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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第312話

 翌朝。約五百騎の騎馬隊が近づいてきた。俺は最大出資者であるから、昨日の調査隊に同行し、先に来ている設定だ。

 偽名生活は既に始まっているので、気をつけねばならぬ。

 ちなみに昨晩は、賊が使っていた寝具などは端に除け、それなりに改修し、ちゃんとした寝具を出して、ちゃんとした夜を過ごした。誰もおらぬ砦であるのに、エヴラールは俺達の部屋の前で剣を抱いて寝ていた。


「旦那様、迎えに行ってやるぞ」


「ああ。ユキ、アデラール」


「はい。ファブリス様」


「うぶな恋人みたいなことをしやがって」


 俺とエヴラールが偽名の確認をしていると、なぜかアキが拗ね、先に行ってしまった。ちなみにファブリスとユキの関係であるが、『使徒様に従いて異国(ヤマトワ)に商売に行った際、女武者と出逢って相愛となり、祖国(サヌスト)に連れ帰った』という設定の夫婦である。ゆえに、アキの俺に対する呼称に変更はない。


 とりあえずシメオン達を出迎えてやらねばならぬ。改修のおかげで、城門も堅固なものとなっているのだから。

 城壁の上に立ち、城門を開けてやると、なぜか歓声が上がり、続々と入城してきた。何の歓声であったのか。

 俺は城壁から降り、シメオン達を出迎えに行った。シメオンは部下を連れて慰安旅行に行く、という設定で偽名を使わぬから、名で呼んで大丈夫だ。

 ちなみに俺とシメオンの関係であるが、ガッド砦購入に際して、シメオンが軍と商人側の仲介をし、その時に意気投合した仲という設定だ。


「シメオン、俺の部下まで迎えに行ってもらって悪いな」


「いやいや、いいんだよ。ファブリス、君が継ぐミミル商会と贔屓にしてくれたらね。はははは」


「はははは…」


 シメオン自身の設定が分からぬな。いや、これが本当のシメオンなのか…?まあシメオンの性格などどうでも良いか。


 すぐ出発するとはいえ、数日はこの砦で生活をするのである。各隊の部屋割りなども、昨日のうちに考えてあるゆえ、隊長を集めて説明してやった。

 基本的に隊ごとに纏まった場所を、二人一部屋で割り当てている。各隊の隊長は、それぞれ別に個室を持ち、寝室と執務室を分ける。寝室は隊の方にまとめてあり、執務室の方は隊長のみが入れる区域として区切り、傭兵が近づかぬようにした。


 各隊の出発日であるが、クィーズス担当が明日、ノヴァーク担当が明後日、テイルスト担当がその次の日である。複数国を巡る隊は、最初の国に向かう隊と同日に出発する。俺は全ての隊を見送った後、クィーズスに向けて発つ。

 各隊の帰還日は調査完了次第、ということになっているが、一ヶ月以上三ヶ月未満といったところだ。というのも公費で支払われる旅費が、一ヶ月から二ヶ月の間、充分に旅を遂行可能な金額を、目的地や調査対象に応じて支払われるのである。私費を足す者もいるようだが、さすがに一ヶ月分の旅費を出す者はおらぬし、そもそも年が明ければ併呑に向けて対外的な行動を始めるゆえ、遅くとも年内には終わらせねばならぬ。ちなみに俺の隊の帰還日は、十一月一日を予定している。最初に帰っておかねばならぬのだ。


 無茶な日程であるが、これを可能にするのが、一角獣(ユニコーン)である。騎馬だけでなく、荷馬まで一角獣(ユニコーン)にしてあるのだ。もちろん傭兵にも一角獣(ユニコーン)を貸与している。

 ちなみに一角獣(ユニコーン)は、民間にも流れるように調整したため、サヌストでは誰でも買える。まあ駿馬と呼ばれる馬の十倍程度の金額であるし、維持費も馬より高いので、当面は流行らぬだろう。


