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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第394話

 翌日。ジュスト殿に他のことを任せ、計画立案書の作成に全力を注いだため、一晩で内容を考えられた。まあジュスト殿と相談した事を、簡単に纏め、箇条書きにしただけであるが。

 朝食のため、食堂に向かうと、食堂からリンが出てきた。ちょうど良いところにいてくれたものだな。


「リン、朝食は終えたか?」


「はい、頂きましたよ」


「では出発までは暇か?」


「暇…と言えば暇ですけど、心の準備をしなきゃいけません」


「そうか。では少し頼まれて欲しいのだが、昨日あった計画立案書を書いてくれぬか」


「私の話、聞いてました?」


「ああ。暇なのであろう?」


「…そうですね。書きますよ、行きましょうか」


 リンは機嫌を損ねたようにそう言い、執務室の方に歩いていった。暇であると言ったからこそ頼んだのだが、侵してはならぬ暇であったのかもしれぬな。


 執務室に着くと、リンは俺が箇条書きした紙を見つけ、手に取った。


「ロード様、とりあえず二組でいいですね?」


「ああ。頼む」


「じゃあ質問しながら書きますから、なるべく早く答えてください」


「ああ」


 リンはそう言って両手に筆を持ち、計画立案書を書き始めた。俺が纏めた要点を、計画立案書の定型文に当てはめ、瞬く間に計画立案書が完成した。


「どうぞ」


「ああ。礼を言う」


「じゃあ行きましょう」


「ああ」


 リンは計画立案書を抱え、先に出て行ってしまった。どうにか機嫌を取らねば、リンが辞めて困るのは俺である。


 俺はリンが喜びそうなことを考えながらリンを追い、馬車に同乗した。俺達の乗車を確認すると、エヴラールとホジャークが乗り込んだ。

 最近は従卒の二人が御者を代わり、旧来の御者は交代要員として随伴するのみとなった。御者が交代するほどの長旅や、危険な土地には行かぬが、まあ本人達が納得しているようであるから、勝手にすれば良い。


「リン、欲しいものはないか?」


「急になんですか?」


「いや、たまには忠義に報いねばならぬと思っただけだ」


「そうですか。私は救ってくださった恩義に報いるために忠義を尽くしているので、気にしないでください。衣食住と安全を保証してくださるなら、給与もいりません」


「そんな事はせぬ。何でも良い、言ってみよ」


「…私の十分の一で構いませんから、ロード様も文字を書いてください。私の手首が折れます」


「…すまぬ」


 褒美をやって、リンの機嫌を直そうと思ったが、そう簡単ではないようだ。俺がリンの十分の一を書くには、リンの十倍の時を要するであろう。そのうえ、リンの字は女らしい字であるとはいえ、俺より綺麗な字だ。皆に迷惑をかけぬためにも、リンに頼んでいたのだ。


「総隊長、口を挟む無礼をお許しいただきたいのですが、三番隊か四番隊に依頼し、印字機を作ってもらいましょう」


「印字機とは?」


「何らかの動作によって、字を書く機械です。誰が書いても同じ字になりますし、慣れれば話すのと同じ速さで印字できます」


「そうか。ちなみに、何らかの動作とは?」


「私の故郷では二種類ありました。文字盤を押すと、それに連動して印字される非魔導印字機、思念を込めた魔力で入力する魔導印字機です。前者は仕組みが簡単ですが、インクの補充などが必要です。後者は数え切れないほどの利点と、多少の欠点があります」


「利点と欠点とは?」


「一例ですが、利点は、他の魔導情報機器との互換性、紙の補充と改行の自動化、魔力によるインクの補充などがあり、欠点は、著しい魔力の消費、使用中に両手が塞がる点、集中しないと印字できない、などなど」


「そうか。両方作ってもらおう。リン、今まで苦労をかけたな」


 ホジャークの言った印字機とやらを使えば、俺でも綺麗な文字を書けるのであろう。それに、魔導印字機とやらがあるのであれば、ラヴィニアにも任せられるかもしれぬ。


「え、解雇ですか?」


「…辞めたいのか?」


「逆です、逆。解雇されたら、私はどうすればいいんですか?」


「俺も同じだ。おぬしに辞められては、エヴラールの負担が増える」


「私の負担、ですか?」


「総隊長、字を書く練習をしましょう。設定上は二十代ですが、実際はその二十分の一以下でしょう。成長期はこれからです」


「そうか、俺はまだ成長するのか」


「…まだ一歳…?」


「ああ。あまり知られておらぬが、俺は去年の一月一日に生まれ、使徒として遣わされた」


「バンシロンさん、知ってました?」


「ええ、使徒とはそういうものと伝わりますし、ジル様ご本人からも伺っております」


「俺の二十三歳というのは、我が愛妻と相談して決めた事だ。それゆえ、俺は全ての経験が浅い」


「あ、そんなつもりじゃ…じゃなくて、むしろ一歳でそれなら、びっくりしますよ。でも…歳下だったんですね。へへ」


「ああ。俺の知る歳下は、今のところウルしかおらぬ」


「そうなんですかぁ、いいですね、へへへ」


 何やらリンは嬉しそうに頬を緩め、そう言った。なにゆえか分からぬが、とにかく機嫌が直って良かった。もしかすると、歳下であると知って、庇護欲か何かを刺激されたのかもしれぬ。


