ、ゆっくり休め。では」


 俺はそう言い、捕虜の牛頭人ミノタウロスから離れた。大した情報は得られなかったが、アルフレッドとスヴェインが今も協力関係にある事が分かっただけでも収穫である。


 翌朝。今日は朝から攻城兵器の解体や巨人ギガントの死体の調査、部隊の被害調査や再編など、それなりに忙しい。まあ戦場にいるのに暇になる方が異常なので、そういう意味では正常なのだ。


 俺は巨人ギガントの死体の解体を見守ることにした。あくまで見守るだけである。

 どうやら、巨人ギガントは煙を吸って死んだようで、死体は表面が焼け焦げているだけであった。これが食用肉ならば、焼いた者は一流の料理人であると断言できる程度の焼き加減である。まだ内臓まで解体が進んでおらぬので分からぬが、おそらく内臓は焼けておらず、軍医部と獣医部の調査もやりやすいだろう。

 それはそうと、今回は負傷兵などが少ないので頼れるが、本来であれば軍医部と獣医部は騎士団の将兵の命綱であり、このような任務に就くべきではないのだ。これを魔物の調査などに使っては、名剣で草刈りをするようなものである。叛乱を鎮圧して帝都に帰ったら、魔物の調査を担当する部隊を新設しよう。


 この巨大な死体は調査するにしてもそうでないにしても、放置していては疫病の根源となるだろう。それも、この巨体であるからどんな病魔が生まれるのか分からぬ。それゆえ、今回は弱点の調査とは別に、解体方法の確立も命じてある。

 考えたくはないが、巨人ギガントが数十も現れたら、勝ったとしても、その死体の処理だけで数万の軍が数日足止めされる。捕虜にできれば楽だが、そもそも巨人ギガントの巨体と怪力に耐えられるような大きく頑丈な拘束具など存在せぬから、巨人ギガントと戦ったら殺すか退かせるかせねばならぬ。大変だ。


「閣下、ご報告申し上げます」


 巨人ギガントの解体を見守っていると、ハウスラー金士が報告に来た。まだ昼前だが、何かが一段落したのだろう。


「各隊の被害状況を申し上げます。まず、第一独立騎兵金隊ですが、戦死者や重傷者がいないため、再編の必要はございません。次に、コルネイユ隊ですが、戦死者と重傷者の合計が百名未満のため、こちらも再編の必要はございません。最後に、ジャッド隊ですが、戦死者が二千三百名強、重傷者が数十名ですので、再編の必要がございます」


「二千三百…」


 ジャッド隊の四分の一弱を失ったか。討ち取った奴隷歩兵の数を考えれば大勝といえるが、ジャッド隊の弱体化は厳しいな。


「はい。十数万規模の軍隊が衝突した場合、もっと多くの被害が出ます。閣下の見事な手腕により、戦死者は二千四百に満たないのです」


「世辞は良い。報告を続けよ」


「は。ジャッド隊八個銀隊のうち、二個銀隊に相当する将兵が戦死しましたので、定数に満たない第三、第五、第八銀隊を解散、彼らで新たに第九銀隊を編成なさいました」


「すると、ジャッド隊は六個銀隊か」


「はい。各金隊は三個銀隊編成となります」


「承知した。昨日言っていた余った士官はどうした?」


「戦死者の階級が想定より高かったため、そのような者はおりません。こちら、各部隊の被害状況です」


 ハウスラー金士が差し出した報告書によれば、第三、第五銀隊長が戦死しているため、第八銀隊長を第九銀隊長に任命、銅級騎士も四名が戦死しているため、余った士官などはおらぬようだ。


「閣下、敵軍の被害状況、つまり我が軍の戦果についても報告します。まず、捕虜は牛頭人ミノタウロス十三体、奴隷歩兵二千弱です。討ち取った敵兵は、巨人ギガントが七体、牛頭人ミノタウロスが百五十六体、奴隷歩兵が五万五千です。死体の数からの推定ですので、僅かな誤差はあるでしょうが、確実に我が軍の大勝利です」


「承知した」


「一つ、指示を頂きたいことがあります」


「言ってみよ」


「重傷兵と捕虜の後送の護衛部隊はどうなさいますか?」


「コルネイユ隊から銀隊を出そう。ああ、それから憲兵も幾名かつけよ」


「承知しました。それでは、当該部隊はラーカー城への護送任務後、輜重部隊と共に我が軍と合流させます」


「そうしてくれ」


 ハウスラー金士はそう言い、一礼すると立ち去った。優秀な参謀がいてくれて助かった。

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