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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第272話

 ローラン殿の退室後、モルガンの報告書を読んだ。

 モルガンの調べる限り、ピエリック特別選抜隊以外の離叛者は確認できぬが、以後も調査を続けるそうだ。モルガンの過激な捜査による被害は、今のところ報告されていないので、このまま続けさせれば良い。


 その後、各所からの報告書を読んだり、指示を求める者に指示を与えたり、まあ特に何事も無く、ローラン殿の力を借りぬ日々が続いて五日が経ち、八月二十三日となった。

 マルク・フェルナンド提督府より、パッセルスの書状が届いた。軍船及び軍港の用意が整った、と。


「諸将と文官を集めよ」


 俺がそう指示を出すと、すぐに皆が集まった。やはりこういう時は、城守という地位は役に立つな。


「ツィリーナル地方総督パッセルス閣下より、報せが入った。軍船八百隻がマルク・フェルナンド港に集結し、アルフレッド派連合軍を待っている、と。俺の意思を先に言えば、一日でも早く、アルフレッド派連合軍に出ていってもらいたい。しかし、念の為、諸卿の意見も聞いておきたい」


「閣下のお考えに賛成ですな。反対する者は、サヌスト軍を疲弊させたいだけの、実質的な離叛者のみでしょうな」


 モルガンがそう言い、他の者を制した。城守(おれ)に逆らうな、ということであろう。


「我らとしても反対意見などございません。メン・フゥオなる連絡役を呼びましょう」


「ではお呼びせよ」


 俺がエヴラールに手を挙げて指示を出すと、エヴラールはメン・フゥオを呼びに行った。


 エヴラールがメン・フゥオを連れて戻ってくる頃には、モルガンを筆頭とした好戦派将帥が、苛立ちを見せ始め、剣の柄に手をかけて、扉の近くで待っていた。

 メン・フゥオが入室すると、モルガン達が周囲を囲み、怪しい動きを見せたら、メン・フゥオの体が二つ以上に分かれるように立った。


「はて、停戦が取りやめにでもなりましたかな?」


「いや、逆だ。八百隻の軍船をマルク・フェルナンド港に集めた。貴軍には出ていってもらおう」


「承知しました。……スヴェイン閣下は今すぐ出立するそうです。それでは、私も失礼」


 メン・フゥオはそう言い、柳葉刀を抜き、モルガンの首に突きつけた。一人でこの場の全員を相手にするつもりであろうか。


「それは貴軍の総意か?」


 メン・フゥオはモルガンを睨めつけながらそう言い、モルガンは剣も抜けぬまま冷や汗を流している。


「…無礼を承知で申し上げるが、俺は貴様が気に入らん。軍使でなければ、既に貴様は死んでいる」


「その場合、死んでいるのは貴殿だ。勘違いなさるな」


 メン・フゥオはそう言い、柳葉刀を収め、一礼してから退室した。最後にとんでもないことをしてくれたな。


「モルガン卿」


「承知しています。どのような罰でも甘んじて受け入れます」


「いや、そうではない。二千騎を連れて出撃するぞ」


「は…?」


「アルフレッド派連合軍を追跡し、奇妙な動きがあれば、これを攻撃、阻止する」


「承りました!すぐにでも、出撃用意を整えます」


 モルガンはそう言い、駆け出していった。俺が出遅れるではないか。


「アクレシス卿、クラヴジック城はお任せする。連絡はエヴラールを通じれば、遠距離でも話せる。それでは失礼」


 俺はそう言い、アキを伴い、エヴラールを残して退室した。エヴラールには出撃の用意だけさせた形になるが、連絡役が必要であるので、仕方あるまい。バローやシャミナード達でも念話は使えるが、アクレシス達が近づき難いであろう。


「有無を言わさずに出てきていいのか?」


「ああ。話し合いで時間が無くなり、アルフレッド派連合軍を見失っては意味がない」


「ま、それもそうだな。それよりアルフレッド派連合軍というのは長いな。連合軍でいいだろ」


「好きにせよ」


 アキと話し合いながらモルガンを追った。姿は見えぬが、行先は分かる。


 城門前に着くと、出撃する直前であった。手際が良すぎるな。


「お二人もご一緒に行かれるので?」


「ああ。脅威となるのは、アルフレッド派連合軍だ。そうでない者はアクレシス卿でも十二分に対応できよう」


「そうですな」


「客将様、あの妖精を残していった方がいいだろ。エヴラールも並の兵士より強いが、並の兵士じゃない奴らが来たらエヴラールも勝てん」


「それもそうか」


 俺はラヴィニアを出し、エヴラールの命令に従うように命じた。

 モルガンの手際が良すぎる準備により、既に二千騎の出撃用意がほぼ完璧に整っている。食糧は後で届けるように手配したようだが、届かぬ場合は俺の異空間から分けてやれば良い。


