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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第401話

 翌日。俺は候補生を連れ、訓練場に来た。

 実践的な魔導教本を馬車に積み込み、昼はこちらに運ぶよう命じたので、休憩所の隣に停め、簡易の図書館とした。これを曵く馬は全て一角獣(ユニコーン)を使っているので、魔法に驚いて暴走することもない。


「各自、まずは簡単な魔法を使ってみよ。的は用意したが、気にするでないぞ。最初は手元で完結する規模で良い。おぬしらは魔導教官候補生であって、魔法使い候補生ではないのだ。理論のみを習得し、それが間違っておらぬ証明に最低限の魔法が使えれば良い。そのつもりで臨め。では始めよ」


 俺はそう言い、休憩所に戻った。すると、ダレラック達が出て、それぞれ距離をとって魔法を教え始めた。

 やはり、学問として学ぶよりも、実践的な技術として学ぶ方が楽しみが大きいようで、心做しか普段より候補生の目が輝いている。


 しばらく見守っていると、比較的優秀ではない者が集まってきた。最初は質問を受けていたが、途中から雑談が始まってしまった。魔法に関するものであったから、何かの参考になればと俺も応じていたのだが、俺の魔法を見せてほしいとせがむようになった。

 俺は昼食後に披露してやると伝え、とりあえずはあしらった。単に怠けているだけであるように見え始めたのだ。


「アキ、何の魔法を使えば良いと思う?」


「火魔法を使え。その前にワタシが雷魔法で度肝を抜いてやる」


「そうか。では的を強化しておこう。初心者の魔法しか想定しておらぬゆえ、俺達の魔法を受けては破片が散って危なかろう」


「おい、ワタシが壊せないくらい頑丈にしたらダメだぞ。威厳がなくなる」


「では的をいくつか縦に並べて、それを貫こう。それならば文句はあるまい?」


「最初から文句じゃない」


「そうか」


 その後、アキと相談しているうちに、俺の背後で昼食の銅鑼が鳴った。ちなみに、この銅鑼はリンが時を知らせる何かがないか、アキに相談し、アキがどこからともなく持って来たものである。今日から使い始めたので、教官や候補生が驚いていたし、俺も驚いた。


「リン、鳴らす時は鳴らすと言わねば、俺でなければ耳が壊れているところであったぞ。俺から離れた場所で鳴らすならまだしも、ここで鳴らしては驚くではないか。危うく反撃するところであったぞ。おぬし自身の身を守るためにも、俺が驚きそうなことは、事前に知らせてから行動せよ。これは今回に限ったことではなく、常に心掛けよ。さもなくば俺の反撃で死ぬぞ。怪我は治せるが、死は覆らぬ。俺が助けた生命であることを忘れるでないぞ。良いな?」


「申し訳ありませんでした。ちょっと調子に乗っちゃいました。次からは気を付けます」


「客将様、びっくりしたからって、責めすぎだ。それはそうとして、リン、顔を貸せ」


「はい…?」


 アキは俺を咎めたが、アキ自身はそう言ってリンの胸倉を掴み、頬を叩いた。気持ちの良い音が鳴ったが、さすがに度が過ぎているのではなかろうか。まあこれに懲りて、リンが繰り返さぬのであれば良いが。


「ちょっと着替えて来る。先に食べてろ…言っておくが、ただの気分転換だからな」


 アキはそう言い、メトポーロンを呼んで本陣に戻っていった。

 気のせいかもしれぬが、アキが座っていた椅子が濡れていたので、誰にも気づかれぬよう創造魔法で創り変えておいた。失禁したなどと言う誤報が広まっては可哀想である。妻が気分転換の着替えと言うなら、俺は信じるだけである。


「リン、必要であれば回復魔法を使うが?」


「いえ、アキさんのおかげで目が覚めました。ロード様にお仕えする身でありながら、本当に申し訳ありませんでした。次はないようにします」


「ああ。ところで、リンらしからぬ事であったが、あれが本性か?」


「いえ、無性に悪戯がしたくなる時が、本当にたまにあります。毎回、やった後で凄く悔いているのですが、つい…」


「そうか。まあ反省したのであれば、俺は何も言わぬ。それより、昼食であろう? 皆も昼食を食べよ」


 俺は野次馬のように集まった候補生を一瞥してそう言った。さすがに、少しの悪戯で公開説教をしては、可哀想であるし、そのような見せしめは好まぬ。それに、アキからかなりの制裁を受けた上、本人も反省しているようであるから、無駄に騒ぎ立てる必要もない。


