第42話
俺はこれから、この砦がラポーニヤ魔砦となった事やこれからもよろしくみたいなことを言うのだ。
「昨日の夜、話し合った結果、この砦の名はラポーニヤ魔砦に決定した。犬人隊や猫人隊は砦の完成を急いでくれ。完成後、この近くのドリュケール城という城の城主ジェローム将軍やその配下を招いて祝賀会を開く。その時は存分に楽しんでくれ」
俺は一通り言ったつもりだが何か言い忘れがないかアシルの方を見る。
───新システムの話を忘れている───
新システム?
───序列のことだ───
「砦が完成するまでの間、エルフ、人狼、人虎の戦士達には序列を決めてもらう。詳細は各隊長に伝えておくから聞いておくように」
───以上だ───
「以上だ!」
俺はそう言って城壁から降りる。ラポーニヤ魔族が歓声を上げた。何かあるとすぐに叫びたがるな。
ちなみにこの序列とは戦士達の強さをランキング化させ、それを用いて数種類の部隊を編成しておくことだ。例えば戦など戦力を集中させない方が良い場面は強さを平均的にした部隊。魔物狩りや強敵相手など失敗が許されない場面の為にランキング上位の者を集めた部隊。などなど場面に合わせて強さが異なる部隊を作っておくのだ。
フーレスティエが城壁から降りてきて俺にこう言った。
「ジル様、今更なのですがこの砦は砦の域を超えています」
「では最大級の砦としておこう」
「左様ですか」
フーレスティエが下がって行った。
俺は幕舎に戻り、色々話す。
俺はこの集団の長だから色々大変なのだ。例えばこの先の食糧のことや城壁上に設置する兵器のことなど。挙げればキリがない。数日はラポーニヤ長老院との会議で潰れるだろう。
「ジル様、カルヴィン殿がいらっしゃいましたぞ。兵士も増えております」
アルフォンスが幕舎の外で声を上げた。ちなみにアルフォンス達人間の兵は悪魔達と協力して序列を決めるための戦いを仕切ってもらっている。
「それは仕方ないな。直ぐに会おう。おぬしらは続けてくれ」
俺はそう言って幕舎から逃げる。
「待たせたな。すぐに行こう」
「こちらです。案内致しましょう」
俺はアルフォンスの案内に従って城門の方へ行く。
「魔族を説明無しで見ると驚かれると思い、城門前で待機してもらっています」
「それが良いだろうな」
「ええ。私も本物を見るまで御伽噺だと思っておりました」
「そうなのか?」
「ええ。歴史など物語でしかないと思っておりますので」
「なぜ?」
「歴史は勝者の都合の良い事に書き換えられて伝えられるのです」
「深いな。また今度詳しく聞かせてくれ」
「ええ。団長には真実を歴史として残していただけると嬉しいです」
「ああ。歴史に不滅の名を刻み込む男として約束しよう」
「着きました。この門の外で待っています。門を開けていると魔族の姿が見えるかもしれませんので」
俺は見張りのエルフに城門を開けるように手を挙げて指示をする。
俺の意を汲み取ったエルフが門を開けた。
俺はヌーヴェルに乗り、外に出る。
「カルヴィンはいるか?」
「ご主人様、ここにおります」
「久しいな。兵はどれほど集まった?」
「当初の目標を大幅に上回りまして約三千の騎兵を集めることが出来ました」
「俺と別れた頃はそんなにいなかっただろう?」
「はい。数日前、ご主人様が聖堂騎士団長と会い、同盟を結んだという噂が広がり、それなら本物の使徒様だということになり、近隣の街からも集まりました」
「どこから情報が漏れたのだろうか?」
「私には分かりません。それよりも魔族というのは…?」
「ああ。皆にも紹介しよう」
俺はヌーヴェルに乗ったまま城壁上まで駆け上がり、こう言う。
「皆、よく聞け。俺が今代の使徒ジルだ。俺は精鋭と共に魔の山ラポーニヤ山を攻略し、エルフ、人狼、人虎、犬人、猫人の五種族を我が軍門に降した。魔族をよく知らぬ者は魔族を恐れているかもしれぬ。だが魔族も人間と大差ない。そんな魔族と共に戦えない者は我が配下に迎え入れることはできない」
「団長、魔族を紹介してみてはどうでしょうか?」
