第41話
俺はヌーヴェルから降り、異空間に帰す。
そしてフーレスティエから報告を聞く。
「今回は男女混ざっているだろうな?」
「ええ、もちろんです。エルフと人狼、人虎は男が三名、女が二名ずつ。犬人と猫人は男が二名と女が三名ずつです」
「分かった。ではまた今度、全員と会いたいから全員に伝えておいてくれ」
「すぐにでも準備ができますがよろしいのですか?」
「ああ。先約があるからな」
「左様でしたか。では私は失礼致します」
フーレスティエが礼をして去って行った。
フーレスティエと入れ替わるようにレリアが来た。
「ジル!あたし、友達ができたよ」
「それは良かったな。エルフか?」
「うん。ハイエルフのアルテミシアっていう女の子」
「フーレスティエの娘か」
「そうだよ」
「世間は狭いな」
「そうだね」
その後も昼ご飯までレリアと話し、昼ご飯もレリアと食べた。
昼ご飯の後、キアラ達四人を喚び出した。
「では、ヨルク。手合せ願おう」
「ええ。喜んで」
俺は鎧と剣を喚び出す。マントも喚び出しておこう。
「では審判は私が致しましょう」
「ああ、頼んだ」
セリムが審判をやってくれることになった。
「キアラ、誰も近づけないようにしてくれ」
「分かったわ」
キアラが魔法で地面に円を描いた。半径二十メルタ程に一メル程の溝が掘られた。
「勝敗はどちらか一方の降参か戦闘不能により決する事とします」
「円から出た場合は?」
「中心に戻り最初からやり直しです」
「分かった」
俺はヨルクと三メルタ程の距離をおいて立つ。
「ヨルク。手加減は無しだぞ」
「もちろんです。全力で参ります」
俺はヨルクと一言ずつ交わす。
「私がこのコインを落としますのでコインが地面に着いた瞬間が始まりとします」
そう言ってセリムが胸の前にコインを差し出した。
セリムがコインから手を離した。
コインが地面に着いた。
その瞬間、ヨルクが剣を抜き、構えた。俺も抜いた。
「「いざ、参らん!」」
なぜか頭に浮かんだ言葉を叫びヨルクに突撃していく。ヨルクも同じ考えのようでちょうど真ん中あたりで俺の剣とヨルクの剣が激突する。
剣での勝負なので魔法は使わないがそれ以外は使う。
ヨルクの鳩尾に左足で蹴りをいれる。しかしその蹴りをヨルクが蹴って後ろに飛び退く。
再び、俺とヨルクは距離をとって向かい合う。
「来ないのか?」
「ジル様こそ来ないのですか?」
俺はヨルクが言い終わる前に駆け出す。
そして首筋目掛けて剣を突き出す。それをしゃがんで躱したヨルクが俺の腹を薙いだ。俺も黙って斬られるわけにはいかないので剣を持ち替えて人間で言う背骨がある所を斬ってやった。
お互い鎧があったおかげで傷は浅い。
俺は腹に力を入れて痛みを増加させる。生物は死を身近に感じることで本来の力が発揮できるような気がする。実際『火事場の馬鹿力』という言葉もある。
俺達は再び距離をとる。
「降参しないのか?」
「ジル様こそ。これ以上は危険ですぞ」
「セリムが何とかしてくれるだろう?」
「そうですね」
俺は円の線ギリギリまで下がり、ヨルクを煽る。
「来い!」
ヨルクが剣を構えて走ってくる。
一度円から出たら最初からやり直しだ。負けることは無い。
一応俺も構える。
走って来たヨルクの剣を受け止める。
鎧を異空間にしまい、人虎の姿になる。人狼よりも人虎だ。魔力が無くなっても空腹と睡魔に襲われるだけだ。そして俺は魔法使いだ。残りの魔力量くらいはわかる。
「人虎の姿に…」
「そっちは悪魔の姿だろう」
「そうでした」
俺は人虎の力で押し切り、体制が崩れたヨルクの腹を深めに薙ぐ。ヨルクは腹を押さえて伏せた。そのまま人の姿に戻ること無く人狼の姿になり、剣を鞘に収めて四足歩行でヨルクの周りを走る。
「斬れるものなら斬ってみろ!」
「ではいきますぞ」
ヨルクは飛び起きて剣を鞘に収めた。そのままヨルクは目を瞑って鞘と柄を握った。
何をする気だ?
