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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第271話

 メン・フゥオの軟禁後、特に何も無く五日が過ぎ、八月十五日となった。


 パッセルスがマルク・フェルナンド提督ジャンリュックを説得し、麾下に収めたとの書状が、軍鳩によって届けられ、会議が開かれた。パッセルスはこれより、しばらくの期間は提督府に身を置くそうだ。

 クラヴジック城は俺に任せるともあり、総督代理の権限によって、クラヴジック城の正式な城守となってしまった。パッセルス自身は、俺が城守代理になっていたのは知らぬであろうが、やはり地位を考えれば、俺が城守となるのは当然か。

 ちなみに城守は城主より権限が少なく、戦時を除いた城塞の改修などは、管轄する将軍の許可が必要であるし、他にも制約がある。まあ戦時には制約は無いので、今は好き勝手にやっても良いということだ。


 会議の結果、パッセルスはツィリーナル地方総督代理ではなくなり、正式なツィリーナル地方総督となった。これはヴァーノン卿の権限によるものだ。


 会議後、城守執務室でパッセルスへ返答の書状をしたためていると、ヴァーノン卿が訪ねてきた。


「客将閣下、メン・フゥオ殿にお伝えし、帰っていただけませんか?」


「そうですな。やはり密偵が入り込んでいるようで、落ち着きませぬな」


 ヴァーノン卿がそう言ったので、ヴァーノン卿と茶をした後、メン・フゥオに与えている部屋を訪ねた。軟禁してから会うのは初めてだ。マルシャル達が疲れているところを見ると、面倒事が多かったのであろうか。


「失礼するぞ」


 俺はそう言いながら、入室した。かなり荒れているな。ベッドやソファなどは切り刻まれているし、調度品や美術品などは粉々になっている。

 少しでも損害を与えよ、と、スヴェインに命令されたのか、メン・フゥオ個人の意思か、まあどちらでも良いが、マルシャル達には可哀想なことをしたな。


「これは閣下、酷いではありませんか」


「なぜです?」


「五日も閉じ込めるなんて、気が狂ってしまいます」


「そう言われましても、我が軍の兵士は精強である代わりに、敵に対しては容赦せぬ者ばかりでしてな。ダークエルフを見ては、すぐに攻撃を加えてしまう。それは互いに望まぬ事だ」


「私は構いませんが」


「停戦協定を結んでおりましょうに」


「それもそうでしたな」


 メン・フゥオは残念そうに言い、柳葉刀を帯びた。なかなか珍しい武器を使うものだな。


「メン・フゥオ殿、本題に入らせてもらおう。ツィリーナル地方総督パッセルス閣下より、マルク・フェルナンド提督府を指揮下に収め、ジャンリュック提督を筆頭に、軍船保有者の協力が得られそうだ、と連絡が入りました。ご本陣にお伝えなされよ」


「ご協力感謝します。それでは、軍船が八百隻に届き次第、お知らせ願います」


「帰らぬのか」


「ええ。閣下もご存知の通り、遠距離での通信は念話が最適です。鳩など時代遅れでありますし、早馬など以ての外。そうですな?」


「…我が軍の機密であるゆえ、連絡手段は明かせぬ。念話であれば妨害魔力が、鳩であれば猛禽類が、早馬であれば兵士が、連絡手段にはそれぞれ弱点がある。三年もすれば敵となる相手に、わざわざ連絡手段を語ってやるほど、俺は阿呆ではない」


 俺は威圧しながらそう言った。

 メン・フゥオは押し黙ったが、本心では魔法も使えぬ旧時代の軍隊が、とでも思っているのかもしれぬな。まあ勝手に侮っていれば良い。最終的に勝つのは我が軍だ。


「それでは、多忙の身ゆえ、失礼する。くれぐれもご自重なされよ」


 俺はそう言い、退室した。マルシャルが可哀想であったので、セクー隊と交代で任務に当たるように言いつけた。


 三日後、八月十八日。城守執務室でモルガンからの報告を聞いていると、イヴァンが駆け込んできた。イヴァンはマルシャルに任務を引き継ぎ、アクレシスの指揮下に戻っている。


「客将閣下、妙な者共を捕らえました」


「妙な者共?」


「はい。閣下の叔父を名乗って、閣下に会わせろ、と」


「俺の叔父?まあ良い。会おう」


 俺には叔父に限らず、尊属はおらぬはずだが。いや、レリアの尊属は俺の尊属にもなるのか…?


