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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第265話

 しばらく剣呑な論争を見守っていると、モルガンがピエリック(パッセルスに次ぐ老将。中央軍に所属している)に詰め寄り、ピエリックがモルガンの顔に唾を吐いたことで、殴り合いが始まった。

 やはり、今回も若い将とそうでない将が、好戦派と厭戦派に別れて争っている。今回はパッセルスとその一派は静観に徹しているため、モルガンとピエリックを中心に、争いが生じた。


「客将様、止めなくていいのか?」


「良い。さすがに味方を殺す程の阿呆は我が軍にはおるまい」


「怪我はいいのか?」


「俺が治す」


「ならいいが」


 俺はアキと話しながらしばらく観戦していると、ヴァーノン卿が来た。帰ろうかと迷ったようだが、覚悟を決めて入室してきた。


「宰相閣下の前であるぞ。喧嘩など止め、早く座らぬか」


 俺はそう言いながら殴り合いを止めた。ヴァーノン卿はため息を飲み込み、恐る恐る着席した。


「凡そは察しますが、現状の報告を」


 ヴァーノン卿がそう言うと、パッセルスが説明を始めた。アルフレッド軍の要求と、我が軍の現状を報告しただけで、喧嘩についてはなかったことにしている。


 パッセルスの説明が終わると、今度はヴァーノン卿がヴェルニッケを尋問した結果を話した。

 アルフレッド軍は、人間の騎兵五万騎とこの辺りの豪商数名から成るサヌスト王国正統政府軍と、ダークエルフとドワーフ、ゴーレムから成る尊主翼賛軍の連合軍であり、彼らは自らをアルフレッド派連合軍と呼んでいる。

 サヌスト王国正統政府軍の兵士の出処は、豪商が雇った傭兵が九割を超えるそうだが、魔法によって洗脳され、ゴーレム以下の自我しか持たぬようだ。指揮官は、アルフレッドに心酔した退役武官が八割、残りの二割は豪商の子飼の者だそうだ。

 尊主翼賛軍の兵士は、大陸各地に潜伏していた魔族を招集しているそうで、無尽蔵に湧いて出ると思って良いそうだ。ヴェルニッケの推定であるが、全てが集まれば、二百万〜三百万の兵士が集まり、その数倍の非戦闘員が軍隊を支えるそうだ。


「私は魔法や軍事に詳しくありませんので、ヴェルニッケという者の言葉をそのまま述べただけですが、三百万の兵士が背後に控えているということを、知っておいてください」


「客将閣下、考えられますかな?」


 パッセルスが俺の方を見てそう言った。魔法的に考えて、ということであろう。


「そうですな…今まで潜伏していたようであるし、三百万の兵士を養うことは可能でありましょう。三百万というのは誇張であるとしても、大軍が控えているのは間違いありますまい」


「アルフレッド軍…いや、アルフレッド派連合軍は我らを上回る大軍であり、資金は無尽蔵と言って良い…」


「停戦に決まりだ!シルヴェストル前将軍の遺された資産と比べれば、端金だろう!」


 パッセルスが現状を纏めて呟くと、厭戦派がそう叫んだ。前回は好戦派の言い分が通ったが、今回は厭戦派の言い分が通りそうだ。しかし、ヴァーノン卿の前で喧嘩をさせる訳にはいかぬ。


「多数決を取ればよろしい。宰相閣下を立会人とすれば、不満はあるまい?」


 俺がそう提案すると、ヴァーノン卿が明らかに嫌そうな顔をした。これほど嫌がるとは思わなかったが、明らかな中立の立場であるのは、この場では宰相たるヴァーノン卿だ。


「投票の権利は?まさか、ここにいる者だけで決めてしまおうとは…」


「千騎長以上の地位にある者、全てに聞けばよろしい。五十人以上はいると思ったが」


「引き受けました。ただし、私は投票の結果を発表するだけで、一票も投じませんので、私に対する不満を抱かぬよう、お願いします」


 ヴァーノン卿はそう言って、諸将に念を押した。投票結果に不満を抱かれ、闇討ちでもされるようなことになっては、誰も得をせぬ。


「それでは、ここにいる方々から集計し、明日の昼頃までには全対象者に聞いて回りますから、そのつもりでお願いします」


 ヴァーノン卿がそう言い、投票をしてから解散となった。もちろん俺とアキは停戦を支持した。


 念の為、甕城でアルフレッド派連合軍の動向を見守っていると、林の半分ほどにまで拡がっていた炎が一瞬で消えた。魔法によって空気の成分の配分を操作し、消火したようだ。

 離叛者の処刑と言っていたが、その力を我が軍に誇示しているとしか思えぬな。軍船を用意せねば矛先をそちらに向けるぞ、と。


 仮に停戦派が多数を占め、軍船八百隻やその他の物資を用意するとなれば、かなりの金銭(かね)が必要だ。シルヴェストルの遺産で足りるとは思うが、あまり残らぬと思って良いかもしれぬな。兵の損耗が増えすぎるよりは良いが。

