表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

360/565

第359話

 忠犬の相手をしていると、領主館から通達があった。ミミルに破門され、その姿を傭兵に見せよ、というアシルからの指示であった。

 俺は念話でエヴラールに連絡し、街中で俺とミミル、傭兵達が偶然出会うように手配した。ミミル本人にも言ってあるので、良いように演技してくれるだろう。


 ユキに忠犬を任せ、アキとリンを伴って指定された地点に向かった。

 天眼で二組の位置を確認し、傭兵の視界の端の方に入るような場所で、ミミルに近づいた。ちなみに、トーヴ達は自発的に出掛けており、俺やミミルが先回りをしているだけである。


「商会長、お久しぶりです」


「ファブリス君、旅の話は聞いたよ」


「左様でありますか」


「うん。解雇クビだ、解雇クビッ!」


「は…?」


「ファブリス隊は私の商会にいらん。使徒様の街に君達のような者はいらん。即刻、荷物を纏めて使徒様のご領地から立ち去り、二度と商売をするな、馬鹿者どもめ!」


 ミミルは往来であるにも関わらず、そう叫んで持っていた書類を地面に叩きつけた。この、迫真の演技により、トーヴ達は俺達を見つけた。ちなみに、アシルの手配によって、この周辺からは民間人が遠ざけられており、この会話を聞くのは、傭兵を除けば、アシルの部下や役人だけである。


「お待ちください、ミミル様。何か誤解があるようです」


「黙れ黙れ。相手に誤解をさせないのも、商売人の仕事だ。その上で言うが、貴様は商売人に向いておらん。だいたい、お前は金遣いが荒すぎる。商会の金で旅をさせてやってんだぞ。お前の旅費で我が商会は赤字だ」


「申し訳ございませぬ」


「謝っても無駄だ。さっさと失せろ。一角獣ユニコーンは商会の財産だ。持ち逃げしたら、使徒様に報告し、討伐隊を編成していただくぞ」


「…は。今まで、世話になりました。改めて礼を言います。それでは失礼します」


 俺はミミルに礼をした。恐縮する気配が伝わってきたが、相変わらず表面的には堂々としたミミルであった。

 俺が頭を下げたままいると、気を利かせたミミルが立ち去った。台本を作っておくべきであったな。


「後悔するぞ、馬鹿者」


「もう良いのだ、ユキ。行くぞ」


「あの、私は…」


「悪かったな、リン。俺はこの通り、破門となった。ゆえに、俺にはおぬしを雇うほどの余裕はない」


「そんな…!」


「使徒様を訪ねよ。事情を話せば、フォルミード村の者と共に保護してくださるだろう。では」


 俺はそう言い、ユキのみを連れて立ち去った。リンは、演技であろうが、その場で泣き始めた。心が痛むな。

 しばらく歩いていると、トーヴが追ってきた。一緒にいたもう一人の傭兵は、気まずそうにリンに近づいた。


「ファブリス様、失礼とは分かっていましたが、お話は聞かせていただきました。我々で力になれる事があれば、遠慮なくお申し付けください」


「聞いていたのであれば分かっておろう。俺はおぬしらに報いる術を失ったところだ」


「冷たいことを申されますな、ファブリス様」


「良い。もう俺とユキに関わるな。では」


 俺はそう言い、アキを連れてトーヴの前から去った。

 今後、何らかの理由で再会することがあろうとも、他人の空似を押し通す。これはゼーエン作戦に参加する者のうち、身分を偽る全ての者に命じてある。ちなみに、リンはこのままジル・デシャン・クロードとしての俺に保護される。


 人気の無い所まで行き、領主館の執務室に転移した。リンやミミルは、それぞれ違う道を通って領主館に来る。


 しばらくアキと話していると、リンとミミルが一緒に部屋に入ってきた。


「先程は申し訳ありませんでした、ジル様」


「いや、気にするでない。何も決めていなかったのは俺だ」


「いえ…ところで、このお嬢さんは?」


「リン、自己紹介しろ。旦那様の大事な客だぞ」


「いや、俺が客なのだが…」


「カイラ・リン・トゥイードです。クィーズス王国フォルミード村出身、十八歳です。ファブリスことジル・デシャン・クロード公爵に救われ、お仕えする事になりました。以後、お見知り置きください」


