第426話
招集をかけていた将官は、当たり前であるが、近場にいる者から集まった。
俺の私兵からも三名を将官、数十名を士官、千名弱を下士官に任命したが、この者達が最も早く到着した。ちなみに、将官三名とはアルフォンス・サングーマ副将軍、ヴァトー・アラコック副将軍、ラミーヌ・リグロ副将軍である。
魔族を臣民と認め、それを根拠に徴兵し、帝国軍の戦力強化を計画しているが、その象徴としてヴァトーを副将軍として仕官させたのだ。帝国領内に複数ある魔の山やそれに類する地を、あくまで友好的に開放するのも騎士団の任務のひとつであるが、騎士団側にも魔族がいた方が話が通じ易かろう。
七月の中頃、執務室で魔法教本を書いていると、ドリュケール城から懐かしい三名が到着した。マニュエル卿とサミュエル卿、シモン卿である。三人とも俺が副将軍に選んだのだ。
「大将軍閣下、我ら副将軍三名、ただいま到着いたしました」
「マニュエル卿、そう畏まらずとも良かろうぞ。とりあえず談話室で待っていてくれ。オンドラーク」
俺はオンドラークに三人を談話室に案内するよう命じ、魔導印字機から紙を外した。外しておかねば、次に始めるときに面倒になるのだ。
談話室に行くと、三人は旅装を解き、冷えた水を飲んでいた。井戸から汲んだばかりのよく冷えた水は、サヌストの暑い夏にはありがたい。
「待たせたな」
「いえ、閣下」
「まずは名乗らせてください」
俺が着席すると、マニュエル卿とサミュエル卿がそう言った。まあ一年以上会っておらぬし、その間に名も官職も変わっているので、互いに名乗った方が良かろう。
「では私から。マニュエル・フォン・ジェラルラン子爵です」
「サミュエル・ジェラルラン・フォン・ジェラルダン三等帝国騎士です」
「シモン・モンセラート・フォン・シャントロー男爵です」
「では俺も名乗ろう。ヴィルジール・デシャン・トラヴィス・プリュンダラー・エクエス・フォン・モレンク=ロード公爵だ。ところで、サミュエル卿、いや、ジェラルダン副将軍、エレ坊はどうした?」
俺が最も気になっていた事である。一年以上も前であるから、記憶としては朧気であるが、エレファントボアなる魔物の仔がいたはずである。サミュエル卿が親代わりとして育てていたが、誰も話題にせぬから俺も話題にしなかったが、俺は結構気になっていたのだ。
「長旅は耐えられないと判断し、信頼できる部下に預けております」
「そうか。よく育っているのか?」
「はい。象のような大きさの猪という意味だそうですが、既に象より一回りも二回りも大きく育っております。調教次第では戦象以上の戦力になり得るかと」
「なるほど。ところで、なぜ三人とも畏まっているのだ?」
先程から気になっていたが、なぜか三人ともよそよそしい。俺は勝手に友人と思っていたが、本当に勝手に思っているだけであったのだろうか。であれば、少々寂しいな。
「上官に対する態度としては妥当かと」
「なるほど。俺は俺の指示に従うのであれば、態度などどうでも良いぞ」
「いえ、規律が乱れますので」
「そうか」
マニュエル卿はそう言うが、俺としては旧友を待つのに近い感情で待っていたので、それを裏切られた気がしないでもない。まあマニュエル卿が言っている事も理解できるので、好きにすれば良い。
「話は変わるが、いくつか課題を出そう。麾下部隊の編制案を考えておいてくれ。期限は、最後の将官の到着の幾日か後だ。騎兵か歩兵か、あるいは新兵科を創設しても良い。予算と人員に関しては、会計局と人事局に尋ねるが良かろう」
「承知しました」
「俺からは以上だ。最後の将官の到着まで半月はあろうから、とりあえずゆっくり休めば良い。では」
俺はそう言い残し、談話室を出た。旅の疲れがあるだろうし、わざわざ気を遣われるべき上官が長居すべきではなかろう。
ちなみに、騎士団所属の将官、士官、軍属に対する任命書は、俺が魔導印字機を使って名前以外の部分を書いたものを量産したので、意外と早く終わり、各部局は通常の軍務に従事している。