 軍船八百隻というと、大国の水軍の全戦力とほぼ等しい。もちろん河川用の小型船などは除いて、であるが、それでも大戦力であることに変わりはない。コンツェン側に向かうか、ヴェンダース側に向かうか知らぬが、策略しだいでは国を落とせるだろう。

 他にも、糧食を三千万食というと、我が軍を半年は養えるし、軍港を無人にすると破壊行為を容認した事と同義となる。


 まあ金銭(かね)で終わる戦であれば、わざわざ戦って兵士を死なせる必要は無い。国家の存亡が懸かるような大金であれば別だが、今回は故シルヴェストル個人の遺産で賄える。ゆえに俺は停戦を支持したのだ。


 翌日。昼過ぎにヴァーノン卿の名で集められた。昨日いた将帥に加え、アクレシスも来ている。


「結論から言いますと、停戦派が三十二票、戦闘継続派が二十三票、白票が十二票でした。誰が何を支持したかは、この表をご覧ください」


 ヴァーノン卿はそう言い、表を張り出した。多数決によって、我が軍の動向が決まるのであれば、停戦に決定した。


 張り出された表によれば、パッセルスとその一派は白票を投じている。他は、厭戦派の者が率いる隊の千騎長は停戦に投じているし、好戦派の者が率いる隊の千騎長は戦闘継続に投じている。

 意外にも辺境軍の将帥は、ほとんどが戦闘継続に投じていた。クラヴジック城奪還に始まった叛乱鎮圧任務であるが、半月程度しか経っておらぬとは思えぬほど、激しい戦闘を繰り返している。ゆえに疲労から停戦を選ぶ者が多いかと思ったが、戦友を失った怨みが疲労に勝っているようだ。


「宰相閣下、白票のうち七票を停戦派に移してください」


「分かりました」


 パッセルスがそう言うと、ヴァーノン卿がパッセルスとその家臣六名の票を停戦に移した。パッセルスの中で、停戦する覚悟を決めたようだ。


「我が軍はアルフレッド派連合軍の要求する物資を提供し、同軍と停戦する。よろしいですな、宰相閣下」


「私は文官ですから、お気になさらず」


「それでは、各自、停戦に向けて用意を」


 それからパッセルスは、昨日とは人が変わったかのように指示を出し始めた。


 アルフレッド派連合軍への軍使として、ピエリックが派遣されることになり、俺はその護衛として一般兵に変装することになった。

 アルフレッド派連合軍の兵士を殺して回った俺が出向くと、アルフレッド達の神経を逆撫でしてしまう。しかし、アルフレッド派連合軍の陣地に行くのに、俺がおらぬと危険すぎるため、変装することになった。


 パッセルス自身はツィリーナル地方総督代理として、マルク・フェルナンド提督府に赴き、一時退去を命じに行く。

 マルク・フェルナンドとは、サヌスト唯一の軍港であり、東方守護軍の管轄であったが、シルヴェストルに放棄され、現在マルク・フェルナンド提督府は特殊な立場となっている。

 マルク・フェルナンドの提督は、水軍を率いて海上の治安維持が務めであるため、その麾下に陸上戦力はない。

 現在のマルク・フェルナンド提督は、ジャンリュックと言う者で、シルヴェストルの甥の妻の父の兄の…とにかくシルヴェストルの一族だそうだ。武者修行の旅に出て、武装商船の食客となり、海賊を乗っ取り、その首と船を手土産に、そこそこの地位を手に入れたそうで、シルヴェストルの将軍就任もジャンリュックの口添えがあったとかなかったとか。


 他の将は、それぞれ軍船を保有する貴族や諸侯、商人などとの交渉に行くそうだ。


 その他の物資の用意や輸送の手配はドゥールが全て請け負った。ドゥールの胃に穴があかねば良いが。

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