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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第456話

 十月十五日。遂にウェネーヌム州コンタギオ県に進攻を開始した。まあ進攻したからといって、すぐに接敵する訳ではないが、いつ接敵してもおかしくはないので、警戒を解いてはならぬ。

 俺は本部騎兵金隊と共に第一軍の後方を進んでいる。この騎兵金隊は輜重部隊の護衛と本陣の維持を任務としており、前線に出せるのはせいぜい半数程度である。


 半日ほど進むと、斥候に出した下隊が戻ってきた。ちなみに、斥候には本部騎兵金隊から二個上隊を出し、下隊ごとに分かれて索敵に当たっている。


「ご報告申し上げます。遅々とした歩みですが、歩兵約十万、前方約八メルタルに接近。軍旗から察するに、ジェンサック伯爵軍かと」


「承知した。地形の偵察は?」


「泥濘が少々。罠などは発見できませんでした」


「承知した」


 戻って来た下士はそう報告し、一礼した。

 遅々とした歩みとの報告であるが、我が軍がこれまで通りに進めば、日が暮れる頃には接敵するだろう。まあ遅々とした歩みというのが、どの程度遅いのかは分からぬが。


「シムカス金士、ここに陣を敷く。前進を止めよ」


「御意。第一金隊、停止せよ!」


「イーディ銀士、コルネイユ隊とジャッド隊にも停止命令を出し、ポッカー将軍とジェラルラン副将軍を呼び出せ」


「御意」


 俺は、本部騎兵金隊長シムカス金士と伝令科長イーディ銀士にそう命じた。

 ちなみに、本部騎兵金隊の正式名称は『帝国騎士団第一独立騎兵金隊』であり、これ以外の本部直属金隊は第四金隊までが騎兵、それ以降が歩兵である。


 本陣設営を見守っていると、ポッカー将軍が側近のみを伴って駆けてきた。率いるのが歩兵であろうと、士官以上は指揮のために乗馬している。


「閣下、停止ですか」


「ああ。多少でも兵を休ませ、万全の状態で挑む。兵数で劣る我が軍が圧勝を求めるならば、質に依るしかあるまい」


「なるほど。閣下、我が隊も本格的な陣地を築いても?」


「ああ。敵はおそらく奴隷歩兵軍であるが、十万人を殺し尽くすわけにはいかぬゆえ、後送まで数万人を管理せねばならぬのだ」


「そうですな。ところで…」


 ポッカー将軍と話していると、ジェラルラン副将軍が近づいてくるのが見えたためか、ポッカー将軍は言葉を止めた。


「お待たせいたしました」


「ああ。早速だが、敵を奴隷歩兵軍と仮定し、改めて作戦を立てる」


 昨日までにある程度の作戦を立てたが、詳細は戦場の状況によっても変わるし、叛乱軍が再編でもしたら、せっかく立てた作戦が無駄になるので、ある程度大雑把な作戦しかない。まあ複数の作戦を立てているので、いくつかは確実に無駄になるのだが。


「閣下、幕舎の準備が整いました。どうぞ、お使いください」


「承知した。では行こう」


 俺はロウ銀士の提案にそう答え、その案内に従った。ちなみに、ロウ銀士とは第一独立騎兵金隊第一銀隊長である。

 幕舎に入ると、コンタギオ県内の軍事的要衝が記された地図と、軍議に用いる駒を置いた机があった。準備が良いな。


「さて、改めて始めよう。敵は奴隷歩兵軍十万と仮定する」


 俺がそう言うと、オンドラークが駒を地図上に置いた。

 その後、事前に決めてあった作戦を、天候や地形などを加味し、改良した。


 夜半頃、三メルタルの距離まで叛乱軍が迫ったとの報告があり、想定より遅いが、作戦を開始した。本陣警備にシムカス金士と各隊から抽出した五個銀隊を残し、それ以外は全軍が出陣だ。