 本陣から運ばれてきた昼食を、皇宮の侍従が中心になって配り、皆が食べ始めた。

 気まずくならぬよう気遣ったのか、アニエス嬢が質問をしたのでそれを受け、皆に対して軽く講義をしながら昼食をとった。


 昼食後、アキが戻ってきたので、的を強く作り変えた。


「では先のに応え、俺とアキが高威力の魔法を放つ。参考にはならぬと思うが、とりあえず見よ。的は上級者用に、鋼鉄と同程度の耐久度にした」


「まずはワタシから撃とう。ワタシが作った魔法だから、覚えたければワタシに聞け。じゃあやるぞ」


『黒雷』


 アキがそう言い、右掌を前に翳すと、そこから黒雷が放たれた。黒雷は、最初の的を貫き、二番目の的を砕き、三番目の的に大穴を穿って消滅した。

 この魔法は、以前ジュスティーヌの協力を受けてアキが開発した『必中黒雷』を改良したもので、威力をそのままに、追尾機能を外して魔力消費を抑え、消音化を図ったものである。そのため、命中には伎倆がいるが、数を多く撃てる。


「見事だ、アキ」


 俺はそう言いながら、拍手を扇動した。アキに付き合って、何度か的になったが、あれほどの威力はなかったように思える。見栄のために多く魔力を込めたとしても、その分だけ制御が難しくなるので、どちらにしてもアキの実力である。


「次は客将様だぞ」


「ああ。おぬしの後であると、期待外れと思われるかもしれぬな」


 俺はそう言いながらアキと交代し、壊れた的を直した。


「では、アキの希望に従い、火魔法を撃とう」


 俺はそう言って、火の玉を生成し、的に向けて放った。

 蒼い輝きを放つそれは、投石程度の速度で的に進み、的に触れるより早く、その熱で的を融解させ、威力が衰えぬまま最後の的に進んだ。それゆえ、安全のために最後の的を溶かした後に、爆発させた。

 その熱波は百メルタほど離れている俺達まで届き、周囲が真夏の如く暑くなった。


「熱い!」


 候補生や教官など観衆が呆けている中、アキがそう叫んだので、俺は風魔法と水魔法を用いて周囲の温度を元に戻した。少々力んでしまったようである。


「すまぬな。リンにつられて少々調子に乗った」


「リン、よくやった! お前のおかげで、客将様の本気の片鱗が見えた。さっきのビンタは謝る。ワタシを殴れ。グーでもいいぞ」


 アキは俺の意を察したようで、先程の謝罪をした。リンも少し嬉しそうな顔をして、手を握ったり開いたりしている。リンが本気で殴ったところで、アキには効かぬだろうが、念のため回復魔法の用意をしておこう。


「いきますよ…えいっ!」


 リンはそう言い、拳を振り上げ、アキの足を蹴った。アキは殴られると思っていたのか、それとも当たり所が悪かったのか、膝から崩れ落ちた。アキはそれに怒るでもなく、リンが差し出した手を掴んで立ち上がった。


「リン、よくやった。それでこそ、ワタシの弟子だ」


「弟子じゃないですよ」


「どっちでもいいが、殴ると思わせてから蹴るのは、素人相手なら結構効くぞ。本格的に鍛えてやろう」


「鍛えてもらわなくて結構ですよ。ロード様の庇護下に入ってから、アキさん以外に攻撃されたことはありませんから。私を傷つけるということは、ロード様の敵になるということですからね」


「言っておくが、旦那様はお前よりワタシの方を大事にしてる。それを分かっておけ」


「もちろん、分かってますよ」


「それならいい」


 二人は完全に仲直りをしてようで、いつものように軽口をたたいている。まあ仲違いをしていたわけではないから、仲直りとは言わぬかもしれぬが。


「俺は少々加減を間違えたが、これが俺とアキの魔法だ。目指せとは言わぬが、原理は理解せよ。では、訓練を再開せよ」


 俺はそう言って場をダレラックに任せ、アキとリンを連れて休憩所に戻った。

 俺とアキの魔法を見て、火魔法や雷魔法に興味を持った者がいるようで、火魔法教官と雷魔法教官の周りに人が集まり始めた。意外と単純だな。

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