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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第407話

 アーウィン大将との決闘から数日が経ち、俺達はエイシカ砦を発った。

 ヒュドール台地の陣地に戻ると、帝都への帰還の準備を始めた。既に示威が必要なくなったからである。


 俺は訓練場を解体する前に、全ての魔導教官候補生の魔法と知識を、簡単にではあるが確認した。

 威力だけでいえばムサ・ジェゴフ、魔法の複雑さでいえばイザベル・フォンタン、知識量でいえばアニエス嬢など、当然であるが、分野によって得手不得手がある。ただ、あくまで教官を育てているので、最も優秀なのはアニエス嬢といえよう。


 陣地に戻って翌日、将兵が片付けている間、俺達はシヴァコフ五千騎長から留守の間の報告を受けた。今日は三月二十七日であるから、十日間強の報告である。


 シヴァコフ五千騎長によれば、一昨日、クィーズス王の一行がここを通過したそうだ。イライアス二世は昼食会にのみ参加し、すぐに旅立ったそうで、半日も滞在しなかったそうである。

 クィーズス王には王族だけでも、エヴァンジェリン妃、アッティカス王子、ヴェロニク王女、王弟デューハースト侯爵ハーヴェイ王子、フェッター侯爵とパムファイネッテ王女、ライトゥング子爵とその妻シャローム王女、その長男ダグラス王子が同行している。

 その他、高位の文官であったり、侍従であったり、護衛であったりで、事前の通達通り二千名程度であったそうだ。これに加え、使節団長ファーブル公爵の要請により、ツォンガ隊とロビック隊の歩兵二千名を護衛として同行させたそうだ。身内が言うべきではないが、監視も兼ねているのだろう。


 昼食後、片付けていた将兵から、明日には出発できると報告があった。俺達は解散し、それぞれの部隊に戻った。


 翌朝。ジュスト殿の第一陣を見送り、俺も最終的な確認を始めた。

 往路と同じく、ジュスト殿が先頭の第一陣、俺が第二陣、シヴァコフ五千騎長が第三陣を率いるのだ。だが、編成は往路と異なり、第一陣に騎兵の大半を集め、第二陣と第三陣は士官と一部を除けば歩兵のみである。俺が預かる第二陣は、魔法関係の者や物資輸送とその護衛など、足の遅い部隊である。

 この編成の理由はいくつかあるが、最も大きいものは、大半の将兵は急ぐ必要も、警戒する必要もないからである。急ぐ必要がある者は第一陣に属し、先に帰るのだ。必要最低限の物資を、替え馬として用意してあった馬に載せ、無理のない範囲の全速で駆け抜け、帝都に行った。


 俺は第一陣の最後尾を見送り、少しばかりの訓示をしてから出発を命じた。また二十日間の旅路である。

 俺はヌーヴェルに乗って行きたかったが、今回の演習の報告書を纏めねばならぬので、リンと共に馬車に乗って行く。


 十五日後、四月十三日、俺達は何事もなく帝都に到着した。三か月ぶりの帰還とあって、将兵が無意識のうちに早足になり、予定より早く到着した。

 俺は部隊をシヴァコフ五千騎長達に任せ、参内した。さすがに、旅装のまま謁見では無礼であろうから、客将室に寄って身なりを整えた。その間に待機していたオンドラークが謁見の申し込みに行った。


 オンドルフが正装を用意してくれていたので、すぐに準備を整え、アキ、エヴラール、リン、ダレラック、アニエス嬢を連れ、会議室に来た。どうやら、クィーズス王との会談の最中であったようだが、陛下のご要望で、俺も参加することになったそうだ。


「失礼いたします、皇帝陛下。ヴィルジール・デシャン・トラヴィス・エクエス・フォン・モレンク=ロード客将軍、演習部隊を率い、先ほど帰還いたしました事をご報告申し上げます」


 俺はそう言いながらエジット陛下に近づき、跪いた。どれがクィーズス王か分らぬが、出席していることは確かであるから、それらしい振る舞いをせねばならぬ。


「うむ。予の代理見届け人たるコティヤール総帥から聞いたが、ロード公から直接聞こう。予の代理として戦った決闘、それによる益を報告せよ」


「は。ノヴァーク国王の代理戦士であったフェリックス・アーウィン左軍大将に勝利し、ノヴァーク・テイルスト両王国の平和的合邦を、ノヴァーク国王代理見届け人スーザン・フレイザー央軍副将、テイルスト国王代理見届け人エドワード・エヴァンス侍従武官に確約いただきました。両国王には、帝都への出頭を要請いたしました」