七月二十五日、ついに全将官がガッド砦に集結した。ちなみに、最後に着いたのは旧クィーズス王国西部防守軍にいたヴァーン・フォーサイス将軍である。おそらくガッド砦から最も遠い地にいた将官であろう。
八月三日。全将官を作戦会議室に集め、騎士団の詳細に関する会議を開くことにした。以前から決めていた事であるし、通達もしていた。
現在の騎士団では、将官は全て騎士団本部に所属し、部隊長には誰も任命しておらぬ。それゆえ、俺に次ぐ最高位の部隊長が金級騎士であり、全ての部隊が本部直属となっている。
ちなみに、部隊名に関してであるが、階級の創設に伴い、帝国軍全体で統一する事になった。
金級騎士が率いる部隊は金隊とする。騎士団では金士含め、五千名を定数としている。
銀級騎士が率いる部隊は銀隊とする。騎士団では銀士含め、千百七十名を定数としている。
銅級騎士が率いる部隊は銅隊とする。騎士団では銅士含め、五百二十九名を定数としている。
上士が率いる部隊は上隊とする。騎士団では上士含め、百四名を定数としている。
中士が率いる部隊は中隊とする。騎士団では中士含め、五十名を定数としている。
下士が率いる部隊は下隊とする。騎士団では下士含め、十名を定数としている。ただし、中隊のうち一個下隊は九名を定数とする。
つまり、現在の騎士団には騎士団本部要員と百個金隊が属している。ちょうど良い数字であるのは、アルヴェーン将軍がきりの良い百個金隊で充分と判断し、その他を諸種兵団に所属させたからである。
「さて、帝国騎士団に相応しき諸将よ。よくぞ集まってくれた。以前より通達していた編成会議を始めるが、その前に改めて名乗ろう。ヴィルジール・デシャン・トラヴィス・プリュンダラー・エクエス・フォン・モレンク=ロード大将軍だ。大元帥陛下より帝国騎士団長の任を拝命した。以後、よろしく願おう。アーウィン将軍、後は頼んだ」
「は。進行を承った、帝国騎士団副長フェリックス・アーウィン上級将軍だ。早速だが、諸将が提出した編制案及び新兵科を発表する。手元の資料と共に確認されたい」
俺はアーウィン将軍に進行を任せ、自席に座って説明を聞いた。ちなみに、この資料は増産した打鍵印字機で複製されたもので、騎士団では打鍵印字機を正式に導入する事が決定している。
提案された新兵科であるが、既存の兵科から独立し任務の専門化を図ったものや、俺が提案したものを含め、六種ある。
まず、既存の兵科は騎兵と歩兵の二種がある。ただし、歩兵は指揮官や所属部隊によっては、工兵や補助憲兵などと変わるので、もっと細かく区分できる。これまでは、乗馬するか否かでのみ判断していたので、騎兵と歩兵の二種しかないが、これからは兵科に応じた訓練をする予定であるから、もっと細かく区分する。
工兵。土木建築による戦闘の支援を担当する兵科である。平時には騎士団が保有する城塞などの建築物の維持を行い、戦時には陣地構築や障害物の除去などを担当する。
憲兵。騎士団内の秩序や規律の維持を担当する兵科である。戦時には獲得した捕虜の取り扱いなども担当する。
輜重兵。前線部隊への物資輸送など兵站を担当する兵科である。サヌスト王国軍では戦があるごとに編成していた、軍属である人夫の部隊が担当していたが、専門化による効率化を図るものである。
火兵。魔法による攻撃を担当する兵科である。個人の戦力が騎兵や歩兵などより格段に高いため、全てを下士官以上にする予定である。俺の提案である。
魔闘兵。魔闘法による戦闘を担当する兵科である。ローラン殿が教えてくれた魔闘法を将兵に習得させ、その将兵による部隊があれば、白兵戦では敗北知らずであろう。俺の提案である。
魔獣兵。魔獣による戦闘及びその支援を担当する兵科である。魔獣を捕獲し、調教したものを戦力として扱う構想で、戦象のようなものだそうだ。サミュエル卿の提案である。
百個金隊すなわち五十万名を、これら八種の兵科に割り振り、複数個金隊からなる部隊を将官に預ける。ただし、金隊を解体し、四個銀隊にしても構わぬし、八個銅隊にしても構わぬ。




