表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

260/561

第259話

 会議室に着くと、既にヴァーノン卿と主要な将帥が集まっていた。いつも最後に呼ばれるな。俺を待たせてはならぬ、などと思われているのであろうか。


「お待たせ致した」


「いえ。始めましょう」


 俺は着席すると、すぐに現状の報告を始めた。

 アルフレッド軍七万五千強が攻めて来ている事や、その中にアルフレッドの姿を確認した事、城壁を築いた事など報告できる事は全て報告した。


「こちらが籠城するとして、糧食はどれだけある?」


「兵の増減が無い場合、半年で糧食は底をつきます」


 パッセルスの質問にドゥールが資料を見ながら答えた。

 俺は半年も籠城する気はないが、止むを得ぬ場合は仕方あるまい。時たま気付かれぬように帰宅し、レリアに会いに行こう。


「敵は七万五千騎!対してこちらは五万騎!野戦を仕掛けても、全く勝ち目がないという訳ではありますまいに、なぜ籠城を前提に話を進められる?」


 モルガンが机を叩いて立ち上がり、そう叫んだ。

 憲兵隊を取り上げられてから謹慎していたようであるが、モルガンも過激なだけで無能な訳では無いそうであるから、謹慎が解かれたそうだ。


「地の利を捨てる必要はないと思われますが?」


「足を引っ張る地の利など捨ててしまえばよろしい。サヌスト軍の精鋭が、なにゆえ寄せ集めの賊軍に怯えて引きこもらねばならんのだ」


「落ち着かれよ、モルガン卿」


「後背から奇襲するも良し。一撃離脱戦法を繰り返すも良し。開門しなだれ出るのも良し。やり方は如何様にもありましょうぞ」


「しかし敵は七万。対する我らは五万。勝率が高いのは賊軍の方であることは、火を見るより明らか」


「そうは仰るが、こちらには客将閣下の精鋭部隊がいる。まことに頼もしき事ながら、彼らひとりで我ら数十人の働きが出来ましょうぞ。閣下、相違ありませんな?」


 パッセルスとモルガンが言い合いをしているが、こちらにまで飛び火した。


「相違はない。しかし、先の戦闘で負傷者が多数出ているのも事実だ。我が麾下を十倍の戦力としても、四千弱であり、騎兵と合計しても七万には及ばぬ」


「閣下の仰る通りだ。十倍、たとえ数十倍であっても、彼らは五百に満たない。戦力差が覆ることはないのだ、モルガン卿」


「精鋭部隊を中心に作戦を立てればよろしい。違いませんかな、閣下」


「勘違いなさるな、モルガン卿。私はどちらかと言えば、モルガン卿に賛成だ」


 俺の言葉に皆が驚いた。どうやらモルガンを止めさせようとしていたらしいな。


「籠城しても敵は倒せぬ。国王陛下は賊軍の討伐を命じられた事を、諸将はお忘れではありますまいな?」


「左様。我らの任務は賊軍討伐、延いてはサヌスト王国内の平安を取り戻す事。賊軍が退却したとして、クラヴジック城の安寧が守られただけで、国内の平安は保たれるとは言えんのではありませんか、総督代理」


「そうだ!国王陛下は賊軍の掃滅を望んでおられるに違いない!」


「自分勝手な解釈をするな!こちらの損害を抑えることこそ、我らの責務だ。ただでさえ、兵士の激減が問題になっているというのに」


「自分勝手はどちらだ!兵士になるべき子らを賊軍の魔手から守ること、つまり賊軍の掃滅こそが軍備の増強に繋がる事が、お分かりでは無いのか」


「そんな事は分かっている。だが、今の我が軍に勝ち目はあるのか!五万の騎兵を易々と投入出来るほどの余力は、我が軍にはないと言っている。勝率の低い戦であれば、尚更だ」


「勇敢なるサヌスト兵士を侮辱するか」


 俺の言葉で口争に火をつけてしまった。モルガンなど今すぐにでも抜剣しそうな勢いだ。

 基本的に若い将は出撃を望み、そうでない将は籠城を望んでいるようだ。


「静粛に!」


 ヴァーノン卿が机を叩き、そう叫ぶと、皆が静まり、剣の柄に手をかけていた者も手を離した。なかなかの迫力だな。


「まず、勅命の確認をしましょう。互いの認識に相違があってはなりませんからな」


「ええ。取り乱してしまい、申し訳ありません」


 パッセルスが一応の謝罪をすると、他の将も続いた。


「陛下のご命令は、国賊アルフレッドの討伐、または、捕縛。そして、その軍隊を撃退、または、国外に追放し、国内の治安を維持すること。以上のことを踏まえ、諸将には作戦行動に移っていただきたい」


「そのつもりです」


「では文官はこれで失礼させていただこう。これ以上は越権行為だ」


 ヴァーノン卿はそう言うと、文官を連れて退室して行った。刃傷沙汰になって巻き込まれるのを恐れたのかもしれぬな。

 ヴァーノン卿も貴族の嗜みとして、多少の武術は学んでおろうが、ヴァーノン卿は丸腰だ。それに、たとえ武装していたとしても、歴戦の驍将同士の喧嘩に巻き込まれたら、命の保証はない。


