第283話
俺はジェローム卿とジュスト殿に先導され、ヴァーノン卿、アキ、エヴラール、アデレイド、アルバン(財政系の文官)と共に、王宮に到着した。
俺とヴァーノン卿以外は控え室に連れて行かれ、俺達は謁見の間に案内された。ジェローム卿とジュスト殿が扉を開き、俺達は入室した。いつもは兵士が立っているはずだが、今日はなぜか姿が見えぬな。
既に陛下は玉座にあり、文武の高官が左右に控えている。俺はヴァーノン卿と並んで進み、陛下の前に跪いた。
「おもてをあげ、報告せよ」
「は。アルフレッド派連合軍、サヌスト王国正統政府軍、尊主翼賛軍などと称する叛乱軍は、三年間の停戦協定を要求したため、我が軍はこれを承認いたしました。叛乱軍はマルク・フェルナンド水軍、その他の武装商船などを用い、海上に消えたため、同軍による治安悪化は防がれたものと判断します。また、クラヴジック城守にはアブデラティフ卿、副城守にはモルガン卿を、それぞれ任ぜました」
俺はそう報告した。叛乱軍の名称については、報告書に詳細を記せば良い。今はなるべく簡潔に説明し、なるべく早く解散したい。
やはり高官どもが控えていると、礼を失してはならぬと必要以上に緊張する。そもそも俺は陛下に侍る高官どもを好ましく思っておらぬ。前王ギュスターヴの顔色を伺い、機嫌を取って出世した(と思われる)者が重要職に就いていると考えると、何とも言えぬ気分になる。
「ご苦労。宰相の方は如何に?」
「は。クラヴジック城塞内にツィリーナル地方総督府を設置し、同総督は第一将軍格家退役当主パッセルス卿を任ぜました。また、マルク・フェルナンド提督ジャンリュック卿が賊の襲撃を受け、死亡したため、第四将軍格家ローラン卿をその代理といたしました」
「マルフェ提督が…第四のローランというと、公の叔父御と記憶しているが、なぜマルフェにいた?」
「私にも分かりかねますが、ジャンリュック邸を襲撃した賊の殲滅したのが彼でございます」
「ふむ…」
陛下はヴァーノン卿の報告を聞いて考え込んだ。高官どもも騒つき始めた。陛下の御前で無礼ではなかろうか。
「相分かった。二人とも下がってよし。公は、辺境軍の移送ののち、三日間の休暇を与える。侯は、これより三日間の休暇を与える。九月になったら、二人とも参内せよ」
「「はは」」
俺とヴァーノン卿はそう言い、謁見の間を辞した。ジェローム卿は残り、ジュスト殿は俺達についてきた。
「では宰相閣下、ごゆるりと」
「うむ。失礼する」
ジュスト殿にそう言われ、ヴァーノン卿は自邸へと帰っていった。
俺はジュスト殿に連れられ、閲兵場へ向かった。辺境軍の兵士を連れ、クラヴジック城へ転移するのだ。むろん、俺は転移後、王都に戻る。
閲兵場に着くと、辺境軍の歩兵八千が整列していた。近くには当面の食糧や武器などが置いてある。
「ジェラール!」
ジュスト殿がそう呼ぶと、この部隊の部隊長と思しき兵装をした騎士が走ってきた。ここでいう騎士とは称号としての騎士であり、騎兵という意味ではない。
「客将軍閣下とお見受け致します。某はクラヴジック城守隷下、辺境軍歩兵隊の部隊長を仰せつかった、ジェラールでございます」
「ジル・デシャン・クロード公爵だ。クラヴジック城まで貴殿らを送り届ける。物資はあれだけか」
「は。三ヶ月分の糧食に、替えの鎧が千領、剣が三千本、槍も同じく三千本、弓は二千で…」
「内容はどうでも良い」
ジェラールは指折り数えながら、荷物の内容を説明した。だが、今の俺はそんなものには興味が無いので、中断させ、準備をさせた。
今回もクラヴジック城の近くに転移する。城内に転移しては驚くであろうし、そもそも空いているとは限らぬ。
「閣下、すぐにでも転移してくださって構いません」
「そうか。ではジュスト殿、しばし行ってくる」
「おう」
ジュスト殿は手を上げてそう言ったので、俺も手を上げ返しておいた。
俺は辺境軍歩兵隊とその荷物と共に、クラヴジック城の西三メルタルに転移した。この程度は自分達で歩いてもらおう。
