第40話
その後、俺達は幕舎などを片付けて出発した。
移動中、俺はフーレスティエからラポーニヤ長老院に所属する者の報告を聞いていた。
「エルフからは私とランチエリ、プランティエ…」
「名前を言われてもわからぬ。それぞれの男女の人数を教えてくれ」
「全員男ですが…」
「もう一度選び直せ。男だけでは気付かぬこともある」
「承知しました。直ちに選び直します」
「ああ。なるべく早くな」
「はは」
フーレスティエが去って行った。
智者を選べと命じて自分を含めるくせにそのような見落としがあるなど智者とは呼べぬな。
話し相手がいなくなったのでキアラにでも話し掛けてみようかな。
キアラ、今は忙しいか?
───忙しくないわ───
暇だから話さないか?
───レリア姫とは話さないの?───
レリアはエルフの女性達と馬車で話している。レリアにはレリアの友がいるのだ。
───そうかしら───
分からぬ。だが俺はおぬしに聞きたいことがある。
───何でも聞いてちょうだい───
ああ。最後にヴォクラー様と会ったのはいつだ?
───こちらで嵐が吹き荒れ始める頃ね───
ヴォクラー様は俺に何か言っていなかったか?
───ヴォクラー様からの言伝があるわ───
何故それを早く言わない?
───ヴォクラー様からの指示よ───
それなら仕方ない。で、なんと言っていたのだ?
───ヴォクラー様に指輪を貰ったかしら?───
貰った。今は右手の親指につけてる。
───そう。それに少しだけ魔力を通すと後は自動で魔力を吸い取ってくれるわ。まあ、動けなくなるから砦に着いてから通してみるといいわ───
それだけ?
───それだけよ。大切な事は直接伝えるって言ってたわ───
そうか。他は何かないか?
───何かって何よ?───
面白い話題だ。
───そうね…無いわ───
では、おぬしの近衛騎士を呼んでくれ。
───ヨルクね。ちょっと待ってちょうだい───
キアラがどこかに行った。姿は見えないが離れていったような気がする。
しばらくするとヨルクが近づいてきた。俺の異空間だからか何故か場所が分かる。実際には異空間の中であればどこにいても念話ができるが。
───お待たせ致しました。ヨルクであります───
ああ。早速だが質問だ。おぬしは騎士だと言うが武器は何を使う?
───剣です。一メルタ程の長剣です───
なるほど。普通の剣か?
───魔剣です───
魔剣とはなんだ?
───戦闘特価の魔導具です。魔弓や魔槍など他にもございます───
なるほどな。で、誰が打った剣なのだ?
───我…いや拙者の師匠が打った剣です───
我って言った?
───いえ…───
キアラといる時はどうか知らぬが俺といる時は楽にして良い。
───はは───
で、その師匠はなんの師匠だ?
───我の全ての師匠です───
全て?
───はい。我は元々孤児でしてそれを拾っていただいたのです。それより数百年その方に師事致しました。その後、キアラ様に仕え始めたのです───
なるほどな。その師匠は今どこに?
───二百年前に死んだ、と人づてに聞きました。師匠が仕えていた方を庇って死んだと聞きました───
それは悪い事を聞いたな。
───いえ。師匠も言っておりました。『死ねば任務失敗だ』と。そして『強者は必ず任務を成功させる。任務失敗は弱者ゆえ』とも言っておりました───
余程の猛者であったのだろうな。
───我もそう思います。一度も勝てませんでしたから───
ヨルクの腕を知らぬがキアラの近衛騎士を務めるくらいだから強いはずなのに一度も勝てぬとは。その『師匠』とは一度戦ってみたかったな。
───我でよろしければ御相手致しましょう───
本当か?では昼休憩の時に召喚するから一度手合せ願おう。
───ええ。楽しみにしております───
では、また今度その師匠の事を詳しく聞かせてくれ。
───ええ。喜んで───
では、近衛魔術師を呼んでくれ。
───セリムです。すぐに呼びましょう───
ヨルクがどこかに行った。異空間にいるので実際の距離は変わらないが心の距離みたいなイメージだ。
セリムが近づいてきた。心の距離のイメージだが。
───お待たせ致しました。セリムです───
ああ。突然だが質問だ。セリムは魔術以外の魔法は使えるのか?