 我が隊は、十月の五日と最も遅い出立日でありながら、十一月一日と最も早い帰還をせねばならぬ。しかも対象国は、三国全てだ。

 ちなみに我が隊の目的は、三国を巡ることにある。目的地として設定されているのは、各国の王都のみであるから、隊としての任務は楽だ。


 ガッド砦に文官や傭兵が集結し、その者達を見送る日々が過ぎ、十月五日、出立日となった。傭兵とは顔合わせを終えている。二人とも、ノヴァーク人らしい見た目の、ノヴァーク人らしい性格であった。つまり、豪快な黒人である。


「では行くか」


 俺はそう言い、隊を率いて出立した。ちなみに留守の間のガッド砦は、『お優しいお貴族様の私兵が預かってくださる』と説明してある。お優しいお貴族様とはアシルのことであるが、私兵は俺の兵を使っている。


 俺達は、アンガス・ド・パーをアンガス、スージー・ラミーをスージーと呼ぶと統一している。本人達の要望で、スージーも『ド・パー』であった時期があるゆえ、咄嗟の時に反応してしまうそうだ。そのため、普段から呼び分ける。


「アンガス、先導せよ。先に出立した隊を追い越すつもりでな」


「張り合うなら一緒に行けば良かったじゃないですか。ま、雇い主には逆らいませんよ」


「おい、旦那様の命令には黙って従え。文句も言うな」


「了解です、奥様」


「分かればいいのだ」


 俺の指示に不満を漏らしたアンガスに対し、なぜか敵意を見せたアキだが、アンガスはアキの機嫌の取り方を心得ているようだ。アキは『奥様』や『人妻』といった類の言葉を好んでいる。


 隊列については、異常がない限り固定である。

 先頭をアンガス、最後尾をスージーが行き、それ以外は二列で、前から、俺とアキ、ドロテアとローザ、パヴェルとダルセル、エヴラールとケリングとなっている。武装は、文官以外が帯剣しているのみだ。もちろん傭兵の二人は完全武装だ。そうでなければ意味がない、と思っているらしい。

 荷馬は、アンガスとスージーが一頭ずつ連れ、それ以外は俺の異空間にしまっている。荷馬には『傭兵として他人に預けてはならぬもの』が積まれており、内容は武器やら資産やら少しの食糧やら、そのまま逃げても暮らせそうなものばかりである。


 今回の報酬についてであるが、経費分のみを先払いし、残りは成功報酬として帰還後に支払う。ちなみに金額は相場の五割増しといったところだ。

 宿代や食費、通行料など道中の経費は、先払いの経費には含まれず、雇い主側が負担する。娯楽としての食事、つまり買い食いなどは彼らの私費から払われる。まあ俺の私費から払ってやっても良いのだが。


 その後、街道を駆け抜け、サヌストとクィーズスの国境まで数メルタルという地点まで来た。早朝に出発したおかげでもあるし、一角獣(ユニコーン)のおかげでもあるし、アンガス達の案内のおかげでもある。


 野営は幕舎も張らずに、毛布のみの野宿だ。幕舎を張ろうとしたら、アンガス達に止められたのだ。ただの旅人が幕舎など用意するはずなく、つまり幕舎を張る者は金持ちだ、として賊に狙われやすくなるそうだ。


 翌朝。早朝に出発した。アンガス達の勧めである。


 しばらく行くと、城塞が見えてきた。事前に説明を受けていた、トロテュラー城塞である。ここに通行税を納めるのだ。


「じゃ、俺が代表して行ってきますんで」


「ああ。頼んだぞ」


「いや、冗談キツいっすよ。ほら、お金」


「そうであったな。どれだけいる?」


「そうっすねぇ…こいつら、珍獣扱いで高いかもしれませんぜ」


「では金貨を持っていけ」


「了解です」


 俺はそう言い、クィーズス金貨が入った革袋を渡してやった。旅先の通貨は、外交用に仕入れてあったので持ってきた。

 クィーズスとテイルストの通貨は、銅貨二十枚で銀貨一枚、銀貨十二枚で金貨一枚として両替できるが、銅貨のものは銅貨で、銀貨のものは銀貨で、金貨のものは金貨で買うのが礼儀なのだそうだ。持ち合わせが無い場合は、上位の通貨で払うしかない(下位の通貨では無礼)が、その時は釣り銭を求めてはならぬとも聞いた。この点、サヌストは特殊だが、便利なのだ。ちなみにノヴァークは通貨を発行しておらず、他国の通貨をそのまま使用している。


