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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第390話

 あれから御前会議を繰り返し、一月十一日となった。

 昨日は、皇帝代理の使者が来て、俺を一等帝国騎士に、アキ、ルイス卿、アズラ卿を子爵に、レリア、ファビオを男爵に、カイを二等帝国騎士に、それぞれ叙し、血閥の結成を正式に命じられた。

 今日は、昨日と同じ使者が来るはずで、俺は応接室で待っている。ちなみに、本来は叙爵者本人が対応すべきところだが、血閥総帥として俺が代理で対応する許可を貰っている。


 応接室の扉が開かれたので、立ち上がって出迎えると、やはり昨日と同じ使者が来ていた。


「皇帝陛下の代理として参りました」


「どうぞ」


 俺はそう言い、皇帝代理の使者に上座を勧め、共に着席した。

 皇帝代理の使者は、皇帝代理でしかないので、名乗ってはならぬと決められている。それゆえ、俺も名を知らぬ。

 だが、皇帝代理であるからには、格式でいえば、少なくとも俺よりは格上であるから、ある程度は気遣ってやらねばならぬ。


「皇帝陛下より、家名の下賜がございますので、お伝えに参上いたしました」


「拝聴いたそう」


「はい。血閥名には『モレンク』が下賜されます。本家である公爵家当主には『ロード公爵』の爵位名が下賜されます。ですので、モレンク血閥本家はモレンクロード公爵家となります」


「承知いたした」


 ここまでは、ヴォクラー神の決定によるものであるから、俺も知っている。というより、既に改名している。問題は俺以外の当主に下賜される爵位名である。


「次に分家の家名をお伝えします。伯爵家には『スタール伯爵』の爵位名が下賜されます。次に子爵家ですが、複数ありますので、仮として現当主のお名前を用います。アキ子爵家には『フラウ子爵』、ルイス子爵家には『エーデル子爵』、アズラ子爵家には『シュヴェスター子爵』の爵位名が、それぞれ下賜されます。次に男爵家ですが、こちらも複数ありますので、仮として現当主のお名前を用います。レリア男爵家には『ケーニギン男爵』、ファビオ男爵家には『ルーヴ男爵』の爵位名が、それぞれ下賜されます。次に一等帝国騎士家には『エクエス』の家名が下賜されます。次に二等帝国騎士家には『レール』の家名が下賜されます」


「承知いたした」


 一度に言われたので、同時に渡された命名書を確認せねば分からぬが、まあ全員分言っていたような気がするので大丈夫だろう。ちなみに、帝国騎士は爵位ではないので、下賜されるのは爵位名ではなく家名である。


 命名書は爵位一つにつき、一枚であった。現当主が名乗るべき全名と共に、難しいが中身のない言葉が色々と記されている。


 シルヴィン・クロード・フォン・モレンク=スタール伯爵。

 個人名の改名もあって推測は難いが、アシルのことである。スタール伯爵も、ヴォクラー神の決定によるものであるから、既に知っている。

 スタール伯爵家には、アシルの他、その配偶者たるナナさんが籍を置く。二人に子が産まれたら、むろんスタール伯爵家に属する。


 アキ・フラウ・フォン・モレンクロード。

 俺の配偶者であるから、爵位名であるフラウ子爵を家名として名乗らぬが、『フラウ子爵』であるアキの事だ。

 あえて子爵である事を強調して名乗る場合、『モレンク=フラウ子爵アキ・フォン・モレンクロード』と名乗る。逆に俺の配偶者である事を強調する場合、『モレンクロード公爵夫人アキ・フォン・モレンク=フラウ子爵』と名乗る。


 ルイス・フォン・モレンク=エーデル子爵。

 エーデルの意味であるが、『高貴なる者』という意味だそうで、エジット陛下も気を遣われたようである。もっとも、その意味は魔王時代に失われているので、ルイス卿には伝わらぬであろうが。


 アズラ・フォン・モレンク=シュヴェスター子爵。

 シュヴェスター子爵であるが、モレンク血閥内で最も綴字が複雑だ。少なくとも現代では使われておらぬ語で、先のエーデル子爵とあわせて、古い語で揃えてきたようである。まあアズラ卿であれば、一度見ただけで完璧に覚えるとは思うが。


