第36話
「すまんな、オディロン。俺、ハイエルフになった」
───また血を飲んだのか?───
ああ。そういうことだ。
俺は入口のところで固まっている五人に入るよう促す。レリアは俺の隣にいる。
「まあ、皆、適当に座ってくれ」
皆で円になって座った。
「皆、念話の受信はできるな?」
「私は返信もできます」
「受信だけならなんとか…」
「私も返信はできませぬ」
「僕は集中したらできるワン」
「僕は集中しなくてもできるニャ」
フーレスティエ、フーリエ、ムグラリス、バロー、シャミナードの順でそう言った。ちなみにレリアにはここに来るまでの間に受信だけはできるように練習してもらった。
「うむ。では、先に帰ったアシルからの連絡だ。質問に答えてくれ」
オディロン、頼む。
───承知した───
オディロンは少し間を開けた。念話は送る相手をはっきり認識し、意識することが大切なのだ。そして中継点となるにはもっと集中力がいるのだ。
───アシルだ。聞こえるか?───
───聞こえます───
「聞こえます」
「私も聞こえます」
「聞こえるワン」
「聞こえるニャ」
皆も聞こえるそうだ。
───では、ジェローム卿から質問だ。戦士無しで森暮らしはできるか?───
───我らエルフはできます。ただ自分達だけで手一杯になりそうです───
「我ら人狼はなんとかできます。ですが犬人達の保護は出来ないでしょう」
「人虎も人狼と同じです。猫人達の保護は出来ませぬ」
「人狼様の保護がなかったら僕達は死んじゃうワン」
「アクリスの世話もしなくちゃだから無理ニャ」
人狼と人虎は可能。だが、犬人と猫人は無理だ。
───承知した。では、ジル殿、城主になる気はあるか?───
なりたいとは思わないがなりたくないとも思わない。
───承知した。では、犬人、猫人に質問だ。砦を作るのにどれくらいかかる?───
「規模によるワン(ニャ)」
規模によるそうだ。
───規模はラポーニヤ魔族が全員入れるくらいだ───
「それなら犬人の大工全員で作れば半月くらいだワン」
「猫人の大工全員で作れば半月もかからないニャ」
「犬人と猫人が協力したら?」
「三日で住めるようになるワン」
「他は住みながら補強してけば大丈夫ニャ」
三日で住めるようになるらしい。
───では、ドリュケール城の南の森を抜けた所に砦を作り、そこに住んでくれ───
「頑張るワン」
「材料はどうするニャ?」
材料はどうする?
───必要な物があれば、好きに使ってくれ。森の近くには採石場もある───
「了解だワン(ニャ)」
了解だ。
───では、予備のアクリスを十頭残してそれ以外に乗って先に来させてくれ───
どういうことだ?
───九十頭のアクリスに乗って犬人と猫人を先に来させてくれ───
「アクリスには二人乗れるニャ」
二人乗れるそうだ。
───では、犬人と猫人を九十人ずつこちらに送ってくれ。人選はそちらに任せる───
わかった。では、また何かあったら連絡してくれ。
───承知した───
「では、バローとシャミナードは九十人ずつ選んで来い」
「了解だワン(ニャ)」
バローとシャミナードが幕舎から出て行った。
「ジル様、一つよろしいですか?」
「フーリエ、どうした?」
「我ら人狼から先遣隊の護衛を出しましょう」
護衛か。確かに戦闘力が無い犬人や猫人だけでは全滅の恐れもある。それに魔族だけだと価値観の違いとか色々厄介だから人間の指揮官を出して人間の価値観に合わさせよう。
「では、人狼と人虎から十人ずつ出そう。それと人間から指揮官を出すからその指示に従ってくれ。では、お主らも精鋭を選んで来い。だがブームソンとヴィルトールは選ぶなよ」
「「御意」」
二人も出て行った。幕舎には俺とレリアとフーレスティエが残った。エルフだけ仕事がないのも良くない気がするからエルフからも護衛を出させようかな。
「エルフの中で時空間魔法を使える者はいるか?」
「エルフ魔法隊に三人、それ以外のエルフが五人使えるはずです」
「では、エルフ魔法隊で使える者に食糧などの荷物を預けよう」
「馬がないのでは?」
「一角獣なら二人乗りしても問題ない」
「では、その三人に伝えて参ります」
「ああ」
フーレスティエも出て行ったのでレリアと二人きりになる。
