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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第318話

 食後、監視塔のエヴラールと交代し、見張りつつ休むことにした。まあ俺にとっての休憩など、気分的な問題である。ちなみにアキとリンがついて来た。


 しばらくし、二人が俺を挟んで眠った頃、アンガスが上がってきた。近くの支部とやらは、そう遠くないらしい。


「ファブリスさん、しばらくここに留まってもいいですか?」


 アンガスは声を低めてそう言った。二人を気遣っているようだ。


「構わぬ。解放した者も色々してやらねばならぬだろう」


「ありがとうございます」


「ただし、五日以内だ。クィーズスは一日、テイルストとノヴァークは二日、それぞれの日程を減らす。さすがにそれ以上は待てぬ」


「分かりました。それから、賊の残党が来た場合の対処は?」


「近くの支部に援軍を要請しておけ。歩兵が五十もいれば充分だ」


「ご安心を。既に騎兵を二十、歩兵を百の部隊を編成するよう、命令してあります。明日の朝には命令が届き、当面の武器と食糧を携えた部隊が夜のうちには出立し、明後日の昼頃には到着する見通しです」


「…色々と詳しく説明せよ」


 色々と意味の分からぬ事を言い始めたので説明を求めた。

 アンガスの説明によると、俺は勘違いをしていたようだ。


 まず、近くの支部との連絡方法であるが、伝書鳩を使っているそうだ。長時間を要したので、アンガス自身が支部に行ったのかと思っていたが、保険として複数の鳩を放つため、羽数分の命令書を書いたために長時間を要したそうだ。

 これが全ての勘違いの元凶であった。


 その支部であるが、サザーランド子爵というクィーズス貴族の居城の一角を借りているそうだ。

 当代のサザーランド子爵は、全名をロックリン・ヴァン・サザーランドと言い、クィーズス軍の将軍の一人であるそうだ。革新的な人物として知られ、投石器用の石弾を研磨し、完全な丸型にして威力を高めたり、私兵に対してではあるものの、将兵に役職とは別の序列を与えたり、色々と独特な事をやっているそうだ。失敗も多いそうだが、その分だけ成功も多い。

 そのサザーランド子爵とパー・ダン傭兵団の関係であるが、これも独特な主従関係にある。

 サザーランド子爵が、その居城レボルシオン城の一角の使用権を認め、年間クィーズス金貨五百枚、同国銀貨二千枚を支払う代わり、パー・ダン傭兵団は騎兵五百、歩兵二千をレボルシオン城に駐屯させ、この部隊は戦時に限るが無条件でサザーランド子爵の指揮下に入る、というものである。この二千五百名の兵士の食糧と、五百の軍馬の飼葉はサザーランド子爵が負担する。

 ちなみに、ノヴァーク人が有するクィーズス人への多少の嫌悪感は、サザーランド子爵に対しては抱かぬらしい。余程の好人物であるようだ。


 アンガスは、パー・ダン傭兵団統帥グレッグ・ド・パーの弟であり、パー・ダン傭兵団副帥にして、パー・ダン傭兵団傘下ライオネル傭兵隊総帥、パー・ダン傭兵団第三隊部隊長など、色々と役職を兼務しており、ほとんどのパー・ダン傭兵団所属兵に対する命令権、またはそれに類する権利を有している。

 ライオネル傭兵隊というのは、パー・ダン傭兵団の傘下ではあるものの、完全な指揮下にはなく、ある程度独立した組織だそうで、アンガス自身が創設したそうだ。規模は騎兵が二百と歩兵が千、水兵が五百に軍船が二隻と、それなりである。

 ちなみにライオネルというのは、エパナスィータ会戦(ノヴァーク王国建国戦)で建国王デイヴィスを庇って死んだ将軍の名で、生きていればノヴァークはクィーズスの支配下には置かれなかったとさえ言われる程の猛将で、今でもライオネルという名は人気であるそうだ。ライオネル傭兵団もその名を借りたようだ。


 つまり、アンガスは自身が依頼を受けるような立場ではないほど偉いわけだ。さらに、スージーとの武者修行というのも嘘で、サヌストに拠点を設ける場合の下見をしていたそうだ。そこで、割が良い上に面白そうな依頼があったため、俺達の依頼を引き受けたそうだ。


 賊の対処であるが、捕縛か鏖殺か撃退か撤退か、この四択のつもりで尋ねたそうで、俺は鏖殺と答えた。


 そういう訳であるから、援軍は明後日に到着し、俺達はその翌日に出立する事となった。解放した者達は、望む者のみサザーランド子爵が保護する。そうでない者は、対応可能な範囲で対応するそうだ。

 カイラ・リン・トゥイードについては、とりあえず王都まで同行し、そこで最終的に判断する、と、俺とアンガスは決めた。アキや本人は眠っているので、あくまでも俺とアンガスの決定である。


