表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

339/565

第338話

 俺とアキは王宮の近くに向かったが、テイルストは警備が厳しいらしく、王宮周辺の官衙地区にすら入れず、官衙地区の外側の貴族街ですら、テイルスト人が直接率いる二十人ほどのノヴァーク人傭兵からなる騎馬の警備隊が複数警邏をしていた。

 俺達は仕方なく、王宮に行く事は諦めた。ちなみに遠目で見る限り、王宮は古いながらも、決して朽ちている訳ではない、豪華な建物であった。


 アキの提案で最初に見かけた赤い服の商人らしき男の後を追う事になった。おそらく地元民ではなかろうが、俺達よりはアポミナリアに詳しそうである。

 アポミナリアに定住する者は少なく、アポミナリアにいる者の大半を旅人が占めている。これは、テイルスト人の職業割合を調べれば分かるそうだが、隊商や傭兵団などに属する者が多いためである。傭兵団には事務担当として雇われるのであり、戦闘は一切せぬそうで、ノヴァーク人もそれが当然であると思っているようだ。


 赤い服の商人であるが、市場に行って買い物を始めたので、俺達も買い物をしていると、見失った。


「おい、あいつを探せ」


「無理な事を言うでない。別の赤い服を探そうではないか」


「仕方ないな。今度は黒い服にするぞ」


「ではそうしよう」


 アキはそう言い、市場を見渡し始めたが、黒い服は珍しいものではないので、視界に入るだけでも五人いる。アキはどの黒服を選ぶのであろうか。まあ誰でも良いのだが。


「行ったぞ。早く」


 アキはそう言い、俺の手を引いて走り始めた。人混みであるゆえ、大した速度は出ぬが、見失わぬであろうか。

 しばらく進み、視界の黒服が一人になり、標的が判明した。帯剣したノヴァーク人の女で、五本の花を持っている。何か、祝い事でもあるのだろうか。


 しばらく追跡していると、噴水の前で止まり、誰かを待ち始めたようである。待ち合わせの相手などに興味は無いゆえ、アキに標的の交代を促してみるか。


「ユキ、次は…」


「おい、アンガスだぞ」


「何?」


 黒服の女の待ち合わせの相手は、アンガスであった。だが、黒服の女はスージーではない。

 黒服の女がアンガスに花を渡し、二人で腕を組んでどこかに向けて歩き始めた。いや、女がアンガスの腕に抱き着いているだけか。


「面白いものが見れそうだ。行くぞ」


「慎重に行かねばならぬな」


「もし見つかったら、偶然で押し通すぞ。旦那様、腕を貸せ。ワタシもアレをやりたい」


「ああ」


 俺とアキは腕を組み、アンガス達の尾行を始めた。あまり褒められた行為ではないが、なかなかに楽しいな。


 アンガス達を追っていると、店に入ってしまった。少し覗いたが、個室などは一切なく、客が入れば店全体から分かる。さすがに一度でも認識されると、その後の尾行が難くなる。


 仕方なく近くの店に入り、窓際の席に着いた。俺達も昼食を摂っておくのだ。

 料理が運ばれてきて、食べながら様子を見ていると、アンガス達が出てきた。


「ユキ」


「旦那様、魔法で持ち帰りだ。行くぞ」

 

「ああ。だが、急ぎ過ぎてはならぬ」


 俺はそう言いながら、残りの料理を異空間に入れた。こういう場合を想定し、持ち歩き易いような料理ばかりを選んだので、尾行の途中に腹が減ったら食べれば良い。

 俺達が店を出ると、アンガス達は来た道を戻っていた。


 俺とアキは気づかれぬうちの最大速度で尾行していたが、先程の噴水の広場に来てしまった。花を貰って食事をしただけか。

 変な関係であると誤解していたが、アンガスはスージーと、堂々と同衾する程には好い仲であるから、最初から誤解などすべきでなかった。


「ユキ…!」


 俺が勝手に反省していると、アキがアンガスに向けて歩いていった。まさか接触するとは思わなかったな。まあ偶然を装えば良いか。


「アンガス、偶然だな」


 アキはそう言い、片手を上げながらアンガスに近づき、隣に座った。俺が話を逸らすか、訂正するかせねばならぬな。


「すまぬな、アンガス。偶然見かけたのであるが、俺の知らぬ者を連れていたゆえ、話しかけるのを躊躇っていた」


「気を遣わせちゃってすみません。こいつは妹で、テイルスト担当なんです」


「シャロン・ド・パーです。あなたが噂のお客様ですね?」


「噂?」


 シャロンと名乗ったアンガスの妹の言葉が気になった。噂のお客様と呼ばれる心当たりは…いくつかあるな。あまり痕跡を残さぬ方が良いゆえ、噂をどうにかさせよう。


「すみません。一角獣(ユニコーン)とか、ドルミーレ奪還とか、色々とやってるでしょう。こちらとしてはありがたいので、似たような事を続けて欲しいんですが…噂は止めさせます」


