第32話
椅子に座った俺はオディロンとヨドークの事、そして俺の事を詳しく教えた。
俺は使徒として、オディロンはその従魔としてヴォクラー神に遣わされたと伝えた。アシルとロドリグの事も話した。
ヨドークはバレーヌの宿で捕らえられていた魔族と伝えた。
ちなみに魔物は魔石を複数持つものだ。そのほとんどが魔法を使える。例えばスモーキングウルフが魔物だ。
魔族は魔物の中でも知能を有し、人間と意思の疎通ができる者の事を言う。例えばヌーヴェルが魔族だ。
そして最後に魔獣というのがいるのだが魔獣も魔物の一種だが魔法が使えず、肉弾戦を得意とするものの事を言う。例えばエレファントボアが魔獣だ。
まあ、ヨドークと意思の疎通をするには他の魔族に通訳してもらわなければ出来ない。だから厳密に言うと魔物だがそのうち念話を習得するであろうから魔族と言った。
「ほんとに使徒だったんだ。疑ってごめん」
「気にするな」
謝られたが仕方ない事なので気にはしない。
「これからもジルって呼んでいい?」
「ああ。俺の事をそう呼んでくれるのはレリアだけだ。そう呼んでくれ」
「ありがと」
「俺はお昼ご飯を食べたら兵を募りに行くからオディロンとヨドークと仲良くしてやってくれ」
「兵を集めてるの?」
「ああ。エジット殿下が王位に就けるようにしてやらなければならぬ」
「なんで?今はギュスターヴ陛下が立派に務めているよ。それに国王陛下が亡くなってもアルフレッド殿下がいるじゃない」
「そうなんだがな…俺にもヴォクラー神の意図は解らぬ。ただ、今回のお告げが『エジット殿下がサヌスト王国の国王となり、国内の奴隷を全て解放したら大陸を統一し、奴隷制を廃する』という内容なんだ」
「そんなの平民のあたしに教えていいの?」
「さあ?まあ、内緒にしておいてくれ」
「そうする!」
「そうしてくれるとありがたい」
「うん」
「まあそういう事だから俺も兵を集めて一人の将として戦う。ちなみに俺にも軍旗があるぞ」
「ほんとに!?」
「ああ。完成したらしいが俺はまだ見ていない」
「すごい…もしかしたら千年後とかに歴史書で英雄ジルとか書いてあるかもよ」
「そうなったら嬉しいものだな」
俺はレリアとしばらく雑談をした。
その中で一つ気になることをレリアが言った。俺が強くて頼れる部下が欲しいと言った時だった。
「人狼っていう種族が強いらしいよ。あたしも会ったことないけど」
「人狼?」
「うん。普段は人間の姿をしてるんだけど狩りの時は二足歩行の狼になるんだって」
「どこにいるんだ?」
「魔の山って言う山に住んでるって聞いた」
「魔の山はどこに?」
「ここから南西に四日くらい行った所にあるよ。でもジルには行って欲しくない」
「なぜ?」
「聞いた話なんだけど、百人以上で入ると魔王の封印が解かれて魔王が復活するんだって。でもとても百人以下で攻略できるような生易しいものでは無いって聞いた」
「安心しろ。それなら…」
「ダメ!」
俺が話しているのにこんなに言われるのは出会ってから初めてだ。
「魔の山は常に嵐が吹き荒れているの!だからいくらジルが強くてもダメ」
「それも俺が結界とかを使ってどうにかする」
「でもジルが行っている間、会えなくなっちゃう…」
「そうか…じゃあ一緒に来るか?」
「え…?」
「レリアのことは俺が命を賭して守ろう。それならいいか?」
「…うん」
「ありがとう!」
俺はなんとかレリアを説得して魔の山に行くことの許可をもらう。
その時、お昼ご飯の準備ができたようなのでアシルとカルヴィンを呼んで一緒に食べる。その時に魔の山に行くことを説明した。
結局、明日この街を出ることになった。侍従武官五人と集めた兵の精鋭十二人、そして俺とアシルとレリアで行くことになった。
今日は魔の山について調べることにした。
魔王が各地に作った別荘の事を魔の山と呼ぶらしい。今回の魔の山はラポーニヤ山というらしい。
魔王はラポーニヤ山の管理を人狼と人虎、エルフに任せていたという。魔王が倒された後もその三種族は管理をしているという。
ついでに人狼と人虎、エルフについても調べた。
