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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第273話

 アルフレッド派連合軍の移動宮殿を肉眼で確認できる距離まで近づいた。おそらく、あの周辺が本隊であろう。

 アルフレッド派連合軍は街道を通っているが、我が軍は林の中を通っているので、こちらの姿は見えぬはずだ。


「閣下、流浪の杣師殿がいらっしゃるそうです」


「そうか」


 イブライムがそう言うとほぼ同時に、部下を連れたローラン殿が追いついてきたようだ。馬は軍のものを借りたのか。


「ジル君、出るなら出ると言え」


「ローラン殿の手を煩わせるまでもありませぬ」


「そんな事を言うな。最近は人も木も斬ってないから、腕が鈍ってるかもしれん。試し斬りに付き合え」


 ローラン殿は俺を斬り刻んだことを覚えておらぬのか。二度は斬られたはずだが、俺の記憶違いであったろうか。


「戦闘はしませぬぞ。それに先日、俺を斬り刻んだではありませぬか」


「俺は人を斬ってないと言ったんだ」


「…は?」


「まさか自分を人だと思っていたのか?よくもそんな勘違いができたな。人というのは、首を切り落とせば死ぬ。そういう生き物だ」


「すると、死ぬまでは人か否か、分からぬということですか?」


「阿呆か。人から生まれるのは、人の子だ。イリナちゃんがレリアたんから聞き出した話だが、ジル君の親は神だそうだな。神の子は人の子に非ず、即ちジル君は人ではない。つまり、最近の俺は人を斬ってない、ということになる。どうだ?」


「はあ…」


 ローラン殿の言葉に間違いはないが、俺の親が神と確定している訳ではない。レリアにもそう伝えたはずだが、まあ伝言などというものは、間に一人でもいれば反対意見にもなり得るものだ。誰も悪くあるまい。


「閣下、世間話はよろしいが、敵を見失ってはなりませんぞ」


「千対の目が見張っているのだ。見逃すはずはあるまい?」


「しかし…」


「それとも盲目の千騎であったかな?」


「いえ…」


「ジル君、正体を暴かれたからと言って、部下にキツく当たるのは感心せんな」


「そのつもりはありませぬが…申し訳ない」


 ローラン殿は俺を諭そうとするが、そもそもローラン殿がここにいること自体がおかしいのだ。ローラン殿が諭すべきは、俺ではなく、自分自身だ。まあそんな事を直接言う度胸は俺に備わっておらぬが。


「で、連合軍はどうなってる?」


「見ての通りです」


「逃げるくらいなら最初から叛旗を翻すな、と言ってやりたい」


「最初は勢いに乗っていましたからな。クラヴジック城を乗っ取る程度には」


「どの叛乱軍も最初は勢いがある。最後まで失速しなければ、総帥はやがて王になる。現王陛下のようにな」


 ローラン殿はそう言うと、考え込んだ。


 ローラン殿はエジット陛下を叛乱軍の長とでも言うのであろうか。

 そもそもギュスターヴ四世が速やかに退位を宣言していれば、エジット陛下は穏便に即位できたのだ。

 さすれば、その後の対コンツェン防衛戦でも、二十万名以上の死者は出ず、正面から圧勝できたのだ。いや、最初からリヒャルドが妙な野心を抱かず、コンツェン軍によるサヌスト遠征もなかったはずだ。


「ジル君、今思い出したんだが、あと十日もすれば、コンツェンの王弟殿下がレチッタカーザに着きそうだ、と弟の伯爵殿が言っていた」


「いつから十日後です?」


「レリアたんが襲われる前日だ」


「前々日です」


「前々日だ」


 ローラン殿はランベールの訂正を受け入れた。よほど信頼しているようだな。

 ランベールは、ローラン殿が直々に魔闘法を教え、最初に修得した、言わば腹臣だ。ローラン殿と同じく、普段は樵をしているそうで、ランベールは普通に斧を使うし、そもそも最初から戦斧を好んで使っていたそうだ。

 ちなみにレチッタカーザとは、コンツェンの王都だ。噂によると、王侯用に象牙で造られた橋があるそうだ。


「すると、十三日には到着していると?」


「そうなるな。ジル君の弟の情報が正確だったらの話だがな」


「そこは信頼しています」


「俺からは以上だ。ジル君、何か面白い話を聞かせろ」


 ローラン殿は勢いで飛び出してきたが、戦闘をしないと知って退屈しているのか。そもそも俺に対する情報提供もただの暇つぶしということかもしれぬな。


「面白い話…とは…?」


「あの嬢ちゃんとの初夜とか色々あるだろ。話せ」


「初夜など…この戦が終わるまで、お預けという約束でありますゆえ、そういった話はできませぬな。ローラン殿にはそういった話がありましょう?」


 ある程度歳をとった男は、過去の武勇伝を語りたがるから、聞き出してやれば喜ぶ、とアキから聞いたことがある。ローラン殿も四十七歳だ。ある程度歳をとった男に含まれるだろう。