「そうしてくれ。好き勝手やり過ぎていると、現商会長の耳に入ったら大変だ。俺の後継の話が無くなるかもしれぬゆえ」


「さすがにそりゃ無いでしょうよ。でも、噂は止めさせますんで、ご安心を」


「ああ」


「話が終わったら解散だ。ワタシは今から旦那様と街を歩くが、どこに行けば面白い?」


「教会なんてどうでしょう?」


「ワタシは改宗したばっかりだぞ。そんな信心深い奴に見えるか?」


「ヴォクラー教じゃなくて、古代テイルストで流行ってたテオスボーク教の教会です」


「多少の拝観料がいりますけど、お金に余裕はあるみたいですし、ぜひ行ってみてください。これ、どうぞ」


 アンガスの説明に、シャロンが補足したが、ヴォクラー神の使徒たる俺が、異教徒の教会に行っても良いのであろうか。まあヴォクラー神から禁止されている訳ではないし、これほど勧められて行かなかったとなると、逆に怪しまれるな。テオスボークの神に祈る訳ではないし、割り切って行くか。


「では行ってくる。ユキ」


「仕方ないな」


 俺達はアンガス達と別れ、教えてもらったテオスボーク教の教会に向かい始めた。アキはアンガス達に対する興味の一切を失ったようである。


 シャロンに貰った資料によると、テオスボーク教の教会はテイルスト王国内に三箇所あり、他はノヴァークの王都にあるだけで、全て合わせても四箇所しかないそうだ。


 アポミナリアの教会は、アドウェール・コリン・ウィニフレッド・ウィーラー教会と言い、全盛期に建立された四つの教会が、テオスボーク教衰退に伴って統合されたものだそうだ。名称に用いられているのは、テオスボーク教の聖哲の名だそうで、聖哲とはヴォクラー教の聖人のようなものだそうだ。

 ちなみに、毎回、アドウェール・コリン・ウィニフレッド・ウィーラー教会などと呼んでいては長いので、通称としてアポミナリア教会と呼ばれている。


 テオスボーク教についてだが、主神たる絶対神ヴィーディンとその配下である七柱の神を信奉する宗教である。

 信者は十五歳の頃に親元を離れること、生涯で合計十年間以上教会へ奉仕することなどが義務付けられているため、規模は縮小されても、教会が廃れる事は無いそうだ。


 資料の最後には、シャロン・ド・パーの名を出せば、案内が着くようになっていると書かれていた。関係者であったのか。


 資料にあった地図通りに進むと、教会が見えてきた。王宮以上に古そうな建物だが、清潔に保たれているようである。


 俺とアキが様子を伺っていると、黒い服を来た男が出てきた。


「何か御用ですか?」


「シャロン・ド・パーに勧められて来た。見学させてもらいたい」


「こちらへどうぞ」


 黒服の男はそう言うと、俺達を中に案内した。

 教会の中は、外よりも清潔に感じたし、調度品の類もそれなりに揃っているので、規模を縮小しても、貧しくなった訳ではないようだ。

 第三礼拝堂と書かれた扉があった部屋に案内され、黒服の男は出ていった。礼拝堂というより、応接室のようであるが、八体の像があるので、ちゃんと祈祷もできるようだ。


「教会らしくないな。怪しいぞ」


「そうでもなかろう。ヴォクラー教の神殿にも似たような部屋はある」


「そうじゃない。さっきのあいつ、アンガスの妹と似た服を着てたぞ」


「確かに同じ黒だが…流行っているだけではなかろうか」


「だといいが」


「まあ騙されたところで、何も困ることはない。最悪の場合は逃げれば良いのだ」


「それもそうだな」


 アキが変な事を言うので、少し不安になってきたな。

 だが、自分で評するのもおかしな話だが、俺はアンガス達にとって良客であるはずであるし、アンガスには俺やアキが戦う所を見せているので、アンガスに売られたということは無かろう。今日はアンガスと会う予定は無かったのであるから、少なくとも計画的な犯行という事は無さそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