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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第403話

 ローゼン五千騎長が帝都への急使として発って数日が経ち、二月二十七日、クィーズスへの使節団長ファーブル公爵からの早馬が到着した。今度は深夜ではなく早朝であり、天眼で見ていた俺が初めに気づき、会議用幕舎に招いた。

 早馬であるノアイユ五十騎長は、ファーブル公爵の指示で休憩を挟みながら来たそうで、休憩を取らず、諸将が来るまで非公式の簡単な報告を受けた。それによれば、想定よりも簡単な交渉で、逆に困惑するほどであったようだ。


 ジュスト殿と二人の五千騎長、ローゼン五千騎長の代理のアロー千騎長が来ると、ノアイユ五十騎長は報告を始めた。


「クィーズス国王陛下からの親書でございます」


 ノアイユ五十騎長はそう言って新書を机の上に開いた。

 それによれば、クィーズスはほぼ無条件で併呑を受け入れるそうだ。数少ない条件であるが、クィーズス王家とその民の迫害の禁止、クィーズス王家の国政への恒久的な関与、農民の地位向上、ノヴァーク王家との和解の仲介などであった。これらは一部を除いてエジット陛下が為すべき事として定めた事であるから、使節団の交渉は大成功と言って良い。

 ファーブル公爵による分析では、クィーズス国王イライアス二世とエヴァンジェリン妃はかなり信心深いそうで、毎月かなりの額を教会に寄付しているそうだ。そのような二人であるから、一晩悩んだだけで承諾したそうだ。国家の進退を決めるには短すぎる時間である。


「これは正式な言葉ではありませんが、イライアス二世陛下とエヴァンジェリン妃殿下は、使節団の帰還に同行し、皇帝陛下との会見を望んでおられるそうです。それを以て、主従契約の儀とし、併呑を名目共に完了なさるおつもりでいらっしゃいます」


「分かった。それは口伝に限定されたものか?」


「ファーブル団長閣下より、コティヤール総帥閣下に対する伝言として承りました」


「よし、他に報告は?」


「は。使節団本隊とイライアス二世陛下のご一行は、三月一日にはヴァシパラティを発つそうです。イライアス二世は、エヴァンジェリン妃の他に幾人かの王族、随行の文官、護衛の千騎など、合計二千名程度を引き連れての来訪です」


「それなら、少しでも早く帝都に伝えて、受け入れの準備をさせねばならん。アロー、ローゼンと同じだけ連れて、後を追い、皇帝陛下にお伝えしろ」


「御意。ノアイユ五十騎長にもご同行いただこう」


「承知しました」


「よし、では解散だ」


 ジュスト殿が全ての指示を出し、会議を終えた。

 アロー千騎長の後任にはメスキダ千騎長が充てられた。ちなみに、水路の敷設は順調に進んでおり、誰が指揮を執っても、余程の無能でない限り失敗せぬ段階である。おそらく三月中には完成するだろう。


 翌々日の二月二十九日。今年は閏年であるから、去年と異なり、二月二十九日がある。俺は初めての閏日を少し楽しみにしていたのだが、別に特別楽しいものではなかった。

 日暮れ前、帝都から来たと思われる伝書鳩が、俺の幕舎に留まっていた。普通は移動式の鳩舎を目指して飛ぶはずだが、休憩に立ち寄ったところをアキに捕まったのであろうか。

 俺はジュスト殿に報告し、二人で鳩が運んできた文書を読んでみた。


 内容はシュラハトール同盟への対応を記した、エジット陛下直筆の簡易の命令書であった。正式のものは今日発った使者が持っているそうだ。まあ同じ内容であるから、どちらに従っても問題なかろう。

 ノヴァーク王国に対しては、一騎討ちに応じる意思がある旨を伝え、俺を皇帝代理戦士、ジュスト殿を皇帝代理見届け人に任じ、後は俺達の判断で対応せよ、とのことであった。

 テイルスト王国に対しては、条件を飲むと伝えれば良いそうだ。テイルストの要求にあった遷都は、シャルパンティ公爵を最高責任者に定めたそうだ。テイルスト王に対する当てつけであろう。


