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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第307話

 レリアのことを考えていると、レリアが来た。あまり待たなかったな。ほんの一瞬であった。いや、レリアのことを考えていたおかげで短く感じるだけか。まあどちらでも良いな。前者と思っておこう。


「お待たせ。ごめんね、待ったよね?」


「いや、全く待っておらぬ」


「良かった。あ、注文は任せてね」


「ああ。楽しみにしているぞ」


 俺がそう言うと、レリアは品書を取り、少し考えてから店子を振り向いた。


「ここからここまで、あとこれとこれとこれを二つずつ、こっちは四つで、これとこれは一つずつ。それから…あ、やっぱり、とりあえずこれで」


「承知しました」


「あ、あたしはお酒ダメだから、それだけよろしくお願いします」


「伺っております。それでは少々お待ちください」


 店子はそう言い、部屋を出ていった。

 レリアは品書をしまい、顔を前に突き出した。俺も顔を前にし、レリアの顔に近づけた。良い日常だな。最高だ。


「頼みすぎって思ったでしょ?」


「まあな。だが、いつもは全種頼むではないか」


「あ、そういえばそうだったね。でもね、こんな言い方は失礼かもしれないけど、ここの料理ってすごい…少ないんだよね。だいたいの料理が匙一杯だよ」


「質より量を極めたということか」


「うん、そんな感じ。美味しいけど、いっぱいはいらないって感じだから、たぶん計算されてるんだろうね」


「なるほど」


 普段からキトリーの料理を食べているレリアにそう言わしめるとは、このドゥースュクレの料理人もなかなかやるな。まあ多くは食べたくないということであるから、キトリーには及ばぬのであろう。


 しばらくレリアと楽しく話していると、料理が運ばれてきた。匙百本ほどを数人がかりで運んできているので、個室でなければ目立ってしまうな。色々と考えられているようだ。


「それではごゆっくりどうぞ」


 代表の店子がそう言い、再びレリアと二人きりになった。

 机の上に並べられた匙の群れを見ると、本当に匙一杯に一種類の料理が載せられているだけである。匙に載せられた一杯も、匙のつぼの四割ほどを使っているだけで、桜桃程度の大きさの料理だ。

 質より量というのは良いが、少なすぎるのではなかろうか。よほど味に自信があるようだな。


「じゃ、食べよっか。はい、あーん」


「あー」


 レリアが食べさせてくれるようなので、俺は口を開けて待った。匙が口の中に入ると、強烈な甘みを感じた。舌に触れる前に、である。

 匙の上から舌の上に料理が移ると、かなり濃い甘みを感じる。最初から甘いものを食べるのか。まあレリアの判断であるから、これが正解なのであろう。


「どう?」


「甘いな。かなり甘い」


「え、ほんとに?」


「ああ。砂糖より甘いのではなかろうか」


「赤いから辛い料理かと思ったんだけど、間違っちゃったね。あ、こっちはどう?」


「その前に飲み物を…」


「そんなに甘かったの?」


「ああ」


 俺は置いてあった得体の知れぬ飲み物を飲んだ。これも甘いのか。仕方あるまいな。耐えよう。


「じゃ、気を取り直して、はい、あーん」


「いや、今度はレリアの番だ。どれが良い?」


「ジルと一緒のを食べたいな。だから…これだね」


「分かった。では、あーん」


「あーん」


「どうだ?」


「ん、甘〜い!」


 レリアは両手で頬を押さえ、目を瞑り、笑顔でそう言った。最高に可愛いな、本当に。


「これはあれだね、デザートだね」


「確かにそうかもしれぬな」


「じゃ、こっちはどうかな。はい、あーん」


「あー」


「どう?」


「美味いな」


「でしょ?」


「レリアも食べると良い。あーん」


「あーん……これだよ、これ。あたしが食べて欲しかったやつ。たぶん、こっからここまではこういう感じだね。やっぱり見た目で選んじゃダメだね。赤くても辛くなかったし」


「ああ」


 その後も互いに自分では食べず、俺はレリアに、レリアは俺に食べさせられ、食事を終えた。楽しくなって追加の注文を繰り返し、ドゥースュクレを出る頃には昼を過ぎていた。


 俺達はレリアの希望で、歴史書を買い集めることにした。

 俺とレリアの間に生まれる子の命名に際し、歴史上の人物から貰い受けることに決まったのだ。そうすれば、心配していた変な名前にはならぬ。ちなみに命名までは、仮の名として『アンファン』と呼ぶことにした。


 俺としては、歴史上の人物の名を貰い受けるなら、あまり有名ではない人物の名前が良い。例えば、アンドレアス王と同名であれば、アンファンが重圧を感じるかもしれぬ。だが、例えば聖アルベリクであれば、よほどの知識人でない限り、詳しくは知らぬ。そういう人物の名をアンファンには与えたい。

 こんなものは、命名権を有さぬ者の希望であるから、レリアには伝えぬ。レリアは優しいから、俺に気を遣って、アルベリクと名付けてしまいそうであるから。まあ男児が産まれると決まった訳ではないので、アルベリク一択という訳でもなかろうが。


