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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第280話

 アキが目を覚ます頃には、夕方となっていた。もちろん二十六日の夕方だ。俺は昼前頃に起き、部屋を片付けていた。完璧ではなかろうが、素人にしては上出来であろう。


「起こしてくれれば手伝ってやったというのに、一人でやったのか」


「ああ。あれだけ気持ち良さそうに眠っているおぬしを起こそうとは思わぬ」


「そんなに気持ち良さそうだったか?」


「ああ。それより(これ)を着よ。俺が言うのもおかしな話だが、有難みが無くなるぞ」


「それもそうだな」


 アキはそう言い、服を手に取った。床に散乱していたアキの服は、全て汗の匂いがした。つまり、着た後に洗っておらぬのだ。ゆえに全て異空間に片付け、アキには俺の服を貸した。少し大きかろうが、まあ今から戦う訳ではないから、別に良かろう。


「おい、匂いがしないぞ」


「良いことではないか」


「ばか。こういうのは旦那様の匂いに包まれるから幸せになるのであって、ただ服を着ただけでは動きづらいだけだぞ」


「嫌か?」


「嫌じゃない。けど、なんか違う」


 アキは文句を言いながら、服の匂いを嗅いでいるが、そもそも俺には体臭などない。

 俺は一滴も汗をかかぬから、体臭が発生せぬのだ。汗というのは体温調節のためにかくそうだが、俺の体は熱くなろうと冷たくなろうと、一切害はない。それに体温調節は魔法で簡単にできるから、どちらにせよ、汗は必要ないのだ。

 汗の他にも、涙や尿など血液以外の体液は必要ないから、作られぬ。まあ作ろうと思えば作れるし、出そうと思えば出せる。実際、唾液は作られている。唾液があった方が喋りやすいし、食事も美味しく感じるので、唾液は必要だ。


 こんな話を人にしても面白くなかろうから、誰にも話しておらぬ。いや、そもそも体液がどうとかいう話にはならぬ。


「で、今はいつだ?」


「二十六日の夕方だ」


「そんなに長くは寝てないのか。何をすればいい?」


「いや、知らぬ。ヴァーノン卿に聞いてみよ」


「おいおい、城守様がそれでいいのか?」


「まだ今日は部屋から出ておらぬから、外で何をやっているか知らぬ」


 何やら慌ただしく動いているのは気配で分かるが、何をやっているかまでは分からぬ。おそらく中央軍や文官の撤退の準備を進めているのであろう。


「なるほど。ワタシの寝顔から目が離せなかったか」


「いや、おぬしの裸を晒す可能性があったからな。扉が開いていたら、覗こうと思えば覗ける。誰もせぬだろうが、やはり我慢ならぬ」


「褒めても何も出んぞ」


「褒めておらぬが」


「え?」


「何だ?」


「え、あ、いや、別に。それより腹が減ったな」


「そうか。では食堂に行こう。ちょうど皆が夕食を食べ始める頃合だ」


 俺はそう言い、部屋を出た。

 食堂に向かうまで、アキは恥ずかしそうに歩き、俺の服の裾を掴んでいた。やはり夕方まで寝ていたのを恥じているのであろうか。


 食堂に着くと、ヴァーノン卿がパッセルス達と食事をしていた。帰ってきたのか。

 勧められたので、俺も同席した。どうやらパッセルス達は帰った直後らしい。


「ずっと休んでいて申し訳ありませぬ」


「いえいえ、移動の要を担っていただかねばなりませんから、客将閣下には充分に休んでもらいませんと」


「すると、帰りも魔法で良いのです?」


「ええ。頼らせてください」


「承った。荷物も預かりましょう」


「それはありがたい」


 やはりヴァーノン卿は魔法で帰ろうと考えていたか。そうでなければ、昼頃には起こしに来るはずだ。起こしに来ぬのは、移動手段である俺の機嫌を損ね、王都まで自力で帰らねばならぬとすれば、かなりの損失となるからであろう。大量の財宝があるから、移動は通常の数倍、数ヶ月は必要かもしれぬ。

 まあ俺は早く起こされたからといって怒らぬし、そもそも気分で軍務を放棄したりせぬ。


 その後、ヴァーノン卿やパッセルスの話を聴きながら夕食をとり、解散となった。

 夕食後、俺は練兵場に集められた荷物を異空間にしまいつつ、空を見上げた。ローラン殿のアデレイド保護作戦は、今日の深夜に決行される予定である。その報せを運ぶ鳩を待っているのだ。


