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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第238話

 聖都の屋敷に近づくと、ヤマトワ風の荷車と荷車の主と思しきヤマトワ人の集団がいた。そのうちの一人にアキが呼び止められていた。知り合いでもいたのか。

 アキを連れず屋敷の門をくぐると、ヤマトワ人の大工が縄張りを始めていた。


「ジル、おかえり」


「ただいま、レリア。これは何だ?」


 レリアが出迎えてくれた。皆がヤマトワ人の大工を囲んで騒いでいる。


「さっきまで大人しくしてたんだけど、いきなり始まっちゃった。どうしよう?」


「俺に任せよ」


 俺はレリアにそう言い、ヤマトワ人の女に近づいた。ヒナツの似顔絵に似ているが、猫のような耳と尻尾があるので別人か。おそらく姉妹か何かであろう。


「おい、おぬし、名は何と言う?」


「名前が知りたければ、先に名乗りなさい。大陸には礼儀というものが無いのかしら?」


「俺はジル・デシャン・クロードだ」


「そう、あなたがタカミツさんの盟友ね。ヒナツよ。覚えておきなさい」


 似顔絵とは違うようだが、この娘がヒナツか。まあ猫耳以外は似ているようだが、描き逃した部分の印象が強くて分からなかった。


「そうか。おぬしが水氷龍の孫娘か。作業を止めさせよ」


「嫌よ。こんなに広いのに、勿体ないわ。カイ坊もおユキちゃんも、いい子だから文句は言わないけどね、ひとつの建物に何組も夫婦が同居するなんて、不健康よ」


「ならば別の場所を用意してやろう」


「嫌よ。言ってるでしょ、こんなに広いのに勿体ないって。侍屋敷を一軒や二軒建てたところで、微々たるものじゃない。違う?」


「違わぬが…」


「ならいいじゃない。カイ坊も言ってるわよ。アキちゃんと離れるなら今回の話は無しだって」


「無しなら無しで…」


「そうは言うけどね、そうなったら三龍同盟も無しよ。どういうことか分かる?タカミツさんは戦力が足りなくて、アキちゃん達を呼び戻すわよ。そうなったらカイ坊もおユキちゃんも呼び戻されることになるわね。あとはそうね、内乱が長引けば、大陸を支配下に置いて優位に立とうとする諸侯も出てくるかもね。それでも無しにする?」


「いや、しかし…」


「まだ反抗するの?いいわ、教えてあげる。今のコウギョク帝はね、民衆を大事にしすぎる人で、有名なのよ。何が言いたいか分かる?内乱が長引けば、参戦した諸侯とその兵士を全部殺してしまうわ。アキちゃん姉弟も殺されちゃうし、タカミツさんは封印されちゃうわね。どう?それでも無しでいいの?」


「…」


 ミオリの言っていた不機嫌になって人を操るというのは間違っているな。少なくとも今は怖い。カイが不憫なほど怖い。恐怖で人を操っているのだ。不機嫌などではない。

 もう一人のトモエという娘がヒナツの怖さを緩和できるほど優しければ良いが、そうでなければカイが可哀想だな。


「黙り込んじゃってどうしたの?認めてくれたってことでいいのよね?許可が下りたわ。続きをしなさい」


「待て。建てても良いが、場所は俺が決める。良いな?」


「そうね、それで良いわ。でも、トモエも説得しなきゃね。もちろん、あなたがするのよ」


「良かろう。とりあえず作業は止めよ。しばらくは迎賓館にでも泊まれ。良いな?」


「分かったわ」


 ヒナツはそう言って大工に撤収させた。どこに建てるのか考えねばならぬが、まあ先延ばしに出来たことを喜ぼう。


「それよりトモエはどこに?」


「カイ坊とおユキちゃん、それからあなたの弟と妹に街を案内してもらってるわ。子守りね。あ、浅黒い肌の侍女も一緒だったわ」


浅黒い肌の侍女…ルチアの事か。ルカが一緒ならルチアを外に出しても大丈夫か。


「そうか。では帰りを待とう」


「その前に誓約書に署名しなさい。これだけ目撃者がいたから嘘はつかないと思うけど、初対面だからね。念には念を、これが鉄則よ。ほら、サインなさい」


「ああ」


 俺はヒナツから誓約書と筆を受け取った。変なことが書かれておらぬか確認してから署名してやった。騙されては面倒であるからだが、そういったことはなかった。ヤマトワ語で会話を纏めたものであった。

 誓約書を返した後、迎賓館となっている東館に案内してやり、とりあえずは監視下に置いた。

 その後、談話室でトモエを待った。ちなみにヒナツ以外は退室させている。レリアは日の出前からヒナツを宥めていたようで、眠り損ねた分を取り返すため、休んでいる。いや、俺が休ませた。レリアに癒されたいが、レリアには万全でいて欲しい。