 その後、本屋や古書店を何軒か巡り、合計百冊程度を買った。歴史書だけではなく、レリアの趣味の本もいくつか買った。これで荘園に篭っている間も暇をせぬだろう。


 帰宅後、食堂に行くと、アキやキアラ達がパーティの準備を終え、既に席に着いていた。壁には『誕生祝賀会・送別会』と書かれた紙が貼ってある。そうか、送別せねばならぬのだな。


「二人も帰ってきたことだし、始めましょう。ジル様はこっち、姫はそっちに座りなさい。ちゃんと計算してあるのよ」


 キアラの言う通り、俺とレリアは向かい合うように座った。

 レリアが上座に座ったのは良いが、俺はなぜか下座に座らされた。権威を誇示するわけではないが、俺はキアラの主人である。まあそんな事を言って空気を悪くするのは望まぬし、レリアの正面であるから、黙って従うが。


「さ、食事を始める前に、妾から始まりの挨拶をするわ」


「そんなのいいだろ。早く始めろ」


「三下は黙りなさい」


 アキから野次が飛んだが、キアラは静かに叱りつけ、アキを黙らせた。妙な威圧感があったな。


「姫、少し早いけど誕生日おめでとう。それから懐妊おめでとう」


「ありがと」


「今夜は姫の健康に良さそうなものばかりを用意したから、満腹になるまで食べてもいいのよ。少しは肥らないと、元気な子を産めないわ。さ、乾杯」


「「「乾杯」」」


 何の脈絡もなく乾杯したので、少し出遅れてしまったな。まあ良いか。


「早速で悪いけれど、姫に贈り物がある人は並びなさい。あ、ジル様は最後よ。ジル様が最初に贈っちゃうと、他の贈り物が霞んでしまうから」


 キアラはそう言い、皆が並び始めた。

 先頭に並んだのは、イリナであった。イリナがレリアに日記を渡すと、二人は俺の予想通りの会話をした。なぜであろうか、二人に対して申し訳ない気がするな。


 次はアキが並んでいた。アキは二十メタ程度の大きさの銅像三体を机の上に置いた。それぞれ、俺、レリア、アキを象っているように思える。


「姫、これはな、中身は黄金だぞ。ワタシ達三人は、外見はもちろん、中身も優れているからな。だから黄金の像を作ったのだ」


 銅像ではなく黄金像であったようだ。だが、黄金らしく見えぬよう塗装されている。


「ありがと。でも、そんないいもの貰っちゃっていいの?」


「どこかに飾れ。いや、荘園に持ってけ。それで旦那様を思い出せばいい。できればワタシも思い出せ。無事に子どもを産んで、荘園から出てきたら、いい感じの場所に飾れ」


「そうするね。ほんとにありがとう」


「気にするな」


「はい、次よ、次」


 アキはキアラによってレリアから引き離された。キアラに任せたのは間違いであっただろうか。まあレリア自身は楽しそうにしているので良いか。


 その後、アルテミシアや家臣一同、侍女達からもそれなりの物を贈られ、俺の番が回ってきた。


「さあ、お待ちかねのジル様よ。これまでの全員からの贈り物を超えるような贈り物があるはずよ。姫はもちろん、他の者も楽しみにしていることね」


「期待して良いぞ」


 俺はそう言いながらレリアの前に移動し、跪いた。


「左手を」


「え、ほんとに?」


 レリアはそう言い、嬉しそうに左手を差し出した。俺は笑って応え、レリアの薬指から婚約指輪を一度外した。

 それから異空間から指輪を取り出し、レリアの薬指に嵌めた。そしてその上から婚約指輪を再び嵌めた。結婚指輪を婚約指輪で封じることで、永遠の愛の証となるそうだ。


「本来は結婚式で交換すべきであったが、いつになるか分からぬゆえ、勝手に用意させてもらった」


「…心の準備ができてないんだけど…これって、え、そういう事だよね?」


「ああ。俺は結婚指輪のつもりでこれを贈る。ちなみに俺も着ける」


 俺はそう言い、自分用の結婚指輪を着けた。


「お揃いだ…ほんとのやつなんだ」


「ああ。だが、これが最後である必要は無いと思っている。結婚式をした時、改めて別のものを用意しても良いし、別の機会に別のものを用意しても良い」


「そんなの…あたしはこれが一番いい。もう気に入っちゃった。別の指輪もいいかもしれないけど、あたしはこれで大満足だよ。ありがと、ジル」


「俺はレリアの笑顔が…」


「はい、終了よ。みんな見てるわ。後でやりなさい」


 キアラはそう言い、俺の襟首を掴んで、俺の席まで引きずった。俺は常人の三倍程度の体重があるはずだが…凄まじい力だな。


「さ、食べて喋って祝って惜しんで、とりあえず姫と出来ることは全部しましょう。無礼講で結構よ」


 キアラがそう言い、自ら素手で肉を掴み、齧った。無礼講とはそういうことなのであろうか。


 その後、深夜まで続くかと思ったパーティであるが、レリアの体調を気遣い、夜が深まる前に終えた。途中、ローラン殿が来て『夜は寝室から出るな。何があっても』とだけ言い残し、どこかへ去った。

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