「ねえ、相手が定まってるってあたしの事?」
「俺と釣り合いが取れるのはレリアだけだ」
「ありがと」
俺はさっきの事があるので抱きついたりしない。
「フーレスティエです。失礼します」
ほら、危なかった。あれ?フーレスティエ以外に三人の男が入って来たぞ。
「例の三人を連れて参りました」
時空間魔法を使える者か。来たなら名乗ってもらおう。
「名乗ってくれ」
「私はバスティアです」
「私はディフェンタールです」
「私はシュレベールです」
「うむ。では、食糧を渡そう」
俺は名乗った三人に食糧を渡そうとする。
「いえ、既に犬人隊や猫人隊から食糧を預かって参りました」
シュレベールがそう言った。ここでは、シュレベールが代表して話すかのように前に出た。もちろん跪いている。
「仕事が早くて助かる」
「お褒めに預かり光栄です」
「ああ。早速だが質問だ。誰の後ろに乗りたい?」
「と、申しますと?」
「人間から指揮官として三人出す。その後ろに乗って移動してもらうことになる」
「私共は誰の後ろであろうとジル様のご命令であれば、従います」
「そうか。では、フィデールとドニス、アルベリックを指揮官としてつけよう。フーレスティエ、この三人を呼んできてくれ」
「ははっ!」
フーレスティエが急いで出て行った。そんなに慌てなくてもいいのに。
「ジル様〜!精鋭を連れて来たニャ〜」
「アクリスも連れてきたワン」
幕舎の外でそう言っている。シャミナードとバローだろう。
俺は立ち上がり、外に出る。後ろにはレリアとエルフ三人組がついてきた。
「では、同じアクリスに乗る者同士で集まってくれ」
犬人と猫人が二人組に分かれる。やはり犬人は犬人同士、猫人は猫人同士で組んだか。
「そのペアでは、ダメだ。犬人は猫人と、猫人は犬人とペアになれ」
「「「え〜!?」」」
「命令だ。お主らは人魔混成団として一つになってもらわなければ困る。それともラポーニヤ魔族の結束力はそれほどのものなのか?」
「違うニャ」
「では、同じ階級の者とペアを組め」
今度はちゃんと犬人と猫人でペアになった。
どこかで聞いたことがあるのだが組織が大きくなり派閥が増えると、少数の者に劣るようになる、と。つまり組織は一枚岩であるべきなのだ。派閥争いなどをしていたら前後に敵を作ることになる。
「では、いつでも出発できるように準備を整えておけ。出発までに親睦を深めておけ」
俺がそう言うと皆が握手をしだした。
「ジル様、護衛を選んで参りました」
「確認をして頂けますか?」
フーリエとムグラリスが俺の横で跪いていた。
「わかった。呼んでくれ」
「「この者たちです」」
フーリエとムグラリスが退くと狼、虎の姿に変身した二十人が跪いている。
「お主らの中で一番弱いのは誰だ?」
人狼、人虎がザワザワする。すると一人の人狼が前に出た。
「恥ずかしながら私でございます」
「そうか。名は?」
「ケリングです」
「ケリングか」
俺はそう言いながら剣を喚び出し、ケリングの首元に突き付ける。
「反応出来なかったのではないだろう?」
「主がお望みならばこの命をも捧げるつもりです」
「そうか。では、俺に一撃入れてみろ」
「?」
「実力を見たい。雑兵に工兵の精鋭を任せることは出来ぬ」
「では、失礼します」
ケリングは立ち上がると俺に向けて右の爪を突き出してきた。俺はケリングの右手首を掴み地面に叩きつけようと投げる。
ケリングは左手を俺の顔の方に突き出した。
それを難なく躱した。だが俺の体勢は崩れる。
俺は足をかけられて転んだ。
俺の首元にケリングは爪を突き出してきた。俺は狼の姿に一瞬で変身し、ケリングの爪が俺の首に当たる前にケリングの首を掴む。
「参りました」
「なかなか強かった。魔法や剣を使わなければ人狼とはこれほど強い種族なのだな」
「ということは…?」
「合格だ。お主らに工兵の護衛を頼む」
「「「御意!」」」
俺は人の姿に戻り、ケリングの肩に手を置く。こうやって工兵隊を大切に思うところを見せておけばいざと言う時も工兵隊を守ろうとするだろう。魔族は強者が重視され、弱者は軽視される風潮があるのでいざと言う時、工兵隊を見捨てないか心配なのだ。
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