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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第451話

 翌朝。目を覚ましたレリアと朝から温泉に入る事になった。ちょうどレリアが起きる頃合いに朝食が届くよう、アガフォノワ経由で手配をしてあったが、まあ入浴中に届くだろう。


「朝から温泉なんて、こんな贅沢いいのかな」


「レリアにとって今日は記念すべき、二十四歳の初日であるゆえ、遠慮はいらぬ。そもそも、レリアは…」


「ちょっと待って。誕生日は昨日だよ。だから、二十四歳は昨日からじゃない?」


「…確かにそうだ。どういう勘違いであろうか」


「びっくりしちゃったよ。ジルがこんな簡単な勘違いするなんて。もしかして疲れてる?」


「いや、疲れてはおらぬ。すぐに忘れてほしいのだが、実を言うと、俺はレリアの前では気が抜けて全ての能力が低下するようなのだ。むろん、レリアを幸せにするには支障がない程度であるし、レリアと過ごす幸せは充分に感じられる程度ではあるが、確かに低下している」


「じゃあ…忙しい時は離れて暮らした方がいいの?」


「いや、俺達が離れるのは、戦いに身を置くときのみだ。平和なれど忙しい時にこそ、レリアと過ごして気力を回復させねばならぬ。寂しいことを言ってくれるでない」


「ごめん。でも、もしあたしが邪魔なら言ってね。会わないように暮らすから」


「もう一度言うが、寂しいことを言うでない。それに、長期間会わねば、それこそ能力が低下する。レリアの慶事休養中の俺の様子を聞き回ってくれたら分かると思うが、あれは活動時間を三倍にして、ようやく一・五倍の結果を出していたにすぎぬ。であるから、再び言うが、寂しいことを言ってくれるでないぞ」


「ごめんね。あたしはジルに活躍してほしいし、そのためなら多少の我慢もするよって言いたかったの」


「…何を成すにも後顧の憂いがあっては全力を果たせぬ。俺にとってそれは家族の禍福の如何である。つまり、何が言いたいかというと…」


「ジルが全力を尽くすために、あたしはあたしの家族と一緒に幸せでいる努力をしなきゃってこと?」


「ああ、そういうことだ。まあ努力などと身構える必要はないが」


 俺としてはレリア達が幸せであるならば、際限なく戦える。むろん、それでは麾下の将兵を疲労で減らしてしまうので、それに合わせねばならぬが、それはそれとして、レリアが幸せであるからこそできる事である。


「レリア、今の話は心の奥底にしまい、とりあえず温泉に行こう」


「だね。せっかくだから外の温泉に行こうよ」


「そうしよう」


 服を着ぬまま眠り、そのまま温泉に向かう途中で話し込んでいたため、レリアには鳥肌が立ちかけている。九月末でまだ夏の暑さが残る時節であるが、建物が優れているためか、屋内はかなり涼しい。

 屋内の温泉で寝汗を軽く流し、露天温泉に出た。すると、レリアが何やら看板を見つけた。


「『裏に壺湯ございます』だって。壺湯って何?」


「壺湯、壺の湯…分からぬな」


「行ってみれば分かるよ。ほら行こ」


 レリアはそう言うと、俺の手を引いて先導した。あまり勝手に見るべきでないし、今までもそう努めてきたが、看板に従って進むレリアの、軽く左右に揺れ動く可愛らしい臀部から目が離せぬ。


「あったよ、壺湯。壺湯としか言いようがないね」


「ああ。壺湯だ」


 看板に従って角を曲がると、湯が満たされた直径が三分の二メルタ程度の壺が四つあった。これは壺湯としか言い表しようがない。


「ジルはどれに入る?」


「どれでも構わぬが…」


「一緒の壺に入ろうよ」


「二人で入るには狭いように思えるが…」


「狭いからいいんだよ。ほら、先に入って」


 俺はレリアに促され、一人でも少々狭いように思える壺に入った。すると、満たされていた湯の半分以上が流れ出た。悪いことをしたような気がせぬでもないが、普通の湯舟に浸かっても同量の湯が流れ出ると思えば、そういう気になる必要はないのだろう。


「じゃ、入りまーす」


 レリアはそう言って壺に入り、俺と向かい合うように座った。想定よりも密着せぬな。


「レリア、凭れると背中が痛かろう」


「じゃあ、前に凭れるしかないね」


 レリアは納得したようにそう言うと、俺の胸に耳を当て、抱き着いた。俺もレリアの腰に手を回し、さらに抱き寄せた。


 しばらく互いに無言で幸福を噛み締めていると、何者かが近づいてくる気配があった。


「レリア、誰か来る」


「潜って待つから、なるべく穏便に帰ってもらって」


「ああ。なるべく穏便に、迅速にだ」


 レリアは頷くと、大きく息を吸い、身体を丸めて潜水し、俺の腰辺りに腕を回し、顔を押し当てた。むろん、浮かび上がらぬために抱きついている事は承知しているが、何というべきか、強い背徳感を覚えるな。

 レリアが潜るとほぼ同時に、リコ・ユンが現れた。リコ・ユンは俺がおらぬと思ったのか、俺を見て少し驚いた様子を見せた。


「何用か」


「おはようございます。ご入浴中失礼いたしました。朝食のご用意が整ってございますのに、お姿が見えなかったので探しておりました。主室にてお待ちしておりますので、ごゆっくりお楽しみください」


「承知した」


「奥方様にもお知らせしたく思いますが、どちらにいらっしゃるかご存じでしょうか」


「俺から言っておこう」


「承知いたしました。それでは、どうぞごゆっくり」


 リコ・ユンはそう言うと、一礼して立ち去った。

 様子を見つつ、水中で耐えるレリアの肩を叩いた。すると、レリアは俺に抱き着いたまま滑るように湯から出てきた。これはなかなかに素晴らしい、などと思っていると、口づけをされた。


