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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第374話

 キャロル・クック達が衛兵に護られつつ、屋敷に近づいてきたので、俺はリンを伴って庭に出た。だが、いつの間にか来ていたアズラ卿が、まだ出ぬ方が良いと言い、玄関で待つことにした。


「ジルさん、そろそろ行きましょう」


 アズラ卿は秘書官から念話を受け取ったようで、そう言った。ちなみに、アズラ卿は、優秀な文官を数十名集め、その者達に念話を教え、修得できた者を秘書官に選んだそうだ。アズラ卿は武官であるから、副官もいるが、こちらも念話を修得しているそうだ。

 玄関の扉が開かれ、庭に出ると、四十九名が一応は整列していた。荷物などは横のほうに纏めて置いてある。ドロテアはミミルと一緒に色々やっているそうで、ここにはおらぬ。


「この方がジル・デシャン・クロード公爵さまです。実のところ、ファブリスなんて商人はいなかったそうです」


 俺が皆に気付かれぬよう魔眼を回収していると、リンがそう言って俺を紹介した。ほとんどの者は、俺の顔を覚えておらぬようで、困惑している。まあ賊を斬った後は傭兵の手配やら何やらで、ほとんど姿を見せておらぬので、仕方なかろう。


「ジル・デシャン・クロードだ。俺は貴族であるゆえ、先の慰安旅行では身分を偽った。改めて言おう。俺の責任において、おぬしらを保護する、と」


「は〜い、みんな拍手してください。お貴族様ですよ。はい、頭も下げる」


 リンが茶化すようにそう言うと、皆が慌てて頭を地面につけた。農民からすれば、王侯貴族など害獣と同程度には面倒な存在であろう。いや、狩っても良い分、害獣の方がまだマシかもしれぬな。


「畏まらずとも良い、頭を上げよ。おぬしら、長旅ご苦労であった。まずは湯浴みでもした後、昼食にせよ。荷物は仮の住居に運ばせておく。アメリー、サラ、エジェリー、フランシーヌ、湯浴みの案内を」


 俺がそう言うと、控えていた侍女が一行を案内しようと近づき、結局はリンに促されて迎賓館に向かっていった。

 迎賓館には客用の浴室がいくつかあり、リンの提案で湯の準備もできている。そのため、行けばすぐに旅の汚れを落として温まれる。ちなみに、客用の浴室であるからには、それなりに広く、多少狭くはなるだろうが、一箇所の浴室でも五十人程度であれば入れる。まあそんな倹約家のような事はせぬが。


「マノン、とりあえず荷物を一室に纏めて入れておいてくれ。後で私物を回収させる」


「承知しました」


 マノンはそう言うと、嬉しそうに荷物を運んでいった。

 迎賓館には常に客がいる訳ではなく、寧ろ客がおらぬ時の方が多いので、迎賓館担当は半ば閑職と化しており、ようやく働けて、フランシーヌやマノンなど迎賓館組は喜んでいるのであろう。ちなみに、エジェリーは迎賓館組から、幸福の芸術の担当に変えたが、創作活動中の芸術家に近づくと怒られるそうで、大した世話はしておらぬそうだ。


「怯えていましたな」


「私が言うのもおかしな話ですけど、庶民からすれば王侯なんて、何を考えているか分からないし、何をしても許されるような人達ですからね。怖がられても仕方ないですよ」


「そういうものでしょうか」


「はい。何かきっかけがあれば、尊敬に変わるんでしょうけどね。ほら、私達のヴォクラー神に対する気持ちみたいに」


「何を考えているか分からぬ上、何をしても許される者とし て、でしょうか」


「ええ。だからこそ、私達は尊敬される言動を心掛けるべきなんですよ」


「そうありたいものですな」


 俺はアズラ卿と並んで屋敷に入り、とりあえずパーティー用の部屋に向かった。

 五十人程度であれば食堂でも入るのだが、パーティー用の部屋と違って舞台が無いので、パーティー用の部屋を使う。食事をしながら、俺の話を聞いてもらうのだ。まあ先ほどの様子から察するに、リンに代弁させた方が良いのだろうが。