「返答の使者を立てねばならんな。ジル卿はゆっくり休んでもらって結構だから、万全を期して挑んでくれ。絶対に負けられない戦いだ」


「承知した。ジュスト殿も我が勝利を見逃さぬよう、目を大事になされよ」


「怖いことを言ってくれるな。とりあえず俺が返答の使者を送っておくから、待機しておいてくれ。負担になるようなら、候補生も放っておいて構わん。それじゃあ」


「ああ。頼んだ。では」


 俺はジュスト殿に鳩と文書を預けたまま解散した。

 エヴラールと合流し、皇帝代理戦士に選ばれたことを伝え、装備品の手入れを命じておいた。俺の武器は異空間に了えば勝手に手入れがされるが、一騎討ちの際に武器が壊れでもしたら、手入れを怠ったゆえ、などと責められるだろう。まあ俺が負けるには、相手が魔法を使わねばならぬから、武器が壊れたところで関係はないのだが。

 リンとダレラックにも皇帝代理戦士に選ばれたことを伝え、明日以降は一切魔法を使わぬと宣言しておいた。今でも候補生に言われて、見本として魔法を使うこともあるが、それも一切なしにする。


 三月に入って五日、ローゼン五千騎長やアベカシス十騎長が返答の使者として戻ってきた。鳩が持ってきた文書にあった、正式の命令書を持った使者として、である。

 その翌日、アベカシス十騎長に二十騎ほどの護衛をつけ、ノヴァーク国王とテイルスト国王に対する返答の使者として派遣した。これら全て、俺が関与することなく進められた。楽で良いが、少々寂しいな。


 それからしばらく経ち、三月九日、早朝に伝書鳩が来た。ノヴァーク国王からの返答であり、これには俺も関係するから、俺も呼ばれた。結構な疎外感を覚えていたので、かなり嬉しい。まあそのような事は表情には出さぬが。


「ノヴァーク国王からの返答があった。一騎討ちの場所は、テイルスト国内エイシカ砦が指定された。三月十五日に行われる。ノヴァーク国王の代理戦士はフェリックス・アーウィン左軍大将、代理見届け人はスーザン・フレイザー央軍副将、テイルスト国王代理見届け人はエドワード・エヴァンス侍従武官だ。ジル卿、分かる範囲で詳細を」


「承知した。アーウィン将軍は戦象を素手で倒したとされる巨漢だ。フレイザー将軍は握力と腕力に優れた女将軍だ。エヴァンスは…知らぬ。初めて聞いた」


「勝算は?」


「大いにある」


「よし。では、あちら側の指定通り、精鋭五百騎を俺が率いてジル卿について行く。その間、シヴァコフ五千騎長を俺の代理とし、ローゼン、グラシエット両五千騎長はその補佐を。その方向で詰めよう」


 ジュスト殿はそう言い、詳細を詰め始めた。


 俺と共にエイシカ砦に行くのは、ジュスト殿、アキ、エヴラール、ナスターシャ、ジュスト殿の副官など五名、護衛隊である。

 俺を守る護衛隊であるが、ジュスト殿の腹心である百騎長の隊を一個、五十騎長の隊が七個、十騎長の隊が四個で編成された。俺を除いて五百名まで、という条件であったので、隊の数はきりが悪いが、ノヴァーク軍が約束を反故にした場合に備え、独立して動ける屈強な精鋭五百騎である。


 シヴァコフ五千騎長には、ジュスト殿が持つ全権が与えられ、もしもクィーズス王が来た場合の対応なども任せられた。まあ対応といっても、おそらく通過するだけであろうから、大した権限はいらぬだろうが。

 俺はダレラックに魔法教育に関する全権を委任し、他はシヴァコフ五千騎長に従うよう命じる。


 その他、必要な命令は全て終わらせ、明日からはシヴァコフ五千騎長の指揮で動くことになる。

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