俺はそう考えながらも範囲を広げて走り続ける。
痛い!
俺がそう思った頃には地面に倒れていた。
ヨルクを見ると剣を収めているところであった。
「勝者ヨルク!」
いつの間にか円の周りに集まっていた戦士が歓声を上げた。
「おい…自分達の長が負けたのになに喜んでいるんだよ…」
俺はセリムの治療を受ける。決闘好きな悪魔に伝わる傷を癒す回復魔法という魔法があるらしい。それはヴォクラー様に教えてもらってない。
「おい、ヨルク」
「なんでしょう?」
「さっきの技はなんだ?」
「抜刀術です。本来は刀と呼ばれる片刃の剣を使う技です」
「そうか。では、また今度対処法を教えてくれ」
「ええ。拙者でよろしければ喜んで致しましょう」
ヨルクは俺の剣の師となるであろうな。基礎はアシルから学んだが技はひとつも知らない。
「そうだ。セリムも剣は使えるだろう?」
俺は横にいるセリムに話しかける。
「ええ。多少は使えます」
「ではセリム。一本いいか?」
「今からですか?」
「ああ。早くやろう」
「ですが…」
何故かあまり乗り気では無さそうだ。押し切ろう。
「ですが、なんだ?」
「剣がありません」
「魔法で創れば良いだろう。近衛魔術師なんだから」
「そうなんですが…」
俺は助けを求める視線をキアラに送った。
「ジル様の剣の腕はヨルクに迫るほどだわ」
「だからなんだ?」
「そうね…ジル様は国王軍と正面から一人で戦いたいかしら?」
「いや、全く。勝てるわけがないからな」
「そういうことよ」
「?」
「勝負は勝てる可能性があるからするのよ」
「どういうことだ?」
「負けると分かっていたら戦いたくないでしょう?」
「まあそうだな」
つまり俺がセリムより圧倒的に強いということか。剣に限ってだが。
「理解した」
「そう。それは良かったわ」
その後、集まっていたラポーニヤ魔族の戦士達を解散させ、色々片付けて出発する。
ラポーニヤ山を出発してから十日間移動した日の夕方、例の砦に着いた。
砦は外見だけだがほとんど完成していた。だが城門を潜ると更地である。アシルからの指示で城壁を先に造ったらしい。しばらくはここに幕舎を張って暮らすことになるだろう。
「ジル殿、久しぶりだ」
「ああ。久しぶりだな」
「この砦の名は考えたか?」
「ああ。ラポーニヤ長老院の初仕事としていくつか候補をあげてもらった」
三日前、アシルから連絡があり、砦の名を考えるように言われたのだ。俺はそれをラポーニヤ長老院の初仕事として与え、そのお手並み拝見させて貰った。
「聞かせてくれ」
「三つある。トリデ砦。ラポーニヤ魔砦。最後にジル砦だ」
「『トリデ』とはどういう意味だ?」
「魔王語って知ってるか?」
「公用語だ」
「魔王語で砦という意味らしい」
「なるほど」
魔王語とは魔王が使っていた言葉だ。魔王が民に使わせた言葉である。当時もサヌスト語やヴェンダース語などもあったが方言という扱いであった。役人や商人など領地を出る者が話す言葉であったらしい。
そして現在は公用語として使われている。ある程度の身分の者は習得すべき言語であるとされている。他国との交渉などに使う為だ。
「どれが良いと思う?」
「ジル殿は?」
「俺はラポーニヤ魔砦だ」
「同意見だ」
「では決定だ。また明日全員に知らせよう」
「そうしよう」
その後、俺はレリアと合流して夜ご飯を食べた。
そして翌朝。俺は朝ご飯を食べて少し休憩する。
「ジル様、皆を集めました」
ファルジアが報告に来た。先日、ファルジアを俺の側近にした。色々気が利くし若い魔族にしては冷静だからだ。
「分かった。すぐに行こう」
俺は鎧を纏って城壁の上に上がる。
俺の後ろにはアシル、ドニス達人間の兵全員、各種族の長、ヨルク、セリムがいる。レリアはキアラとレンカと一緒にエルフのアルテミシア達の所にいる。
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