 しばらくすると、アンガスが兵士を連れて戻ってきた。足りぬのか。


「こりゃあ…俺には分からんなぁ。よし分かった。珍獣料金でいいぞ」


「おい、分からんのに珍獣料金にしてんじゃねぇよ。上官を呼べ」


「ノヴァーク人のくせに…」


「何か言ったか?」


「いや、ケチなノヴァーク人もいたもんだなと言っただけだ」


 クィーズス人の兵士は悪態をつきながら戻っていった。


 ちなみに、今回の旅はサヌスト語が通じる国ばかりであるので、通訳はいらぬ。唯一、テイルストにはテイルスト語があるが、テイルストの公用語としてサヌスト語も認められているので、通じる。

 ただ言語は同じでも、言葉の抑揚が違ったりする。サヌスト人はこれを西方訛りと呼んでいるが、西方訛りを話す人々は、サヌスト人の話す言葉をサヌスト訛りと呼ぶ。


「ファブリスさんよ、あいつ、自分が怒られたくないから、高い方を払わせようとしてるんですぜ?」


「低い方だったらどうするつもりなのだ?」


「そりゃあ…あいつの娼館通いが増えるだけだ。返金なんてされんよ」


「そうか」


 さらにしばらくすると、上官を連れた先程の兵士が戻ってきた。上官はかなり老齢であるから、さらに上の上官は呼ばれぬだろう。


「おい、この隊は誰が?」


「俺だ」


 兵士の上官は偉そうにそう言ったので、俺が前に出た。国境付近だけでも普通の馬に乗り換えるべきであったか。


「クィーズスに何の用だ?」


「商売を忘れて旅をせよ、とのお達しだ。旅を終えて帰る頃には、俺は商会長だ」


「商売を忘れた商人…か。で、この…馬みたいな動物は何だ?」


一角獣(ユニコーン)を知らぬのか?」


「知らんな」


「最近、サヌスト王が発表した…馬の新種のようなものだ。とある貴族様から安く譲ってもらったゆえ、後継者である俺が乗っている」


 ちなみにミミル商会に一角獣(ユニコーン)を安く譲ったのは本当だ。レリアに渡す蒼玉の入手に際し、速達用に贈ったのだ。ただ、ミミルが無料(ただ)で受け取るわけにはいかないとして、移動用の馬より少し高い金額を受け取った。一角獣(ユニコーン)としては格安だ。


「お貴族様ねぇ。で、そのお貴族様ってのは誰だ?」


「ジル・デシャン・クロード公爵様だ。新興の方であるゆえ、おぬしは知らぬかもしれぬが、ヴォクラー神の使徒様であられるぞ。俺も一回だけ拝んだことがある」


「ほう…?」


「俺は、かの公爵は武人としても大成されると見た。ついこの前、クラヴジック城で叛乱があったそうだが、それも使徒様の指揮で鎮圧なさったとか。そんなお方に乗じて、我らミミル商会は規模を拡大し、半年足らずで以前の数千倍の規模となったのだ」


 俺は新興の貴族であるゆえ、『ジル・デシャン・クロード公爵』について教えてやるには、自分の手柄について語らざるを得なかった。それに今の俺は公爵ではなく、ミミル商会の後継者として来ているのだから、宣伝もしておいた。

 俺の目的は単なる自慢ではなく、面倒な奴と思わせて早く通らせてもらうことにある。実際、次の言葉を考える数瞬のうちにアンガスに近づき、通行税を受け取って戻っていったのだから、この策は成功だ。

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