 レリア・ケーニギン・フォン・モレンクロード。

 これは、無論のことであるが、我が愛妻たるレリアの全名である。

 アキと同じく、俺の配偶者であるから、爵位名ではなくモレンクロードを家名として名乗るが、ケーニギン男爵である事に変わりはない。

 男爵である事を強調する場合、『モレンク=ケーニギン男爵レリア・フォン・モレンクロード』と名乗り、俺の配偶者である事を強調する場合、『モレンクロード公爵夫人レリア・フォン・モレンク=ケーニギン男爵』と名乗る。

 全くの他人が呼びかける場合、『モレンク=ケーニギン男爵』『モレンクロード公爵夫人』のいずれかで呼ぶのが正式である。俺としては俺自身を『モレンク=ケーニギン男爵配』と呼んでもらっても構わぬ。


 ファビオ・フォン・モレンク=ルーヴ男爵。

 ファビオはこの叙爵を機に、俺の庇護下を離れるが、義兄弟の関係は変わらぬ。というより、血の盟約によって、宗教上は実兄弟と同じ権利を有するので、義兄弟と称するのは正確ではない。

 ちなみに、ユキとウルの籍は、ルーヴ男爵家にある。ユキは許嫁であるし、ウルはファビオの血縁上の弟であるから、ルーヴ男爵家に籍を置いておいた。そのため、それぞれ『ユキ・フォン・モレンクルーヴ』『ウルヒラム・フォン・モレンクルーヴ』が全名となる。


 ヴィルジール・デシャン・トラヴィス・エクエス・フォン・モレンク=ロード公爵。

 これは俺の事である。ロード公爵の爵位を有するので、エクエスは中間名(ミドル・ネーム)として名乗る。

 全くの余談ではあるが、モレンクロード公爵家に籍を置くのは、俺、レリア、アキ、ルカの四名である。もちろん、俺と、レリアやアキの子が産まれた場合は、モレンクロード公爵家に籍を置く。その子が成人したら、エクエス一等帝国騎士を譲ってやっても良い。

 ちなみに、ルカの全名であるが、『シャールカ・フォン・モレンクロード』となる。


 カイ・フォン・モレンク=レール二等帝国騎士。

 レール二等帝国騎士であるが、正式には『帝国騎士』は爵位ではないので、レール二等帝国騎士は爵位名ではなく、家名と呼ぶ。

 レール二等帝国騎士家には、トモエとヒナツが籍を置く。それぞれ『トモエ・フォン・モレンクレール』『ヒナツ・フォン・モレンクレール』が全名となる。


 以上の八名の当主、九つの爵位がモレンク血閥を構成する。血閥総帥の家を本家、それ以外を分家とし、同一家内に当主がいる場合には、分家とは呼ばぬ。それを踏まえると、モレンク血閥には、八名の当主、九つの爵位、本家、五つの分家が属する。


「それでは、私はこれで失礼いたします」


「うむ。ご苦労であった」


 俺はそう言い、皇帝代理の使者を見送った。

 皇帝代理の使者が来る場合、使者個人に対して贈り物をすべきであるが、今回は皇帝の名において禁じられている。これは、使者は同日に何軒も巡らねばならず、その度に贈り物を受け取っていては、今日中に終わらぬからである。そのため、俺は贈り物もせぬし、引き止めたりもせぬ。


 皇帝代理の使者が帰った後、リンが呼びに来て、執務室に向かった。御前会議は昨日から明日まで休みであるが、御前会議だけで全てが終わる訳ではないので、各自が動かねばならぬ。


「あの、正式に家名を名乗られるようになったので、私も家名で呼んだ方がいいですか?」


「好きにせよ」


「じゃあ好きにします、ロード様」


「ああ」


「ところで、家名参考例が届きましたよ。一巻から三巻まで発表されたので、とりあえず全部取り寄せて、執務室に置いてあります」


「そうか」


 家名参考例は、閲覧のみは無料であるが、販売も行っている。

 各地に派遣される身分登録官が、各自十冊ずつ持っており、これは誰でも無料で閲覧できる。ただし、破損した場合には破損具合にもよるが、罰金が課せられる。

 販売であるが、こちらは『材料費と人件費などを利益が出ぬ程度に回収』という名目のもと金貨十枚で、完全予約制での販売である。ちなみに、材料の紙は、いつの間にかルイス卿が献上した、我が領で生産された紙で、人員は国土拡大のために増員した文官見習いを使っているため、金貨一枚もあれば数冊が作成でき、かなり儲かる。