「では、討伐の方向で進めよう。何か案があれば、言っていただきたい。無ければ、五万騎で後背を突く」


 パッセルスをそう言い、机上の地図に駒を並べた。


「ワタシからひとつ。千騎ぐらいの隊を常に十隊以上出陣させ、奇襲を重ねてはどうだ?車輪戦法のように一箇所を攻撃し続けるのもいいし、同時に色んな所を攻撃してもいいし、その辺は改めて考えればいいと思う」


「なるほど…他には?」


「一万騎ずつの隊が四方から賊軍を囲み、城から一万騎が突撃すれば、奴らは瓦解しましょうぞ」


「それならば敢えて逃げ道を作り、その追撃に一万騎を当てた方がよかろう。窮鼠に噛まれては痛いからな」


「主要な街道を塞いで、奴らの補給線を断ち、餓死か降伏かを選ばせてみるのも良いのでは?」


「追い詰め過ぎてはならん。数で劣っているのに、死兵になるまで追い込んでは、両軍が壊滅する」


「夜間に強襲し、国賊アルフレッドの首を討ち取れば、兵士は降伏しよう。奴らの大義名分は、アルフレッド元王太子がいなければ、成立しない」


「アルフレッドの居場所が分からない」


 アキの提案を皮切りに、若い将が策を言い始めると、パッセルスなど先ほど籠城を主張した者が問題点等を答えていった。刃傷沙汰寸前までいったとは思えぬな。


 その後、会議は続き、百騎〜五百騎の隊が百隊、合計二万騎が出陣することになった。

 俺は客将隊(第一隊)の部隊長として、五百騎を率いて明日から出陣する。数字が若いほど、将帥としての位が高いようだ。パッセルスは城で待機するので何とも言えぬが、出陣するなら第一隊はパッセルスの隊であろう。


 会議後、明日の出陣に向けて準備をした。

 一度出陣すれば、余程のことがない限り城には戻らぬのだ。補給拠点も城外に設置される。夜間も各部隊長の指揮で城外で待機し、必要であれば攻撃する。

 俺は適当な将を捕虜にせよ、という別任務も承った。兵の出処や総兵数、資金源など色々と情報を引き出したいそうだ。

 出撃時、兵士には一食分の食料が与えられる。初日の昼食だ。その後の夕食以降は補給拠点で補給する。


 翌朝。最終確認の後、西の城門から出陣した。俺の隊はアキと五百の騎兵から構成されており、人狼隊と人虎隊は城塞の防衛に務める。ちなみにエヴラールは療養中だ。


「すぐにやるのか?」


「いや、まずは様子見だ」


 俺はアキの問いにそう答えた。

 斥候によると、アルフレッド軍はクラヴジック城から八メルタル程度の距離にある林に陣を敷き、攻撃せずに待機しているそうだ。


 千騎程度の隊に分かれ、それぞれが陣を敷いている。もちろん互いの陣が見える程度の距離だが、一撃離脱戦法を用いるなら、相手は無防備の千騎と思って良い。

 さすがにアルフレッドがいると思しき本陣は人間とダークエルフとドワーフが千名ずつの三千騎だそうだが、それでも七万五千の軍の本陣にしては少なかろう。

 林についてであるが、騎馬の突撃の邪魔にはならぬが、遠くを見るには邪魔な程度の林だ。数で劣る我が軍に有利に働くだろう。代々の東方守護将軍が、この林の管理もしていたそうだ。

 林の中の開けた場所は地図に記してあるので、陣が敷けそうな場所は容易に分かる。


 つまりは、七十箇所以上の陣があり、それぞれ戦術的に孤立しているため、アルフレッド軍に混乱を与えることは可能ということだ。


「あれは…ドワーフだな。やるか?」


「…攻めよう」


 ドワーフの陣を確認した。一つだけ豪華な幕舎があり、それがこの隊の隊長の居場所を示している。違ったら、また別の陣を攻めれば良いだけだ。


「全隊に告ぐ。目的は敵を混乱たらしめる事だ。無理な戦闘は避けよ。全隊で三十人も討ち取れば上等だ。こちらの被害を極力出すな」


 俺は百騎長達にそう伝え、一呼吸おいてからヌーヴェルを棹立たせた。


「突撃せよ。俺に続けぇ!」


 俺がそう叫び、先頭を駆けると、五百騎が雄叫びをあげて突撃した。

 敵襲に気付いたドワーフ達であったが、得物を構える隙もなく、俺に斬り飛ばされた。

 右に左に、ドワーフを斬り倒しながら、豪華な幕舎を目指した。


「覚悟せよ、ドワーフ!」


 幕舎の布を切り裂き、中にいたドワーフの胸ぐらを左手で掴んで持ち上げ、剣の柄で顔を数回殴り、剣の腹で首筋を何度か叩いた。どうやら気を失ったようだ。


「退却だ!」


 俺は掴んだドワーフを左の小脇に抱え、先頭をアキに譲った。ドワーフを抱えながら先頭を行くのは、少々骨が折れる。

 アキが薙刀でドワーフ達を薙ぎ払いながら、陣を走り抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