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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第250話

 転移後、点呼が終わると、クラヴジック城に向けて動き出した。

 今回は国王旗ではなく、大将軍旗を掲げている。


 ジェローム卿が色々と調整を進めてくれているが、友邦三国の併呑したら、更なる再編成をせねばならぬであろう。そのため、現在は中央軍と辺境軍に分け、調整しやすいようにしたそうだ。

 辺境軍とは、かつて東西南北の将軍の麾下にあった部隊を統合した部隊であり、今この瞬間も国境防衛に務めている。兵数は約二十万名だ。軍旗は北方守護将軍のものを用いている。

 中央軍とは、辺境軍と各都市の衛兵以外の部隊の総称であり、兵数は現在調査中だそうだ。少なくとも十万はいるようであるが、行方不明となった部隊や脱落した兵士などの捜索も続いている。軍旗は大将軍旗を用いている。


 今回の派兵には、中央軍の騎兵全てが動員されているそうだ。これを失えば、軍事力は著しく低下し、傭兵の雇用を考えねばならぬほどだ。


 クラヴジック城に着くと、大将軍旗を確認したのか、すぐに開門した。


 入城後、俺とアキ、ヴァーノン卿、ラシャ、アクレシス(前の大将軍とは同名の別人)、シャフィク、マルクが偽王宮の会議室を通された。アクレシスとシャフィクは騎兵の指揮官で、マルクは宮廷書記官である。

 会議室ではパッセルス、スタニック、アブデラティフが待っていた。


「此度の叛乱鎮圧について、私は国王陛下より全権を預かっている」


 簡単な挨拶を済ませると、ヴァーノン卿がそう言った。もちろん命令書も提示している。


「まず、我々の帰還後、第一将軍格家退役当主パッセルスをツィリーナル地方総督代理とし、この偽王宮なる建物を総督府とする。そのつもりで臨むように」


「は。謹んでお受けいたします」


 ちなみにツィリーナル地方とは、クラヴジック城の周辺地域の名称である。つまり叛乱軍が潜伏しているであろう地域だ。


「では現状の報告をして欲しい。城内と城外と、なるべく詳細に」


 ヴァーノン卿に促され、パッセルスが報告を始めた。


 城内について。


 金貨の回収作業は、ユベールという騎士が指揮している。ユベールの指揮下に移ってから、三度ほど金貨が崩れ、その度に救助作業をしているため、当初の予定より遅れているらしい。まだ一割も終わっておらぬそうだ。


 金貨回収に伴い編成された憲兵隊の長のモルガンという騎士がなかなか過激で、銅貨を盗めば利き腕を、銀貨を盗めば両腕を、金貨を盗めば首を斬り落とすと宣言した。

 金貨回収の任にあたる兵士はむろんのこと、金貨回収の任とは関係のない兵士まで疑い始め、兵士の士気を削ぐ結果となった。しかし五十名以上の窃盗犯が見つかったそうなので、文句など言えるはずもなく、ましてや解任などできるはずもなく、萎縮した兵士による作業が続いている。


 金貨回収に伴った死者は既に四十名を超えているそうだ。崩れた金貨に巻き込まれた者が三名で、それ以外は窃盗犯だ。腕を斬られただけの者も傷が悪化し、死亡しする事も多々あるそうだ。

 また、憲兵隊と一般の兵士の喧嘩も多発し、十名以上の死者が出たそうだ。


 唯一の朗報であるが、犬人と猫人が城壁の強化に務め、並の軍隊では傷ひとつ付かぬそうだ。突破するには魔法使いでなければならぬ。また、城壁上の兵士の魔力を吸収し、対魔法結界も張っているそうだ。


 城外について。

 兵の損耗を抑えるため、大規模な城外の捜索は行っておらず、叛乱軍の居場所は未だ掴めぬそうだ。


「ふむ…金貨回収を最優先で…客将閣下、どうにかなりませんかな」


「魔法で良ければ、半日とせず片がつく」


「何と!なぜ教えていただけなんだ?!」


「いや、失礼。言っていただければ、すぐに取り掛かったのだが」


「む…」


 パッセルスには何か別の考えがあると思って黙っていたが、魔法を知らなかっただけか。


「問題があったのなら、解消すればいい。客将閣下、お願いします」


「承った」


 異空間にしまって適当な所に出しておけば良かろう。


 その後、それぞれ任務が与えられ解散し、俺達は別室に移動した。ちなみにモルガンは解任され、憲兵隊はシャフィクの指揮下となった。


 別室とはつまり、牢獄である。ヴァンサン侯爵、アントワン伯爵、ギャスパー子爵、トリスタン子爵、オクタヴ男爵、アルトュル男爵の六名の貴族とアルフレッド派高級文官十三名、合計十九名が収容されている。他にも数十人の文官がいるが、こちらはアルフレッド派に脅されていたとして、服従を条件に解放した。

