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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第368話

 ゼーエン作戦を再開してから十日弱が経ち、十一月三十日となり、ゼーエン作戦は完了した。これにより、ゼーエン作戦本部は解散となり、それに関係するような証拠は全て焼却した。

 ゼーエン作戦の報告書は、王宮へ食料を運ぶ牛車に積まれ、宮廷料理長を経由してヴァーノン卿に届けられる。ちなみに、王宮の食料を仕入れるのは、専門の役人である。


 翌日。俺は今日と明日で教皇就任式の流れを覚えねばならぬそうで、(サン)ソフィアン大聖堂に来ている。

 まず、祭服を着ると、普通に歩けぬので、歩き方から覚えねばならぬ。それから、聖堂内に祀ってある遺物に対する礼儀作法、ヴォクラー神への祈祷法、聖職者らしい表情など、覚える事が多すぎたので、ラヴィニアに全てを任せた。


 十二月三日。今日は教皇就任式であるが、ラヴィニアに全てを任せているので、感覚としては列席者に近い。

 ちなみに、枢機卿団に加え、王都(アンドレアス)近隣の司祭以上の聖職者、それなりの額を教会に納めた一般教徒が参列する。


 最初にニルス大司教から、教皇用の祭服とマント、通称を『教皇祭服』と言うが、これを受け取って身に纏い、次いで『狩人の指輪』というものを受け取って右手の薬指に着けた。

 そして、サリム大司教から黄金で出来た『教皇冠』を受け取った。


 その後、用意された演説文を読み上げたり、ヴォクラー神の地上における代理人である事を宣言したり、まあ色々やって教皇就任式を終えた。


 教皇就任式を終えると、枢機卿の叙任式がある。あくまで、枢機卿団とは、教皇によって任命された枢機卿からなる顧問団である。そのため、教皇就任の後に枢機卿に叙任するのだ。

 ニルス大司教を首席枢機卿、サリム大司教を次席枢機卿、ギ・ル大司教を三席枢機卿など、序列の順に任命していった。ちなみに、枢機卿とはあくまで枢機卿団に属する聖職者を指し、いわゆる役職名であるため、大司教の者も司教の者も司祭の者もいる。

