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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第241話

 昼食後、話が終わったのを見計らってサラが入ってきた。聞かれていたのか。聞かれて恥ずかしい訳ではないが、あまり聞かれたくなかったな。


「ヒナツ様から伝言がございます」


「何と?」


「はい。弟子入りがしたい、と」


「……何と?」


「はい。弟子入りがしたい、と」


 聞き間違いかと思ったが、ヒナツが俺に弟子入りを要求しているのか。

 意味が分からぬな。怒っていたかと思えば、今度は弟子入りを求める。そもそも何の弟子になりたいのか。魔法か、剣術か、それとも…兵法か。いや、俺が死んだ時に財産の相続の要求でもするつもりか。まさかな。すると、何が目的であろうか…破門を嗾けて、関係を断つつもりか。


「本人と話してみたら?あたしも一緒に聞くよ」


「そうしよう。すまぬが呼んでくれ」


「もう来ています」


「ジル・デシャン・クロード。わたしと決闘なさい。負けた方が弟子になるのよ。弟子になったら、師匠の言う事は絶対よ。法に反する行為でも絶対よ。あ、決闘が怖いなら、わたしの不戦勝よ」


 弟子入りがしたい、とはヒナツが俺に弟子入りするということではないのか。サヌスト語を使い始めてからあまり経っておらぬから、間違えるのも仕方なかろう。

 それよりヒナツの言う弟子とは、体のいい下僕ではないか。まあ俺が負けるはずなどない。気にする必要はあるまい。


「受けて立とう」


「後悔しないことね。わたしは武器を取って来るわ。庭で待ってなさい」


「ああ」


 ヒナツはそう言うと出ていった。鉄扇では勝てぬと悟ったか。そもそも武器に頼った勝利で嬉しいのであろうか。まあその武器を使うのにもある程度の鍛錬が必要であろうが。


「いいの?」


「ああ。実はレリアが休んでいる間にも一度挑まれたのだ」


「どうだった?」


「勝ったぞ。完勝だ」


「じゃあ大丈夫だね。行こ」


「ああ」


 レリアも見に来るのか。まあ当然か。となると、惨い勝ち方は出来ぬな。水中戦も避けた方が良かろう。

 庭に出て武装し、ヒナツを待っていると、武装したヒナツが来た。アキと似たヤマトワの武装であるが、アキと違って氷のような色をしている。それに雪片がいくつか描かれている。そして重そうな太刀を帯びている。


「待たせたわね。始めましょう」


「僭越ながら、私が見届けます」


 今回はサラに審判を頼んだ。ヒナツもサラを頼ってきたようであるし、文句はあるまい。


「いいわよ。さ、始めてちょうだい」


「準備はよろしいですか」


「ああ」


「完璧よ」


「始めてください」


 サラがそう言うと、ヒナツは懐から鉄扇を取り出した。気に入っているな。

 ヒナツは笑みを浮かべると、こちらに走ってきた。魔法戦は諦めたか。俺は剣を抜いて迎え撃った。


「さようなら」


 ヒナツはそう言うと俺の頬を狙って鉄扇を薙いだ。それを剣で受け止めると、小指程の小さな氷の矢が俺の顔に幾本か突き刺さった。

 俺が押し返してやると、ヒナツは鉄扇を呆気なく手放し、鉄扇が勢いよく飛んだ。それと同時にヒナツも後方に退き、太刀を抜いた。薄氷色の綺麗な刃だ。妖刀かどうかは知らぬが、名刀であることは間違いあるまい。


「無知なあなたは知らないでしょうけどね、これは凄い刀なのよ。空から降ってきたミスリルをツナヤスが刀にして、始祖とタカミツさんとムグラさんが力を込めた妖刀よ。そんなちっぽけな剣、すぐにへし折ってあげるわ」


「空から降ってきたミスリル…?」


「たまに堕ちてくるじゃない。まあ知らないのも当然ね。あなた方は愚者だもの」


「遠慮はいらぬ、と?」


「ええ、そうよ。ラスイドの錆にしてくれるわ」


 ヒナツはそう言うと、ラスイドと呼んだ太刀を振りかぶった。

 この距離では届くまいに。

 そう思っていたが、ヒナツがラスイドを振り下ろすと氷の刃が射出され、俺の腕を掠めた。もう一度ラスイドを振ると、地面から巨大な刃がせり出し、俺の左脚を斬り飛ばした。もう一度振るうと、今度は雷の刃が放たれ、全て右腕に命中し、これは右腕がかなり痺れた。

