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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第249話

 俺はレリアとアキを別の寝室に運び込み、アルテミシアを客間のベッドに運んだ。アメリーも運んでやろうかと思ったが、面倒であったし、早くレリアのそばに行きたいので、談話室のソファに寝かしておいた。机に突っ伏したままよりは良かろう。


 俺はレリアの隣に寝転び、寝顔を眺めていた。すると、朝になっていた。時間を忘れてしまったな。


「ん…おはよう」


「ああ、おはよう。水でも飲むか」


「うん。ちょっと多めにお願い」


「分かった」


 俺はレリアの注文通り、いつもより多めの水を渡した。夏であるから、喉が乾いたのであろう。

 レリアはベッドの縁に座り、一気に水を飲んだ。


「ちょっと気持ち悪いかも」


「大丈夫か?」


「頭もちょっと痛いし…」


「何と…」


 レリアが体調不良とは、どうしたものか。ファビオやカイのように風邪であろうか。風邪か…重大な病気でなければ良いが。


「医者を、テクジュペリを呼んでくる」


「行かないで。もう一杯、お水ちょうだい」


「ああ。それは良いが、本当に大丈夫か?」


「大丈夫だと思うんだけどね…」

 

「本当か?無理をしてはならぬぞ」


「うん。もう一杯いい?」


「ああ。水で良ければいくらでも出すぞ」


「ありがと。バケツか何かある?」


「ああ。少し待ってくれ」


 俺は部屋の中を見回し、壁の方に置いてあった壺を持ってきてレリアの傍においた。


「これで良いか」


「ありがと。ちゃんと後で掃除するから…」


 レリアはそう言って壺の中に吐いた。俺はどうすべきであろうか。背中をさする事しかできぬ。やはり医者を呼ぶべきではなかろうか。


「すまぬがレリア、医者を呼ぶぞ」


 俺はレリアの返事を待たず、テクジュペリに念話で伝えた。最速で来い、と。

 それほど時は経たず、テクジュペリが駆け込んできた。


「何事ですかっ?!」


「レリアを診てくれ。何か重大な病気ではあるまいな?」


 テクジュペリが返事もせずにレリアを診始めた。

 長いな…いや、体感的に長く感じるだけで、本当はそれほど経っておらぬはずだ。それにしても長いな。


「ジル様、姫様は宿酔です」


「…何と?」


「姫様は宿酔です。十分な水分を摂って、安静にしてください」


「つまり、大丈夫であると?」


「はい。昨夜、飲みすぎたのでしょう」


 確かに談話室で眠ってしまうほど飲んだようだが…珍しいな。普段のレリアは少ししか酒を飲まぬし、そもそもかなり薄めて飲んでいる。

 それにしても驚いた。レリアに何かあったらと思うと、俺もどうにかなってしまうぞ。本当に何も無くて良かった。いや、宿酔であることには変わらぬが、病気でなくて良かった。


「何かごめんね。変な心配かけちゃって」


「いや、杞憂で良かった」


「では姫様、安静になさっていてください」


「ちょっと外に出るのもダメ?」


「あまりよくありませんな」


「少しでも?」


「はい。治るまで寝室(ここ)にいてください。食事はここに運ぶよう手配しておきますから。それでは失礼します」


 テクジュペリはそう言って出ていった。優秀な医者が仕えてくれて良かった。テクジュペリがいなければ、今頃どうなっていたか分からぬ。


「ごめんね。お見送りはできなさそう」


「いや、ここから出発する。俺には転移魔法があるからな。少し準備をしてくる。水はここに用意しておこう」


「ありがと」


 俺は創造魔法で水差しを五つほど創り、水魔法で水を満たした。その間にサラに念話で事情を伝え、来てもらった。


「では準備をしてくる。サラ、レリアを頼むぞ」


「はい」


 俺は寝室を出て、隣の寝室に入った。アキが寝ている部屋である。

 アキはなぜか浴衣を脱いで寝ていた。いや、八割程度が脱げているだけで、帯は解けておらぬ。ちなみにこの浴衣はタカミツ殿がトモエに持たせたもので、ユキとカイも似たようなものを受け取っていた。


「朝だ。起きよ」


「旦那様か……頭痛が痛い…」


「頭が痛い、だ」


「…手を出せ、旦那様。吐きそうだ」


「吐くな。おぬし、宿酔であるな。レリアもそれが原因で寝込んだ」


「じゃあワタシも寝込む…戦は病欠にしておけ…」


 ただの宿酔というのに、大袈裟であるな。飲みすぎは自業自得であろうに。

 適当に言って連れ出すしかないあるまい。アキがおらねば、何かあった時のための戦力が半減だ。


「おぬし、なぜ服が脱げていると思う?」


「寝相が悪いとでも言うのだろ」


「そうか、明言せねば分からぬか…いや、それでは興醒めだな。俺がいて、おぬしが脱いでいる。分からぬおぬしではあるまい?」


「子作りか?!夜が短いと思ったら、まだ朝ではなかったのだな。朝までにやってしまおう。三つ子くらいはできるか?」


 アキは飛び起きてそう言った。飛び起きる元気があるなら連れ出しても良かろう。アキは寝起きであるから、勘違いさせるのは簡単であった。それにしても三つ子ができるとはどういう意味であろうか。


