第38話
「俺が行く。人狼隊と人虎隊は人間の姿になり、ついてこい。全員だ」
俺は立ち上がり、上衣を着る。
「ご主人様、我々もお供致します」
「そうだな。メディとラミーヌを連れて来い」
「承知しました」
報告に来ていたロジェが走り去った。
「エルフ魔法隊とエルフ弓箭隊は非戦闘員を全力で守れ」
「は!」
「ブームソン!ヴィルトール!すぐに行けるな?」
俺は姿は見えないがどこかで聞いているであろう二人にそう問いかける。
「「いつでも行けます!」」
返事をした二人が出てきた。
「では、侍従武官が来たら行くぞ」
「ジル団長。我々もお供致します」
「クレマンか。おぬしらもここを守ってくれ」
「御意」
クレマンは人間の兵だ。
「ご主人様、お待たせ致しました」
「では、俺や侍従武官は一角獣に乗って行こう。人狼隊や人虎隊は徒歩で。それとロジェとメディは先に行って使徒が来ると伝えて来い」
「「承知しました」」
ロジェとメディが走って行った。
「俺らは堂々とゆっくり進もう」
俺を先頭にして進む。ゆっくりと。ラミーヌは俺より半馬身後ろにいる。人狼隊や人虎隊は並んでいる。
「ご主人様、念の為に武装されてはいかがですか?」
「そうしよう」
俺は鎧を喚び出し、纏う。
しばらく進んでいると前から小規模の騎馬隊が来た。
「使徒様であられますか?」
先頭を駆ける聖騎士がそう叫んだ。
俺は剣を抜き構える。
騎馬隊がある程度近づいた時俺はこう言う。
「何者だ?」
「私は聖堂騎士団長デトレフでございます」
そう名乗った男が馬から降りて跪いた。
「聖堂騎士団が何か用か?」
「巡礼者の護衛をしていると魔の山ラポーニヤ山に使徒様が突入されたとの事で助太刀に参ろうとしていたところに使徒様の使者がいらっしゃって駆けつけました」
「俺から一つ頼みがある」
「何でしょう」
「エジット殿下軍と国王軍が衝突する際、国王にこう言ってくれ『王都は聖堂騎士団が守るから国王は使える兵士を全てエジット殿下戦に使え』と。そして俺が僅かな兵を率いて向かうから城門を開けてくれ。そうすれば死ぬ兵も減り、大陸統一に使える兵も増える」
「そうしましょう。私も内乱によって兵が死ぬのは馬鹿馬鹿しいと思っておりました」
「頼んだぞ。俺の軍旗は黒だ」
「私が城壁に立ち指揮を執りますのでご安心ください」
こうして俺は聖堂騎士団を味方につけた。ちなみにこの案はエジット殿下の案だ。もし聖堂騎士団長と会うことがあればそう言うと決めていたのだ。
「ちなみにですがエジット殿下軍の兵力は如何程ですかな?」
兵力か。もし兵力が少なければ裏切られるかもしれぬ。だから多めに言っておこう。
「五十万だ。まだまだこれから増える予定だ」
「なんと!五十万!」
「ああ。それとエジット殿下はヴェンダース王国の三分の一程をその手中に収めている。ヴェンダースからも兵を集めれば七十万に届くかもしれぬ」
もちろんこれも嘘だ。勝てる見込みがないと分かればこちら側を裏切らないであろう。裏切ってもメリットがないのだから。
「七十万!なんとなんと」
「国王軍はどれ程だ?」
「三十五万程と聞いております」
「その内訳は?」
「東方守護将軍シルヴェストル卿の十万。南方守護将軍イアサント卿の十万。大将軍アクレシス卿の十万。国王親衛隊が二万。そして最後にイアサント卿が国王陛下に売りつけた奴隷兵が三万。私が仕入れた情報ではこうなっております。国王陛下はこれに満足してもう兵を集めるのを止めたようです」
「そうか。わかった。では、また決戦の日に会おう」
「ええ。お待ちしております」
デトレフは騎馬隊を連れて去って行った。
「ご主人様、七十万とは本当ですか?」
「嘘だ。せいぜい四十万だろう。これだけいれば余裕で勝てる」
「何故でしょうか?」
「天眼でデトレフの心の中を覗いたのだが嘘は言っていない。そして大将軍はこちらの味方だ。その他の二人の将軍も国境をがら空きにするわけにはいかないだろう。そして奴隷兵は呼びかければこちらに寝返るだろう」
