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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第252話

 朝食後、エヴラールと合流し、調査隊とも合流した。総勢約百名である。王宮の時は緊急であったから少なかったが、今は急がぬ。アルフレッド派の侵入はないし、歩哨も置いている。


「では行くか。半数は第二隊として後方で待機せよ。アキ、何かあれば連絡する」


「任せておけ。すぐにでも突撃できるようにしておく」


「いや、待機だ」


「分かった」


「では第一隊は行くぞ」


 俺は調査隊を二つに分け、何かあった時のためにアキを残していくことにした。アキであれば離れていても話せる。ちなみにエヴラールは第一隊として、俺のそばにいる。


 巨大金庫を進むと、小さな扉が見えた。屈まねば通れぬほどだ。


「閣下、開きません」


 兵士が前に出て扉を開けようとしたが、開かぬようだ。

 シルヴェストルが何年前に金庫を作ったか知らぬが、金庫ができてからは碌に手入れもしておらぬのだろう。海も近いし、錆びているのかもしれぬ。いや、こんな地下に海風は届かぬか。


「退け。扉を破壊する」


「はっ」


「お気をつけください」


「ああ。俺は馬鹿ではない」


 エヴラールに注意されたが、俺はもう二度と金貨に埋もれたりせぬ。あれはなかなか窮屈だ。

 充分距離をとったのを確認し、妖刀ラスイドを抜いた。ヒナツは三種類の斬撃を使い分けていたが、本来は四種類あるそうだ。氷、土、雷の斬撃に加え、無の魔力の斬撃というものがあるそうだ。それは魔力消費が多いそうだが、威力は最も高いそうで、金剛石を両断するほどだそうだ。


 俺が魔力を込めて刀を振ると、陽炎のような目に見えぬ刃が勢いよく飛び出し、扉を両断した。温めた包丁でチーズを切るように、綺麗に切れた。


「これは良い物を貰ったな」


「例のヤマトワ人からの贈物ですか?」


「ああ。こちらも諸刃の直剣を返した」


 俺はそう言いながら妖刀を鞘に収めた。鞘もなかなか上等なもので、鞘を鈍器になどできぬ。


 扉の破片が片付けられると、蝙蝠の大群が出てきた。


「射つな。やつらに敵意はなかろう」


 俺は矢を番えた兵士を止めさせた。わざわざ殺す必要もあるまい。城の方に行ったので、アキに連絡しておいた。


「外と繋がっているのでしょうか」


「魔王の眷族が永い眠りから覚めたのかもしれぬぞ」


「ご冗談を…」


 エヴラールには冗談を言ったが、外と繋がっているとすれば、アルフレッド派に盗まれているかもしれぬ。


「五名残って見張れ。蝙蝠が戻ってきたら、適当に音を鳴らして知らせよ。それ以外は行くぞ」


 俺はそう言い、真っ先に穴に入った。他の誰かが先頭を行くより、俺が行った方が安全だ。

 入口付近は屈めば良かったが、しばらく進むと、匍匐しか移動手段がない程狭くなった。窃盗に備えていると言えば聞こえは良いが、警備を怠っている証拠ではないか。


 さらに進むと、鼻を蛇に噛まれた。痛みから察するに、毒蛇であろう。それもかなり猛毒だ。


「蛇がいる。おそらく毒蛇だ。退避せよ」


 俺はそう指示したが、最後方まで伝わるまで時間がかかるだろう。その後も匍匐後退をせねばならぬから、さらに時間がかかるはずだ。

 俺は蛇を見かける度に頭を叩き潰した。


 蛇を十匹程度潰した頃、背後のエヴラールが後退を始めた。俺は有識者に聞くため、蛇を一匹掴んだ。そして土魔法で壁を作ってから後退した。それと同時に出口付近に第二隊を呼んでおいた。


