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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第243話

 俺はファビオとカイの見舞いに行こうと思ったが、薬師に反対された。薬師によると、眠っているらしいので、無理に起こすのも悪い。


「では朝食でも食べよう」


「そうだね」


「わたし、腹ぺこネ」


「ワタシも朝から何軒も走り回って疲れた。起きてる薬師はアイツしかいなかった」


「叩き起こせば良かったじゃない。さ、行きましょう。わたしもお腹が減ったわ。とびっきりのご馳走を用意なさい」


 トモエとヒナツも俺達と一緒に食べる気か。あれだけ論詰しようとしておいて、図々しいとは思わぬのか。まあ別に良いか。俺はそれほど狭量ではない。


「兄上、ちょっと」


 アシルがいきなり出てきてそう言った。どこから現れたのか全く分からなかった。気配を消すのはやめて欲しい。


「何だ」


「用がある。義姉殿とその他は、どうぞ朝食を」


「俺も朝食を食べておらぬ」


「ルイス卿がお呼びだ」


「ならば行かねばならぬか。レリア、すまぬな」


「…なるべく早く帰ってきてよ」


「ああ、もちろんだ。では行ってくる」


 俺はレリアに別れを告げ、アシルの後を追った。なぜ今なのであろうか。ルイス卿が呼んでいるのであれば仕方ないが、伝達が遅れた、とでも言って朝食くらいは食べさせてくれても良いのではないか。


 領主館の領主代理文官執務室、つまりルイス卿の部屋に行くと、ドウセツとチカシゲが待っていた。ふたりは三人掛けのソファに窮屈そうに座っているが、文句を言っているわけではなさそうなので良いのか?

 ルイス卿とアズラ卿、俺、アシル、ドウセツ、チカシゲが集められたということは、ヤマトワ人の避難民についてのことであろうか。


「お待たせして申し訳ありませぬ。何用ですか?」


「早速で申し訳ありませんが、明日の昼からヤマトワ人歓迎式典を執り行います。登壇者はこちらで決めてしまいました。サヌスト人からはジル卿、アシル卿、そして両夫人。ヤマトワ人からは、ヒナツ卿、トモエ卿、ドウセツ卿、チカシゲ卿。以上の九名です」


「ルイス卿とアズラ卿は登壇なさらないのですか?」


 アシルが軽く手を挙げてそう言った。俺としては別の点の方が気になるが、こちらも気になる。


「はい。今回は裏方に回ろうと思います」


「そうですか」


「他に質問はありますか。無ければ食堂で朝食でもどうぞ。その間に台本を用意しますので」


「お願いします」


「では失礼します」


 俺達は執務室を出て食堂に向かった。ルイス卿ばかりにお任せして申し訳ないが、まあ本人がやって下さると言っているのだ。気に病む必要は無い。

 食堂に着くと、俺は気になっていた件を尋ねることにした。移動中にも色々考えたが、本人に聞くのが良かろう。


「アシル、おぬし、夫人(あいて)がいるのか」


「言っていなかったか。これを機にナナさんと婚姻を結んだ。式は挙げないつもりだ」


 アシルは何でも無いようにそう言った。

 アシルの秘密主義もいい加減にして欲しいものだ。伯爵になったのも最近まで知らなかった。婚姻を結んだのも今知った。しかも俺はナナさんとやらに会ったことがない。


「式くらい挙げたらいいじゃないですか」


「そうですぞ、伯爵閣下」


「夫人も望んでいるのでは?」


 アズラ卿とドウセツ、チカシゲがアシルに詰め寄り始めた。挙式せぬことを責めている。秘密にしていたことを責めるのかと思ったが…まさか知らなかったのは俺だけか?