「ミミルと申します。ジル様とは今年二月に出会い、それ以降、懇意にしていただいています。こちらこそ、どうぞよろしく」


 二人は互いに自己を紹介し、握手をした。一緒に帰ってきたのに、互いに名も知らなかったのか。


「ミミルよ、早速で悪いが、リンの生活用品を用意してやってくれ。色々あって、ほとんど何も持っておらぬのだ」


「承知しました。早速、取り掛かりましょうか?」


「ああ、頼んだ」


 ミミルはそう言い、一礼して退室した。リンがどうすべきか、視線で俺に問うたが、アキが顎で追うように指示をした。リンはそれに従って部屋を出ていった。


「そういえば旦那様、リンをどこに住ませてやる気だ?」


「屋敷に空き部屋でもあるだろう」


「いやいやいや、旦那様、良く考えろ。あいつが同じ建物で暮らしたら、ワタシの機嫌がどうなるか分かるか?」


「悪くなるのか?」


「当たり前だ。旦那様の家族でもないし、警備に役立つ訳でもないし、家事をする訳でもない奴と一緒に暮らす意味が分からん。だいたい、仕事を家庭に持ち込む男は嫌われるぞ」


「そういうものか」


「知らん。だが、ワタシは嫌だ。家の中でも、部下の誰かが優秀で、とか、あの上官が鬱陶しくて、とか、あの件は面倒そうだな、とか色々言われてみろ。休まらないだろ」


「確かにそうか。では、どうする?」


「使用人の寮にでも住ませておけ。正式に任官するまでは、旦那様の単なる私臣だ。使用人と一緒だろ」


「そうか。ではそうしよう」


「それでいい」


 アキに誘導された気がするが、まあ良い結果に纏まったので良かろう。リンと一緒に、フォルミード村の他の者を寮に住まわせてやろう。


「真面目な話も終わった事だし、旦那様、出掛けよう」


「別に構わぬが、どこへ行く?」


「刀を見に行くのだ。ヒナツに腕のいい刀工を探させておいた」


「ヒナツか…大丈夫なのか?」


「安心しろ。ヒナツは連れていかない」


「いや、そうではない。ヒナツの紹介した者で大丈夫なのか、と」


「そっちか。それならもっと安心しろ。ワタシも名前だけは聞いた事ある。ドウダヌキ、という里の奴らだ。田んぼにある死体を斬れば、胴を抜けて田んぼまで斬り裂く、というのが、ドウダヌキの由来だ。良さそうだろ」


「ああ。良い刀を作るのであれば、俺に文句はない」


「じゃあ行こう」


 アキはそう言い、俺の手を引いて歩き始めた。


 道中、アキはヒナツからの報告を伝えてくれた。どうやら、俺がヒナツを嫌っている事を知り、気を遣ってくれているようだ。

 タカミツ殿は、武器生産の拠点をサヌストに移し、ヤマトワ国内に運ばせる計画を立てているそうだ。俺としては、軍資金の無駄遣いに思えるが、わざわざ計画する程であるからには、何か理由があるのだろう。

 それから、タカミツ殿から『教育指南書』という書物が届いているそうだ。これは、龍の子(タツノコ)の孵化から、ある程度(概ね五歳)まで、起こり得る問題とその対処法について記してあるそうだ。アキは、困った時にだけ見る、として、部屋の奥の方にしまったそうだ。


 アキと話していると、ドウダヌキに着いた。ドウダヌキは完全に分業化しているそうで、全体の指揮を執る者が注文を聞き取るそうだ。


「ヨシフサです。アキ様、刀の要望などあれば、今のうちに」


「いい感じにな。ワタシが使ってる木刀が届いてるはずだが…」


 アキはそう言い、説明を始めた。

 アキは意外と精密な剣術で戦うので、色々と注文が多いのかもしれぬ。俺の場合、武器は丈夫であればそれで良いのだが、俺のような者は少数派であろう。


 アキの注文を隣で聞いていたが、何を拘っているのか全く分からなかった。反り具合であったり、刀身の長さであったり、素材であったり、色々と話し込んでいた。素材でも変わるのか。


 その後、日が暮れるまで話し込んで満足したアキと共に帰宅した。アキの用事であるから一緒にいたが、これが他の者の用事であれば途中で帰りたくなっていた。それほどまでに疎外感を覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