「そういえば、なぜ掴んでいる?」


 ふと気になったが、アキはずっと俺の服の裾を掴んでいるのだ。食事中も左手で掴んでいたし、その後もずっと掴んでいる。


「慣れん服を着るのは、ちょっと恥ずかしい。しかもひと目でワタシの服じゃないと分かるから、余計に恥ずかしい」


「…寝坊を恥じていたのではなかったのか」


「寝坊はしてない」


「そうか」


 服の持ち主である俺から離れぬようにしていたのか。まあ俺もアキの服を着せられたら、アキと離れるのは全力で拒む。それと同じ感覚か。


 纏められた金貨や銀貨、書類などを異空間にしまい続け、太陽が顔を出し始めた頃、ようやく鳩が来た。

 鳩から書簡を取ったと思しき兵士が駆けつけた。


「閣下、マルク・フェルナンド提督府より、重大な内容の書簡が届きました。ただちにご確認を」


 駆けつけた兵士はそう言い、鳩の足に付ける筒から紙を取り出した。ちなみに鳩の足と筒を結ぶ紐の色で重要度などが分かるようになっているらしい。

 俺は書簡を読んだ。


『マルク・フェルナンド提督ジャンリュック邸が賊に襲われ、提督が死亡。同居していたアデレイド嬢は誘拐されるも、第四将軍格家のローラン様が保護。賊も殲滅。提督補佐官パヴェル』


 以上がその内容である。ローラン殿の作戦であるが、聞いていたよりも被害が大きい。こちら側に人死は出ぬはずであったが、何か手違いがあったか。


「宰相閣下と総督閣下をお起しせよ。火急を要する大事である、と」


「はっ」


 駆けつけた兵士はそのまま走っていった。


 ローラン殿のアデレイド保護作戦は、単純なものであった。

 まず、この辺りの賊に対し、王太子旗の強奪とアデレイドの誘拐をするよう唆す。そしてアデレイド誘拐のみ成功した賊をローラン殿が討伐し、口封じをする。ちなみに王太子旗は既にパッセルスが持ち帰っており、クラヴジック城にある。

 その後、アデレイドの安全を保証するという名目で、俺が連れ帰る。

 以上がアデレイド保護作戦だ。改めて考えてみると、杜撰な作戦であるが、アデレイドの保護は確実なものであろう。

 詳細はローラン殿の判断で変更されているであろうが、ジャンリュック殺害は度が過ぎている。ローラン殿の指示であるなら、然るべき罰を、と思ったが、そもそも表沙汰にしたら俺も同罪だ。隠蔽しつつ、ローラン殿に責を負わせよう。


 しばらく待っていると、髪をほどいたヴァーノン卿と寝間着姿のパッセルスが走ってきた。


「閣下、火急を要する大事とは何事です?」


「提督閣下が死亡なされた。賊に襲われたそうだ」


 俺はそう言い、パヴェルからの書簡を見せた。二人は驚き、言葉を失った。


「どうなさる?」


「しばし考える時間を…」


 ヴァーノン卿はそう言い、考え込みながら引き下がった。パッセルスも引き下がった。

 俺はとりあえず自室に戻り、待機することにした。出してあった荷物は全て回収してある。


 宰相令により主要な武官、文官合わせて約五十名が招集されたのは昼前である。


「マルク・フェルナンド提督ジャンリュック卿の邸宅に賊が押し入り、提督が死亡なされた」


 ヴァーノン卿の言葉で会議が始まった。

 続報が何度か届いており、その発表も併せて行われた。


 賊の目的は王太子旗であったと思われること。ジャンリュック邸以外にも数軒が被害にあっていること。また、それらは全てジャンリュック関係であったこと(海月亭(メデューズ)等)。アデレイド嬢の誘拐は、王太子旗の代わりであったこと。運良く居合わせたローラン殿は妓館帰りであったこと。

 細かいことはまだまだあるが、まあ情報はありすぎても困るので、全ては発表されなかった。俺としては、最後の情報はいらぬ気がするが、ヴァーノン卿は真面目な顔をして発表した。


 その後、会議は日没頃まで続いた。

 主に、マルク・フェルナンド提督の権限をツィリーナル地方総督に統合し提督府を廃止する派と、伝統あるマルク・フェルナンド提督は廃止すべきではない派の討論が長引いた。また、後者も後任をすぐに定める派と熟考する派に分かれており、長引く要因となった。モルガン達はそのような議論を横目に、弔い合戦としての盗賊狩りを提案していた。

 最終的に、ローラン殿を提督代理とし、後任が見つかるまでの任期とする事に決定した。


 宰相の権限で書かれた辞令を届ける役目は俺が買って出た。ローラン殿と話したいし、何より会議が終わった後も言い争いを続ける老人に嫌気がさしたのだ。


 夕食後、アキを伴ってクラヴジック城を出た。アキは会議中は腕を組んで寝ていたので、それなりに元気だ。

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