第23話
俺らはジェローム卿の部屋へ入った。
俺は促されるままに座った。ふかふかのカーペットでなんとも言えない座り心地だ。
「で、ジル卿。あまり公にはできない理由とはなんだ?」
「魔法の練習をしていたんだ」
「魔法?」
「ああ」
俺はジェローム卿の顔に向けて掌からそよ風を出した。
「全力を出すと危ないからこれくらいにするが練習していたんだ」
「なるほど。で、どこに行っていたのだ?」
「北東塔の屋根の上で姿を消す魔法を使っていたんだ」
北東塔とはドリュケール城の塔の一つだ。ドリュケール城の大体の形は長方形なのだがその四隅に塔がある。それぞれ南東塔、南西塔、北東塔、北西塔と呼ばれている。
「なるほど。では、なぜ出て来た?」
「疲れたから部屋に戻ったら置き手紙が無くなっていたから部屋の外で何かあったのかと思い、外に出たらブレーズがいたから後を追った」
「なぜ話しかけなかった?」
「ちょっと良いか?」
俺はそう言って二人に顔を近づけるように指示する。
「本人がいないから言うけど、ブレーズってちょっと変わり者だから苦手なんだよ」
「そうなのか?」
「ああ、そうだ」
俺らは小声で話す。もし部屋の外にブレーズがいたら可哀想だからな。
「確かに彼は少し変わっていますね。扱えもしない剣を持ち歩いたりしておりますし」
「だろ?」
ジェローム卿の部屋に入って初めてアルノルフが声を出した。
「よし。では、もう部屋に戻って良いぞ」
「この事はどうなるんだ?」
「捜索には結構な数の兵士が参加した。だから隠すことは不可能と言っても過言ではない。まあ、適当な理由を言っておくからジル卿は安心していろ」
「わかった。感謝する」
俺はジェローム卿の部屋をアルノルフと出てアルノルフと別れる。アルノルフは一晩中、俺を探していたので別の従者を呼ぶように言った。ちなみに四班の内、カール班とセザール班は今日アシル達と帰って来る。そしてアルノルフ班の従者は三人が俺の捜索に参加していて侍従武官を含む二人は休んでいた。そして最後の一班のアルヌール班はカルヴィンと共に街へ出掛けている。
俺は部屋に戻り、金貨が入った袋を元の場所に戻す。そして寝台に飛び込む。あー気持ちいい。
するとノックがされた。
「アルノルフ班のゴーチェ、ご主人様がお呼びだと聞き、参りました」
「同じくアルノルフ班の侍従武官、ロジェ、参りました」
二人が到着したようだ。
「入って良いぞ」
「「失礼致します」」
二人が入って来た。俺は二人に指示を出す。
「腹が減ったから朝食の準備をしてくれ」
「「承知しました」」
二人は部屋を出ていった。
俺はふと、水魔法なら安全なんじゃないか、と思い付き壺を探す。確かどこかにあったはずだ。
あった。棚の上の方の荷物を取ろうとして踏み台にしたんだった。
俺は右手を壺の中に入れ、滝をイメージして天力を放出する。
「わわわわわ」
放出したら勢いが良すぎてすぐ止められなかったがなんとか止めた。
壺から溢れ出した水で床が水浸しになった。
どうにかして隠さなければ。
花瓶を倒しておいて水がこぼれたことにしよう。
「失礼致します」
ゴーチェが朝食を持って来た。
「すまん、ゴーチェ。花瓶を倒してしまった。すまん、この通りだ」
俺は頭を下げる。
「あ、いや、あの頭を上げてください。片付けておきますのでご主人様は朝食を食べていてください」
ゴーチェはそう言うと食事用の机にお盆を置き、部屋を出て行った。
続いてロジェが入って来た。
「ロジェ、すまん。花瓶を倒してしまった。この通りだ」
ロジェにも頭を下げた。ロジェはお盆を食事用の机に置き、頭をあげるように促した。
俺が頭を上げるとゴーチェが雑巾とバケツを持って来ていた。
「花瓶を倒したんですか?」
「ああ。すまん」
「花瓶の水の量じゃな…」
ロジェがゴーチェに蹴られていた。
「ご主人様が黒と言ったら真っ白でも黒だ」
「そうだった。ありがとう、ゴーチェ」
ロジェがゴーチェに怒られていた。なんか申し訳ない。