 イヴァンに導かれ、モルガンを伴い、城門前まで来た。

 アクレシスに出迎えられ、妙な者共とやらが連れて来られた。


「ローラン殿?!」


「お知り合いで?!」


 俺がローラン殿に驚くと、イヴァンはもっと驚いて腰を抜かした。

 ローラン殿は行方不明になったと聞いていたが、わざわざ俺に会いに来たのか?どうせならレリアも連れて来てくれたら嬉しかったが。


「ふざけるのも大概にしろ」


「なにゆえ、このような場所に?」


「その前に縄を解け」


「申し訳ありませぬ」


 俺が手を上げると、アクレシスが縄を解いた。周りも付き合ってくれているが、私事に付き合わせぬ方が良いかもしれぬな。


「各自、任務に戻れ。モルガン卿は報告書を。解散」


 俺がそう言うと、皆が元の任務に戻った。興味があるのか知らぬが、見物しようとした兵士もいたが、アクレシスやモルガンが追い払った。


「ローラン殿、こちらへ」


 俺はローラン殿を城守執務室に案内した。さすがに外で話しては、人目を引いてしまう。

 執務室に入ると、ローラン殿は当たり前のようにソファに座り、部下二名はその背後に立った。


「随分と偉いようだな」


「先日、城守となりました」


「城守?」


「ええ。戦が終われば後任に引き継ぎ、帰還しますのでご安心を」


「俺はお前の帰還を望んでいない。それより茶は?」


「申し訳ありませぬ」


 ローラン殿に言われた通り、茶を淹れると、ローラン殿は不服そうに飲んだ。機嫌が悪いな。


「それで、何用です?」


「何用です、だぁ?レリアたんがどんな目に遭ったと思ってるんだ?!」


 ローラン殿は紅茶碗(ティーカップ)を机に叩きつけ、立ち上がった。レリアに何かあれば、アキに連絡があるはずだが…


「は…?」


「ヴェンダースの刺客に襲われたんだぞっ!それを貴様っ、何用ですとは何だっ?新妻に夢中になるのは勝手だが、レリアたんを放っておくなら、貴様…その…なんだ、殺すぞ」


「ヴェンダースの刺客に襲われた?!いつです?!」


「いつ…いつだったか…」


「十三日前、八月五日です」


「そうだ、八月五日だ」


 ローラン殿の部下によると、八月五日にヴェンダースの刺客に襲われたらしい。確かその日は、五百騎を率いて城外に出ていたはずだ。レリアに関する事は…例の憎き仔猫(シャトン)にレリアが噛まれた日か。