 通路から出ると、残した五名が干からびて死んでいた。血液だけでなく、体内の水分を全て吸い尽くされたようだ。


「これは…なかなか大変だぞ」


「客将様、その蛇は?」


「中にいた蛇を捕まえた。エヴラール、詳しい者に調べさせよ。毒があるから気をつけよ。ここをこう持て」


「ただちに調べてまいります」


 俺はエヴラールに蛇を渡した。首を掴めば噛まれることはあるまい。


「アキ、蝙蝠は見なかったか」


「あれだろ」


 アキはそう言って上を指さした。十メルタ以上離れた天井に隙間なく止まっている。何と言うか、気色が悪いな。


「閣下、ご報告申し上げます。最後尾にいた兵士によりますと、あの五人の遺体に蝙蝠が群がっていたとのことであります」


 兵士が報告に来た。確かファブリスという名で、調査隊の副隊長だ。


「すると、あれは吸血蝙蝠だと?」


「は。証言から察するにはその通りでしょう」


「屍肉を食い荒らしに来た可能性は?」


「ございません。噛み傷のひとつもありませんから。首筋と両手首に二箇所ずつ、針を刺されたような傷があるだけです」


「そうか。とりあえず遺体を運んでおけ。それから念の為、宰相閣下か総帥閣下に伝えておいてもらおう」


「はっ」


 ファブリスにそう命じると、五人の遺体が運ばれて行った。

 どうしたものか。簡単な任務と思っていたら、かなり面倒な任務だ。

 あの通路は段々と狭くなっていたし、毒蛇もいた。他にどんな罠があるか知らぬが、今の時点で充分危険だ。


「一度退避しよう。例の巨大扉まで退き、ここは封鎖する」


 俺はそう決めた。兵士も退避したかったようであるし、何よりここを開放しておいたら危ない。


 退避をし、扉を閉めて点呼を終えると、エヴラールが文官を連れて戻ってきた。確かセドックという名であった。


「客将閣下、ただちに焼き払ってください!たとえクラヴジック城が焼け落ちたとしても、なさねばなりませんぞ!」


「落ち着かれよ、セドック卿。その蛇が何か、ご存知か」


「はい。その蛇は魔王の眷族です。蝙蝠がいるそうですが、それも同様です。狼や狐、毒虫などはいませんでしたか?」


「見ておらぬぞ」


「左様ですか」


「ああ。ところで何からその情報を得た?」


「絵巻物です。魔王は右腕で眷族を操り、左腕で魔王軍の指揮を執る、と」


「初耳だ。だが、それが本当なら焼き払ってしまおう」


「お待ちを。毒蛇には炎が有効ですが、吸血蝙蝠には効きません。先程言ったのは、蛇に対するものであり、蝙蝠は別の方法で倒さなければなりません。宰相閣下に上申し、兵をこちらに回してもらいます」


 炎が効かぬとなると、一匹ずつ倒さねばならぬな。戦力的に信頼できるのは、人狼隊と人虎隊である。それ以外は群がられて倒されるだろう。現に五名の歩哨も死んだ。


「いや、人狼隊と人虎隊だけ呼び寄せてもらいたい。他では相手にならぬ」


「承知しました。それでは」


 セドックはそう言って総督府に向かって走っていった。少しでも早くこの場から去りたいようであった。まあ普段から運動せぬようで、足は遅いが。


「客将様、蝙蝠に炎が効かんのなら、火を放つなよ。蝙蝠退治に言ったら燻られる」


「分かっている」


「ジル様、一匹ずつ倒すおつもりですか?」


 エヴラールがそう言った。なぜ当たり前のことを聞くのであろうか。まあ何か理由があるのであろうが。


「そうするしかあるまい。まあ流れ弾で数匹巻き込むと思うが」


「数日は必要でしょうか」


「そうであろうな。おぬしはここで待機せよ」


「いえ、私も中に入ります。そして魔王の右腕への通路を拡げようかと思います」


「そうか。では人狼を五十、おぬしに預ける。身を守りつつ、穴を拡げよ。セドック卿の言った狼や狐、毒虫がいれば、知らせよ」


「御意」


 確かに例の穴を拡げつつ、眷族の討伐をすれば、普通にやるより早く終わるだろう。穴を拡げる許可が下りれば、であるが。まあ穴を拡げぬことには魔王の右腕の調査もできぬので、許可が下りぬ場合は勝手に破壊させてもらう。流れ弾が当たったということで処理してしまえば良い。


 しばらくすると、人狼隊と人虎隊が到着した。セドックは離れたところで一礼して去った。


「ジル様、宰相からです」


 ブームソンがそう言って紙片を差し出した。

 ヴァーノン卿のもので『セドックから話は聞かせてもらいました。クラヴジック城を全て破壊する必要がある場合、報告を願います。地下神殿のみの破壊は閣下のご判断にお任せします』と書いてあった。

 俺は昼食を食べてからのつもりであったが、ヴァーノン卿やセドックは急いで欲しそうであるし、人狼隊も人虎隊も昼食休憩をとったら先走りかねぬほど戦意の昂りを感じる。行かねばならぬな。


「ファブリス、俺は突入し、魔王の眷族を掃滅する。この扉を閉め、誰も通すな」


「は。中からは開きませんが、よろしいのですか?」


「ああ。扉を五回叩く。それを合図に開け」


「承知しました」


「では行ってくる」


「ご武運を」


 ファブリスがそう言って合図をすると、扉が開かれた。一人ずつ通れる程度で、二人並んでは通れぬ程だ。


「人狼隊、人虎隊、突入し、吸血蝙蝠及び毒蛇を掃滅せよ」


 俺がそう言うと、人狼と人虎が交互に突入して行った。敵は魔王の眷族であるため、魔族である人狼、人虎は士気が低くなるまいかと心配したが、杞憂であった。


 俺は最後尾を行き、扉が閉まるのを確認してから金庫内を見た。

 既に狼化、虎化した者が蝙蝠を倒そうと跳ねているが、さすがに身長の十倍以上は跳べぬか。まずは蛇から対処すべきということであろう。


「穴を破壊する。蝙蝠に警戒せよ」


 俺はそう言い、皆が穴から離れた事を確認してから、火魔法を撃ち込んだ。穴の中で爆発し、瓦礫が飛び散ると、蛇が湧いて出てきた。


「蛇を倒せ。頭を潰せば死ぬ」


 俺がそう言うと、人狼と人虎はエヴラールに預けた一隊を除いて、蛇を殺し始めた。エヴラール達は瓦礫の撤去から始めるようである。

 凄まじい戦意だな。いや、それもそうか。戦えると思ってクラヴジック城に来た二隊であるが、任務は工兵隊の護衛と城塞防衛のみ。どちらも血が流れぬ任務だ。物足りぬのも仕方ない。

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