 俺も独自の諜報部隊を組織しておくべきか。フーレスティエに頼んでおこう。いや、それではフーレスティエの部隊になるな。となると自分で構成員を選ばねばならぬが、それは大変そうだ。諜報部隊はやめておこう。これまで通り、アシルを信じてアシルに任せれば良い。


「落ち着かれよ、お三方。ナナさんの意向だ。略奪婚だからあまり表立って祝うのは良くない、と」


 確かナナさんはゴハチロウという許嫁がいたと言っていた。キイチロウの息子だそうだ。そのゴハチロウはヤマトワに帰ったはずであるから、気遣う必要はなかろう。


「略奪婚ってほんとですか。意外とやんちゃですね」


「私は略奪婚と思っていませんが」


「言いますね。元々の相手はどうなったんですか?」


「ヤマトワの戦に行きました。ナナさんを幸せにしてくれ、と言い残して」


「その人も侠気がありますね。何て返したんですか?」


「何も返していません。置き手紙でしたから」


 アズラ卿が興味津々にアシルを問い詰めている。アズラ卿は俺も気になっていた事を聞いているので、助けを求める目線は無視で良かろう。そもそも秘密にしていたのが悪いのだ。

 それにしても死地に赴くというのに許嫁を異国人に任せるとは、アズラ卿の言う通り、ゴハチロウは侠気があるな。俺はそんな事できぬ。


「そうなると相手方が心配ですな」


「ええ。戦場に死に場所を求めているのかも知れませんな」


 チカシゲの言葉にドウセツは同意した。ドウセツの言う事にも一理ある。もしゴハチロウが戦死すれば、ナナさんはゴハチロウを忘れられぬだろう。


「でもアシル卿と張り合うくらいですから、お強いのでは?」


「どうでしょうな。吾らは人より長く生きていますが、あれほど苛酷な戦は記憶にありません」


「どうやら鏖軍の一部が離叛したようでしてな。出征した兵士が一兵も戻らない、ということも既に何度かあるようで」


 ドウセツは意味の分からぬ事を言うな。アキの情報では、鏖軍は朝廷に所属する精鋭であり、その忠誠心は何よりも強いと聞いている。そんな彼らが朝廷を見放し、離叛するほど時は経っておらぬぞ。


「まだそれほど時は経っておらぬぞ」


「吾らが把握しているだけでも、数千騎が離叛し、三十以上の勢力に分かれたと聞いています。鏖軍の離叛が原因の戦は、ヤマトワ各地で既に百を超えたそうです。そうでない戦は小規模なものも含めれば、おそらく千を超えるでしょう」


「一ヶ月弱しか経っておらぬぞ…」


 正確な日付は覚えておらぬが、鏖武士の二名がキイチロウ達とヤマトワに出立したのが、七月の初め頃である。それから将軍を弑逆し、戦国の世とするには、十日は必要であろう。いや、鏖武士は優秀と聞くから、出立の翌日には成功したかもしれぬ。だが、それでも早すぎる。

 アシルの恋話から、とんでもない情報を得てしまったな。アシルも驚いているということは、ヤマトワには影狼衆がおらぬのか。


 その後、料理が運ばれてきてからも、三龍同盟の現状を聞いた。


 三龍同盟軍も何度か戦い、勢力を広げているいるらしい。

 どうやら徴税を廃止したことが敵方の被支配層に知れ渡り、敵方の民衆が蜂起し、同盟軍に味方しているそうだ。そのため、敵軍は補給が絶たれ、士気が下がり、逆に敵方の民衆の支援を受け、士気が高い同盟軍は、快勝を重ねているそうだ。

 三龍同盟は敵武将の財産を接収することで、初期より財産が増えているそうだ。民衆から武器や糧食の提供も受けているそうで、それも一助を担っているそうだ。

 順調に進めば、三年以内にヤマトワ全土を平定し、朝廷から幕府と認められるであろう、との事だ。


 ヒナツから聞いた話とはかなり違うが、俺に妖刀を贈る余裕があるようなので、ドウセツとチカシゲの話の方が事実に近かろう。だが、コウギョク帝の話は二人からも出たので、ヒナツの話も全てが嘘ではないようだ。


 その後、ルイス卿から台本を受け取り、とりあえずは解散となった。今から告示するそうなので、明日はそれなりの人数が集まるであろう。レリアとアキにも登壇してもらうことを伝えておかねばならぬな。

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