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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第311話

 三十日の朝、完全武装の二百騎を率いて王都を出た。賊が改修して使っておらぬという確証はないためである。

 ガッド砦は、一角獣(ユニコーン)で駆ければ、半日とかからぬ距離にある。ちなみにジェローム卿の要請を受け、中央軍の軍馬のうち半数を一角獣(ユニコーン)化しており、ゼーエン作戦にはそれを用いる。


 ガッド砦には昼前に着き、昼食休憩を経てから調査を開始することにした。


「客将様、先に調べたらいいだろ」


「ああ。賊がいてもらっては困るのだがな」


 俺はそう言いつつ、ガッド砦を天眼で調べた。賊がいれば俺の功績になるが、今の俺は功績を欲しておらぬ。ゆえに何もおらぬ方が良いのだ。


 ………いるではないか。それもこちらの五倍程度もいる。まあ半数程度は眠っているようだが…そうか…いるのか。


「まさかいたのか?」


「ああ。夜までには終わらせねばなるまい」


「やるか」


「ああ」


 俺は兜を出し、短剣で叩いて皆の注目を集めた。野掛け気分の騎士が半数以上であるから、気を引き締めてやらねばならぬ。


「よく聞け。ガッド砦は約千名の賊に占拠されている。幸い、見張りはおらず、馬もおらぬので、勝機は充分にある。ガッド砦に詳しい者はいるか」


 俺が全隊に向けてそう言うと、二名の騎士が歩み出た。


 しばらくその二名と話し合い、作戦を決定した。

 ガッド砦の城門は東西に一箇所ずつあるだけだが、砦を破壊するに際して、城壁が崩れ、出入りが可能となっている場所を含めると、四箇所になる。

 全隊を四つに分け、四十騎の隊を一つ、三十騎の隊を二つ編成し、残りを一つの隊に纏め、西側から四十騎、崩れた城壁の隙間から三十騎ずつを突入させ、隙間から漏れ出た賊を百騎が対処する。これが大まかな作戦だ。

 四十騎の隊は俺が、三十騎の隊の一方はアルマン、もう一方はオレールが指揮し、外の百騎はシメオンが指揮する。ちなみにアルマンとオレールはガッド砦に詳しいと言った二名の騎士、シメオンはゼーエン作戦の第二十三隊の隊長だ。

 エヴラールは俺、アキはシメオンの隊につく。ちなみにシメオンは、ノヴァーク行きの武官のうち最年長者で、かつ俺を除けば、ゼーエン作戦に従事する武官で最も高位にある。


 作戦開始の合図は俺の隊の突撃による音である。大きい砦ではないので、戦闘が始まれば分かる。

 東側の百騎が、言ってしまえば本陣であるから、俺の隊の準備が整う頃には、他の二隊の準備は整っていることになる。


「突撃せよ!」


 俺の掛け声で、突入を開始した。もちろん先頭は俺が行く。

 一応、物陰に隠れていた見張りの隊も、なぜか酒瓶を傍らに寝ているので、通過の時に刺し殺した。

 今回は、賊の生け捕りではなく、殲滅が目的であるから、俺は槍を使っている。手加減の必要が無いので練習にちょうど良いし、なにより馬上から歩兵に対するのは槍の方が便利なのだ。


「人質以外は殺せ。人質がおらねば鏖殺だ」


 俺はそう言いながら砦の内部を駆け回り、寝起きの賊どもを殺してまわった。久々の戦闘だ。いや、一方的な蹂躙だな。

 俺が殺した賊も三十人に昇る頃、アルマン隊と出会った。


「砦内の殲滅はほぼ完了したものと思われます。人質もおりません。外の百騎の援護に向かうべきかと」


「そうしよう。我が隊はオレール隊と東門から出る。アルマン隊は砦内の賊を一掃せよ」


「はは」


 俺はアルマンにそう命じ、別れた直後にオレール隊と合流した。

 東門に向かう途中にも賊が溢れていたので、右手で剣を持ち、左手でラスイドを振るうことにした。この方が効率が良い。槍の役目はヌーヴェルの角で果たせる。


 シメオン隊は十騎ずつの小さな隊に別れ、簡易的ではあるものの、半包囲網を敷いていた。その中央付近ではアキの魔法が炸裂し、賊が弾け飛んでいた。


「オレール卿、隊を率いて右側、南側の賊を掃滅せよ」


「閣下はどうなさるので?」


「俺は左に行く。俺の隊も任せたぞ」


 俺はそう言い残し、単騎で駆けた。エヴラールが事情を説明してくれているであろう。アキが中央、俺が左側の敵を掃滅する、と。

 俺は同士討ちを防ぐために禁じていた魔法を解禁することにした。火魔法やら雷魔法やら風魔法やらを、味方に当たらぬように乱射した。これで終わりである。


 天眼で戦場を確認すると、いや、天眼を使うまでもないのだが、勝敗は既に決していた。武器を棄てて投降する賊もいたが、俺の命令は賊の鏖殺である。受け入れられるはずもない。


