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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第399話

 翌日。俺達は会議用幕舎に集まり、昨日のうちに決まらなかった事を決める事になった。


 まず、ヒュドール台地の内部にある水源については、帝都に早馬を出し、調査団の編成と派遣を頼むことにした。

 調査団の到着までは、近隣の農村から井戸掘りを主導した経験のある者を幾人か雇い、その意見次第では井戸を掘る事になった。

 また、井戸を掘らぬ場合や、掘ると決めても井戸が完成するまでの間は、従来通り水は補給によって賄う。演習が長期にわたる場合、つまりは併呑の交渉が長引く場合は、台地の麓まで水路を引くそうだ。手隙の将兵を動員し、地盤強化後に作業を開始させるそうだ。


 次に、その地盤強化であるが、台地の中心を基点に半径五十メルタルの範囲を、城砦の建築が可能な程度に強化する。ここは国境が近く、都市や農村も少ないため、多少地面が固くなっても迷惑がない範囲だそうだ。

 これに伴う地震の範囲であるが、地盤強化の範囲に加え、台地を起点に半径が二百メルタルの直角の扇型を西に広げた範囲も揺らす。地震の時間であるが、明日の朝食後、俺が昼食を食べ始めるまで、ということに決まった。

 地震についてはラヴィニアに任せ、俺は地盤強化に専念する。誤って台地の土の層を破れば、おそらく魔法が解けて、水があふれ、台地が崩れるだろう。そうなれば、俺達は無論のこと、幾千の民も巻き込まれる。この事は誰にも言わぬが、であるからこそ、俺がなさねばならぬ。


 昼食後、俺は仮説図書館に来た。明日の地盤強化まで、魔導教官候補生には座学を命じてある。俺の私臣である魔導教官を、得意分野ごとに配置し、質問があれば納得するまで教えるよう命じたので、それなりに成長している事であろう。


「ダレラック、候補生はどうだ?」


「は。個人差はありますが、それなりに優秀です。コティヤール伯爵閣下が選別なされたのでしょう」


「かもしれぬな。文字を読めぬ者がおらぬゆえ、ある程度の選別か、あるいは事前に識字教育でも施したのかもしれぬ」


「一ヶ月で識字教育が終わるとは思えませんので、前者でしょう」


「ああ。話は変わるが、明日の地盤強化は聞いたな?」


「ええ。この周辺の地下には強大な水源があり、そのせいで地盤が緩い可能性が高いと。そして、他国軍の観測を前提とした本作戦で、地盤沈下による損害は恥となるため、コティヤール伯爵閣下がジル様に地盤強化をご依頼なさったと」


「いや、地盤強化の依頼が先だ。その事前調査で水源を発見したのだ」


「左様ですか。どこかで話がおかしくなったのでしょうな。申し訳ありません」


 ダレラック自身は悪くなかろうに、なぜか謝罪された。自らの責任の範囲を実際より大きく見積もっているのかもしれぬな。部下からしてみれば、良い上官であろう。


「いや、良い。その地盤強化の際に、土魔法使いを補助に欲しい。俺の見立てでは、少しでも魔力操作を誤れば、我が軍は濁流に飲み込まれるだろう。そうなれば、地盤沈下以上の恥だ」


「承知しました」


「まあ補助とは言うが、保険の監視役と思ってもらえればよい。俺も失敗するつもりはないのだ」


「心得ております」


「それから、候補生のうち希望者には、解説付きで見学できるようにしてやれ」


「はは」


 俺はそう言ってダレラックと別れ、ナスターシャというエルフに魔法を教わるアニエス嬢に近づいた。

 ナスターシャは、フーレスティエの妹の娘で、アルテミシアの従妹である、火魔法使いだ。元々は父母が駆け落ちた先で生まれたそうだが、父母が何らかの理由で死んだ後、フーレスティエを頼って、去年末に我が領を訪ねたそうだ。俺も、今回の演習に際して魔法使いを集めるよう命じたときに初めて知った。


「ダヌマルク、多少は使えるようになったか?」


「はい、多少は役に立てるかと思います」


「そうか。明後日には実習を開始できるようにしておくから、それまでは座学で我慢せよ」


「いえ、我慢だなんてとんでもない。基礎知識がなければ、何を学んでも身につきませんし、私自身、結構楽しませてもらってますよ」


「そうか。ならば良い」


 俺はそう言い、二人と別れて座学用の幕舎に入った。この幕舎は、他の幕舎で保管されている書物を持ち込んで、座学をするための幕舎であるが、薄暗い幕舎内より、明るい外に出て学ぶ者ばかりであるから、空席ばかりである。