「よくやってくれた。ロード公、簡易の儀式だが、今すぐに報いよう。カサール」


「こちらを」


 陛下が言うと、侍従長は恭しく紙を差し出した。

 ちなみに、ルイゾン・フォン・カサール侍従長は当主ではないので、家名は実家に下賜されたものを名乗っている。ジュスト殿との雑談の中で知ったことであるが、侍従長はカサール伯爵の弟で、当主の長男がある程度育った現在、爵位を継ぐ可能性は低く、それゆえに家政を気にせず侍従長の職に専念しているそうで、心配になるほどだそうだ。


「ヴィルジール・デシャン・トラヴィス・エクエス・フォン・モレンク=ロード公爵を、新たにプリュンダラー伯爵に叙する。これは、ノヴァーク・テイルストとの合邦に際し、全面戦争を回避し、数多くの将兵の命を救った功績に基づくものである」


「は。誠に有難く存じます、皇帝陛下。以後も変わらぬ忠誠を、サヌスト帝室であられるドーヴェルニュ家に捧ぐ事を誓います」


「うむ。これからは、ヴィルジール・デシャン・トラヴィス・プリュンダラー・エクエス・フォン・モレンク=ロードと名乗りたまえ」


「はは」


 ありがたいことではあるのだが、また中間名(ミドル・ネーム)が増えてしまった。それも『プリュンダラー』という長い名だ。初対面では全名を覚えてもらえぬだろう。まあ逆に『長い名前の人』として覚えられるかもしれぬな

 それにしても、せいぜい子爵と思っていたが、伯爵に叙されるとは、意外と国庫に余裕があるのかもしれぬな。いや、複数の爵位を有する場合、最も高位のもの以外は俸禄が半額になるため、新たに子爵家を創設するよりも安上がりではあるか。


「はっはっは。良き瞬間に立ち会えたこと、ヴォクラー神に感謝せねばなりませんな、皇帝陛下」


「予は神への感謝を絶やしたことはない。ロード公、紹介しよう。クィーズス=ケーニヒ大公だ。昨日までは、クィーズス王を名乗っていた」


「イライアス・フォン・クィーズス=ケーニヒ大公だ。よろしく願おう、モレンク血閥総帥どの」


 エジット陛下に紹介され、俺に握手を求めたのは、ジェローム卿と同年代と思しき長身の男であった。


「こちらこそ、よろしくお願いします、クィーズス血閥総帥閣下」


「若いのに、公爵とは恐れ入った。俺が貴公くらいのときは遊び惚けていたんだがな」


「身分が違いますゆえ、何とも言えますまい」


「仲を深めるのはいいことだが、まず先ほどの続きをしよう。ロード公、詳細は後で報告してもらうとして、公も参加せよ。無論、副客将軍と副官、秘書官もだ。席の用意を」


 エジット陛下がクィーズス=ケーニヒ大公との会話を遮り、俺達の席を用意させた。

 俺はジュスト殿の隣に座り、アキ達は俺の後ろに座った。俺の前には、いつか肖像画で見たエヴァンジェリン妃が座っており、俺を少し睨みつけた。やはり思った通り、俺は苦手そうだな。


「さて、ロード公のためにも、先程までの話を」


 陛下がそう言うと、ヴァーノン卿が先程までの話を説明してくれた。


 まず、クィーズス王国は完全に消滅することとなり、その地域は旧クィーズス王国領と称されることとなった。旧クィーズス王国領は、全域をサヌスト帝室が接収し、改めて諸侯に下賜される事となる。その際、何割かは帝室直轄領として運用される。

 クィーズス貴族に関しては、基本的に爵位と家名はそのままに、中間名ミドル・ネームに『フォン』を加えたものを名乗るよう通達される。ただし、これは調査中であるから何とも言えぬが、サヌスト貴族と同じ家名のクィーズス貴族がいた場合、サヌスト貴族が優先され、そのクィーズス貴族には新しく家名が下賜される。

 クィーズス王国正規軍に関して、その名をサヌスト帝国軍と変えた上、当面はクィーズス=ケーニヒ大公の指揮下に置かれる事となった。軍法などに関しては、クィーズス王国軍のものを用いる。

 法律に関しては、当面は旧クィーズス王国領内に限り、旧クィーズス王国の法を用いる。ただし、サヌスト帝室たるドーヴェルニュ家を主家と認め、それに反さぬ限り、であるが。


 その後続いた話では、クィーズス血閥の誰かをエジット陛下の側室に献上する案であったり、人質としてエヴァンジェリン夫人と次男アッティカスを置いていく案であったり、クィーズス側に得のない案ばかりが、クィーズス=ケーニヒ大公から出たが、大公の近臣が嫌そうな顔をしたり、エジット陛下が断ったりで、特に何も決まらなかった。

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