「俺はレリアたんが産まれて四ヶ月くらいの時、初めてレリアたんの顔を見て、それから女は抱いてない」


「それほど前からレリアを知っていたとは、羨ましい限りですな」


「妬くな、気色悪い。それで、レリアたんが産まれる前までは、とんでもない人気があったぞ。山荘に籠ってた時期なぞ、毎晩のように違う女が来た。『領主様の弟御が困らないように山菜を…』という名目でな。あの時はあの時で楽しかった」


「すると、街にいる時には自宅前に行列ができたのでは?」


「街に住んだことはない。俺は山荘かピートラス村か、戦場に生きる男だ。四十歳以上の村の女は全員抱いた」


「………熟女がお好きで?」


「馬鹿か。レリアたんが産まれる頃は、いい年頃の女だったんだ。みんな老けたもんだ」


「失礼では?」


「陰口に失礼もクソもあるか。だいたいな、『ローラン様に思い出していただいただけで光栄です』というような女ばかりだ。むしろ、言葉を飲み込んだ方が無礼という、そういう関係だ」


「左様ですか」


 イブライムは俺とローラン殿の会話を間近で聞いているが、幻滅しておらぬと良いな。いや、イブライムのローラン殿に対する感情は、信仰に近いものすら感じた。英雄色を好む、と言ってさらに信仰を深める可能性すらある。


「閣下、彼奴らめ、野営の準備を始めましたな」


「往来のド真ん中に、な」


 ローラン殿と話していると、イブライムがそう言い、ローラン殿が答えた。

 アルフレッド派連合軍を見ると、街道の真ん中に移動宮殿を置き、その周囲に兵士の壁が築かれた。


「我らの任務はアルフレッド派連合軍の監視だ。イブライム、食事の用意をさせよ。火を使ってはならぬぞ」


「食料が届いておりませんが…」


「そうか。では、俺が提供しよう」


 俺はそう言い、異空間を開いた。既に完成した料理が入れてある。数は五千食といったところか。帰ったらキトリーに補充させた方が良いな。こういう時に助かる。


 その後、アルフレッド派連合軍に見つからぬように食事をし、兵士を休ませた。

 見張りは十交代だ。一晩にしては多いが、兵士は充分に休ませた方が良いと言いつけた。すると、イブライムが全兵士に見張りをさせると言い出したので、常に百騎が起きていることになる。

 尋常ではないが、脱落者が出るよりは良い。それに俺はずっと起きているつもりであるから、兵士は気を抜いていても良いのだ。


 アルフレッド派連合軍を見張っているが、つい四日前が朔であったから、なかなか暗い。俺は夜目が利くし、天眼があるので良いが、並の兵士では、アルフレッド派連合軍の松明の周辺が見えるだけであろう。


「む」


 イブライムが起きてきて顔を洗っていると、深夜であるのに、移動宮殿が移動を始めた。アルフレッド派連合軍の兵士も、むろん動いている。よほど急いでいるのか。


「閣下」


「イブライム、俺は今起きている百騎のうち、五十騎を連れて連合軍を追う。おぬしは万全の兵を連れ、後で追え。馬の口を縛り、兵士の口に綿を詰め…とにかく音を立てぬよう徹底せよ」


「は…?」


「千騎もいれば、さすがに気取られる。特に闇夜に紛れ慣れている者にとっては。ゆえに、俺は五十騎を率いて先行する。これを渡しておこう」


 俺は魔眼を取り出し、イブライムの傍らに飛ばした。ラヴィニアのように自立はしておらぬが、その分だけ意思疎通の手間がない。


「これは…?」


「俺の眼だ。異変があれば、援護してやる。では」


 俺はイブライムにそう言い、五十騎を連れて駆け出した。


 天眼で見る限り、アルフレッド派連合軍の最後尾も動き始めている。先頭と最後尾の動きに、時間差がほとんど無いということは、予め決めていたのであろうか。

 さらに感知範囲を拡げると、モルガン隊を発見した。アキが単騎で追っているようだ。他は魔力を見る限り、慌てて用意をしているようだ。

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