「その猫はどうなったのです?討伐隊は?」


「猫?あれはレリアたんの気を引くために、殴られて捨てられただけだ」


「すると、どういうことです?」


「最初っから説明せにゃならんのか、この阿呆」


「お願いします」


「まあいい。レリアたんのためだ。説明してやれ」


「は」


 ローラン殿の部下が説明を始めた。


 八月五日、レリアがアルテミシアとロアナを連れ、買い物を兼ねた散歩をしていると、満身創痍の仔猫(シャトン)を見つけた。

 レリアが哀れに思い、手を差し伸べると、仔猫(シャトン)はレリアに噛みつき、アルテミシアとロアナは慌てて仔猫(シャトン)を引き離そうとした。


 ヴェンダース人の刺客は、護衛の二人(と思い込んでいただけ)が油断した隙を狙い、襲撃を仕掛けた。

 ロアナがいち早く気付き、狼化して刺客を三人、殴り飛ばし、アルテミシアがルイス卿、アズラ卿、フーレスティエなどに念話で事態を伝えた。

 さらに襲いかかる刺客に対し、ロアナは足止めをした。その隙に、腰を抜かしたレリアを抱えたアルテミシアは、屋敷に向かって駆けた。


 アズラ卿が衛兵を連れて駆けつける頃、刺客のうち八人が死に、その倍が重傷を負い、さらにその三倍以上がロアナを半包囲していた。

 一方、仔猫(シャトン)を抱えて屋敷に戻ったレリアとアルテミシアは、フーレスティエが手配した医者に診られ、仔猫(シャトン)は獣医に預けられた。


 その後、アズラ卿の指揮により、生き残っていたヴェンダースの刺客は全て捕らえられ、ロアナは治療を受けた。

 また、騒ぎを聞きつけたローラン殿やヤマトワ人が、自発的に街を歩き回り、潜んでいたヴェンダースの刺客を捕らえた。

 刺客は合計九十三名で、そのうち十八名が死亡した。


「で、どう言い訳する?」


「は。どこで連絡が違えたか、まずはそれを調べ…」


「そんなことはどうでもいい。警備が甘いと言っているのが、分からんのか」


「そうですな…ですが、護衛を増やしてしまっては、レリアが窮屈に感じませぬか?」


「数を増やすな。質を高めろ」


 質を高めるということは、侍女に戦闘訓練でも受けさせるか?いや、今から戦闘訓練をしても、強くなるのはもっと先か。となると、最初から強い者を身辺に置き、レリアを守らせるか。


「承知しました。では、侍女のうち人狼をレリアの専属にし、十メルタ以上離れぬよう、徹底させます。それから、我が弟の部隊から数名出させ、影から護衛します」


「それでいい。が、本当はジル君が早く帰ってくるべきだ。レリアたんも喜ぶし、何より強い。俺に斬られても生きてる奴は、ジル君が初めてだ」


「ありがたきお言葉です」


「ふん」


「おっと、忘れてしまうところでした。ローラン殿、例の仔猫(シャトン)について、どう思われますか?」


「レリアたんが拾った猫だ。レリアたんの好きにすればいい」


「ですが、レリアに噛みついたではありませぬか。まさか、ローラン殿ともあろう御方が、お許しになると?」


「…何が言いたい?」


 ローラン殿も薄々察しているようであるが、俺に明言させたいようだ。ローラン殿なら話しても良い。


「一度でもレリアに害を加えたものに、容赦は必要ありませぬ。ですが、どうやって誑かしたかは知りませぬが、レリアが気に入っているのも事実。そこで、仔猫(シャトン)追放に関する共同戦線を張りませぬか?」


「…レリアたんに、逃げたものはしょうがない、と言うためか?」


「ご明察、恐れ入ります」


「面白い。だが、レリアたんに気付かれたら、確実に嫌われるぞ。少なくとも好感度は下がる」


「ですから、気付かれぬよう慎重に事を運ばねばなりませぬ。それゆえ、おいそれと仲間を増やす訳にはいかず、帰還後にローラン殿を頼らせて頂こうかと、考えておりました」


「…しょうがないな。乗った」


「そのお言葉を待っておりました。では、帰還後すぐに作戦を開始してください。やり方はお任せしますし、経費は全てサラという侍女に請求してください」


「………おい、今すぐ帰れってか?」


 ローラン殿ならレリアへの気持ちで、すぐに帰ってくれるかと思ったが、やはり疲れには勝てぬか。いや、どちらかと言えば、年齢に勝てぬのか。


「いけませぬか?」


「当たり前だ。十日以上ぶっ通しで走り続けたんだぞ。ジル君が帰る時に一緒に帰るつもりで、馬も潰した」


「馬や物資は提供します」


「今度は俺を潰す気か。手伝ってやるから、しばらくここに居させろ」


「承知しました」


「じゃあ千騎でいいから貸せ。蹴散らしてくる」


「いえ、既に停戦しておりますので、ごゆるりとお寛ぎください」


「しょうがねえ。適当に休ませてもらうぞ」


「は。どうぞ」


 ローラン殿は紅茶碗(ティーカップ)代に、と銀貨一枚を置き、さっさと出ていった。モルガンからの報告書を持ってきた兵士に、ローラン殿達を案内するように言いつけ、通常の任務に戻った。

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