 しばらくアズラ卿と待っていると、リンがキャロル・クック達を連れて来た。キャロル・クック達には、急遽であったため、侍女の制服であったり、ミミル商会で余っていた婦人用衣服など、簡単なものしか用意できなかった。


「はい、適当に座ってくださーい」


 リンがそう言っても、なかなか座り始めなかったので、見かねたサラ達が席を割り振り始めた。面倒になってきたな。

 皆が座ると、料理が運ばれてきた。だが、気を遣っているのか、なかなか食べ始めぬ。無遠慮なのも気に食わぬが、過度な遠慮をされるのも疲れるな。


「おぬしら、食べぬのは勝手だが、ずっと遠慮していては餓死するぞ」


 俺は我慢ができなくなり、舞台上に立ってそう言った。食事をしながら話を聞いてもらうつもりであったが、話を聞いてもらえるのであれば、何でも良い。


「あ、遠慮して食べないのも失礼になりますよ。お前の用意した料理など食えるかってね」


「アズラ卿、脅すような真似はやめていただきたい」


「ごめんなさい。でも、食べてもらったほうがいいでしょう?」


「その通りではあるのですが…」


「ジル様、アズラ様、私が話してもいいですか?」


「ああ。任せよう」


 アズラ卿と舞台上で話していると、リンが上がってきてそう言った。最初からそのつもりであったので、任せておけば良い。


「それじゃあ、改めてこの二人の紹介をします。この方は、この地の領主様で、サヌスト王国軍の客将軍様で、サヌストの国王様の信頼も厚い、ジル・デシャン・クロード公爵様です。一言どうぞ」


「ジル・デシャン・クロードだ。リンの紹介に付け加えるならば、俺は教皇もやっている」


「はい、次はこちらの方を紹介します。この方は、この地の領主代理武官ですけど、武官としてだけじゃなくって、学園の建設とか、領主夫人の暗殺未遂の調査とか、色々やってくれている、アズラ様です」


「アズラです。今まで誰にも言っていませんでしたけど、ジルさんの従妹です。どうぞよろしく」


「お二人とも、ありがとうございました。どうぞ休んでいてください」


 リンはそう言い、俺達を舞台から降ろした。舞台から降りた俺達は、元いた席に戻り、舞台上のリンを見た。


 それから、リンは俺達を視線で気遣いながら、忠犬飼育係の長となる人狼を紹介したり、各部門の長である侍女を舞台に上げて紹介したり、住居や給与の説明をしたり、色々と説明した。

 その間、空腹に耐えられなくなったのか、過度な遠慮が無礼と思ったのか、理由は分らぬが、皆が食事を始めていた。


 結果、それぞれにそれなりの数の立候補があり、良い感じに纏まった。


 忠犬飼育係は、ルイーゼという人狼を長とし、各個体専属の班を四つ、ルイーゼ直轄の雑務班を一つ編成した。ちなみに、心の傷を無駄に刺激せぬよう、人狼は人魔混成団人狼隊に属する人狼の夫人から人員を募った。

 アルフェラッツ班は、ペトラという人狼を班長とし、フォルミード村出身者二人がその下についた。この二人は、元々交流があったそうだ。

 シェアト班は、アニタという人狼を班長とし、フォルミード村出身ではない二人がその下についた。この二人は、同じ隊商に同行していただけで、深い交流はなかったそうだが、あの賊が初めて捕らえた二人だそうで、牢の中で励まし合っていたそうだ。

 マルカブ班は、ヴェラという人狼を班長とし、フォルミード村出身者二人がその下についた。この二人は、従姉妹だそうだ。

 アルゲニブ班は、シーラという人狼を班長とし、フォルミード村出身者二人がその下についた。この二人は、同じ兄弟に嫁いでいたそうだ。

 雑務班は、キャロル・クックと牧羊犬を任されていた者、養鶏家に生まれた者の三人が、ルイーゼの下についた。


 使用人の方は、料理以外の全ての部門に、上手い具合に振り分けられた。料理部門は、新人が入ってもキトリーの邪魔になるだけであるそうだ。


 それから、これは全く想定外であったのだが、リンと同じ教師をもつ者が三人いたので、領主館で雇った。さすがにリンほど優秀であるとは思えぬので、とりあえずアズラ卿に直属し、その下で学ばせることにした。



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