第425話
三日後、俺はアルヴェーン将軍から提出された、野戦軍の編成に関する決裁を終え、その旨をジェローム卿に報告した。すると、報告の直前に、国防軍から階級を増やして欲しいと要請があったそうで、会議中であった。
俺はそれに参加し成り行きを見守っていると、結果的に、階級もどきではあるが六階級も増えた。将官に上級職、士官に筆頭職が増設されたのだ。上級職と筆頭職は名称こそ違うが、似たようなものである。
上級職と筆頭職は、役職に附随し、その権限を拡大して付与する場合に設置される。例えば、同階級の者を麾下におく場合や、同階級よりも大きい戦力を指揮する場合などがある。
上級職と筆頭職は、あくまで権限を拡大するだけであり、昇格ではないから待遇は変わらぬ。同階級の者と比べると上席にあるが、あくまで役職に応じたものである。
具体的な階級名であるが、上級職も筆頭職も階級名に冠するだけである。つまり、大将軍の上級職は上級大将軍、提督の上級職は上級提督、金級騎士の筆頭職は筆頭金級騎士などと称する。
騎士団副長であるアーウィン将軍は上級将軍になるが、呼びかける際にはアーウィン上級将軍ではなく、アーウィン将軍である。ただし、任命書など正式の文書には『フェリックス・アーウィン上級将軍』などと記される。
ちなみに、上級職と筆頭職は常設のものもあれば、作戦ごとに設置される仮設のものもある。上級職の任命に関しては軍令部の許可が必要であるが、筆頭職は上官たる将官の裁量で任命できる。名称を分けた、語呂以外の真っ当な理由である。
それから、士官の階級名の正式な略称も決定した。まあ筆頭金級騎士など長いから、当然である。
金級騎士、金級水士、金級徒士の略称は金士、銀級騎士、銀級水士、銀級徒士は銀士、銅級騎士、銅級水士、銅級徒士は銅士と略す。騎士官や水士官、徒士官の区別ができなくなるが、まあ略称などそんなものである。必要がある時は略さず呼べば良い。
これにより、筆頭金級騎士は筆頭金士と呼称する事となった。
それから、軍属の階級についてであるが、こちらも正式決定した。
三階級制を採り、上から、金士相当官、銀士相当官、銅士相当官となった。
軍属についてであるが、これまで軍政を担当していた軍属の文官は徒士官になったため、軍属は大きく減った。
帝国軍における軍属は、枢密院議官たる将校の秘書官、従軍聖職者、兵営内食堂における料理人、外征時の案内人や通訳など、挙げれば多そうに見えるが、以前と比べれば少ない。ちなみに、リンは銀士相当官である。
もう一点、会議中に提案され、決まった事がある。将官府の設置である。
まず、そもそも将官が指揮する部隊には、将官の指揮を補佐し、かつ戦闘部隊の後方支援をするため、司令部あるいは本部が設置される。この二つはほとんど同じ意味であるから、どちらを使っても良いが、騎士団では本部に統一した。
この本部には、軍政の組織として部局が設置されており、これが騎士団の軍政を担当する。
本部には、指揮の補佐のため、幕僚部が設置される。この幕僚部には、部局の長たる徒士官であったり、参謀たる騎士官であったり、それらの副官であったりが所属する。
将官府とは、本部から参謀部と副官部、大将軍の場合は政策事務室を独立させた、将官個人を補佐する機関である。また、これ以外にも将官の護衛のみに従事する親衛隊なども設置できるようになる。
わざわざ本部から将官府を独立させる理由であるが、将官の異動には将官府も連動し、能力を発揮させるためであるそうだ。編成直後であるから異動はしばらく無かろうが、俺としては腹心と離れずに済みそうで良かった。
もちろん、部隊運用に最低限必要な人員は本部に残るので、昇格したばかりで将官府編成前の副将軍でも任務を果たせる。
この将官府の編制であるが、これは階級によって異なる。
まず、大将軍の将官府についてであるが、将官隊、将官親衛隊、政策事務室が設置できる。上限は将官隊が十五名、将官親衛隊が二百名、政策事務室が十名である。
将軍と副将軍については、大将軍のものから政策事務室を除いたものがそれにあたる。ただし、上限が異なり、将軍は将官隊が十名、親衛隊が百名、副将軍は将官隊が五名、親衛隊が五十名である。
ちなみに、将官隊とは参謀部のようなものであるが、参謀や副官以外でも任命できるし、何なら武官以外を軍属として任命する事もできる。極端な例えであるが、参謀を十五名置いても良いし、誰も置かずとも良いし、市井の料理人であったり、何なら家族や友人を任命しても良いのだ。
会議後、俺はアーウィン将軍と共に、騎士団内の上級職、筆頭職の選定、将官府の編成に励んだ。
結局、六月三十日までを要し、帝国騎士団の編成を終えた。五十万の部隊編成と考えれば、かなり早いが、疲労感のせいか、かなり長かったように思える。
帝国騎士団のうち、帝都にいた部隊に対し、ガッド砦の補修を命じた。臨時の騎士団本部が欲しかったが、帝都内では制限も多いので、帝都近郊のガッド砦が立地的には最高だったのだ。まあ去年焼き払ってしまったので、直さねばならぬのだが。
俺は帝国各地に点在する、騎士団所属の将官に対し、招集をかけた。ちなみに、帝都から五十メルタル以上離れた地にいる者に対しては、まだ任命書すら送っておらぬので、招集を伝える使者に任命書を持たせた。
ちなみに、任命書は将官の他、士官と軍属に送られるので、騎士団全体では数千枚、もしかすると万を超える任命書を書かねばならず、人事局員のほか、手伝いを命じた兵器局員や兵務局員も大忙しである。
ちなみに、俺の将官府の編成であるが、かなり小規模である。まあ本部の人員が充実しているので、わざわざ将官府を大所帯にする必要がなかっただけであるが。
まず、将官隊であるが、現状は四名である。
首席隊士、アキ・フラウ・フォン・モレンクロード金級騎士。首席副官である。ちなみに、公私混同を避けるため、また、人違いを防ぐため、軍務に従事している間は『フラウ金士』と呼び、部下にもそう伝えておいた。
次席隊士、エヴラール・フォン・バンシロン銀級騎士。次席副官である。こちらも公私混同を避けるため、『バンシロン銀士』と呼ぶ。
三席隊士、アデーラ・オンドルフ上士。従卒である。席次に関して、オンドラークと籤引きで決めていた。俺としてはどちらでも良い。
四席隊士、ドラホミール・オンドラーク上士。従卒である。階級に関して、軍務省が定めた目安によれば、大将軍の従卒は上士であるそうだから、これに準じた。
次に、親衛隊であるが、こちらは親衛隊長アキ・フラウ・フォン・モレンクロード金級騎士、唯一人である。
親衛隊は必置であったが、俺は強いので、親衛隊を設置するなら、その人員を騎士団に回したかったのだ。それゆえ、将官隊で最も強いアキを親衛隊長に置いた。
最後に、政策事務室であるが、こちらも一名である。もちろん、カイラ・リン・トゥイード銀士相当官である。
俺はまず、秘書官としてのリンが俺以外の他者に遠慮することなく、その能力を充分に発揮できるよう、政策事務室の編成をリンに一任した。すると、リンはまだ誰と気が合うか分からぬと言い、とりあえず一人で頑張ると決めたそうだ。
頑張ってどうにかなるのであれば良いが、どうにもならねば、まあ適当に優秀そうな白蓮隊員を呼んで適当な職に任ずれば良い。




