第31話
俺は右手に魔力を集中させた。
「覚悟は良いか?」
「無論。さあ、早くトドメを刺されよ」
「ああ」
俺は最大火力の火魔法を撃つ。
───ジル殿、待て!───
アシル!?
アシルの声を聞き、俺はヨドークに撃った魔法をすぐに自分の水魔法で相殺する。
相殺はできたが爆発がおきた。
「ジル殿、元凶は?無事か、良かった」
後ろからアシルが来た。
「ジル殿、そいつを殺すな」
「なぜ?」
「そいつはヴァンパイアだ。変異した特異種だが」
「魔族だろ?」
「だからだ。こんな街中で高位の魔族が死ねば人が死ぬ」
「なぜ?」
「魔物が死ねばその魔物が持つ魔力は魔素となり空気中に放出される。魔族も魔物だ。そして訓練を受けていない一般人が魔素を大量に取り込めば数日間、苦しんだ後、死を迎える」
「え?じゃあどうすれば良い?」
「従魔にしたらどうだ?」
「そうしようかな」
俺はヴォクラー様に教えてもらった魔法の中で従魔の魔術、通称『従魔術』の中で対象の姿を変え、従魔にするというものを使ってみようと思った。
「ヨドーク、その姿に未練はあるか?」
「ない。勝者の言うことは絶対だ」
「では、その口調にこだわりは?」
「ない。勝者の言うことは絶対だ」
「壊れたか?まあいいや。では、俺の従魔にしてやろう」
俺は魔法陣を魔眼に描く。
内容はこうだ。ヨドークの姿を肩に乗るくらいの大きさの狐に変える。しっぽを九本にしてそれぞれの根元に魔石を移動させる。四肢の根元にも魔石を移動させる。残り二つの魔石は改造して魔眼に変えて眼球と交換するようにする。口調は可愛らしい感じにする。知識はそのままにしておく。最後にオディロンの異空間に入るようにする。
そんな感じだ。オディロンに鍛えさせよう。
オディロン、今からヨドークという魔族をそっちに送るから鍛えてやってくれ。五百年前の生き残りだそうだ。
───承知した。徹底的に鍛えておこう───
頼んだ。
俺は魔法陣を発動させる。
「どうだ?」
ヨドークの姿はそこにはない。ヨドークを喚び出す魔法陣を描き、喚び出してみる。
「ヨドーク、調子はどうだ?」
「キュ?」
「『キュ?』じゃなくて調子はどうだ?」
「キューッ!」
あれ?喋れなくなったのか?アシルに魔法陣を見てもらおう。
「アシル、この魔法陣ってあってるよな?」
俺は魔法陣をアシルに念話で送る。
「あんたは馬鹿か。喋れなくしたら知識があっても意味ないだろう」
「え?喋れなくなってる?」
「ああ。可愛い鳴き声になっている」
「可愛い口調ってしたのに」
アシルがため息をついた。
「まだまだだな。俺は魔法はあんたより苦手だが魔法陣はヴォクラー様にお褒めに預かった程だ。魔法陣なら完璧だ」
「はいはい。わかったわかった」
アシルは自分の得意な事になると調子に乗る。そういう時は無視すると決めているのだ。
「帰るぞ」
「おう。エジット殿下に礼を言っておけよ」
「なぜ?」
「あんたが斬り損ねた敵を斬っていた」
「それもエジット殿下の仕事だろ」
自慢が終わった後のアシルは何故か少し馬鹿になる。
そんなアシルはしばらく放置することでなおる。
「魔法陣が完璧なら転移の魔法陣くらい描けるだろ?」
「ああ。一度行ったことがあり、記憶にはっきりと残っていれば可能だ」
「俺の転移と同じか。じゃあエジット殿下の所まで頼む」
「承知した」
俺はアシルが描いた魔法陣に飛び乗り転移する。
成功だ。さすがアシルだと思っておこう。
「エジット殿下、待たせたな」
「いや、何かあったか?」
「ここではちょっと…な?」
「わかった。後で聞こう」
俺達は捕まえた奴らを引き連れて館に向かう。領主の館はステヴナンの中心である。ステヴナンの問題を解決したり、何かしらの罪を犯した者を入れておく牢屋もある。その他にもまだまだ施設があると聞いている。
その牢屋に今回の奴らを閉じ込めてさっきの部屋に戻る。
エジット殿下とアルセーヌと俺とアシルだ。
「で、あそこでは言えない理由とは?」
「ちょっと待ってくれ」
俺はヨドークを喚び出す。
「元ヴァンパイアのヨドークだ。今は尾裂狐をイメージして俺が姿を変えた」
「まさか…」
「ああ、こいつが元凶だ」
俺はオディロンに念話で問い掛ける。
オディロン、ヨドークから話は聞いたか?
