第30話
俺が本を取りに行って戻るとレリアは寝ていた。
なので俺はレリアを起こさぬように椅子を持ち上げてレリアの隣に椅子を置き、座る。
するとノックがあった。
「失礼します。朝食をお持ち致しました」
「おう。こっちに並べてくれ」
俺はレリアを起こす。
「おーい、レリア〜。起きろよ〜」
「…ん?あ!朝ご飯!食べていいの?」
「ああ。食べよう」
「いただきます!」
レリアは何事も無かったかのように元気に朝ご飯を食べ始めた。
俺も隣で食べる。
「ジルっていつもこんなに食べてるの?」
「ああ、そうだ。『いっぱい食べれば強くなる』俺はそう考える派の人だから」
俺とレリアは何気ない会話をしながらご飯を食べる。
朝ご飯を食べ終えるとアシルが迎えに来た。
俺はアシルとレリアと一緒に領主の部屋に行く。会議室みたいな所らしい。
するとアシルが念話を送ってきた。
───ジル殿、少しいいか?───
ん?どうした?
───『バレーヌの宿』のことなんだがまずいかもしれんぞ───
というと?
───夜の間に調べたらしいのだがそこの宿はよく女性が消えるらしい。それでも宿が続いていたのは宿泊代が安く団体の客がよく使っていたからだ───
つまりどういうことだ?
───敵は大きい組織の可能性がある───
そうなったら俺が全員斬るぞ。
───フッ。あんたらしい───
念話が終わった。レリアには言わない方が良いのかな?
部屋に到着し、中に入る。
「これで全員揃ったな」
エジット殿下がそう言う。
「レリアさん。昨日の事を教えてくれ」
「え…?」
「もちろん言える範囲で良い」
エジット殿下がレリアに質問する。
「安心しろ。敵はこれから斬る相手だ」
「うん」
俺はレリアにそう言う。レリアの敵は俺の敵だ。俺が斬らなければ。
「昨日の夜、館を抜け出して宿に荷物を取りに宿の部屋まで行くとベッドの下から男が出て来て口をハンカチで押さえられて…その後は髪を乾かしてもらっていました」
「なるほど…」
エジット殿下が考えるように黙り込む。なので誰も話さない。
「ジル卿が部屋に行った時は男は何人いた?」
「三人だ。暗くてあまり見えなかったがベッドの下に入れるような奴はいなかったぞ」
エジット殿下はまた黙り込んだ。
「アルセーヌ、衛兵を借りるぞ」
「承知しました。何名連れて行かれますか?」
「精鋭を五十人ほど」
「直ちに準備を始めさせます」
エジット殿下が領主に兵を借りるらしい。ちなみに衛兵とは街の治安を守る兵のことだ。
「ジル卿、力を貸してくれ」
「おう。レリアの敵は俺が斬る!」
衛兵の準備が整ったようなので早速『バレーヌの宿』へ向かう。
レリアは館で待機だ。侍従武官全員に命を賭して守るように言いつけてある。
今回の指揮はエジット殿下直々に執るらしい。アルセーヌも行くのだが指揮権を譲っていた。理由は聞いていないがエジット殿下に功績を挙げさせようとしているのかな、と予想している。
作戦としては俺が五人の衛兵を引き連れて受付のおばさんの所まで行く。そして入口付近では十人ほどの衛兵を引き連れたエジット殿下とアルセーヌが待ち構える。残りの三十五人の衛兵はアシルの指揮に従って宿を包囲する。
俺はおばさんの所まで行く。もちろん武装して。
「おばさん、昨日ぶりだな」
「あんたは確かレリアの彼氏だったかい?」
「ああ。ところで何かやましいことは無いか?」
「そうだね…レリアに貸した部屋が襲撃されたことに関係するのかい?」
「おばさんが知る必要は無い。俺の質問に答えろ」
「警備が甘かったことは認めるよ」
「それだけか?」
「…」
「それだけかと聞いている」
「仕方ないねぇ」
おばさんはため息をついてそう言う。
「あんた達、やってしまいな!」
おばさんがそう叫ぶと入口のドアが閉められ、窓も閉められた。真っ暗だ。
俺は天眼を使って気配を探る。
キャットウォーク(高い所の窓の近くの通路)に二十人。全員弓を構えている。
そしてドアを閉めた奴なのかドアの近くに五人。こちらは剣を構えている。
受付のおばさんがいない。
俺は連れてきた衛兵に指示を出す。
「明かりを灯す。三人は上からの矢に気をつけながら入口付近の敵を頼む。二人はあのおばさんを捕らえろ。俺は外に連絡しながら上の奴らを斬る」
「「「御意!」」」
俺は火魔法で空中に火をいくつか出す。燃え広がらないように加工して至る所に火を放つ。
「くそ!奴が火を放った!」
敵が慌てている間に念話を送る。
アシル!敵を逃がすな!おそらく三十人以上いる!
