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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第356話

 俺とアキが船上戦闘を学び、その間にエヴラール達が報告書を纏める日を繰り返した、二十九日の夜半。いつの間にかサヌストとの国境の水門を越えていたようで、もうすぐジェレミ港に到着するそうである。強弱はあったものの、常に追い風が吹いていたそうで、予定より早く着くそうだ。


 しばらくサヌストの景色を懐かしんでいると、港に着いた。ジェレミ港は夜間の出入港も許可されているようで、無事に入港できた。帆を畳み、漕ぎ手も休ませ、最低限の陸戦隊員を残し、オグレディ船長やトーヴも自室に帰った。

 俺は自室に戻り、報告書を確認することにした。リンの部屋には窓が無く、船酔いの軽減のために窓がある俺の部屋と交代してやったので、俺の部屋は暗い。まあ光源などは魔法でいくらでも作れるので良いのだが。


 報告書を読んでいると、エヴラールが来た。まだ半分も読んでおらぬが、もう朝になったようだ。


「おはようございます」


「ああ。もう下船か」


「はい。港で朝食を摂り、ガッド砦に向けて発ちます」


「そうか」


「ファブリス様、朝からあまり良い報告ではないのですが…」


「良い。言ってみよ」


「は。夜半頃、港に着き、ファブリス様もお休みになった後、トゥイードが吐き、調度品などを汚してしまったそうで、主計長から請求が来ております」


 確か、あの部屋は一行の長である俺が使う部屋であるためか、絨毯やら壺やら絵画やらがそれなりに置いてあった気がする。


「そうか。報酬と一緒に支払おう。そんな事より、リンは無事か」


「先に下船しています。本人はファブリス様を待つつもりでしたが、私の判断で下船させました。出発までにある程度は体力を回復させなければなりませんから」


「ならば良い。俺も行こう」


「は。こちらへ」


 エヴラールはそう言い、俺を先導した。わざわざ案内されずとも、ある程度はどこに何があるのか覚えているのだが…

 エヴラールは俺を甲板ではなく、アキの部屋に案内した。まだ起きておらぬのか。


「ユキ、入るぞ」


 俺は無言で待つエヴラールを見、扉を三回叩いて開けた。すると、アキは準備を整えて待っていた。珍しいな。


「遅かったな、旦那様」


「おぬしこそ早いではないか」


「当たり前だ。あれのせいで目が覚めてしまった」


 アキがそう言って指したのは、壁にかけられた鏡である。この部屋は東側にあり、窓から朝日が差し込み、鏡が日光を反射し、ベッドを照らしている。眩しくて起きたようだな。


「どちらが東側になるか、入港するまで分らぬのだ。文句を言うでない」


「文句に聞こえたか?」


「違うのか?」


「違う。久しぶりに早起きして、ワタシは気分がいいのだ。たぶん、旦那様より早く起きたと思うぞ」


「いや、俺は寝ておらぬ。着港を確認してからは、部屋で報告書を読んでいた」


「そういう事は言うな。良かったな、で終わらせたらいいのだ」


「そうか」


「ファブリス様、ユキ様、そろそろ行きませんと」


「ああ。行こう」


 エヴラールに促され、俺達は甲板に出た。すると、ちょうど一角獣(ユニコーン)を船から下ろすところであった。心做しか、一角獣(ユニコーン)達の機嫌が悪そうである。


 俺達も下船すると、絹服を着た恰幅の良い男が迎えに来ていた。俺を待っていたようであるが、誰であろうか。


「お待ちしておりました。私、ジェレミ総督バルテレミです。ジル・デシャン・クロード公爵閣下より、ファブリスを名乗る商人一行を支援を要請されております。こちらへ」


「世話になる」


 ジェレミ総督を自称するバルテレミというこの男は、俺自身が公爵であると知っているようだな。どこからか通達があったようだ。


 ちなみに、ジェレミ総督とは、旧来は西方守護将軍の指揮下にある水上戦力の統括者であり、ノヴァーク王国と戦になれば、シュランク川を下るノヴァーク水軍の足止めをせねばならぬ。もちろん、そんな事態など歴史上数える程しか無い。