「ではジェラール卿、総督閣下や城守殿、副城守殿によろしくお伝えいただこう」
「は。ところで、総督閣下や城守殿、副城守殿はどなたが…?」
「そうであったな。ツィリーナル地方総督は第一将軍格家のパッセルス閣下、城守は旧クラヴジック城塞騎兵隊のアブデラティフ卿、副城守はモルガン卿だ」
「承知したしました」
「では俺は失礼する」
俺はそう言い、王宮の閲兵場に戻った。ジュスト殿は待っていてくれたようだ。
辺境軍の荷物を見て思い出したが、中央軍の荷物を預かったままであった。金貨十億枚もそのままだ。ジュスト殿に一任してしまおう。
「早いな」
「行って戻るだけであるからな。それよりジュスト殿、大金を扱う度胸があるか」
「俺を誰だと思ってる?」
「そうであったな。では、中央軍の物資と戦利品である金貨十億枚をここに出すから、処理を任せて良いか」
「十億枚…そうかそうか。俺が…」
「無理であったか」
「舐めてもらっては困るな。ちょうどここが空いてるから、適当に出しておいてくれ。俺が片付けておくから、ジル卿はゆっくり休め」
「ありがたい」
俺はそう言い、閲兵場に中央軍の物資と金貨十億枚を全て出した。強引な説得であったが、ジュスト殿は優秀であるし、陛下の信頼も篤いから、任せておいて良かろう。
「では失礼する」
「ああ。明日か明後日か…ジル卿の休暇中に屋敷を訪ねるぞ」
「別に構わぬが…忙しいかもしれぬぞ」
「それまたなぜ?」
「ジャンリュック卿の娘御を保護した。荷物が極端に少ないから、日用品を買い集める」
「あの娘がマルフェ提督の娘?!」
「ああ。賊に攫われたところを、我が義叔父が助けた」
「ほう…その話もその時に聞かせてもらうとしよう。行く時になったら遣いを寄越すから、心配するな」
「ああ。遠慮はいらぬぞ」
俺はそう言い、ジュスト殿と別れた。おそらく、ジュスト殿は俺とアキが昼間から仲良くできるよう、気を遣ってくれたのだ。正直、遣いを寄越してくれるのはありがたい。
ジュスト殿と別れた後、アキ達と合流し、王都の屋敷に戻った。エヴラールは王宮の客将室で寝泊まりをするそうなので、ロイクに何か差し入れするように命じておいた。
ちなみに人狼隊や人虎隊、犬人や猫人は一部を除いて聖都に向かわせた。ローラン殿に預けた者はローラン殿と一緒に帰ってくるはずだ。
「アデレイド、しばらく王都にいるから、必要な物があれば遠慮なく買え。先にも言ったが、俺は遠慮や気遣いをする子は嫌いだ。俺に対しては遠慮や気遣いはいらぬ。良いな?」
「はい」
「では欲しい物を買ってこい。何度も言うが、遠慮はいらぬ」
「はい。ありがとうございます」
「良し。では」
俺はアデレイドを買い物に行かせた。八歳児が欲するものなど分からぬから、本人に行かせるのが一番良い。
御守としてアンヌを、護衛としてケリングを付けたから、王都でも安心だ。もし二人に懐いたとしたら、二人に預けてしまえば良い。
アキの要望で一番小さい屋敷に滞在することとなり、さらに使用人などを別の屋敷に追い出してしまったので、アデレイドが帰ってくるまでは、アキと二人きりとなった。
「さて、分かるな?」
寝室に入ると、アキはそう言った。謁見であれほど気疲れしなかったら、アキの相手もできたかもしれぬ。高官どもに睨まれながら、礼儀を気にして陛下と話すのは、やはり疲れる。
「分からぬな。俺は寝る。ジュスト殿から遣いが来るかもしれぬから、その時は起こせ」
「おい、据え膳食わぬは…」
「恥で結構。おぬしは分からぬかもしれぬが、謁見というのは疲れるのだ。高官どもに睨まれ、必要以上に気を遣い、陛下に頭を下げているはずであるのに、高官どもに下げているように錯覚し…」
「最後の方はただの思い込みだろ。というか、高官とやらを嫌いすぎだろ」
「いや、別に嫌いでは…」
「じゃあ愚痴を言うな。それからワタシの相手をしろ」
「ならば嫌いだ。では」
俺はそう言い、寝間着に着替えてベッドに潜り込んだ。アキも隣に寝転び、俺より早く寝付いた。