 叛逆した貴族と高級文官、計十九名を牢獄内の一室に集めた。


「ヴァーノン…」


 ヴァンサン侯爵がそう言ってヴァーノン卿を睨めつけた。

 叛逆貴族六名からは爵位が剥奪され、同族の国王派がひとつ下の爵位を継いでいる。叛逆文官からは官職が剥奪されている。いずれにせよ、この十九名は無位無官である。そのために正確に表すならば、ただの叛逆者だ。

 ちなみに俺、アキ、ヴァーノン卿、パッセルス、スタニック、ラシャ、マルク、騎士十名が来ただけである。他はそれぞれの任務に向かった。


「国王陛下のお言葉を代読する。これより、諸君の罪と刑を言い渡す。ヴァンサン以下十九名、叛逆罪により自殺を命ずる。冥府で罪を贖え」


 ヴァーノン卿が片手を上げると、騎士が毒入り葡萄酒の入った樽を運んできた。樽で用意したのか。


「ラシャ卿、手伝って差し上げよ」


「は」


 ヴァーノン卿はラシャにそう命じると、騎士が酒杯に葡萄酒を注いだ。こういう場合、サヌストでは下位の者から死を賜わる。

 最も下位の文官が葡萄酒を飲んだ。すると直後に痙攣し、すぐに白目を剥いて動かなくなった。かなりすぐ効くようだな。


 元文官十三名、アルトュル、オクタヴ、ギャスパー、トリスタンと順に死を賜った。多少暴れる者もいたが、騎士に()()()()、無事に自殺した。あとはアントワンとヴァンサンのみである。


「アントワン卿、次はそなたの…」


「嫌だ!嫌だぁ!離せ、無礼者!この私を誰と心得えるか!離せ!」


「醜いぞ、アントワン。公爵たる俺が斬り捨ててやっても良いのだぞ」


 俺がそう言い、魔力で威圧しながら剣の柄に手をかけると、アントワンは大人しくなった。そして葡萄酒(どく)を飲み、痙攣しながら死んでいった。


「新参者が偉そうに…」


「ヴァンサン卿、次はそなただ」


「ワシは無様に死なん。最期は自分で決着をつけたい。縄を解いてはくれないだろうか」


「覚悟はできているようだな。そもそも貴様達のような叛逆者が死を賜るなど恐れ多い。陛下のご慈悲に感謝せよ」


「ワシはかのお方を国王陛下と認めるこはできんが…時代に残された老害は早々に退場せねば、恥を晒すのみ。大杯にて自害しようぞ」


 ヴァンサンはヴァーノン卿に頼んで縄を解かれた。そして通常の三倍程度の大きさの酒杯を受け取り、葡萄酒(どく)を自ら注いだ。意外にも覚悟は決まっていたようだ。獄中で何か心境の変化があったのか。


「我らが尊主アルフレッド王太子殿下に栄光あれ!」


 ヴァンサンは突然そう叫び、アキに酒杯を投げつけた。

 俺は慌てて剣を抜き、ヴァンサンの右手首を斬り落とした。酒杯を躱したアキも刀を抜いてヴァンサンの耳を貫いた。


「取り押さえよ」


 俺の声で我に返った騎士がヴァンサンを取り押さえた。アキの背後にいたマルクと騎士が目を押さえて蹲っている。目に入ったか。


「ヴァーノン卿、どうなさる?」


「斬首だ。首を斬り落としていただきたい」


「承知した」


 俺はヴァンサンに向き直り、取り押さえた騎士に首を差し出させた。


「遺言など聞かぬぞ。冥府で己の罪を懺悔せよ」


 俺はそう言い、ヴァンサンの首を斬り落とした。何か言おうとしていたようであるが、言い訳など聞かぬ。


「客将閣下、マルク卿とジョスリン殿が…」


 パッセルスがマルクの体を助け起こしてそう言った。


「失礼するぞ」


 俺はそう言い、マルクの脈を触ったが、既に死んでいる。ジョスリンという騎士も死んでいた。天眼で確認したが、やはり死んでいる。死んでしまえば、俺にはどうにもできぬ。


「もう死んでいる。死んでしまってはどうにもできぬ」


「左様か」


「ああ。魂よ、安かれ」


 俺達は二人の簡易的な弔いを済ませ、牢獄を後にした。何とも後味が悪いヴァンサンの最期であった。

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