 指揮下に置く戦力は、小型の警備艇が二十隻ほどと、それを運用する水兵、陸上警備の歩兵が五百ほどだ。

 現在は、辺境軍総帥の指揮下にある。


 総督府に案内されると、俺のみがジェレミ総督の執務室に通され、アキやエヴラール達は接待を受けており、トーヴ達は異国人である事を理由に、総督府への立ち入りが禁じられ、外で待っている。そのため迎えを出したリンも入れぬだろう。アキが入れたのは、(公爵)の夫人だと知っているからであろう。


「バルテレミ卿、お招きいただき光栄ではあるのだが…」


「お寛ぎください、客将閣下。辺境軍総帥閣下より、凡その事情は聞いております」


「そうか。では我らが先を急いでいる事も知っているな?」


「ええ。ですが、閣下の随行者が二十騎足らずとは、些か無防備ではございませんか」


「おぬしに心配される謂れはない」


「左様でございますか」


「用件は以上か」


「閣下に対しては以上です。朝食を用意させましたので、どうぞ召し上がってから出発なさってください」


「ああ。礼を言う」


 俺はそう言い、執務室を出た。護衛を増やすように言い、総督府の戦力を俺の護衛に割く事で、俺に媚びようとしているのが見え透いている。あまり長く一緒にいたいとは思えぬ。

 執務室を出ると、オグレディ船長が、警備兵に囲まれて待っており、俺の退室を見た警備兵によって、執務室に連れられた。何か罪でも犯したのであろうか。


 俺が食堂に行くと、エヴラールとトーヴが対面に座って互いに沈んだ顔をしている。


「何かあったのか?」


「旦那様、しばらく放置してやれ。二人とも、同じ原因で、違う事に悩んでいるのだ」


「?」


「ファブリス様、どういたしましょうか…」


「いや、何が?」


 トーヴはそう言い、深く頭を下げた。礼をした訳ではなく、単に落ち込んでいるだけであろう。何かあったのか。


「いきなり軍船で入港した事が問題になっているようで…その、えー…」


「罰金だな。ワタシ達の案内全体が、赤字になるくらいの罰金だ。トーヴは、それで悩んでいる。アデラールは、経費の計算で悩んでいる。報告書が完成してるからな」


「そうか。二人とも安心せよ。罰金は料金に含めても良い。俺が個人的に支払おう。それゆえ、報告書はこのままで良い」


「罰金だけで済めばいいがな。船長が危ないらしいぞ」


「それも俺が何とかしよう」


 アキの言葉に、トーヴが息を飲んだ。

 俺も迂闊であったな。事前の連絡も無しに、軍船が入港しては、港側が混乱に陥るのは当然である。それも武装商船規模ではなく、本格的な軍船、それも旗艦である。作戦によっては、プロートン号と同号陸戦隊だけでジェレミ港を壊滅させられる。

 オグレディ船長については、即刻処刑とはならぬはずだが、死刑と判断された場合には、なるべく処刑を遅らせるよう圧力をかけておこう。ある程度の日数があれば、ジュスト殿に頼んで解放できる。まあバルテレミは俺に取り入ろうとしていたようであるから、俺が言えばすぐにでも解放されるだろう。


 その後、落ち込んだオグレディ船長が出てきたので事情を聞くと、パー・ダン傭兵団に所属する軍船に対し、国境以東、つまりサヌスト側のシュランク川航行を禁じるなど、なかなか厳しい措置がとられたようだ。

 オグレディ船長本人は、出世の道が無くなった、と落ち込んでいるようだ。気の毒だな。


 総督府を出た俺達は、リンと合流して解散前に最後の打ち合わせをした。

 プロートン号はただちに出港することを命じられたそうで、解散後はすぐに出港するそうだ。トーヴと護衛三騎は、俺達を送り届けた後、陸路で帰ることとなる。

 トーヴ達は、クィーズスからリンの同郷人の護送をしているサマンサ・ラパーリアの到着を待ち、一緒に帰るそうだ。ドロテアからは異常の連絡が無いので、順調に進んでいるのだろう。


 オグレディ船長と別れた俺達はガッド砦に向けて駆け出した。予定より少し遅れて発つため、到着予想は『今夜遅く』との事である。

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