「何の話をしている。服が脱げたのは、おぬしの寝相のせいだ。それより早く準備せよ」


「旦那様、騙すのは無しだろ」


「いや、騙しておらぬ。寝惚けたおぬしが勘違いしただけだ。それより早く着替えよ」


「納得いかんな…」


 アキはそう言って準備を始めた。朝から面倒であるが、仕方あるまい。アキを選んだのは俺だ。まあ選ばされたのであるが、断り切れなかった俺にも責任はあろう。


 アキが着替え終え、武装もしたので、俺も武装した。妖刀ラスイドを帯びている。俺は双剣術など知らぬから、二本同時に使うことはあるまい。

 俺はレリアのいる寝室に戻った。


「レリア、準備ができてしまった。俺は行ってくる」


「気をつけてね」


「ああ。レリアも無理はするでないぞ」


「うん。無理できそうもないけどね」


「まあそうであるな。サラ、レリアを頼んだぞ」


「はい。一瞬すら目を離しません」


「ああ。その意気だ」


「姫の気が休まらんだろ」


 確かに常に見張られていれば気が休まらぬな。気が休まらねば、治るものも治らぬ。


「サラ、程々にせよ」


「はい。程々に」


「レリア、九月までには戻る。では行ってくる」


「うん。行ってらっしゃい」


「ああ」


 俺はレリアにそう返し、王都の屋敷に転移した。宿酔と言えど、やはり心配だな。


 王都の屋敷では、エヴラールの指示で朝食が用意されている。実は昨日の式典に出席せず、王都に戻っていたのだ。

 食堂に行くと、なぜかパーティ仕様になっていた。朝から誰を招くというのだ。


「エヴラール、これは何だ?」


「申し訳ありません。ジル様の朝食を如何ほど用意するか聞かれましたので、パーティ程度と答えたところ、どこでどう間違ったのか、朝からパーティをすると全使用人に伝わっていたようです」


「そうか。まあ良い。暇な者は参加せよ、と伝えよ。三人では寂しかろう」


「は。ただちに通達します」


 エヴラールがそのような失敗をするなど、珍しいな。厨房で見張るくらいのことはするかと思っていた。まあ休めと命じたのは俺であるが。

 俺はパーティ用の食事を端から食べ始めた。やはりキトリーの料理には勝てぬが、まあそこそこ美味しい。味で値段が決まるなら、三食で銀貨十枚といったところか。キトリーの料理には金貨三十枚を毎食払える程の価値があるが。


 俺が三品目を食べ終え、次はどれを食べようか悩んでいると、王宮から使いの者が来た。準備が整ったそうだ。アキもエヴラールも、少ししか食べておらぬが、二人とも満腹そうなので良い。


 王宮に出向くと、俺とアキは謁見の間に通された。エヴラールは控室で待機だ。アキは俺の副将という扱いであるが、エヴラールは副官という扱いであるため、こうなる。俺としては二人は同格であるが、勝利への貢献度やそれに伴う報酬額などから、アキは俺の副将と見られている。


 謁見の間には朝であるのに、十名以上の高級官吏が集まっている。そして既に陛下もいる。

 俺とアキが跪くと、陛下は口を開いた。


「客将ジル・デシャン・クロード公爵よ。二十余名の文官団、五万騎の騎兵を率いて、クラヴジック城へ征け。そして同城塞周辺地域を平定し、安寧をもたらせ」


「御意」


「ヴァーノン、ラシャ」


「「はっ」」


 呼ばれた二人が前に出てきた。ラシャというのは騎士のようだ。


「両名はこれより公爵の指揮下に入り、賊軍を討伐せよ」


「「御意」」


「諸将にヴォクラー神のご加護があらんことを」


「「「ヴォクラー神のご加護があらんことを」」」


 俺達以外の官吏が唱和し、俺達は退室した。


 その後、糧食や支援物資等を俺の異空間に回収し、五万の騎兵と二十余名の文官と合流した。

 王都民にもクラヴジック城周辺地域で叛乱が起こったことがそれなりに知れ渡っているので、王都の大通りを通って出征した。新王は叛乱を見逃さぬぞ、と。


 王都を通る途中で『誰の軍か』『正規軍だろうよ』『何の為の出陣か』『東の叛乱鎮圧に行くのさ。あの黄金鎧の隊らしい』『名は何と言う?』『知らんな。新参の客将らしい』という会話が聞こえてきた。俺の名と顔はあまり知れ渡っておらぬようだ。


 王都を出て五メルタル弱進んだところで、待機を命じ、ヴァーノン卿とラシャに転移魔法で移動することを通達させた。さすがにいきなり転移しては驚くであろう。

 俺はその間に魔法陣を準備しておいた。少人数なら互いに触れ合えば良いが、五万の騎兵が手を繋ぐのは滑稽であろう。


「客将閣下、文官(こちら)は終わりました」


武官(こちら)も完了しました」


 準備を終えて待っていると、ヴァーノン卿とラシャが報告に来た。


「では転移する」


 俺はそう言い、クラヴジック城の西方約三メルタルに転移した。

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