 俺は回復魔法で全て回復し、ヒナツに接近しようとしたが、ヒナツは三種の斬撃を巧みに使い分け、接近を許されなかった。

 もう十回以上も四肢を斬り飛ばされ、掠めたものを含めれば、三十発も命中している。躱したものを含めれば、百発を超えるはずだが、ヒナツの魔力は尽きぬのか。


「あら、惨めね」


「もう終わりか」


「まだ終わらないわよ。そこに落ちてる鉄扇を拾って魔法を撃ってきなさい。背中を撃ったりしないわよ」


「いや、いらぬ」


「取りなさい」


 なぜこれほど鉄扇を拾わせたいのか。怪しすぎるであろう。罠でも仕掛けてあるのかもしれぬな。仕方ない。引っ掛かってやろう。

 俺は剣を収めて右手で鉄扇を拾った。すると、右腕が氷漬けにされた。そして背中を撃たれた。単純であるな。

 俺は左手で剣を抜き、右腕を斬り落として回復し、ヒナツに向けて雷魔法を撃った。当たっても痺れるだけだ。


「もう芸は終わりか」


 俺は剣を鞘に収めながらそう言った。もう何も無いようだ。


「…ええ、そうよ。これからは本気よ」


「ならば良い」


 ヒナツは魔力と策が尽きたのか、俺が近づけば同じ分だけ後退った。

 俺は土魔法でヒナツの足下を極限まで柔らかくし、ヒナツが首まで沈んだところで、金剛石よりも硬くした。脱出はできまい。


「出しなさいよ」


「降参するか」


「負けてないのに降参なんてしないわ」


「そうか」


 俺は土魔法を使ってヒナツと共に沈んだラスイドを地上に戻し、手に取った。すると、ラスイドに弾かれ、俺の手が焦げた。なかなかの激痛だ。ジュスティーヌが使った拷問系の魔法程度の痛みがあった。


「馬鹿ね。今のラスイドの主はわたしなんだから、あなた如きが触れる訳ないじゃない。それより早く出しなさいよ」


 ヒナツはそう言っているが、レリアが見ているので、これ以上攻撃を加える訳にはいかぬ。判定勝ちを狙うしかあるまい。


「そうか。ならば仕方あるまい。サラ、勝敗は?」


「ジル様の勝利です」


「理由を説明しなさいよ」


「そこから脱出できますか?」


「…できないわ」


「では、ジル様の勝利に異議はありますか?」


「……無いわ」


「ジル様の勝利です!」


 サラがそう言って拍手したので、レリアもそれに続いた。レリアも嬉しそうにしてくれているようで良かった。惨い勝ち方をして心理的な衝撃を与えてしまっては、せっかくの勝利も意味が無い。


「助けなさいよ」


 俺は土魔法でヒナツを押し出してやった。ヒナツに触れた土は全て俺の制御下にあったので、ヒナツは一切汚れておらぬ。


「で、お師匠様、わたしは何をすればいいのかしら?」


「うむ。破門だ」


「え?」


「いいの、ジル?」


 レリアとヒナツは驚くが、よく考えてみれば俺は弟子など必要ない。そもそも俺が伝えるべき技術など無い。剣術は力業であるし、魔法も魔力が多いだけだ。兵法に至っては、総帥をやった事も無い。いつも誰かの指揮に従っている。


「弟子はとらぬ。それよりサラ、例の件、皆に伝えたか」


「はい。すぐにでも退避できます」


「であれば、トモエを呼び戻せ。早い方が良い」


「承知しました」


 サラはそう言うと、狼化してトモエを探しに行った。


「例の件って何?」


「ああ、レリアの知らぬところで話を進めて悪かったが、建物を移動することになった。俺もよく分からぬが、トモエが何とかするらしい」


「建物を動かすって、一回解体するの?」


「いや、解体はせぬらしい」


「そうなんだ…」


 レリアは考え込んでしまったが、考えても分からぬだろう。俺もよく分かっておらぬ。

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