「ヤマトワはそれほど大変なのか?」


「そうね。あなたが思ってる数倍は地獄よ。魔法が廃れた大陸人には分からないでしょうけどね。殺す技術が上がれば、それに対抗するように耐える技術も上がる。だけど、それは全員じゃない。耐えられない者は近づいただけで死ぬわ。姫様って人なんて、ヤマトワ国内に入ったら真っ先に死んでしまうでしょうね」


「そんな事はさせぬ。俺が二人分耐えれば良いだけだ」


「あら、魔法を知らない大陸人に多少チヤホヤされたからって調子に乗らないことね。ヤマトワでは通用しないわ。せいぜい中の上といったところかしら」


「俺で中の上…?」


「そうよ。激甘採点で、中の上よ」


「ちなみにおぬしはどの辺りだ?」


「わたしは上の上のさらに上よ。だってわたしだもの」


「…そうか」


 俺より強いのか。まあそんなはずはあるまい。それほどの脅威は感じぬ。過大評価をしてもアキと同等の強さであろう。所詮は激甘採点だ。


「何よ、その目は。アキちゃんよりも強いのよ。トモエには勝てないけど…でもトモエはわたしより二年も先に生まれてるんだから、わたしより強いのは当然よ。だって二年もあれば今のトモエより強くなれるもの」


「戦場では年齢など関係あるまい。若い兵も老いた兵も、等しく敵であるし、味方である」


「でもここは戦場じゃないわ」


「誰もここで戦えとは言っておらぬ。戦力に年齢は関係ないと言っているのだ。それにおぬしの論法を借りれば、赤子が最強になるぞ」


「なんでそうなるのよ」


「二十五年、ひたすら武に打ち込めば、おぬし程度越えられよう。むろん、これは可能性の話だ。だが、おぬしが言ったのも可能性の話だ。分からぬとは言わせぬぞ」


「さっきから何なの?言わせてもらうけどね、わたしの方が歳上なのよ。もっと敬って尊びなさい」


 俺は八月で二十三歳になるという設定であるから、ヒナツより四歳年下ということになる。本当は生後七ヶ月と二十九日であるから、実年齢はもっと離れる。

 気づかれてしまっては手がつけられぬほど付け上がるであろう。だが、多少は煽てておかねば不機嫌になって面倒なことになる。面倒な人を送ってきてくれたものだ。


「では尊敬すべきヒナツ様にお尋ねしよう。おぬしが大陸を統一するとして、どれほどの時と兵力を要する?」


「わたし一人で充分よ。まずは手始めにあなたを血祭りにあげるわ」


「俺より強いと?」


「そう言ってるのが分からないかしら?それとも、愚鈍な大陸人には、もっと直接的な表現が良かったかしら?」


「いや、愚鈍な大陸人は目の前にいる者に負けるとは思えぬ」


「だから愚鈍って言ってるのよ。勝てもしない相手を侮って…」


「では一つ提案だ。愚鈍な大陸人に、聡明なヤマトワ人の胸を貸していただきたい」


「嫌よ」


 ヒナツはそう言って両手で胸を隠した。もしかすると、あまり賢くないな。直接的な表現が必要なのはヒナツの方である。


「我が伎倆を見てもらいたい、と言っているのだ」


「そうね。愚者に愚を知らしめることも賢者の務めね。かかって来なさい」


「外に行こう。ここにあるものはあまり壊したくない」


「そうね。弁償しろ、なんて言われたらたまったもんじゃないわ」


 ヒナツはそう言って壁を壊し、外に出た。アキと同じものを感じる。だが、ヒナツはこちらが嫌がることを分かってやっているような気がする。

 ますますカイが気の毒だ。邦のためとはいえ、あのような意地の悪い女と一緒に暮らさねばならぬとは。トモエに期待しておくしかあるまい。


 外に出たヒナツは扇子を構えて俺を待っていた。俺も外に出て武装した。


「扇子で良いのか」


「始祖から貰った魔導具よ」


「そうか。それより勝敗はどう決める?」


「勝敗?そんなものはもう決まってるわ。そうね、泣いて降参したら攻撃を止めてあげる」


「降参宣言をするまで攻撃を続けても良いのか?」


「いいわよ。わたしもそうするもの。念の為に言っておくけど、殺しは無しよ。ただし、殺し以外なら何でもしていいわ。どう?死なないと分かって安心した?」


「ああ。安心した」


 ヒナツがどれほどの強さか知らぬが、これだけ自尊心が高ければ、ある程度痛めつけねば分からぬだろう。何かと理由を付けて自分は負けてないと思いたがる。それに、もしも本当に俺より強ければ、俺の学びになる。


「話は聞かせてもらった。審判は任せてもらおう」


「ローラン殿…」


 どこで聞いていたのか知らぬが、ローラン殿が出てきてそう言った。暇なのかもしれぬな。


「そっち陣営だけじゃ不利ね。ドウセツ」


「お任せを、お嬢」


 ヒナツが呼ぶと、無数の雪片が描かれたヤマトワ風の服を着た大男が出てきた。クラウディウスより一回り小さいくらいか。

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