あまり皆の反応がなかったのを見てアルフォンスがそう言ってきた。
「そうだな…ここにいる者も人間ではない。エルフだ。言われるまで気付かぬであろう?つまり人間も魔族も関係ないということだ」
城門を開けてくれたエルフを紹介する。
「エルフではあまり分からないのでは?」
「そうだな…他の四種族を連れて来てくれ。誰でもいいから」
「はは」
アルフォンスが城壁を降りていった。
「魔族と共にこの俺の配下になる覚悟がある者はこの門をくぐれ!」
俺がそう言うとほとんどが中に入った。
外に残ったのは五十騎程だ。
「おぬしらは魔族とは共闘出来ないのか?」
「俺は魔王の配下とは共に戦えません!」
俺の問い掛けに一人の騎兵が答えた。
「魔王の配下では無い。俺の配下だ」
「ですが…」
「それに魔王に仕えていた世代はもう死んでいる。俺の配下になった者は親に言われて会ったこともない魔王に仕えていた。いや、彼らは魔の山の管理をしていただけだ」
俺がそう言うと俺と会話をしていた者以外が中に入った。
最後の一押しにかかろう。
俺はヌーヴェルから降りて城壁から飛び降りる。
空中で鎧を喚び出し、着地する。
「貴様は何の為に募兵に応じた?」
「俺は…使徒様に仕えたくて…」
「その使徒は目の前にいるぞ」
「でも…本物の使徒様は魔族と手を組んでいて…」
「手を組んだのではない。俺が一方的に利用するだけだ」
「でも…」
この男はどうやら理想の俺じゃなかったからか戸惑っているらしい。逆にこの男以外は本当の俺をすんなり受け入れたらしい。
「ではおぬしも魔族の強さを思い知れ。そうすれば魔族を認められるだろう」
「え…?」
「馬から降りて俺と戦え」
男が馬から降りた。
「ですが使徒様は…」
「俺?」
俺はそう言いながら鎧をしまい、人狼の姿になる。
「…!使徒様が…!」
「魔法を極めればなれる」
「魔法?」
「そうだ」
俺は門の中へ入って行った者達に向かってこう叫ぶ。
「俺はおぬしらをこの大陸で一番の騎兵隊にする!その為には魔法の習得が必要不可欠だ!」
門の中でザワザワしている?耳を澄ますと『魔法が存在するのか?』とか『魔法の習得ができる…!』とか言っている。もう一度門に入らない男に向き直り、話す。
「おぬし、名は何と言う?」
「エヴラールです」
「エヴラールか。では戦おう」
「あ…はい」
エヴラールは剣を抜いた。
「どこからでも来い」
「では!」
エヴラールが剣を突き出してきた。俺はそれを仰け反って避けた。そのまま後方倒立回転跳び、いわゆるバク転をして足で剣を掴み取り、剣を放り投げた。着地をした後は驚いていたエヴラールの首筋に爪を突き立てる。
「これが人狼の力だ。魔法を極めれば武も極まる」
「なるほど…」
俺は手を離し、そう言った。
「俺は使徒様に…いやジル様個人に永遠の忠誠を誓います」
エヴラールが突然そう言った。
「そ、そうか。では従騎士として俺の傍に常にいろ」
「はは」
俺は無事エヴラールを仲間に引き込んだ。
その後、もう一度、集会をすることになった。
今回は各隊長の任命などもする。
先程と同じように皆が集まり、俺が城壁上にいる。ちなみに東側に人間、中央にエルフ、人狼、人虎の戦士、西側に犬人、猫人の工兵が並んでいる。南側には戦士以外の魔族がおり、その反対の北側に俺がいる。
「人魔混成団の諸君、よく聞け。東側にいるのは人魔混成団の主力となる人間が所属する騎士隊だ。西側にいるのは人魔混成団の兵站などを担う犬人、猫人が所属する工兵隊だ。そして中央にいるのは人魔混成団の精鋭であるエルフ、人狼、人虎が所属する魔戦士隊だ」
魔戦士とは魔族の戦士の略である。移動中に考えておいたのだ。
「それぞれ価値観の違いがあるかもしれぬがそこは人魔混成団として上手くやってくれ」
俺がそう言うと人間達は戸惑っているようだが魔族達は歓声を上げた。
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