 王宮に着くと、足取りの軽いリンが先に歩いていったが、会議室の三歩ほど手前で止まり、俺が追い越して入室するまで固まっていた。心の準備とやらを怠った為であろうか。であるなら、悪い事をしたな。


 俺が着席すると、見計らったように他の参加者が入室し、最後に両陛下が入室し、御前会議が始まった。


 フェリシア陛下が、魔導教官候補生による演習をお伝えいただいたようで、最初の話題となった。ちなみに、魔導教官の候補として募った者を、魔導教官候補生と称することになった。


「ジル卿、魔導教官はどれくらいの戦力になる?」


 演習について、規模や時期、演習地など詳細を決め終えると、エジット陛下がそう言った。魔導教官の有用性を理解なされずに、大金をつぎ込もうとしていたのか。


「陛下、お言葉ではございますが、魔導教官はあくまで教官であり、魔法使いではありません。それゆえ、戦場に出すべきではないかと」


「なるほどなるほど?」


「簡単に申し上げれば、文字が読めぬ者に対し、剣術指南書を読み聞かせる者です。つまり、魔法兵の運用開始は数年先になります」


「そういう事か。じゃあ、魔法部隊の運用はジル卿に任せよう。もちろん、他の兵科も任せるが、魔法部隊はジル卿だけに任せる。ああ、皆に誤解なきよう言っておくが、魔法部隊の指揮の経験があるのがジル卿だけだからだ。いずれは分担してもらうぞ」


「陛下、皆も承知しております。嫉妬で叛意を抱く愚か者が御前会議に出席できましょうか」


 俺のみに魔法部隊を預ける言い訳をした陛下の言葉を利用し、ジェローム卿が武官を牽制した。まあジェローム卿の言う通り、嫉妬で失われる程度の忠義しか持たぬ者は、ここまで昇進できぬであろう。


「その通りだ。話を戻すが、ジル卿、魔法使いはどれくらい強い?」


「は。個人差がありますので断言はできませぬが、投石機と同程度以上の効果がある魔法を使えるまでは、魔法使い見習いとして扱うつもりですので、そのように思っていただければ、と」


「じゃあ、魔法使いは十騎長と同じ待遇にしよう。階級制も導入するんだったら、十騎長と同じ階級に。ああ、言い忘れていたが、魔導教官としてジル卿が認めるくらいになったら、王宮警備隊と後宮警備隊の教官として一人ずつ迎え入れたいのだが…」


「無論です、陛下。首席と次席を提供いたします」


「それはありがたい」


 陛下はわざわざ教官の抽出を俺に頼まれたが、元々は陛下の民であるうえ、陛下がご命令くだされば、陛下の臣たる俺が拒否するわけもない。


 その後、御前会議の最中にリンが計画立案書を仕上げてくれたようで、昼からの武官部会では陛下に提出できた。


 最終的に、魔導教官候補生が五十二名、魔導教官候補生に対する教官として提供する俺の私兵が五十名、陣地の管理に中央軍の歩兵が二千名、陣地の防衛に中央軍の騎兵が二千騎、陣地の周辺の警戒に辺境軍の騎兵が五千騎、同じく歩兵が五千名、合計一万四千名強が参加する事となった。名目は色々あるが、要は使節団を受け入れた側が脅威と感じるのであれば、何でも良いのだ。

 演習地は、王都アンドレアスより西に約四百メルタルの距離にある、デュシスズィスィ地方が選ばれた。ここは、テイルスト王都アポミナリアから東に三百メルタルほどに位置し、クィーズスもノヴァークも、むろんテイルストも我が軍の動きを把握しやすい地域である。それから、この地は王家直轄領であるので、諸侯への気遣いも無用である。

 総指揮官にはジュスト殿が選ばれた。まあ辺境軍の将兵が最も多いうえ、魔導教官候補生を集めたのはジュスト殿であるので、当然のことである。俺は次席指揮官に任じられ、主に魔導教育に関する全権を握っている。

 食糧など物資の補給は、プティジラール城に頼る事になる。まあ演習地に着くまでの分は、王都で用意せねばならぬだろうが。

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