 俺は北にいる十騎長達に包囲網を狭めるよう命じ、中央のアキに向けて駆け始めた。中央の方にいた賊もほぼ死に絶えているが、生き残りは馬蹄で踏み潰すか、槍で貫くかして殺した。


 アキと合流すると、シメオン達も一緒にいた。一緒にいる意味などなかろうに。


「閣下…!」


「シメオン卿、掃滅が終われば、おぬしは全隊を率いて王都に行き、文官と傭兵を連れ、明日戻れ。後処理は俺がやっておく」


「後処理は小官が致しましょう」


「魔法で埋めるのだ。おぬしに出来るか?」


「あ、魔法で…それではお願いいたします。閣下の隊の傭兵はいずこに?」


「パヴェル書記官に言えば分かる」


「は」


 俺はシメオンに隊を任せ、アキと一緒にエヴラールを探すことにした。まあ天眼を使えば居場所は分かるのだが。


 エヴラールと合流する頃には既に賊狩りは完了していた。

 各隊に被害を報告させたが、戦死者も負傷者すらいなかった。ゼーエン作戦には精鋭しか参加せぬし、攻める騎兵と逃げる歩兵では同士討ちでもない限り、怪我のしようもない。


 その後、シメオンに率いられて全隊が王都に向かった。俺は異空間から幕舎を出し、休憩することにした。

 その間、ラヴィニアに命じ、ゴーレム数百体で後処理にあたらせた。死体の鼻を削ぎ、穴を掘って死体を埋めるのだ。死体を放置すれば疫病のもとになるが、かといって賊に占拠されていた証拠を隠滅する訳にもいかぬので、鼻を削ぐのだ。俺には必要ないが、五倍の賊を滅ぼした者には報奨も出るはずである。


「おい、客将様」


「何だ?」


「ワタシも今回の作戦に参加することになっているが、ワタシに許可を取ったのか?」


「取っておらぬ。行きたくないのであれば、勝手に残れ。おぬしの意を察した上で聞かなかっただけだ」


「よく分かっているではないか。それが聞けて満足だ。おい、エヴラールは聞かれたか?」


「察していただきました」


「聞いてないのか。さすがに聞いてやれよ」


「エヴラールが俺の命に背いたことはない」


「本人達がいいなら、ワタシも口は挟まんがな。他は誰を連れていくのだ?」


「これを見よ」


 俺はそう言い、異空間から紙を一枚出した。俺が率いる第三十一隊の参加者の一覧である。

『ジル・デシャン・クロード公爵・客将軍、同公爵夫人アキ副客将軍、同客将軍副官エヴラール、同公爵家臣ケリング、アシル=クロード伯爵家臣ローザ、同伯爵家臣ドロテア、宮廷書記官パヴェル男爵、宮廷書記官補佐ダルセル。以上のサヌスト人に加え、道中の案内人としてノヴァーク人傭兵、アンガス・ド・パー、スージー・ラミーの計十名が、クィーズス王国、テイルスト王国、ノヴァーク王国を順に巡る第三十一隊に属す』とある。


 アキの称号の副客将軍というのは、アキの正式な官名である。つい先日決まったことだそうで、俺の直属の部下ということになっている。

 ケリングを連れていくのは、単に気に入っているからではなく、俺とレリアの子(アンファン)の傅育役に任じようと目論んでいるからであるが、これは誰にも言っておらぬ。

 アシルは自身の部下から二人、ローザとドロテアを同行させるように要求し、俺は断る理由もないので承知した。この二人は影狼衆に属するクノイチで、なかなか優秀であると聞いている。

 書記官のパヴェル男爵とその補佐官のダルセルは、ヴァーノン卿が選んだ文官である。

 ノヴァーク人傭兵の二人についてであるが、二人は元々は義理の姉弟であったが、スージー・ラミーが夫と離縁し、現在は、アンガス・ド・パーの兄にしてスージー・ラミーの元夫である、グレッグ・ド・パーが取り仕切る傭兵団の一員として、武者修行をしているそうだ。つまり、アンガス・ド・パーは兄に、スージー・ラミーは元夫に命じられての武者修行である。俺の感覚では意味が分からぬ。


 それから、参加者のうち、官吏は偽名を用いる。官吏の名は調べようと思えば調べられるし、貴族であれば尚更容易に調べられる。念のため、傭兵の二人にも偽名を名乗る。

 その偽名であるが、俺はファブリス、アキはユキ、エヴラールはアデラール、パヴェルはエヴェル、ダルセルはマルセルとした。俺はサヌスト王家であるドーヴェルニュ家の開祖フランツィスクス王の父の名を、不遜であるが借りることにした。俺以外は、親族の名や語感が似ている名を名乗る。

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