 家名参考例による利益は、王宮の再建に要した費用の補填などに充てられる予定である。


「それで、エヴラールさんの家名を決めてあげてください」


「…自称であろう?」


「何を名乗るか自由なだけで、誰が決めてもいいんですよ。それから、クィーズスでも家名制度を導入する時に、主君に決めてもらう家臣がいて、いつの間にか、『主君に家名を賜る事こそ臣下の誉れ』みたいに言われるようになったんですよ」


「確かに、俺も陛下に家名を賜って誉れに思う」


「だから、エヴラールさんの家名を決めてあげてください。ちょうど家名参考例もありますし」


「そうしよう」


「あ、そういえば、エヴラールさんは二等帝国騎士に叙されたそうですね。『フォン』に合う家名にしてあげてください」


「そんなものがあるのか」


「知りませんよ。クィーズスには『フォン』なんて無いんですから」


「そうか」


 エヴラールが、どうやら帝国騎士に叙されるらしいとは聞いていたが、二等か。まあ妥当であろう。

 ちなみに、リンを帝国騎士に叙する話も出たが、特に大きな成果がある訳でもない、異国の農民娘を帝国騎士に叙するなど、今まで王家に尽くした文官から不満が続出するので中止になった。具体的には、発案者はエジット陛下で、否定したのはリン本人である。まあ確かに『カイラ・リン・フォン・トゥイード』など、中途半端に韻を踏んだ、語呂の悪い名前である。


 執務室に着くと、エヴラールがアンヌと額縁の用意をしていた。皇帝代理の使者より賜った、命名書と血閥結成指示書を額縁に入れて飾るそうだ。まあ引出しの奥に了っておくよりは良いだろうが…額に入れる程であろうか。


「エヴラール、二等帝国騎士に叙されたそうだな」


「はい。ジル様の下で、微力ながらジル様をお支えいたしました事が、皇帝陛下に認められたそうです。ありがとうございます」


「いや、世話になっているのは俺の方だ。礼になるか分からぬが、家名を選んでやろう。むろん、断ってくれても構わぬが」


「いえ、有難く頂戴したくございます」


 エヴラールは嬉しそうにそう言い、作業の手を止めて俺を見た。主君に家名を賜る誉れを、事前にリンから聞いていたのであろう。そうでなければ、理解が早すぎる。

 俺は本棚にあった家名参考例の第一巻を取った。…なぜか各巻三冊ずつあったが、まあ良い。


「良いか、変と思ったなら断ってくれ。俺が変な名前を付けたと思われては困る」


 俺はそう言いながら、家名参考例を適当に開いた。そして、その中で『フォン』に合いそうなものを選ぼうとしたが、全てが合うような気もするし、全てが合わぬような気もするので、呼びやすい家名に決めた。


「『バンシロン』で、どうであろうか」


「バンシロン…ありがとうございます。エヴラール・フォン・バンシロン二等帝国騎士、より一層の忠義を、モレンクロード公爵に」


「ああ。期待している」


 エヴラールの家名を決めてやると、アンヌが作業の手を止め、物欲しそうにこちらを見ていた。アンヌは平民であるとはいえ、平民にも家名の自称が推奨されている。


「おぬしも欲しいか、アンヌ」


「よろしいのですか?」


「ああ。先も言ったが、変と思えば断れ。では…」


 俺はそう言い、適当に頁を開いた。そして、アンヌの字数分、つまり上から四つ目の家名を選んだ。俺には家名の良し悪しなど分からぬ。


「ヴァイヤンでどうだ?」


「ありがとうございます。このアンヌ・ヴァイヤン、モレンクロード公爵家に、より一層の忠義を」


 アンヌはそう言い、エヴラールの真似をした。こうなると、家臣に会う度に家名を決める必要がありそうなので、家名参考例を持ち歩かねばならぬな。それから、できるだけ家名が被らぬよう、使った家名には印をしておこう。複数冊あって良かった。

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