「びっくりした?」


「ああ、驚いた」


「それで、誰が何の用だった?」


「朝食の用意ができたと、昨日の仲居が来た」


「じゃあそろそろ出なきゃだね」


「名残惜しいがそうしよう」


 そう言って俺達が出た後の壺には、半分未満の湯しか残っていなかった。少々暴れ過ぎたか。

 宿の浴衣に着替えた俺とレリアが主室に行くと、机がもう一つ用意され、そこの朝食のヤマトワ料理が並べられていた。


「朝から豪勢だね」


「ああ。だが、ヤマトワ料理は健康に良いと聞くぞ」


「じゃあいっぱい食べても安心だね」


 俺とレリアが話しつつ席に着くと、リコ・ユンが釜から米飯を盛り、鍋から御御御付けをよそった。

 レリアが豪勢と言った朝食であるが、焼き魚の他には、漬物や副菜などが数種類あり、数は多い。だが、俺としては肉があっても良いと思ってしまうな。


 その後、ヤマトワ料理を充分に楽しんで食事を終えると、リコ・ユンは食器のみを持ち、机は置いて帰った。


「ジル、浴衣ってここでも売ってるのかな」


「宿泊記念で今着ているものは貰えるはずだ」


「そうなんだけどね、この服って、帯を緩めたら胸を出しやすいじゃん? アレクの授乳が終わるまでは、浴衣を着ていようかなって思って」


「なるほど。では二十着ほど買っていこう」


「ありがと」


「だが、ひとつだけ約束してくれ。帯を緩めるのは授乳の時に限る、と。つまり、他人に裸体を晒さぬよう気を付けてくれ」


「もちろん、そのつもりだよ」


「ならば良かった。では準備ができ次第、出よう」


 俺達は浴衣で帰ることにしたので、それに合わせた準備をした。まあ準備といっても、身だしなみを整えたりするだけであるが。

 準備を整えた俺達は、松の亭を出て受付のある建物まで来た。それに合わせて、アガフォノワの部隊も動き始めた。


「リコ・ユン殿、いくつか買いたいものがある」


「何なりとお申し付けくださいませ」


「では我が愛妻が来ているような浴衣を二十着。土産用の一口か二口で食べられる菓子を千個、これは五百個ずつに分けてくれ。それから、俺が朝浸かっていた壺があったろう、それを五つだ。これらと宿泊料を合わせると、いくらになる?」


「少々お待ちくださいませ」


 リコ・ユンはそう言うと、奥の方へ去ってしまった。なるべく分かりやすく言ったつもりであるが、ヤマトワ人を相手にサヌスト語で長く話すのは良くなかったか。いや、昨日も今日も上手なサヌスト語を話していたはずである。


「壺なんて買ってどうするの?」


「単なる湯であろうと、壺湯の再現は可能であろう?」


「確かにそうだね。ジルはあたしといると気が抜けて能力が下がるって言うけど、あたしから見たら充分天才だよ」


「そう言ってくれるとありがたいが、その話は忘れてくれ」


「あ、そうだったね。ごめんごめん」


 レリアは俺を天才と褒めてくれるが、あくまでこれは褒め言葉なのだ。真に受けて図に乗るのは恥ずべきであるが、それはそれとして、やはり嬉しいものだ。


「お待たせして申し訳ございません。わたくし、支配人のケン・キッカと申します」


「ロード公爵だ。仲居のリコ・ユン殿から話は伝わっているか」


「はい。ユンは浴衣を見繕っております。一口か二口で召し上がれる土産菓子との事ですが、こちらの栗饅頭などどうでしょうか。ぜひご試食を」


 リコ・ユンの代わりに出てきたケン・キッカという男はそう言い、俺とレリアに光沢のある菓子を差し出した。

 サヌスト人の口に合わぬ味であればレリアを止められるよう、俺はレリアより先に食べた。すると、確かに栗の味がする菓子であった。見た目だけでなく、中味も栗なのか。


「美味いな」


「だね。千個で足りる?」


「足りぬな。三千個にしてくれ」


「申し訳ございませんが、栗饅頭のみで三千個はご用意できかねます」


「では、これと同程度の大きさの菓子を三千個だ。できるか」


「可能でございます」


「では頼んだ」


 さすがに同じものを三千個も用意しているはずがないか。まあ栗饅頭のおかげで、ヤマトワの土産菓子は信頼できる事が分かったので良い。


「それで、壺の方はどうだ?」


「はい。手配いたします。ロード公爵閣下のご邸宅まで、今日中にお運びできますが、いかがでしょうか」


「薔薇と一緒に届けてくれ」


「承知いたしました。それでは、宿泊料金と土産菓子三千個、浴衣二十着、壺湯の浴槽五据え、諸々込みで、合計百オールでございます」


「きりが良いな」


「大量の一括購入でございますので、誠に勝手ながら端数は切り捨てさせていただきました」


「そうか。だが事前相談もなしに大量に買うのだ。釣りはいらぬ」


 俺はそう言い、金貨二十枚つまり二百オールを渡した。大量購入もそうだが、おそらく備品であろう壺や浴衣を買うのに、提示された金額のみを払っては無礼というものであろう。


「では土産菓子だけ急いでくれ。他は屋敷に届けてくれたら良い」


「承知いたしました」


 ケン・キッカはそう言うと、恐縮しつつ立ち去った。

 その後、土産菓子を受け取った俺達は、温泉宿を出て、街で買い食いをしつつ、屋敷に向かった。

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