───使えます。補足をしておきますと我々悪魔は魔法の事を魔術と呼ぶのです───
なるほど。獣天使族では無属性魔法の事を魔術と呼ぶらしいぞ。ところでセリムは魔法以外は出来ないのか?
───剣術もある程度はできます。キアラ様より『近衛』の称号を賜った者は他の部門の事も一流以上にできるのです───
その近衛の称号を持つ者は全部で何人いる?
───私を含めて七人です。ちなみにレンカ殿も近衛侍女なのです。他の四名とは面識がございません───
レンカが近衛?初耳だ。
───それもそうでしょう。ただの侍女と近衛侍女とでは敵が用意する戦力も変わってきますので信用のおける者にしか教えてはならないのです───
なるほどな。で、他の部門とはなんだ?
───騎士、魔術師、侍女、神官、調理師、将軍、執事。この七つがございます───
なるほど。ある程度とはどれくらいだ?
───そうですね…この世界の小国でその部門に特化した者くらいです───
例を出してくれ。
───ヴェンダース王国のモーゼス将軍を覚えていますか?───
覚えている。
───騎士部門では剣技などを求められるのですが彼レベルの者が十人束になっても勝てない程ですな───
結構強いな。他の部門は?
───気になる部門はございますか?───
神官だ。悪魔が神を信仰するのか?
───信仰というよりは仕えると言った方が正しいでしょうな───
なるほど。セリムはどの神に仕えているのだ?
───もちろんヴォクラー様です───
そうだろうな。で、神官とは何をするのだ?
───我々悪魔は少々特殊でして一般の悪魔が神に近づくと消滅してしまうのです。ですが数百年に及ぶ厳しい修行に耐え抜くと消滅しなくなるのです。その者には天魔総長より悪魔神官の称号を賜るのです。キアラ様の近衛は皆、悪魔神官の称号を持っています───
なるほど。では近衛神官はどうなんだ?他者よりも優れているから近衛の称号を持っているのだろう?
───通常、悪魔神官でも神に触れると消滅してしまうのです。近衛神官は神に触れても消滅しません───
なるほどな。ではセリムとレンカが二人で連携したらヨルクに勝てるのか?もちろん剣のみの勝負だ。
───勝てませんね───
つまりモーゼスが二十人いてもヨルクには勝てないのか。
───単純計算ではそうなりますね───
実際はどうなんだ?
───モーゼス将軍程度の腕前ならかすり傷すら付けれないでしょう。それほど特化しているのです───
だが騎士なら騎乗するのだろう?
───ええ。悪魔のみが使える『死霊術』で骸骨馬を創り出し騎乗するのです。ヨルクの骸骨馬は肉体を得て既に生死とは関係が無い領域まで進化しております───
その骸骨馬に戦わせたら一番強いのではないか?
───ことはそう簡単ではございません。ある程度の攻撃を受ければいくらヨルクの骸骨馬でも消滅します。それにヨルクの骸骨馬には攻撃力がほとんどありませんので戦えません───
なるほど。
───ジル様、外に目を向けてください。そろそろ昼休憩になりそうです───
そうだな。後で喚ぶからちょっと待っていろ。
───お待ちしております───
セリムが遠ざかっていく。もちろん心の距離だが。
「ジル様、ラポーニヤ長老院のメンバーの報告をさせてください」
フーレスティエが近づいてきてそう言った。
「ではそろそろ昼休憩にしよう」
俺がそう指示すると犬人隊や猫人隊が準備を始めた。
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