 現在、枢機卿団は二十名からなっている。内訳は数えておらぬので分からぬが、位階が高いほど多いような気がした。ちなみに、デトレフ卿も枢機卿に選ばれているようだ。


 教皇就任式と枢機卿叙任式を終えると、解散となった。聖職者は貴族と違って権力争いを好まぬようで、聖職者によるパーティーなどが開かれる事もない。


 翌日。俺は五日ほど(サン)ソフィアン大聖堂で、教皇として聖務を行わねばならぬそうだ。

 教皇を設置するに際しての、教会内部の組織改革などが主な内容だが、具体的に説明を聞き、理解ができるものは了承し、理解の及ばぬものはニルス大司教に一任した。

 それから、これが最も聖職者らしいものだが、説法の練習をしたり、そのために聖書の理解を深めたりした。


 少し聖務を延長し、十二月十日となった。俺は久しぶりに王都の屋敷に戻った。今までは(サン)ソフィアン大聖堂で寝泊まりしていたのだ。

 俺は、起きるまで起こすな、と皆に伝え、自室に籠った。身体が勝手に目覚めるまで眠ろう。


 俺が目を覚ますと、いつかは分からぬが夜間であった。体感としてはかなりの長期間休んでいた気もするが、さすがに年は変わっておらぬだろう。

 部屋を出ると、アンヌが部屋の前で待っていた。


「おはようございます、ジル様」


「ああ。ずっと待っていたのか?」


「いつ目を覚まされても対応できるように、待っていました」


「そうか、すまぬな。ところで、今はいつだ?」


「十二月十一日の朝になろうとしています」


「…五百三年であろうな?」


「はい…?」


「いや、気にするでない。朝食を頼む」


「承知しました」


 アンヌはそう言い、一礼して厨房に向かった。

 俺は食堂に向かった。数日は眠っていたかと思ったが、意外と短かったようだ。


 食堂で待っていると、パーティーと勘違いしそうな程の料理が運ばれてきた。アンヌに聞くと、俺の教皇就任祝いだそうだ。


 食事を終える頃、エヴラールが起きてきた。


「おはようございます、ジル様」


「ああ」


「今日のご予定は、いかが致しますか」


「参内し、陛下に詫びて指示を仰ぐ。その後に決めれば良かろう」


「承知しました。そのように致します」


「ああ。頼んだ」


 エヴラールはそう言い、持ち運びやすい朝食をアンヌに頼むと、どこかへ行ってしまった。まだ日も昇っておらぬから、急ぐ必要などなかろうに。


 その後、準備を整えた俺は、エヴラールを連れて王宮まで来た。王宮に着く頃には日も昇っていたし、おそらく陛下も起きているだろう。

 王宮に入り、謁見の手配をすると、食事中の陛下に呼ばれた。年末年始は忙しくなるそうで、他より優先される俺ですら謁見できぬ程だそうだ。自惚れている訳ではないが、かなり忙しいようだな。


 侍従によって陛下に私室前まで案内された。詫びに行くというのは、なかなか緊張するものだな。ちなみに、エヴラールは客将室で待機している。


「失礼します、陛下」


 俺は扉を軽く叩いた後にそう言って入室した。エジット陛下とフェリシア様が食後の茶を飲んでいるところであった。


「ジル卿」


「おはようございます、エジット陛下、フェリシア陛下」


「うむ。おはよう」


「おはようございます」


「申し訳ございまぬ、エジット陛下」


 俺はそう言い、跪いた。やはり、ちゃんと謝っておかねばならぬだろう。


「待て待て、ジル卿。まず何に謝っているか教えてくれ」


「は。陛下の誕生日パーティーを欠席してしまいまして、何とお詫び申し上げれば良いか、と」


「ジル卿のことだ。理由があるのだろう?」


「恥ずかしながら…前日の結婚式で祝いの気持ちを出し切ってしまい、その…まことに迂闊ながら、聖なる試練を開始してしまいました」


「そんな理由だったのか…」


「陛下、怒ってはいけません。それだけ私達の結婚を祝福してくださったという証拠ではないですか」


 フェリシア様はそう言い、俺を庇ってくれた。俺はフェリシア様に庇われるような事はしておらぬが…いや、メタクサリティ織の絨毯に対する礼かもしれぬな。

 まあエジット陛下は広量であられるから、庇ってもらわねばならぬほどの怒りは買わぬはずだ。


「いや、怒っている訳ではないんだ。ただ、驚いただけだ」


「申し訳ありませぬ」


「私の方こそ、悪いと思ってたんだ。ヴァーノンから聞いたが、ジル卿は聖なる試練とゼーエン作戦と、それから教皇就任とその後の聖務で、ほとんど休んでいないと聞いている。せめて、ゼーエン作戦だけでも別の誰かに変わらせるべきだった」


「いえ、陛下が気に病むことではありませぬ」


「じゃあ、お互いに気にするのはやめよう」


「そう言っていただけると助かります」


「うん。そうだ、ジル卿。しばらく休んでいてくれ。そうだな…二十日くらいになったら、また来て欲しい。月隠りの祈りの打ち合わせとか、他にも色々相談したいことをまとめておくから」


「承知しました」


 ちなみに、月隠りの祈りとは、十二月三十一日に国内にいる最高位の聖職者がその国の君主と共に、ヴォクラー神に対して感謝を伝える祈りを指す。基本的に昼までに行う事が多い。(サン)ソフィアン大聖堂で教えてもらった。

 月隠りの祈りを終えると、君主はそれで終わりだが、聖職者の側は、それから新年の日の出まで祈り続ける。こちらは特に決まった名称は無いが、お告げがある場合には、この時に伝えられると言われており、そのため、『お告げの祈り』などという俗称はある。


「陛下、副宰相閣下がお呼びでございます」


 両陛下と談笑していると、侍従が陛下を呼びに来た。副宰相という事は、サンドリーヌが仕官したようだな。


「ジル卿、すまないが、私は行かなければ」


「は。私こそ、事前の連絡も無しに訪ねてしまい、申し訳ございませぬ」


「いや、いいんだ。また会おう」


「は。失礼いたしました」


 俺はそう言い、退室した。やはり王宮に来る時は、前日までに連絡しておかねばならぬな。今日も二人の時間を邪魔してしまったような気がする。

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