───承知した!───
次はエジット殿下だ。
エジット殿下!突入してくれ!
エジット殿下は念話に返事すら出来ないので返事を待たずに風魔法でキャットウォークに登る。
雷魔法を拳に纏って一人目を思いっ切り殴り飛ばす。それに巻き込まれて三人くらいが下に落ちて行った。
次は弓を喚び出して射撃戦に移る。
二本同時に矢をつがえ、二人の肩に当てる。それを六回繰り返す。
残りが五人くらいになったところで俺は短剣を抜き、二人に投げつける。殺さぬように太ももあたりを狙って。
その次は剣を抜いて二人の胴を浅く斬りつける。
最後の一人は火魔法で作った冷たい火で髪の毛を焼き、頭を押さえているうちに蹴り飛ばして落とす。
エジット殿下が突入する前に終わってしまった。もしかして届いてない?
「ジル卿、受付の女が死んでおりました」
「それも干からびておりました」
俺はおばさんを追った二人の衛兵から報告を受ける。
「どこだ?」
「こちらです」
「ちょっと待ってくれ」
俺は衛兵の案内を止め、入口で戦っていた三人の衛兵の助太刀に入る。まだ終わってなかったようだ。
火魔法で髪の毛を焼いておいた。
そのついでに投げた短剣を回収する。
「助太刀、感謝致します」
「気にするな」
「このドアって内側からしか開けれないのか?」
「そのようですね」
「開けてやれ。そしてエジット殿下が引き連れている衛兵と協力してこいつらを縛り上げておけ。俺はおばさんの死体を調べていると言っておいてくれ」
「承知しました」
俺は案内の衛兵の所まで行き、案内を受ける。
「こちらです」
衛兵が立ち止まった。
「ここです。女は地下通路から逃げようとしたのでしょうか?」
「この扉の向こうは調べたか?」
「地下通路でした」
「奥は調べたか?」
「いえ、戻れなくなって兵力がこちらに割かれるようなことになってはいけないと判断しました」
「良い判断だ。では、俺は行ってくる」
「「え!?」」
衛兵の驚きを背中で感じながら扉を開け、中に入る。
所々、松明が灯されているようで真っ暗という訳では無い。細い道だが通れぬことはないな。
しばらく進むと開けた場所に出た。
「ククク。人間が自らやってくるとは…我の日頃の行いが良いからかのう?」
どこからか声が聞こえた。
一応返事をしておくか。
「誰だ。姿を現さぬ臆病者め」
「我のことを臆病者と言うか。その脳を食らってくれるわ」
すると影が実体化し、大男が現れた。身長は二メルタくらいあるだろうか。顔を見ると目が赤く口が耳まで裂けていた。全体的に格好が暗いな。
「そうか。食いたければ食えば良い。俺を殺せるのならな」
「造作もない」
奴は手に魔力を集中させた。
「なんだ、デカブツのくせに魔法使いか。やはり貴様は臆病者なんだな」
一応煽っておこう。
「ほう?魔力の流れを読み取るか。この時代の者にしてはなかなかやるな」
「貴様は魔石を持っているのか?」
「それを知ったところでどうする?」
「あるかどうかを聞いている」
「ある。十五。魔王陛下に次いで二番目に多い。貴様は一つであろう?」
「数が多ければ良いというものでもない」
俺は奴が魔法を撃つまで待つ。
「なかなか惜しい駒だが仕方あるまい。約束であるからな」
「さあ、一撃で倒してみろ」
奴は叫びながら魔法を撃つ。矢の形をした雷が飛んできた。
俺は難なく剣で斬り裂く。
「な…に…我の最大火力の魔法が相殺されるだと…」
「これで最大火力か。魔石が多いくせに弱いな。じゃ、俺の番だ」
俺はなにやらブツブツ言っている奴に向けて魔法を撃つ。矢の形をした雷魔法を。
奴はろくに相殺せずにまともに魔法を受け、倒れた。
「我の…負けだ」
「弱いな」
「言い訳に聞こえるかもしれぬが我は五百年ぶりの戦闘なのだ」
「言い訳だな。というわけで殺すぞ」
「ああ。我ら魔族は勝者に絶対服従である。好きにせよ」
「おっと危ない。名を聞き忘れるところだった。名乗れ」
「我の名はヨドークだ」
「そうか。では、ヨドークよ。潔く死ね」
俺はヨドークを苦しませぬよう最大火力の魔法を撃つ為に魔力を右手に溜める。
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