 ちなみに、魔導教官候補生のための場所は多くとられており、勉学用幕舎群や生活用幕舎群、実習用に台地の頂上部分すべてが、候補生五十余名のために空けられている。


 俺は幕舎内にいたアキとリンの近くに座った。二人は暇そうに愚痴を言い合っていたので、忙しいというわけではなかろう。


「客将様、もう終わったのか?」


「ああ。明日の地盤強化の範囲だ。念のため、共有しておこう」


 俺はそう言い、ジュスト殿と決めた地盤強化の範囲に印をつけた地図を机の上に広げた。ジュスト殿と互いに確認しながら印をつけたので、間違っていることはない。


「半日は地震が続くゆえ、二人とも今日はゆっくり休んでおくと良い」


「おい、ワタシ以外の女に、ワタシの目の前で親切な事を言うな、ばか」


「別にいいじゃないですか。もしかしたら、アキさんに愛想をつかして、私に乗り換える準備かもしれませんよ。こんな厳しい妻は嫌だって」


「そんなはずはない。旦那様は愛妻家という生き物だから、妻になったら何より大事にしてくれる。そして、こっちの話の方が大事だが、旦那様は好きでもない女と結婚しない。だから、リンに乗り換える可能性はない。な?」


「アキ、それは違うぞ。大事にすべきと思ったひとであるからこそ、結婚したのだ。妻だから大事なのではない、大事だから妻なのだ」


「ワタシもそう言ってるだろ」


「…そうか」


 アキの言った事とは順序が逆である気もするが、アキの中では同じ事を言った事になっているようだ。おそらく、ヤマトワ語からの誤訳であろう。最近は誤訳がなかったので少し混乱した。


「アキさん、みんなも勉強していますし、私がサヌスト語を教えてあげますよ」


「馬鹿にするな。リン、私と旦那様の会話に口をはさむな。黙って見てろ。見世物じゃないがな。存在感を消せ。ワタシと旦那様の愛の深さを知れ。二度と馬鹿なことを言うな」


「ロード様、どう思いますか、これ」


「アキよ、そもそもの誤解であるが、俺はリンを気遣って親切を言ったわけではない。ここに他の者がいれば、その者に対しても同じことを言う。だが、アキがおらねば、私用は言わぬ。そういうことだ」


「よし、決めた。今日は訓示も夕食会も無しにして、ワタシと二人でゆっくりしよう。それならワタシも納得する」


「そうしよう。リン、エヴラールとダレラックには、明日の準備に忙しいと伝えておいてくれ。分かっているとは思うが、手伝いに来ると言っても止めよ」


「リン、ワタシは気分がいい。その礼に秘蔵の果実酒をやろう。ワタシの幕舎に入って右にある棚に隠してある。一本だけやろう」


「いいんですか!? ありがたく頂戴します。今日はハイソな気分で休めそうです。それじゃっ」


 リンはそう言って嬉しそうに幕舎を出て、アキの幕舎がある方に軽く跳ねながら行った。アキがリンに物を贈るとは、かなり珍しいな。そもそも、果実酒などという可愛らしい酒を秘蔵しているとは思わなかった。というより、酒には拘らぬと思っていた。


「旦那様、ハイソな気分って何だ?」


「知らぬ。だが、これだけは分かった。リンをサヌスト語の教師にしてはならぬ、と」


「ワタシの子も、言葉を完璧に覚えるまで、リンに近づけない方がいいか?」


「ああ。俺とアキの子は、俺とアキと、俺達が認めた者だけで育てる」


「そうだな。そうしよう。ワタシ達の子が大人になるまで、リンには会わせないということでいいな?」


「ああ。変な言葉を覚えられては困る」


「じゃあそういうことで決まりだ。ワタシ達も行くぞ」


 アキはそう言い、俺の服を引いて幕舎を出た。

 行軍中は将兵の目があったので、それぞれの幕舎で休んでいたが、今は築陣が終わって全将兵に幕舎が与えられているので、灯りさえ消せば、聞き耳を立てられぬ限り、中で何をしているか分からぬし、それは防音の結界で解決するので良い。

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