 アンガスが去った後、しばらくすると、二百名強が近づいてきた。既に三メルタルも無い。まあその歩みはかなり遅いので、迎撃の準備はできる。

 監視塔はドルミーレの敷地内、門の傍に建っているが、木や小屋で上手い具合に隠されている。俺も初見では気づかなかった。


 リンを端の方に寝かし、軽い盾をいくつか載せておいた。これで流れ矢による負傷の可能性は低くなった。

 俺は創造魔法で矢を三百本ほど作った。全てを命中させる予定であるが、脅しのための無駄撃ちをするかもしれぬ。

 それから、ラヴィニアに作戦を伝え、実行に移させた。さすがに一箇所から殲滅するには数が多い。多方向に逃げられてしまっては、大半を討ち取れぬ。


「ユキ、起きよ」


「さっきからゴソゴソしてると思っていたが…ようやく起こしたか」


「気づいていたのであれば、話は分かるな。俺が合図をしたら、ここから飛び降りて斬り込む。良いな?」


「残党か?」


「ああ。もうすぐ先頭の賊が門を通る。俺の合図までは、息を潜めて待て」


「最初から斬り込めばいいだろ」


「ならぬ」


「しょうがないな。従ってやる」


 アキはそう言い、刀の用意を始めた。対する賊は、先頭の者が門を通り過ぎる頃だ。

 俺は弓を取り出し、矢を番えた。そして先頭を進む徒歩の賊の右肩を射抜いた。もし味方であった場合、殺してしまっていては申し訳ない。そのような可能性は限りなく低いが、ありえぬ事はない。

 射抜いた賊は右肩を押さえ、喚きながら周囲を見回した。


『ここがパー・ダン傭兵団ドルミーレと知っての侵入か』


 俺は念話を応用し、全方位からそれなりの声量で聞こえるようにそう言った。味方であれば堂々と名乗るはずだ。まあ装備を見る限り、単なる賊であろう。それに洗濯という概念が無いのか、衣服も汚い。近づけば臭いだろう。


『もう一度問おう。ここがパー・ダン傭兵団ドルミーレと知っての侵入か。五つ数えるうちに答えねば、今度は眉間に当てるぞ。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ…これより貴様らを敵と看做し、殲滅す』


 俺はそう告げ、先程の賊の眉間を射抜いた。すると、他の賊が抜剣したり、弓を取ったり、本格的に相手をする気になったようだ。


「コソコソ隠れるような奴だ。敵は少ないし、ビビりだ。探し出してぶっ殺せ!」


 頭目と思しき騎乗した賊がそう叫ぶと、各々が道から逸れて適当に探し始めた。

 俺は松明を持つ者以外を狙い、三本ずつ矢を放ち、その度に三人の賊が死んだ。さすがに、松明を持つ者を殺し、その火によって火事を引き起こすなどという愚は犯さぬ。白兵戦になった際に対処すれば良い。

 五回ほど矢を放った頃、賊に動きがあった。


「こっちには人質がいるぞ。姿を現せ。さもなくば一人ずつ殺す」


『賊の言葉など信じぬ。人質がいるなら全て前に出せ。少数であれば、見捨てて攻撃を続行する。前に出さぬなら、少数であると判断し、攻撃を続行する』


「そりゃあ…まあいい。全部連れて来い」


 頭目がそう指示すると、手下の賊が色々と動き始めた。阿呆を頭目と仰ぐような集団で良かった。凡人程度の知能すら無いゆえに、盗賊などということをしているのであるから、まあ当然か。


 しばらくすると、人質が前に引き出された。全て若い女で、数は二十余名だ。手首を結ばれ、前後の人質と繋がれており、それが二列ある。


『見捨てるのは惜しいが…』


 俺はそう言いつつ、人質の近くに立つ賊を全て射殺した。それから、別の賊が駆けつける前に人質を繋ぐ縄を矢で掠め、縄を斬った。風魔法でも数箇所を切った。


『助かりたくば、道なりに進め』


 俺がそう言うと、女達は走り出した。

 賊の頭目は言葉にならぬ怒声を上げ、手下の弓使いが解放された人質に向けて一斉に矢を放った。

 俺は慌てて矢を連射した。賊が放った矢に、俺が放った矢を当てて撃墜するのだ。風魔法を上手い具合に使えば、難しいことではない。

 矢を撃墜しているだけでは終わりがないな。


「ユキ、弓は得意か?」


「狙った方向に飛ばすくらいだ。旦那様みたいに全て命中は無理だ」


「ならば良い。あちらの射手に向けて放て」


「任せておけ」


 アキはそう言い、矢を番えた。アキの為に用意した、一般の弓箭兵が使うには強いが、強弓というには弱いような、ちょうど良い弓だ。

 アキが弓師と調整する様子を見た限り、先程のアキの言葉は謙遜である。


 アキの援護射撃によって、賊の射手は倒され、解放した者達を狙った矢は減り、遂には無くなった。


『阿呆に従う阿呆どもよ。時間稼ぎに付き合ってくれた礼だ。五百の重装騎兵による半包囲網を、篤と味わえ』


 俺がそう告げると、賊どもは混乱に陥った。前に進もうとする者と、後ろに退こうとする者、その場に留まって頭目の指示を待つ者など、見ている分には面白い。

 ちなみに五百の重装騎兵は存在せぬ。代わりに、それを模した魔法人形の半包囲網が存在するだけだ。魔法人形はラヴィニアが設置したものであるが、ラヴィニアの処理能力では五十程度しか操作できぬそうで、残りは俺が操らねばならぬ。それは面倒であるから、姿だけ見えるように配置して、賊が恐れて逃げる事に期待しよう。


「お前らぁ、最低限の荷だけ持って散れ。放火もしまくれ。山ごと奴らを燃えカスにしろ。そのあとも俺様に従う気がある奴は最後の襲撃地で集合だぁ。解散っ!」


 賊の頭目がそう叫ぶと、手下の賊が放火をし、多方向に逃げた。面倒な事になってしまった。

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