「なぜです?」
「逆に聞くが奴隷兵のように鎖で縛られた者がなぜ鎖を持つ者に心からの忠誠を誓うだろうか?」
「そうですね。普通の奴隷と比べて奴隷兵はストレスが溜まりやすいですからね。夜は見張りをさせられたり、矢を作らさられたり、一般兵の盾にされたり、と」
「だろ?つまり国王軍はせいぜい二十万といったところだ」
俺の予想が正しければ余裕で勝てる。
「ご主人様、聖堂騎士団長デトレフ卿はなんと仰っていたのですか?」
「我々が到着してご主人様に言われた通りの事を伝えるとすぐに出発してしまって何も聞けませんでした」
ロジェとメディが帰って来た。
「俺が交渉の末、聖堂騎士団を味方につけた」
「左様でございますか」
俺はデトレフとの会話の説明をしながら陣に戻る。
「ジル!」
陣に戻るとレリアが走って来た。
「よかった、無事で」
「俺が無事じゃなくなることなんてないだろう。ところで朝日はどうなった?」
俺はヌーヴェルから降りながらそう尋ねる。
「ジルがいなくなってから曇りだして見えなくなっちゃった」
「それにしては明るいな」
俺はそう言いながら空を見上げる。
「雨だ」
「え?」
「いや嵐だ」
「何を言ってるの?」
「嵐が来る!すぐに通り過ぎるはずだ!通り過ぎるまで耐えろ!」
俺はそう言ってヌーヴェルを異空間に帰し、レリアの手を引いて幕舎まで駆ける。
幕舎に入ってレリアに説明する。
「なぜ分かるかは分からぬが嵐が来るのは分かったのだ」
「ほんとに来るの?」
「来るはずだ」
しばらくすると幕舎が揺れだした。
外で叫び声が聞こえる。
「レリア、ここで待っていてくれ」
「え、ちょっとジル!」
俺はレリアにそう言って外に出る。
配下を助けられなければ主と名乗る資格はない。俺はそう考えた。
「大丈夫か?」
外に出るとそこには予想だにしない光景があった。
一人の赤髪の女が立っていたのだ。その女の周りには人狼や人虎が何人も倒れていた。
俺は鎧を纏っている事を確認し、剣を抜く。
「何者だ?」
「そんな所に隠れていたの?」
「どういうことだ?」
「我が主、ジル様。あなたを探してここまで来たのよ」
「言っている意味が分からぬ」
「あなたに仕えるためにここまで来たの」
「名は?」
「キアラよ」
「どこかで聞いたことがある名だな。知り合いか?」
「初めましてよ。妾はヴォクラー様の遣いよ」
ヴォクラー様の遣い?キアラ?ロドリグが来た時に言っていた天魔総長ってやつか?だが死んだと言っていたはずだがな。
「生きていたのか?」
「あら?妾の事を知っていたのね」
「ああ。ロドリグが来た時に言っていた。先代の天魔総長キアラが死んだからオディロンが天魔総長になる、と」
「そうね。でもそれは表向きの嘘よ。妾とロドリグをジル様の所に向かわせる為のね」
「で、俺に用があるのか?」
「そうよ。ヴォクラー様にあなたをサポートするように言いつけられているの。だからあなたの従魔にしてちょうだい」
「いや、俺は魔族しか従魔に出来ないぞ」
「妾は悪魔なのよ。魔族の頂点である悪魔よ」
そんな事も言ってたっけ?まあ覚えていないだけだろう。
「では、やるぞ」
俺は魔眼に魔法陣を浮かべ、キアラを睨む。
「あれ?消えないぞ」
「妾くらいになると従魔になって一度消える必要すらないのよ」
「そうか。サプライズがあったのにな」
「サプライズって何よ?」
「オディロンと同じ異空間に住んでもらうだけだ」
「嫌よ」
「まあそんなに怒るなよ。そのうち慣れる」
「あんな獣と同居なんてお断りよ」
───我も断る。そのような女と暮らすなど、いくらジル様の御命令でも無理だ───
「オディロンも聞いてたんだ」
───そこの馬鹿女が傷つけたジル様の配下を回復させていると聞こえてきたので聞いていた───
「そんなに嫌なら変えておこう」
俺は幕舎に戻りながら魔法陣を描き換える。
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