「開門!」


 俺の声で城門が開かれた。久しぶりに外に出るな。十日強、城に籠っていただけであるが、奇妙な新鮮味を感じる。まあ心地好いものであるから、気にする必要はない。


「隠密行動であることを忘れるな。行くぞ」


 俺はそう言い、先頭を進んだ。アルフレッド派連合軍に見つかった場合は、案内に来たとでも言えば良い。


 しばらく進み、天眼でアルフレッド派連合軍の位置を確認すると、既にかなりの距離を進んでいた。

 マルク・フェルナンド港はクラヴジック城の東方向にあり、大軍が通れる程の街道も整備されている。アルフレッド派連合軍はそこに出て、約二メルタル、一割弱を既に進んでいる。

 パッセルスは出発から七日後に指揮下に収めたと、書状を送ってきたが、出立の翌日、遅くとも翌々日には確実に到着していたはずである。余程交渉に手間取ったのか。


 クラヴジック城とマルク・フェルナンド港の関係について、であるが、それは四代目サヌスト国王アルチュール二世の御世、つまり四百年以上前まで遡らねばならぬ。

 アルチュール二世は、ヤマトワが魔王の出身国であることから、その責を問い、ヴェンダース水軍、コンツェン水軍をマルク・フェルナンド港に呼び寄せた。その動きを察知したヤマトワ幕府軍は、鏖軍を含む十万の兵士を送り込んできた。

 幕府軍を何とか撃退した三国連合軍は、すぐに離散した。ヴェンダース王がアルチュール二世を見限り、コンツェン王もそれに倣った。

 その後、ヤマトワ幕府軍が何度か攻めてきたため、ウスターシュ一世(五代目サヌスト国王)はクラヴジック城建設を開始し、グエルション一世(六代目サヌスト国王)の即位とほぼ同時期に完成した。その際、以毒制毒の精神から、魔王の右腕をクラヴジック城の地下に封じ込めた。


 城守は意外と暇であったので、書庫を漁っていたら見つけたものに書いてあったのであるが、まあ情報源としては確かだろう。

 クラヴジック城はマルク・フェルナンド防衛のためであり、つまりそう遠くないというわけだ。


 まあ歴史など今はどうでも良い。隊を二つに分けて、両側を挟んで追うか。


「モルガン卿、おぬしは千騎を連れ、アルフレッド派連合軍の南側から監視せよ。アキもつけるから、妙な動きがあれば遠慮はするな」


「承知しました」


「俺は北側から監視する。では」


 俺は千騎を連れ、アルフレッド派連合軍の左側に向けて駆け出した。

 モルガンがいれば指揮は問題ないし、アキがいれば戦力的にも問題ない。


 しばらく天眼で周囲を確認し続けていると、見覚えのある魔力を感知した。


「閣下、我が隊の後方より、全速の三騎が迫っておると報告が」


 イブライムという五百騎長が馬を寄せ、そう報告した。ちなみに五百騎長は千騎長の副将を指し、必ずしも五百騎を指揮する訳ではない。今回は千騎長を連れてきておらぬので、俺の副将ということになる。


「分かっている。おそらく我が義叔父だ。追いついてきたら、俺に案内させよ」


「閣下のお考えに口を挟むのは無礼ですが、ご家族を贔屓なさるのは感心しませんぞ。それも義叔父ということは、閣下の血族ではあられないはず…」


「俺の血族ではないが、第四将軍格家の退役当主閣下の弟御だ。出自も実力も権威も充分であろう?」


「第四将軍格家の…もしや、流浪の杣師と呼ばれる、姪好きの剣士で、数年前に姿を消したという…?」


 流浪の杣師などという綽名は知らぬが、他の特徴はローラン殿を指し示している。レリアの事を異常に好んでいるし、イリナのことも、本人に気持ち悪がられる程度には好いている。それに、三年前にレリアが家出した時、ジスラン様の命令で陰からレリアを護ってくれた。


「流浪の杣師は知らぬが、姪好きであるし、数年前に姿を消したといのも、一致する」


「実は、私の世代では、流浪の杣師と言えば、人気の象徴でした。軍に所属する訳でもなく、かと言って誰かの私兵になる訳でもありませんが、サヌスト軍の危機には森から出てきて、サヌスト軍を救い、『俺は樵だ』と言って報酬も受け取らず、別の森へ消えていくことから、流浪の杣師と呼ばれています。ご存知ではありませんでしたか?」


「ああ。初耳だ」


 ローラン殿は騎士の象徴である剣を捨てたくない、と言って魔闘法を修得したそうだが、昔から樵をやっていたのか。心は騎士だ、と言っていたはずだが…まあ良いか。

 それにしても、流浪の杣師など初めて聞いたな。流浪ということは、森から森へ渡り歩いたのであろうな。

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