人狼は全体の数が約千と少なく戦える者はもっと少なくて全体の四分の一、約二百五十だ。だが人狼の戦士はとても強いという。五十年に一度、人狼決闘会というものが開かれる。この決闘会で優勝した者は族長への挑戦権が得られる。族長と優勝者が戦い、勝った方が族長となる。
人虎も全体の数が約千であり、戦士の数は約二百五十である。人虎の戦士もとても強いという。こちらも五十年に一度、人虎決闘会が開かれる。内容は人狼決闘会と同じである。
エルフは人間の価値観では皆、容姿端麗であると言う。そして皆が弓や魔法が得意という。数は正確ではないが千〜千五百であり、戦士は約五百であるらしい。族長は代々引き継がれる。ここは人間と同じである。
最後に人狼と人虎はとても仲が悪いらしくその仲裁役をエルフが担っているらしい。
調べた事を今回のメンバーに伝えておく。
今夜はメンバー全員で一緒にご飯を食べる。
「今回のメンバーを確認する。アシル頼んだ」
「ああ。まず侍従武官。カミーユ、フィデール、ロジェ、メディ、ラミーヌ。次は新たに募集した兵。ドニス、マルタン、サミー、フローラン、トリスタン、ジルベール、トスカン、アルフォンス、マテュー、アルベリック、コンスタン、クレマン。最後に俺とジル殿とレリアさんだ。ジル殿から一言頼む」
俺は頷いてこう言う。
「皆、今回の作戦はとても危険だ。全滅の可能性だってある。辞退してくれても誰も咎めない。だが全員無事に戻った暁には俺が新たに作る部隊の隊長などある程度は優遇しよう。もちろん戻れる実力があるからだ。そして最後に一つだけ守って欲しいことがある。『一人も死ぬな。全員生きて戻れ』これは命令だ!」
「「「御意!」」」
レリアを除いた皆が頭を下げた。
その後は皆で楽しく夜ご飯を食べた。
夜ご飯の後、皆は英気を養う為、領主の館の中でも上質な部屋を借りて寝た。
翌朝、俺達は夜が明ける前に出発した。荷物は俺の時空間魔法で作った異空間に全てしまった。そしてドニス達は武具を上質な物に買い換えたらしい。
しばらく進んだ所で朝ご飯を食べる事にした。食事は全員で交代しながら作ることになっている。
俺は朝ご飯を待つ間に全員の馬を一角獣にしておいた。
その後、俺達は馬が一角獣になったことでスピードが格段に上がり、一日半で魔の山ラポーニヤ山に着いた。
到着した日は昼過ぎだったのでラポーニヤ山の麓の村で休む事にした。
翌日、外套を着た俺達はラポーニヤ山を登り始める。馬はヌーヴェルの異空間を広げ、そこに預けた。
「これより魔の山ラポーニヤ山に突入する。ラポーニヤ山は常に嵐が吹き荒れているという。そして人狼や人虎、エルフが管理している。いつ襲撃されても対応できるよう準備を整えておけ!」
「「「御意!」」」
「では、出発!」
俺の号令で出発する。ちなみに俺達は『魔の山ラポーニヤ山攻略隊』と名乗っている。
俺はオディロンとヨドークを喚び出しておく。アシルもロドリグを喚び出していた。
隊列は俺を先頭に六人の募集兵、そのすぐ後ろにレリアを囲んだ侍従武官、その後ろに六人の募集兵、最後尾にアシルだ。俺はヨドークを肩に乗せ、オディロンを隣に歩かせている。アシルの隣にはロドリグがいる。
ラポーニヤ山に入ったが嵐が吹き荒れているということはない。だが霧が濃い。
俺は索敵魔法の魔法陣を魔眼に浮かべ、天眼でそれを強化している。
しばらく進むと二十程の気配を感じた。
「この先に魔物がいる!まずは俺が魔物との戦い方を見せるから参考にしろ!」
俺はそう言って駆け出す。
「ヨドーク、オディロンと協力して十体片付けろ」
「キュ!」
ヨドークが俺の肩から降りる。
俺は剣を抜き魔物に斬り掛かる。魔物は人の頭ほどの大きさの蜂だ。
俺は次々に斬りかかり、全て斬り終えた。
「まあこんな感じで攻撃される前に殺すのがコツだ」
「はぁ…」
ドニスが驚いている。
オディロン達も戻ってきたので俺はもう一度索敵魔法を使う。
これは…!
「囲まれているぞ!警戒せよ!」
俺はそう叫ぶ。
「我らが主、魔王陛下の別荘に土足で踏み入る無礼者め。何用だ?」
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