───聞いた。我が説明しよう───
頼む。
───ヨドークらヴァンパイアは五百年前、魔王が倒されてからは各地に散らばった。ある者は洞窟に篭もり、またある者は人間に化けて街で過ごした。ヨドークはバレーヌの先祖を自らの眷属にして宿泊客を届けさせた───
なぜ宿泊客を届けさせたのだ?
───ヴァンパイアは人の血を摂取しなければ死ぬらしい───
洞窟に篭った奴はどうしているんだ?
───迷い込んだ人間を繁殖させているのであろう───
じゃ、俺がエジット殿下に説明する。
「ヨドークは五百年前、魔王が倒されてからこのステヴナンの地下、もっと詳しく言うと『バレーヌの宿』の地下に潜んでいた。バレーヌの先祖を眷属にして宿泊客を届けさせたらしい」
「ジル卿、ヴァンパイアのヨドークと言うと有名だぞ。魔王から『略奪王』の称号を貰っていた。その称号の通りヨドークが率いたヴァンパイア隊が通った後には多数の死者と少数の生者しか残らなかったという」
「え?略奪王?」
「ああ。魔王軍の中で最も好戦的で最も強かったという。もちろん魔王を除いてだが」
「そんなに…?」
「大陸中に悪名を轟かせた。今でも小さい子供には『いい子にしないと略奪王に連れて行かれる』と言い聞かせて育てる親も多い」
「そ、そうか」
そんなに言うってことは俺の従魔にするのは反対か?
「言い難いのだが一つ良いか?」
「ジル卿にはなんだかんだ言って世話になっている。言うだけ言ってみてくれ」
「ヨドークを俺の従魔にする。というか、もう従魔にした」
「な!?略奪王を従魔に!?」
「安心してくれ。ちゃんとオディロンが躾けるし、俺は今のヨドークになら素手でも勝てる!」
「いや、反対している訳じゃない。使徒と魔王の配下が手を組むって人聞きが悪くないか?」
「手を組んだんじゃない。俺が一方的に利用するだけだ」
「それなら良いか。だが一つだけ守ってくれ」
「何を?」
「いくら無力化したとは言え、魔王の元配下を連れ回すとなれば無駄に騒ぐ輩も出てくるであろう。だから略奪王とは同名の従魔ということにしてくれ」
「わかった」
俺はヨドークの頭を撫でる。後でレリアに紹介しておこう。
「アルセーヌ、アシル殿。ここでの会話は誰にも話さないでくれ」
「「御意」」
「それと主犯格はあの受付の女ということにしておく」
俺とアルセーヌとアシルは頷く。それを確認したエジット殿下はこう言う。
「では、解散だ」
終わった。
俺はヨドークを異空間に帰し、部屋に戻る。
一応、ノックをしておこう。
「ジルだ。戻ったぞ」
「今、開けるので少々、お待ちください」
扉が開いた。
「作戦は成功した。主犯格は自害した」
「ご主人様、さすがです」
俺はカミーユ達、侍従武官に部屋から出てもらい、レリアと二人きりになる。
「レリア、言っただろ。レリアに仇なす者は俺が斬る、と」
「うん!ありがと!」
レリアが俺に抱きついてきた。俺もギュッとする。
「そうだ。レリアに紹介しておきたいのが二人いるんだ」
「誰?」
「喚んでいいか?」
「いいよ」
俺はオディロンとヨドークを喚び出す。
「こっちの虎がオディロンだ」
「本物…」
「ああ。そしてこっちの狐みたいなのがヨドークだ」
「しっぽがいっぱい…」
オディロンとヨドークが挨拶をするように鳴いた。
「まあ、一旦座ろう」
俺とレリアは椅子に座る。横並びで。
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