 コルネイユ隊は厚い壁となり、奴隷歩兵軍の前進を阻止する。攻撃よりも防御を重視し、我が軍の損耗を抑えるよう命じた。

 ジャッド隊は銅隊単位の遊撃隊を十六個編成し、奴隷歩兵軍の側面から投降を呼びかける。この際、攻撃はなるべくせず、攻撃を受けた場合に限り、反撃するよう命じた。

 最後に、俺が率いる別動隊であるが、これは奴隷歩兵軍の督戦隊である牛兵に対する威力偵察、可能ならば討伐を行う。本部騎兵金隊から二個銀隊を抽出し、二千騎強の部隊を編成した。


 我が隊は無駄な戦闘を避けるため、奴隷歩兵軍から三百メルタ程離れ、その側面を駆けた。しばらくすると、コルネイユ隊と奴隷歩兵軍の衝突が始まった。


「体長が二メルタを超えるというのに、なかなか見つからぬな」


「さすがにこの距離では無理でしょう」


「それもそうか。百メルタ程まで近づくぞ。俺に続け」


「御意」


 俺の近くを駆けるロウ銀士と相談し、俺はそう命じた。百メルタも空けていれば矢も届かぬであろうし、そもそも弓矢などという上等な武器が配備されているとも思えぬ。ジャッド隊の邪魔にならぬようにだけ気をつけておけば良い。


 奴隷歩兵軍の先頭から半メルタル程を駆けた頃、敵部隊内に松明が集まっている箇所を見つけた。天眼で見ると、明らかに人間ではない魔力を持つ生物が五体ほど集まっていた。


「止まれ。対象を発見した」


「あの戦斧にやられたら、ひとたまりもありませんな」


「アーウィン閣下の武器を思い出しますな」


「話している暇はないぞ。報告では、あの百倍の牛兵がいる。攻撃を仕掛けるぞ」


 俺の傍で、第二銀隊長のクワン銀士がロウ銀士に話しかけた。そもそも戦斧の攻撃に当たれば、剣による攻撃よりも被害が大きいのは当然である。


「我が隊にヴォクラー神のご加護があらん事を! 突撃、俺に続け!」


 俺は一呼吸置いてそう叫んで突撃した。それに応じ、我が隊を実数より大きく見せ、敵を委縮させるために多めに連れてきた喇叭手が一斉に喇叭を吹き鳴らし、全隊が鬨の声を上げつつ俺に続いた。

 俺達に気づいた奴隷歩兵がこちらを向き、武器とは言い難き粗末な得物を構えたが、一角獣ユニコーンの蹄に踏み潰され、我らの刃に斬殺された。

 我が隊から逃れようとする奴隷歩兵に向けたものか、牛兵による野蛮な咆哮があった。


「道を空けよ、雑兵ども!」


「犬死するな!」


 二人の銀隊長が奴隷歩兵にそう呼びかけたが、奴隷歩兵は一向に退こうとせぬ。なかなか厄介だな。

 俺は剣を鞘に収め、異空間から槍を出した。


「ヌーヴェル、気遣いはいらぬ。全速で駆けよ」


 俺はヌーヴェルにそう言い、エヴラールに目配せして駆け出した。今までは麾下の部隊を引き離してしまわぬよう気遣った速度であったが、突撃による衝撃力の大半が失われているので、その心配はない。