「すまん。本当は魔法の制御をミスったんだ。度々すまん」
「「え?」」
「嘘ついてすまん」
俺は土下座をした。
「俺も片付ける」
「「頭を上げてください」」
その後、俺は二人と一緒に片付けた。
そして二人と一緒にすっかり冷めた朝ご飯を食べた。
朝ご飯を食べた後、アシル達が昼過ぎに到着予定と聞き、昼までロジェと共に遠乗りに行くことにした。
「では、ご主人様は少々お待ちください」
ロジェがそう言って出て行き、しばらくすると荷物を持って来た。人の胴体ほどの大きさの荷袋を二つだ。一つを背負って一つを馬に載せるらしい。
「その荷物はなんだ?」
「遠乗りに行くのでありましょう?遠乗り用の荷物です」
「あ、そんなにいらん。森の中を走らせるだけだから水筒と武器くらいで良いぞ」
「そうでしたか。では、そう致します」
何と勘違いしたのだろうか。中から水筒を取り出す時に中を覗いてみたら寝袋や薪なんかも入っていた。
「じゃあ、行くか」
俺は城門前へ行く。その間にロジェが馬を持って来る。
今日は南側つまり王都の方角の森に行く。ドリュケール城は森に囲まれていて楽しい。
「ご主人様、お待たせしました」
「おう。行くぞ」
俺は鎧を喚び出し、ヌーヴェルに乗る。ヌーヴェルに乗る時は鎧を装備すると決めているのだ。
俺とロジェは結構進んだ。すると綺麗な泉があった。
「こんな所に泉なんてあったか?」
「いえ、記憶にございませんが…」
「ちょうどいいや。ちょっと休憩するか」
「承知しました」
俺はヌーヴェルから降りて泉に近づく。ヌーヴェルもついてきて泉を見ている。
「こんなに澄んだ泉なら誰か教えてくれても良いのに…」
俺がそう独り言つとロジェが隣に来てこう言う。
「私も知りませんでした。最近できたのではないでしょうか?」
「そんなにすぐできるものか?」
俺らがしばらく泉を眺めていると一瞬、圧力を感じた気がしたので辺りを見回すとロジェやヌーヴェル達がが固まっていた。
───ジルよ、久しいな。ヴォクラーだ。この泉を見つけたということはオディロンから魔法の事は聞いたな?───
お久しぶりです。先日、オディロンから聞きました。
───では、私は貴様を鍛えてやろう───
と言うと?
───今は時空間魔法でヒルデルスカーンの時を止めている。ちゃんと魔法神には許可を取ってある。あ、魔法神とは魔法を司る中位神だ。時が止まっている間に私が魔法を教える───
よろしいのですか?
───ああ。では先ずは体を借りる。意識までは乗っ取らないから感覚を覚えよ───
はい!
そう言うと俺の体が俺の意思で動かせなくなった。だが意識はある。不思議な感じだ。
───地上で鍛えては地上が荒れる。空を飛ぼう。この感覚も覚えよ───
はい!
俺が返事をすると体が浮いた。見えない羽があるかのように。
そして地上よりも雲の方が近くなる程高く飛んだ時、止まった。
───では、これが火魔法だ───
ヴォクラー様がそう言い、手を前にかざすと体の中が熱くなった。天力を火魔法用に変えたのだ。そして天力を放出すると炎の竜巻が掌から出た。
───これが火魔法だ。神や天使はそれぞれの力を魔力に変えねば魔法を使えない。つまり、天力を魔力に変える分にも天力を使っているから少々威力が下がる。どうだ、体内に魔石を埋め、魔力を使えるようにしてやろうか?───
デメリットとかはありますか?
───魔石を狙われる分、急所が増える───
それだけならお願いします。
───わかった───
ヴォクラー様がそう言うと目の前に拳ほどの大きさの輝く石が現れた。それをヴォクラー様は俺の胸に埋めた。
眉間ではないのですか?
───人間は心臓が必要だ。だが天使族には必要ない───
え?俺って心臓無いのですか?
───少し待て。これは集中力がいる作業なのだ。黙っていろ───
ヴォクラー様はそう言った後、黙り込んでしまったので俺も黙った。
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