 ヌーヴェルは敵を角で貫き、胴で押し倒し、蹄で踏み潰し、勢いを取り戻した。俺もヌーヴェルの障害になり得る敵を槍で排除し、その突進を助けた。


 突進力を取り戻した我が隊から、奴隷歩兵が逃げ惑うと、牛兵が戦斧を薙いだ。すると、五名ほどの奴隷歩兵が肉体が弾け、周囲に散らばった。


「なかなかの威力だ。第一銀隊の一個上隊のみ続け。それ以外は喇叭手も退路の確保に専念せよ」


 俺はそう言い、一個上隊を率いて牛兵に向けて駆けた。もう数メルタの距離に迫っているのだが、思ったより奴隷歩兵の壁が厚い。


「退ケ、ザコ共!」


 牛兵の一体がそう言うと、奴隷歩兵が俺達と牛兵達を繋ぐ道を作った。牛の頭であるのに、サヌスト語を話せるのか。


「名乗レ、人間」


「畜生に名乗る名など持ち合わせておらぬ」


「畜生!? オレ様ガ!?」


「家畜にすらなれぬ害獣め。俺が狩ってくれる」


「バカニスルナ! オレ様ハ誇リ高イ牛頭人ミノタウロスヴォヴァン様ダ!」


牛頭人ミノタウロス…」


 聞いた事のない種族であるが、そもそも牛が二足歩行で戦斧を振り回している時点で前代未聞であるから、何を聞いても驚かぬ。


「まあ良い。バンシロン銀士の指揮で援護せよ」


 俺はそう言い、ヴォヴァンと名乗った牛頭人ミノタウロスへの道を単騎で駆けた。さすがに対策なしに挑んでは、こちらの損害が大きくなりすぎる。

 単騎で挑む俺を嘲笑いつつ、ヴォヴァンの取り巻きが前に出て戦斧を構えた。回避はヌーヴェルに任せておけば良い。


「バカメ」


 そう言いながら戦斧を薙いだ牛頭人ミノタウロスであったが、ヌーヴェルが急停止したので戦斧は空を切り、再突進したヌーヴェルの角に心臓を、俺の槍に首を貫かれて死んだ。硬いな。


「ヴォヴィーニ!」


 ヴォヴァン達は仲間が負けると思っていなかったのか、激高し、一度に四体が向かってきた。

 俺も前方へ駆け、後方の一体に槍を投げつけ、空いた手で抜剣し、その勢いで右の一体の首を刎ねた。

 正面から迫る取り巻きの戦斧を受け止めると、左からヴォヴァンが迫ったが、これはエヴラール指揮の上隊による斉射で針鼠と化し、その場に倒れた。その間にヌーヴェルが、その角で正面の牛頭人ミノタウロスを刺し殺していた。


「俺は帝国騎士団長モレンクロード大将軍、奴隷解放政策本部強制執行部長官を兼ねている。奴隷階級の歩兵よ、仲間と共に武器を捨て、投降するならば、その生命を保証する。犬死するな」


 俺がそう宣言すると、周囲の奴隷歩兵らが些末な武器を捨て始めた。これを各地で繰り返し、全軍を投降させるのが理想であるが、それでは時間が掛かりすぎる。


「許サナイ…!」


「生きていたか、害獣め。オンドラーク、連れ帰って共有する。捕獲せよ」


 ヴォヴァンは数十本の矢をその身に受け、重傷ではあるものの、死んではおらぬようだ。頑丈だな。

 俺はヴォヴァンの取り巻きの死体を異空間にしまい、瀕死のヴォヴァンを背に乗せた。


「解放を望む戦士よ、北西の味方に投降を促せ。帝国軍には督戦隊を倒し得る戦力が充実している、と」


 俺はそう言い残し、麾下の部隊とともにこの場を去った。数百の捕虜と共に帰陣するほどの余裕はない。


 来た道をそのまま駆け、本陣に戻った。我が隊も多少の損害を被ったので、再戦するなら補充をせねばならぬ。


「レガット金士相当官はいるか」


 負傷兵と共に看護用幕舎に行き、そう言うと、レガット金士相当官が出てきた。ちなみに、途中からヴォヴァンが喋らなくなったが、魔力を見る限り、まだまだ死なぬ。


「お呼びですか」


「ああ。調べてもらいたいものがある」


 俺はそう言い、ヴォヴァンを地面に降ろし、異空間から牛頭人ミノタウロス四体分の死体を出した。これらを調べて弱点でも分かれば運が良い。


「多分…プロクター殿の領分かと思うのですけれど」


「獣医部か」


「はい。我々は人間を癒す事はできますが、牛はちょっと…」


「それもそうだ。オンドラーク、プロクター金士を呼べ」


「は」


 確かにレガット金士相当官の言う通り、獣医が診るべき生物だ。そういえば俺自身も畜生やら害獣やら言って罵ったな。忘れていた。


 しばらくするとプロクター金士が来た。出陣前にはなかった寝癖がついている。起きているよう命じてはおらぬが…まあ良いか。


「プロクター金士、これらを調べよ」


「これら…噂の牛兵ですか」


「ああ。牛頭人ミノタウロスというらしい。必要があれば軍医部と共同で調査せよ」


「承りました」


「では」


 俺はそう言い、その場を去った。俺が見守っていてもどうにもならぬ。

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